【今日の1枚】Time/Time(タイム) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Time/Time
タイム/タイム
1975年リリース

イエスやラッシュの如きテクニカルで
高水準のハードプログレッシヴロック

 1970年代の技巧的なプログレッシヴグループのサウンドを取り込んだ英国のプログレッシヴハードロックグループ、タイムの唯一作。そのアルバムは速弾きを盛り込んだギターリフやヘヴィなリズムセクションに、ハイトーンで透明感のあるヴォーカル&コーラス、シンフォニック的な要素のあるキーボードなど、ハードロックとプログレッシヴロックの両方を行き来するようなテクニカルなサウンドとなっている。急速に変化する変拍子とポリリズムが交差するアレンジは、初期のイエスやラッシュ、ジェントル・ジャイアントのようであり、後に高水準のプログレッシヴロックの1枚として高く評価されることになる。

 タイムは1970年代初頭まで活躍したグループ、スポンティニュアス・コンバスションに在籍していたゲイリー・マーゲッツ(ギター、ヴォーカル)とトリス・マーゲッツ(ベース)の兄弟が中心となって、1975年に結成したグループである。前身のスポンティニュアス・コンバスションは1968年にイングランド南西部にあるドーセット州の湾岸都市プールで、ヘンリー・ハービン・スクールの生徒だったギタリストのゲイリー・マーゲッツと親友のスティーブ・エバンス、ギターからドラムスに転向したトニー・ブロック、そしてゲイリーの弟でベース担当のトリスによって結成したグループである。この時、マーゲッツ兄弟とエバンスは18歳、トニーは16歳という高校生であり、当初はトランジット・サウンドというグループ名で活動をしている。彼らはプールのリアロイド・ロードにあるオークデール・ボーイズ・クラブでロックのカヴァー曲を演奏し、マーゲッツ兄弟の父の厳しい監視の下、アルコールを提供していない会場でレパートリーを磨いたという。1970年になるとギターが上達しないスティーブ・エバンスを説得して解任。トリオ編成となった彼らは1970年8月15日に、毎年恒例の「ボーンマス・レガッタ・ビート・グループ・コンペティション」でデビューを果たすことになる。彼らはゴリアテという優れたロックグループを含むライバルたちを打ち負かし、ラジオワンのDJ、ピート・マレーからトロフィーが授与されている。この時、メンバーは会場でプロになることを決意し、新たなグループ名で翌年の4月にアルバムをレコーディングすると発表している。

 一方、彼らが活動拠点にしていた湾岸都市プールのオークデールには、当時キング・クリムゾンを経てエマーソン・レイク&パーマーで活躍していたグレッグ・レイクが在住していたという。グレッグ・レイクはトランジット・サウンドのマーゲッツ家の近くに住んでいたため、彼らとは顔見知りであり、彼らがプロになることを喜んだと言われている。グレッグ・レイクはそんな彼らにレコード会社であるEMIのニック・モブスを紹介し、新しいレーベルのハーベストと契約させている。グレッグ・レイクはデビューアルバムのプロデュースも申し出て、キャノンボール・アダレイの曲にちなんでスポンティニュアス・コンバスションという新しいグループ名を与えている。彼らは1971年に『Lonely Singer/200 Lives』というシングルデビューを果たし、翌年にはファーストアルバム『スポンティニュアス・コンバスション』をリリース。アルバムはポール・メイが描いたアメコミ風のイラストに包まれたジャケットと、10代の若者とは思えない完成度の高い作品として話題になったという。彼らはアルバムのプロモーションのため、12月10日に地元ノースロードのプール・カレッジでライヴを行い、グレッグ・レイクが手配してくれたエマーソン・レイク&パーマーのタルカス・ツアーにもサポートとして参加したという。同年末にはグレッグ・レイクから得た知識を活かして、グループ自身がプロデュースしたセカンドアルバム『トライアド』を発表。アルバムはよりヘヴィなアプローチとなったプログレッシヴ要素の強いハードロックとなっている。アルバムリリースと合わせてハーベストは所属アーティストのパッケージツアーを企画し、スポンティニュアス・コンバスションをはじめ、エレクトリック・ライト・オーケストラやバークレイ・ジェームズ・ハーヴェスト、ベーブ・ルース、イースト・オブ・エデン、ケヴィン・エアーズなどが参加。その後、彼らは1973年1月にアラム・ハチャトゥリアンの最も有名な作品である『Sabre Dance』のシングルを発表している。そのB面にはキング・クリムゾンのロバート・フリップの協力を得て、アレンジして収録されたバージョンになっているという。その後もアルバム未収録のシングルを立て続けにリリースするが、結局、大きな成功を収めることなくグループは解散することになる。解散後のトニー・ブロックは元ルームのドラマー、ボブ・ジェンキンスとともに名声と富を求めてロンドンへ移り、ストライダーやベイビーズ、ロッド・スチュワート、ジミー・バーンズといった多くのアーティストの下で演奏するセッションミュージシャンとして活躍することになる。

 一方のマーゲッツ兄弟はメンバーを替えて、マイク・ユーデル(ヴォーカル)、アレック・ジョンソン(ギター)、ジェフ・ジョード・リー(ドラムス)が加わった際、新しいマネージャーとしてウィリー・マックライモントと契約。5人組となった彼らは、翌年にイタリア、ドイツ、イギリスをツアーして回り、1974年にはドイツのケルンに行き、伝説のプロデューサーであるコニー・プランクのスタジオ、ハウス・オブ・サウンズで新しいアルバムをレコーディングを行っている。コニー・プランクはノイ、クラスター、グル・グル、クラフトヴェルクといったエレクトロニック音楽を専門とするクラウトロック界の第一人者とされている。彼らは一週間ほどスタジオでレコーディングを行い、ドイツの小さなレーベルであるBUKから、1975年に『タイム』というアルバムをリリースすることになる。彼らはハーヴェストと契約したスポンティニュアス・コンバスションのグループ名をめぐる法的な問題が残っており、このアルバムのタイトルにちなんで、グループ名をタイムに変えている。タイムというグループ名の下で完成したそのアルバムは、巧妙な変拍子、複雑なアレンジ、そして初期のイエスに紛れもなく似ており、プログレッシヴのジャンルに属した高水準のハードロックとなっている。

★曲目★ 
01.Shady Lady(シェイディ・レディ)
02.Turn Around(ターン・アラウンド)
03.Violence(ヴァイオレンス)
04.Yesterday, Today, Tomorrow(イエスタデイ、トゥデイ、トゥモロー)
05.Dragonfly(ドラゴンフライ)
06.Liar(ライアー)
07.Hideout(ハイドアウト)
08.Steal Away(スティール・アウェイ)

 アルバムはゲイリー・マーゲッツとH.E.イエートマンとの共作になっている。の1曲目の『シェイディ・レディ』は、複雑なリフを展開するギターと朗々としたハイトーンのヴォーカルを中心としたハードロックとなっており、ツインギターによる長いソロがポイントとなっている。2曲目の『ターン・アラウンド』は、グロッケンシュピールを用いたアコースティカルな楽曲。途中からメロウなコーラスが加わり、初期のイエスを思わせるギターとリズムセクションとのユニークな曲展開が幻想的ですらある。3曲目の『ヴァイオレンス』は、変拍子とポリリズムが交叉する複雑なリズムからなるヘヴィな楽曲。こちらもイエス風のコーラスがあり、スティーヴ・ハウを思わせるギターワークがある。4曲目の『イエスタデイ、トゥデイ、トゥモロー』は、ギターとベースを主軸とした技巧的な演奏が印象的であり、ブリティッシュ的な寸止めポップ感もある楽曲。ハードロックとプログレの狭間を行き来するようなサウンドとなっている。5曲目の『ドラゴンフライ』は、暗い雰囲気のあるイントロから、豪快なティンパニのリズムからパワフルなギターリフを中心としたハードロックになる。そこから突然、静謐なコーラスワークとなり、ポップテイストあふれるメロディアスな内容に変化していく。6曲目の『ライアー』は、パワフルなリズムとギターリフからアコースティカルなギターをバックにしたヴォーカル曲となる。重厚さと軽快さが混同した不思議な内容になっており、意外とポップ的な要素が感じられる曲である。7曲目の『ハイドアウト』は、美しいアコースティックギターのアルペジオをバックにした短いヴォーカル曲となっている。8曲目の『スティール・アウェイ』は、煌びやかなグロッケンシュピールとギターによる牧歌的な楽曲。ヴォーカルはこれまで以上に伸びやかであり、緩急を付けながらいくつものギターフレーズを用いた聴き応えのある逸品となっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、全体的に初期のイエスを思わせる楽曲が多く、スティーヴ・ハウ風のギターやクリス・スクワイア風のベースがあり、そしてコーラスワークはイエスそのものである。変拍子をはじめとする複雑な曲展開はジェントル・ジャイアントのようであり、技巧派のプログレッシヴロックの要素を巧みに取り入れた内容になっている。ハードでありながらリズミカルな作風を考えると、プロデューサーであるコニー・プランクとの相性が非常に良かったのだろうと思える。

 アルバムの売り上げは相変わらず低迷し、1975年末にグループは解散の道に進むことになる。ゲイリー・マーゲッツは、ポール・ビービス(ドラムス)、ジョン・リー(ベース)、ロバート・ルーサー・スミ​​ス(ヴォーカル、キーボード)と共に新たなグループ、ヒット・メンを結成。しかし、アルバムを残すことなく解散し、その後は音楽業界から去っている。トリス・マーゲッツとジョード・リーは、1981年にグレッグ・レイクから電話を受け、レイクのデビューソロアルバムにベースとドラムスを担当するよう依頼されている。トリスはグレッグ・レイクのツアーバンドのメンバーとして、天才ギタリストのゲイリー・ムーアやセンセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドの元メンバーであったドラマーのテッド・マッケナとキーボード奏者のトミー・エアと共に活躍することになる。 1983年にグレッグ・レイクは次のアルバム『マヌーヴァーズ』で、ツアーバンドをセッションのために残したが、カール・パーマーからEL&P再結成の提案の連絡を受けたことでツアーは中止。失業したトリスは音楽業界から離れたが、長年にわたりニュー・ミルトンの地元のグループであるサトル・オア・ホワットに参加。ゲイリー・マーゲッツも時々参加し、後にイベントグループだったウィッシュフル・シンキングのメンバーとして数年間活動したという。ゲイリー・マーゲッツはその後、オーストラリアのゴールドコーストに住んでいたが、2021年10月に残念ながら亡くなっている。一方のトリス・マーゲッツは音楽活動から身を引き、今も地元のプールに住んでいるという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は初期のイエスやラッシュ、ジェントル・ジャイアントを引き合いに出して語られる技巧派プログレッシヴロックグループ、タイムの唯一作を紹介しました。本アルバムは2019年に紙ジャケット化されたリマスター盤で初めて手にした作品ですが、経歴を見てみると前身であるスポンティニュアス・コンバスションのほうがプログレファンの間で有名だったのではないかと思うほど輝かしいです。何せマーゲッツ家は当時、飛ぶ鳥落とす勢いだったエマーソン・レイク&パーマーのグレッグ・レイクと近所で知り合いだったというのも凄いですが、グレッグ・レイクからグループ名を付けてもらい、レコードレーベルを紹介してもらい、デビューアルバムのプロデュースまで買って出るという途方もない待遇を受けています。また、1973年1月の3枚目のシングルでは、アラム・ハチャトゥリアンのバレエ『ガイーヌ』の最終幕の楽曲『Sabre Dance(剣の舞)』の異なるバージョンを発表しています。A面は5年前に披露したラヴ・スカルプチャーのカヴァーであり、B面はキング・クリムゾンのロバート・フリップがアレンジした別バージョンになっています。実はフリップはメンバーとと共にマーゲッツ家の部屋で一週間過ごしながら、テープに録音する前の『Sabre Dance(剣の舞)』のアレンジを練っていたというエピソードが残っています。グレッグ・レイクとロバート・フリップという巨大なアーティストが身近に存在していたにも関わらず、一向に浮上しない中々残念なグループだったようです。解散時にはドラマーのトニー・ブロックが、スポンティニュアス・コンバスションはもうこれ以上ないほどの成功を収めたと判断して離れてしまったのも今ではうなずいてしまいます。それだけ1973年当時のイギリスの音楽界は、腕利きのグループがアンダーグラウンド化してしまうほどビッググループがひしめき合っていたということです。それでも彼らは巨大な2人のアーティストを真近で見てノウハウを会得し、新天地のドイツでレコーディングしたアルバムが本作品となります。

 さて、本アルバムはタイムというグループ名になっていますが、法的な問題で変えただけで事実上、スポンティニュアス・コンバスションのサードアルバムに位置する作品です。全体的に初期のイエスを思わせるハイトーンで透明感のあるヴォーカルをはじめ、コーラスワークやギターリフ、リズムワークがあり、ツインギターの響きを巧みに利用したシンフォニックな華やかさがあります。その一方で急速に変化する変拍子や複雑な展開があり、長いギターリフに伴うテクニカルな演奏が目立ちます。そんな複雑さのある演奏の中で、ヴォーカルラインはしっかりとメロディを紡いでいて、非常に聴いていて心地よいです。結果としてメインストリームに浮上しなかったアルバムですが、アンダーグランド的なサウンドとは言えず、ハードロックとプログレッシヴロックの狭間を行き交う煮え切らなさが、ブリティッシュロックには無い奇妙な味わいになっていると思います。複雑なギターリフを好むハードロックファンには、ぜひ聴いてほしい1枚です。

それではまたっ!