【今日の1枚】Osanna/Milano Calibro 9(オザンナ/ミラノ・カリブロ 9) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Osanna/Milano Calibro 9
(Preludio Tema Variazioni Canzona)
オザンナ/ミラノ・カリブロ 9
(プレリューディオの主題変奏曲カンツォーナ)
1972年リリース

バカロフのストリングスと融合した
劇的なヘヴィプログレの名盤

 呪術的なサウンドとほの暗い叙情でトップグループへと登りつめたイタリアのプログレッシヴロックグループ、オザンナのセカンドアルバム。本アルバムはサスペンス映画のサントラ盤として制作された異色の作品となっており、巨匠ルイス・エンリケス・バカロフによる卓越したオーケストラアレンジと、彼ら独自のダークで混沌とした音世界が混ざりあった異形のサウンドとなっている。バカロフが手掛けたニュー・トロルスの『コンチェルト・グロッソⅠ』と双璧するイタリアンプログレ屈指の名盤である。

 オザンナはイタリアのナポリで活躍していたチッタ・フロンターレのギタリストであるダニーロ・ルスティーチが、メジャーグループだったザ・ショウメンのウィンド奏者のエリオ・ダンナと共に1971年に結成したグループである。意気投合した2人は、チッタ・フロンターレに在籍していたヴォーカルのリノ・ヴァレッティ、ベーシストのレロ・ブランディ、ドラマーのマッシモ・グゥアリーノを招いている。当時のチッタ・フロンターレには後にイル・バレット・ディ・ブロンゾに加入するジャンニ・レオーネが在籍していたが、そのグループに引き抜かれる形で脱退してしまい、代わりにエリオ・ダンナが加入。彼らはサイケデリックロックやプログレッシヴロックをもっとイタリア的に消化し、ユニークでハードなロックを創造するためにオザンナというグループ名に変えている。彼らは同年に開催されたカラカラ・ポップ・フェスティバルでデビューし、マッシモ・ベルナルディが主催のフェスティバルにも参加。さらに地元のナポリでも精力的にライヴ活動を行い、その奇抜なメイク、実験的で演劇的なステージが話題を呼び、すぐに人気グループにのし上がっている。彼らはマネージャーのピノ・トゥッチメイの支援を受けて、レコード会社フォニット・チェトラと契約し、1971年末にデビューアルバム『L'uomo』をリリースする。アルバムはアコースティック色の強いサウンドだったが、すでにエキセントリックな一面をのぞかせたオザンナワールドを形成しており、変形ジャケットも相まってイタリア国内で固定ファンをつかんでいる。また、ジャケットの内側には、レンツォ・アルボーレとファブリツィオ・ザンパといった2人の有名な作家による紹介文が掲載されるほど、批評家筋から高く評価されたという。こうしてオザンナはデビューアルバムで一躍イタリアのトップグループに昇りつめることになる。

 そんな批評家筋から評価を得ていたオザンナに翌年の1972年に、思わぬ仕事が舞い込むことになる。それはフェルナンド・ディ・レオ監督の映画『ミラノ・カリブロ 9』のサウンドトラックの参加であり、レコード会社であるフォニット・チェトラが、オザンナとバカロフの共同制作を促したものである。このサウンドトラックはイタリアの巨匠ルイス・エンリケス・バカロフが作曲した『プレリューディオの主題変奏曲カンツォーナ』と題したアルバムとなっており、1971年にバカロフ自身が手掛けて大ヒットしたニュー・トロルスの『コンチェルト・グロッソⅠ』で実現したクラシックオーケストラとロックミュージックの融合を念頭に作られたものである。そんなアレンジした曲の演奏部分に、バカロフは当時脚光を浴びていたオザンナを指名したと言われている。しかし、話を受けたグループは映画のサウンドトラックということと自分たちの楽曲がほとんどないため、当初メンバーの中には戸惑いもあったという。それでもニュー・トロルスの『コンチェルト・グロッソⅠ』の成功を知っている彼らは、巨匠バカロフとの共演というこの上ない出来事ということで承諾している。そのサウンドトラックとして製作されたその内容は、オザンナの前作からの流れを感じさせるサイケデリックなロックアンサンブルはそのままに、ルイス・エンリケス・バカロフのアレンジによるバロック的なオーケストラセクションを加えたロックとクラシックの融合を成し遂げた1枚となっている。

★曲目★ 
01.Preludio(プレリュード)
02.Tema(テーマ)
03.Variazione I(ヴァリエーションⅠ)
04.Variazione Ⅱ(ヴァリエーションⅡ)
05.Variazione Ⅲ(ヴァリエーションⅢ)
06.Variazione Ⅳ(ヴァリエーションⅣ)
07.Variazione Ⅴ(ヴァリエーションⅤ)
08.Variazione Ⅵ(ヴァリエーションⅥ)
09.Variazione Ⅶ(ヴァリエーションⅦ)
10.Canzona(カンツォーネ)

 本アルバムの1曲目の『プレリュード』は、ARP 2600シンセサイザーによる奇妙な音色から始まり、『コンチェルト・グロッソⅠ』を思わせる素晴らしいストリングスを経て、ヘヴィなリズムセクションとギター、そしてフルートが絡まる独特の世界を描いた楽曲。壮麗とも言えるストリングスの調べにリズムカルなロックが果敢に挑んでいる。2曲目の『テーマ』は、ピアノとオーケストラ、そしてARP 2600シンセサイザーが中心の穏やかで心地よい曲から始まり、リズムセクションとアコースティカルなギターを交えた攻撃的なマインドはオザンナが担当し、美しいピアノとオーケストレイション部分はバカロフが担当している。3曲目の『ヴァリエーションⅠ』は、ベースがリードするギター、サックスが脈打つヘヴィなサウンドとなっており、暗黒的な雰囲気のあるコーラスを含めているなど非常に攻めた楽曲になっている。4曲目の『ヴァリエーションⅡ』は、緩やかなギターやシロフォンを使用したサイケデリックな世界から、手数の多いドラミングとシンセサイザーによるプログレッシヴなサウンドに変化する楽曲。その後、アコースティックギターをベースにした英語歌詞のヴォーカルとなる。5曲目の『ヴァリエーションⅢ』は、パワフルなドラミングとイアン・アンダーソンばりのフルートが炸裂する楽曲。6曲目の『ヴァリエーションⅣ』もフルートのソロからユニークなヴォーカルを伴ったヘヴィなサウンドとなっており、オザンナの力量が遺憾なく発揮された内容になっている。7曲目の『ヴァリエーションⅤ』は、オーケストレイションとパーカッションによる独特の世界を構築した楽曲になっており、穏やかな中に独特の緊迫感が漂っている。8曲目の『ヴァリエーションⅥ』は、ヴァイオリンとドラムスによる協奏からキング・クリムゾン風のドタバタドラムとヘヴィなギターによるハードロック。その後はサックスソロが展開し、奇妙なヴォーカルと共に混沌とした雰囲気に包まれていく。9曲目の『ヴァリエーションⅦ』は、ジャズテイスト風のリズムセクションにアレンジしたサックス、そこからヘヴィなギターやARP 2600を交えたスペイシーでサイケデリックな楽曲に変化する。10曲目の『カンツォーネ』は、トーマス・エリオットの詩に基づいた歌詞で、過ぎ去る時間について語ったほろ苦いバラード曲となっている。ピアノの伴奏とフルート、そしてリズムセクションが加わり、次第に盛り上がっていく様は劇的であり、バロッククラシックと言っても良いほどの素晴らしい逸品になっている。

 本アルバムはサウンドトラックでありながら、バカロフのオーケストラをフィーチャーした上質なクラシカルロックの傑作とされている。彼らはこのサントラにしてストリングスオーケストラとの共演を経て、ヘヴィなロックに根ざした土着性とシンフォニックな盛り上がりを加味したのが、1973年にリリースしたサードアルバム『パレポリ』である。タイトルの『パレポリ』とは、ローマ帝国以前に栄えたという謎の古代都市であり、彼らの故郷であるナポリの地にあったと言われており、そんなはるか昔の神秘的な世界に思いを馳せた壮大なサウンド・タペストリーとなっている。彼らは『パレポリ』でイタリアのファンから絶大な支持を受け、オザンナの人気を決定付けた作品になったという。グループはこの作品を引っ下げて大々的にライヴを行い、大掛かりなステージセットと多数のアクターを同行させたそのシアトリカルなライヴは、観客の度肝を抜く凄まじいポテンシャルを有した内容であったという。しかし、この年のイタリアはオイルショックが訪れたことで、レコードは贅沢品と言われ、右翼であるキリスト教民主党に政権交代したことで、ロックコンサートの妨害や禁止に遭い、グループ活動の維持が困難となってしまう。そのため、ダニーロ・ルスティーチとエリオ・ダンナはイギリスに渡ってUNOというユニットでレコーディングを行っている。1974年には4枚目のアルバム『ランドスケープ・オブ・ライフ~人生の風景~』を発表するが、商業的に失敗に終わっている。この状況にグループは耐えられなくなり、なし崩し的に解散することになる。後にメンバーのリノ・ヴァレッティとマッシモ・グゥアリーノは再度チッタ・フロンターレを編成し、ダニーロ・ルスティーチとエリオ・ダンナは、ニューグループのNOVAを結成する分裂を招くことになる。4年後の1978年には一時的にメンバーが集まり、『スッダンス/南の踊り』をリリースするが再度解散している。それぞれ新たなグループで活動を経て21世紀となり、ダニーロ・ルスティーチとリノ・ヴァレッティによってオザンナが再結成される。ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターのデヴィッド・ジャクソンを迎えて、2001年に『Taka Boom(祭典の瞬間)』をリリース。2010年には初の来日公演が実現している。彼らはその後も精力的なライヴ活動を行い、2016年には本アルバムの続編にあたる『パレポリターナ』をリリースしている。しかし、中心的存在だったギタリストのダニーロ・ルスティーチが、新型コロナウイルス感染症に関連した合併症により、2021年2月27日に永眠。2021年12月1日にリリースされた7枚目のアルバム『イル・ディエドロ・デル・メディテラネオ』では、ギタリストのダニーロ・ルスティーチに捧げられた曲『Tu』が収録されているという。

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 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は呪術的なサウンドで根強い人気を誇るオザンナが、イタリアの音楽界の巨匠であるルイス・エンリケス・バカロフと共演したサウンドトラック『ミラノ・カリブロ 9』を紹介しました。本アルバムはサウンドトラックの作曲家であるルイス・バカロフのオーケストラとロックのコラボレーションであり、1971年のニュー・トロルスの『コンチェルト・グロッソⅠ』、1973年のイル・ロヴェッショ・デッラ・メダーリャの『汚染された世界』と共にバカロフ三部作の1つとなっています。ただし、他のアルバムと違って本作はサウンドトラックとなっているため、数あるイタリアンロックの名盤の中でも完成度という点では一歩譲っているというのが一般的です。それでもバカロフがアレンジした美しいオーケストレイションとオザンナのダークで混沌とした音世界が混ざりあった異形のサウンドは独特であり、これもまたイタリアンロックの名盤誉れ高い逸品であることは間違いないです。

 さて、アルバムですが不気味なシンセサイザー(ARP 2600)とフルートの音色で幕を開け、クラシックピアノとストリングスを経て衝撃的なアンサンブルの展開はバカロフならではのアレンジが利いた流れです。優美なストリングスに泣きのギターは、まさに『コンチェルト・グロッソ』を思わせます。オザンナの力量が発揮されるのは3曲目の『ヴァリエーションⅠ』で、クリムゾン風のドラミングに硬質のギターが絡むところは圧巻のひと言です。また、サイケなサックスやフルートが素晴らしく、奇妙で雰囲気のあるアコースティカルな曲やアグレッシヴな曲もあり、最後にはダークなコーラスが入るなど、呪術的なオザンナワールドが垣間見えます。メインは3曲目から9曲目までの『ヴァリエーション』ということになりますが、一体映画のどのシーンに使われたのか見当もつかないサウンドになっています。

 『ミラノ・カリブロ 9』という映画ですが、タイトルはウクライナ出身のイタリアの作家ジョルジョ・セルバネンコの短編小説集から採ったものだそうです。マフィアの資金が白紙にすり替えられ疑いをかけられた主人公のウーゴが、真犯人を突き止めるため奔走する物語になっていて、あのタランティーノ監督が師と仰ぐB級ギャング映画の巨匠、フェルナンド・ディ・レオ監督の初期の代表作とされています。私はまだ観ていませんが、これを機に一度観てみようかな~と思っています。

それではまたっ!