【今日の1枚】Wara/El Inca(ヴァラ/エル・インカ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Wara/El Inca
ヴァラ/エル・インカ
1973年リリース

ギターとオルガンによる格調高い
南米屈指のヘヴィシンフォニックプログレ

 南米ボリビアのトップグループであり、現在でも活動を続けるプログレッシヴロックグループ、ヴァラ(またはワラ)のデビューアルバム。そのアルバムは初期のディープ・パープルやユーライア・ヒープといった英国ハードロックからの影響と、母国ボリビアの伝統要素を融合したヘヴィかつミステリアスなシンフォニックロックとなっており、格調高いストリングスとアグレッシヴなオルガン、そしてエッジの効いたギターが絡み合う、欧州の同時代の名作に劣らない高い完成度となっている。オリジナル盤は現在でも世界的な激レアアイテムとなっており、サイケデリック&プログレッシヴロックの双方から幻の1枚とされた南米屈指の傑作である。

 ヴァラは1960年代にダンテ・ウスキーノ(ヴォーカル)とオマール・レオン(ベース)が中心となって、南米ボリビアの都市ラパスで結成されたグループである。2人はアルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある音楽学校を卒業し、母国ボリビアのラパスに帰る途中で偶然出会っている。2人は音楽学校でクラシックを学ぶ傍ら英国のロックにも触れており、ボリビアに根差した実験的なロックグループを作ろうと意気投合したという。2人は早速地元でメンバーを集め、フォークギタリストのホルヘ・コモリ、キーボード奏者のペドロ・サンヒネス、ドラマーのホルヘ・クロネボルドを加入させて活動を開始。この時、パーティ向けのロックンロールやダンスミュージックに傾倒したコンガというグループを結成。その後、よりトロピカルなサウンドのTABÚというグループ名に変更している。1972年にはギタリストのホルヘ・コモリが脱退し、代わりにロックギター兼フォークギター奏者のカルロス・ダサが加入。また、ボリビアのアンデス地方の都市オルロ出身のヴォーカリスト、ナタニエル・ゴンザレスも加入している。彼らはキーボードとギターを中心とした英国のロックとアンデスの伝統音楽やフォルクローレ、そしてクラシックといった要素を融合した新たな音楽を目指したという。この時にボリビアのアイマラ語で「星の光」を意味するWara(ヴァラ)というグループ名にしている。彼らはオリジナル曲を書き、何度もリハーサルを行い、ラパスにあるアルベルト・サーベドラ・ペレス市立劇場でステージデビューを果たすことになる。そのステージでは英国のハードロックと母国ボリビアの伝統音楽をミックスした実験性の高いシンフォニックロックであったことで、フォルクローレが中心だったラパスの人々は衝撃を受けたという。1973年3月にボリビア唯一のレコードレーベルであるヘリバと契約し、4月から5月にかけてアルバムのレコーディングを行うことになる。結成メンバーであったダンテ・ウスキーノは参加しなかったが、オマール・レオン(ベース)、ペドロ・サンヒネス(キーボード、ピアノ、ヴォーカル)、ホルヘ・クロネボルド(ドラムス)、カルロス・ダサ(ギター、ヴォーカル)、ナタニエル・ゴンザレス(リードヴォーカル)の5人が参加。また、ダンテ・ウスキーノの要請でストリングス担当に国立交響楽団からヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴット、フルート奏者、パーカッショニストをレコーディングに参加させている。こうして1973年に『エル・インカ』というタイトル名にしたデビューアルバムがリリースされることになる。そのアルバムは初期のディープ・パープルやユーライア・ヒープを思わせる英国ロックのクラシックな佇まいを継承しつつ、フォルクローレややクンビアのリズムを含んだ南米音楽の伝統要素がミックスした非常にオリジナル性の高いシンフォニックロックとなっており、ウスキーノの言葉によれば、アンデス世界における音楽の実験、研究、経験の結果と言わしめた傑作となっている。

★曲目★
01.El Inca(エル・インカ)
02.Realidad(現実)
03.Canción Para Una Niña Triste(悲しい女の子への歌)
04.Wara~Estrella~(ヴァラ~星~)
05.Kenko~Tierra De Piedra~(ケンコ~ストーンランド~)

 アルバムの1曲目の『エル・インカ』は、ヴァイオリンとキーボード、ストリングスによるイントロから、大地を思わせるような雄大なサウンドに変化する楽曲。その後、スペイン語のヴォーカルが始まり、手数の多いドラミングや存在感のあるベースが盛り上げ、中盤からヴァイオリンを中心とした美しいストリングスの調べが響き渡る。まさにクラシックとロックの融合だが、後半にはエッジの効いたギターとフルートの競演、アヴァンギャルドなキーボードは壮絶である。2曲目の『現実』は、英国ハードロックを思わせるオルガンロックとなっており、初期のディープ・パープルのロッド・エヴァンスような線の細い退廃的なムードのヴォーカルが印象的である。ギターもブルージーであり、ボリビアのグループとは一瞬思えない楽曲である。3曲目の『悲しい女の子への歌』は、ジャジーなリズムセクションと柔らかいギター、そして囁くようなヴォーカルのバラード曲。バックではフルートやアンデスの民族楽器ケーナを使っており、独自性の強いワールドミュージック的なサウンドになっている。4曲目の『ヴァラ~星~』は、カルロス・ダサのギターソロから始まり、キーボードやリズムが加わったヘヴィで痛快なロックンロールとなる楽曲。ボリビア人でありながら弾圧されるインディオを描いた曲となっており、彼らのボリビア人としての主張を強めた内容になっている。5曲目の『ケンコ~ストーンランド~』は、ペドロ・サンヒネスのクラシカルなオルガンとキーボードから始まり、チェロやオーボエを交えた荘厳なヘヴィシンフォニックロックとなった楽曲。泣きのギターや咆哮するヴォーカル、粘り付くような重たいリズムが交差し、最後まで緊迫感のある重厚なハードロックを演出している。

 アルバムはボリビア国内で若者たちに高く評価された一方で、アンデス音楽の破壊につながるといった批判もあり、賛否両論を巻き起こしたという。その後、リードヴォーカルを務めたナタニエル・ゴンザレスが脱退。彼はグルーポ・アイマラを結成し、1980年代に大活躍することになる。ゴンザレスの代わりにはデビューアルバムには参加しなかったダンテ・ウスキアーノがリードヴォーカルを務めることになる。彼らはデビューアルバムの影響もあってヒチャニグア・ヒクジャタタのシリーズとして1975年のアルバム『Maya(マヤ)』で、よりアンデスの伝統的なフォルクローレや民族楽器を使用し、土着の民族音楽を強めたサウンドに変化している。その後、メンバーチェンジを行いつつ、1976年にサードアルバム『Paya(パヤ)』、ユーライア・ヒープのカヴァーが収録された4枚目のアルバム『オリエンタル』、5枚目の『Quimsa(キムサ)』といった作品を発表。彼らはロックとアンデスの民族音楽の融合といったワールドミュージック、または現代音楽を追求し、2013年まで14枚のアルバムをリリースしている。2001年に『エル・インカ』のアウトクトナパートも併せて再録音されたリアレンジ盤『Wasitat Jirisinasawa』がリリースされるが、その話が持ち上がった際、ギタリストのカルロス・ダサはあの完成度は再現不可能として断固反対したという。その結果、グループの音楽活動は停止し、カルロス・ダサとオマール・レオンは「La Luz de la Estrella Wara」というグループを結成し、一方のホルヘ・クロネボルドとダンテ・ウスキーノは「Agrupación Boliviana Wara」というグループを結成し、分裂してしまうことになる。2つのグループともWaraという名前があり、摩擦も生じているというが、それぞれ結成50周年を祝うコンサートを含む活動を行っており、アルバム制作にも着手しているという。なお、本オリジナルのアルバムはその後、サイケデリック&プログレッシヴロックのマニア垂涎の激レアアイテムとなり、2009年に初CD化されるまで高額で取引されたといわれている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はボリビアの音楽界と社会の価値観を変えたとされる南米屈指のプログレッシヴロックグループ、ヴァラのデビューアルバムを紹介しました。数年前にアルゼンチンやブラジル、ベネズエラといった南米のプログレが次々とリマスター化された流れの中で本アルバムのCDを入手したのですが、調べたらこれがオリジナルレコードが1枚数十万円と言われたアルバムであると知りました。もっと調べるとセカンドアルバムからはフォルクローレ色が強くなっており、英国のハードロックと母国ボリビアの伝統要素を融合したヘヴィなシンフォニックロックはこの1枚だけだそうです。当時のボリビアは山岳地帯が多く、インディオたちが多く住む山岳地帯のアウトクトナ音楽と都市圏のクリオージョ音楽に分かれており、ポップやクラシックを聴く都市圏の人々は民族的なアウトクトナ音楽は下と見ていたそうです。そんなボリビアの独自の音楽文化に対して、ヴァラの実験的なプログレッシヴロックという音楽は、双方の音楽を取り入れた画期的なサウンドとなっており、ボリビアの音楽界と社会の価値観を変えたとされています。このアルバム以降、ヴァラはよりフォルクローレや民族楽器を多用したロックやジャズに移行し、ボリビア国内では民族音楽と融合した多くのロックやポップグループが誕生していくことになります。そういう意味ではアンデス世界における音楽を多彩なジャンルを組み込んだプログレッシヴロックの力で変革した稀有なアルバムと言っても過言ではないと思います。

 アルバムは英国の初期のディープ・パープルや『ソールズベリー』あたりのユーライア・ヒープを思わせるクラシカルな要素を持ちつつも、格調高い管弦楽器とアグレッシヴなオルガン、エッジの効いたギターが絡み合う、ヘヴィかつミステリアスなシンフォニックロックとなっています。ハードロック的な要素が強く、ブルージーなリフと美しいベース、そしてドラムスのラインが特徴です。どこか重苦しさと焦燥感のあるロック色の強い楽曲が多い中で、3曲目の『悲しい女の子への歌』という柔らかく繊細な曲があるなど侮れません。また、管弦楽器を用いたオーケストラを演奏するミュージシャンとのコラボレーションによってシンフォニック的なサウンドもあり、当時のプログレの名盤に引けをとらない完成度を誇っています。それでも母国ボリビアの伝統要素であるフォルクローレ的な節まわしやクンビアのリズムがあるなど、類を見ない独自のサウンドを追求しているところが傑作の所以になっているのだろうと思います。

 2000年代以降にリマスター化されたアルバムは数多くありますが、本アルバムこそ内容と評価が一致した素晴らしい作品です。

それではまたっ!