【今日の1枚】Granada/España,año 75(グラナーダ/スペイン75年) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Granada/España,año 75
グラナーダ/スペイン75年
1975年リリース

キーボード、ギター、フルートが一体となった
ジャズロック指向の強いコンセプト作

 スペインが誇るプログレッシヴロックグループ、グラナーダのセカンドアルバム。前作のメロトロンとピアノが中心だったキーボードが、本作からシンセサイザーとエレクトリックピアノとなり、ギターやフルートがせめぎ合うジャズとシンフォニックロックの間の領域を保ったインストゥメンタル作品となっている。本アルバムは多様なキーボードやヴァイオリン、マンドリン、フルート、作曲をこなす、カルロス・カルカモのマルチプレイヤーぶりが発揮された作品だが、その多様性のあるサウンドは1970年代のスペインのロックシーンにおいて確かな色彩を指し示した傑作でもある。

 グラナーダは1970年初頭にマルチ楽器奏者のカルロス・カルカモを中心に、スペインのマドリードで結成されたグループである。カルロス・カルカモは1952年にバレンシア州で生まれ、幼いころからフルートとヴァイオリンを学んでいる。その後、学生時代にピアノやギターも学び、独自で作曲も行っていたという。彼は早くから民族音楽やクラシックのミュージシャンとして活動したいと考え、当初はスコルピスというグループを結成してアンダルシア地方の民族音楽を中心に演奏している。しかし、1960年代末に英国から流入したジャズやロックといった音楽に注目し、これまで学んできたクラシックや民族音楽をベースに新たな音楽を模索するようになる。彼は1970年にベーシストとドラマーをメンバーに加えて、スペインの高級フルーツの名にちなんだグラナーダというグループを結成する。グラナーダとしての活動は主にアーティストのバックバンドだったが、彼らが表舞台に登場するのは、1972年頃からスペインで一世風靡していたジプシーとフラメンコの男女カップル、ロレ&マヌエルとのコラボレーションである。ロレ&マヌエルはフラメンコ音楽の最初の提唱者であり、聴衆を対象にした新たなフラメンコの音楽の先駆者でもある。カルロスはロレ&マヌエルとの活動期間を経て、アンダルシアの民間伝承やフラメンコに由来するコンセプトを元に、リズムやメロディやハーモニーの要素をロックやポップスに落とし込んだ曲を作り上げている。しかし、グラナーダはカルロスのワンマングループであり、自分が表現する音楽のためにメンバーが一新されることが多く、ラインナップは常に不安定だったという。1974年にはカルロス・カルカモ以外に、マイケル・ヴォルトレリッヒ(ギター)、アントニオ・ガルシア・オテイサ(ベース)、フアン・ボナ(ドラムス、ヴォーカル)といったメンバーが固まり、スペインの代表的なレーベルであるMovieplayと契約している。彼らはマドリードにあるレコーディングスタジオ、エストゥディオス・キリオスに入り、ラジオ司会者や俳優、映画監督として活躍するゴンサロ・ガルシア・ペラヨをプロデューサーに迎え、エンジニアはロンドンのパイ・スタジオで経験を積んだペペ・ロチェスが担当。また、ゲストにマノロ・サンルカール(ギター)、ハビエル・フイドブロ(ギター)、ホセ・ルイス・バルセロ(マンドリン)、カルロス・テナ(ヴォーカル)が参加したデビューアルバム『大地のささやき』が1975年初頭にリリースされる。そのアルバムはフラメンコギターやイアン・アンダーソンばりのフルート、さらにメロトロンまで導入し、ブルースやラテン音楽、クラシックを貪欲に取り入れたユニークなアンダルシアンロックとなっている。

 リリースされたデビューアルバムはスペイン国内で高く評価され、グラナーダの知名度は飛躍的にアップしたという。しかし、アンダルシアからトリアーナやヴェネーノ、メズキータといったプログレッシヴなロックグループが活躍するようになり、グラナーダはアンダルシアの音楽から一旦離れるようになる。後にカルロスが着目したのは英国のカンタベリーミュージックであり、シンセサイザーやエレクトリックピアノを駆使したジャズロックを標榜するようになったという。この時のメンバーはカルロス・カルカモ(ピアノ、シンセサイザー、エレクトリックピアノ、メロトロン、フルート、ヴァイオリン、マンドリン)、アントニオ・ガルシア・オテイサ(ベース)、ハビエル・モンフォルテ(ギター)、フアン・ボナ(ドラムス)、そしてジャズロックグループのドローレスを結成して注目を浴びていたホルヘ・パルド(サックス)を招き、前作に引き続きゴンサロ・ガルシア・ペラヨをプロデューサーに迎えたレコーディングを行っている。こうして1975年の夏から秋にかけてのスペインを題材にしたセカンドアルバム『スペイン75年』を1975年末にリリースすることになる。そのアルバムはシンセサイザーとエレクトリックピアノ、スペイン的なフレーズのあるギターやフルート、サックスによる縦横無尽の演奏が展開するジャズロックとなっており、カルロス・カルカモのマルチミュージシャンとしてのアイデアと演奏プレイが光ったコンセプト作となっている。

★曲目★ 
01.El Calor Que Pasamos Este Verano(「過ぎ去りし夏の炎熱」組曲)
 a.Por Donde Andamos(我々が歩くところ)
 b.Todo Hubiera Sido Tan Bueno(奇妙なすべて)
 c.La Autentica Cancion Del Verano(夏の歌)
 d.No Me Digas Bueno, Vale(何も言わないで)
02.Septiembre(9月)
03.Noviembre Florido(華麗なる11月)
04.Ahora Vamos A Ver Qué Pasa ~Vámonos Para El Mediterráneo~(そして季節はめぐる~地中海へ行こう~)

 アルバムの1曲目の『「過ぎ去りし夏の炎熱」組曲』は、4つのセクションからなる組曲となっており、華やかな異国情緒ある旋律とスペイシーな装飾を備えたシンフォニック的な要素がある楽曲。後にリズミカルなエレクトリックピアノと素晴らしいスパニッシュギターが奏でられる。次のセクションではゆったりとした曲調となり、柔らかなキーボードとギター、フルートによるジャズ的なエッセンスのある楽曲となっている。3つ目のセクションは1つ目で魅せたダイナミックな内容となっており、スペイシーなシンセサイザーを駆使した内容になっており、後にメル・コリンズばりのホルヘ・パルドのサックスソロが展開され、後半にはフルートソロがあるなど曲のアレンジ面が冴えた内容になっている。4つ目のセクションでは冒頭のデュアルギターソロによるロック的なアプローチの強い楽曲。中盤には柔らかなエレクトリックピアノソロを挟んでいるなど、ソフトとハードが混在した内容になっている。2曲目の『9月』は、シンセサイザーとエレクトリックピアノによる静寂なムードとメランコリックな雰囲気が漂う楽曲。ハビエル・モンフォルテの情感的なギターを乗せており、中盤からは煌びやかなシンセサイザーによる美しいメロディが待っている。後半はジェスロ・タルのイアン・アンダーソンばりのフルートの演奏で終えている。3曲目の『華麗なる11月』は、主にスペイン北部の民謡に基づいた、明るい雰囲気をもたらす輪舞曲。中盤からはストリングスシンセサイザーをバックにしたスパニッシュギターの華麗な組み合わせが素晴らしく、美しいシンセサイザーの音色がシンフォニックロックを形成している。4曲目の『そして季節はめぐる~地中海へ行こう~』は、アンダルシアンなギターが散りばめられた楽曲となっており、手数の多いドラムスとより存在感の増したベースが印象的である。マンドリンとヴァイオリンがフィーチャーされたフォーク色の強い内容となっており、最もスペインらしさのあるエキゾチックなサウンドとなっている。

 アルバムはジャズロック的なアプローチの中で、キーボードとフルート、そしてギターが一体となったシンフォニック指向のある作品として、グラナーダはトリアーナと並ぶスパニッシュ・プログレッシヴロックの代表格となる。次のアルバムに向けてカルロスは、伝統的な民間伝承のひとつであるケルト民族のに焦点を当て、バグパイプを楽器として取り込もうとしたという。メンバーを一新し、バグパイプ奏者にホアキン・ブランコを迎え、カルロス・カルカモ(キーボード、フルート)、カルロス・バッソ(ギター)、アントニオ・ロドリゲス(ドラムス、パーカッション)、フリオ・ブラスコ(ベース)、そしてオーケストラアレンジャーにホセ・ミゲル・エヴォラというラインナップでレコーディングに臨んでいる。1978年にリリースしたサードアルバム『過ぎ去りし街』は、これまで以上にシンフォニックなサウンドとなった画期的な作品だったが、すでにプログレッシヴロックの時代は終焉を迎えており、スペインではディスコやフュージョンが人気を集めていたという。カルロスはギタリストのディエゴ・デ・モロンをグループに加えて、再度アンダルシアンロックを根差したアルバムを作ろうとしたが、グループとしての活動を断念して解散することになる。カルロス・カルカモは解散後、プロデューサー兼セッションミュージシャンとなり、エンリック・バルバットやロス・チチョス、ペオル・インポッシブル、マリア・イザベル・リネロス・ロドリゲスなど、多くのスペインのアーティストと共演し、プロデューサーとして活躍していくことになる。グラナーダが残した3枚のアルバムは、1980年代に廃盤となってしまったが、日本のプログレッシヴロックファンの後押しもあって3枚目のアルバム『過ぎ去りし街』が1990年にスペイン国外では初のCD化を果たしている。そして2006年には日本のダイキサウンドから正式に3枚のアルバムがデジパック仕様のCDリマスター化され、現在でもスペインと日本のみのリリースとなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はトリアーナと並ぶスパニッシュプログレの代表格、グラナーダのセカンドアルバム『スペイン75年』を紹介しました。グラナーダは3枚のアルバムをリリースしていますが、デビューアルバムはアンダルシアンロック、セカンドアルバムはジャズロック、サードアルバムはシンフォニックロックという、アルバム毎にメインとなる楽器や音楽性が異なっていることが特徴のグループです。なかなか掴みづらいグループだな~とは思いますが、どのアルバムもマルチプレイヤーであるカルロス・カルカモのエキサイティングな演奏が冴えまくった作品になっています。本アルバムは前作のアンダルシアンロックを基調としたテーマから、たぶんカンタベリーミュージックを意識しただろうと思われるジャズロック的な内容に変えたものにしています。グラナーダは1975年に2枚のアルバムを制作していますが、その1年の間に音楽性を変えるという思い切った舵取りをしている点から、カルロスのインスピレーションに富んだ作曲意欲は凄まじいものがあります。それでも単なるジャズロックに傾倒しているわけでもなく、程よくアンダルシアンな要素やキーボードとフルート、ギターによるシンフォニック指向も感じられる逸品になっています。リスナーからはシンフォニックなバグパイプを導入したサードアルバムを推す人も多いですが、個人的に決してドメスティックに陥らない楽曲やアレンジ振りが見事な本アルバムの方が好きです。

 さて、本アルバムは17分を越える組曲を擁し、1975年を中心とした過去の思い出を楽曲に乗せたコンセプトアルバムとなっています。ヴォーカルを排した全曲インストゥメンタルとなっており、まさにマルチプレイヤーであるカルロス・カルカモの縦横無尽ともいえる演奏に重点を置いた作風となっています。前作の荒々しさは軽減され、より成熟したアレンジが施されたアルバムになっていて、このアルバムからグラナーダがスペインのプログレッシヴロックグループとして認知されることになります。1曲目の組曲は郷愁がテーマとなっていて、民族的な華やかさとスペイシーなシンフォニック色を備えたプログレッシヴな感性が息づいた構成になっています。ダイナミックでありながらメロディの暖かさはイタリアを思わせる地中海の雰囲気があり、ジャズ的なエッセンスのある曲調ではメル・コリンズばりのサックスソロを披露するホルヘ・パルドの存在感は大きいものがあります。個人的には『華麗なる11月』で魅せるスパニッシュギターとストリングスシンセサイザーの共演は聴き応えがあって素晴らしいのひと言です。

 本アルバムはマルチプレイヤーであるカルロス・カルカモの職人芸に近い演奏に焦点を当てた作品です。ぜひ、アンダルシアンロックやジャズロック等を程よくブレンドしたスパニッシュプログレの名演を聴いてほしいです。

それではまたっ!