【今日の1枚】Kebnekaise/KebnekaiseⅡ(ケブネカイゼⅡ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Kebnekaise/KebnekaiseⅡ
ケブネカイゼ/ケブネカイゼⅡ
1973年リリース

独特のリズムによる北欧民族音楽を
作り上げたフォーク系プログレの傑作

 スウェーデンの名門サイレンスレコードの看板グループであり、ボ・ハンソンのバックで活躍したギタリスト、ケニー・ホカンソン率いる北欧屈指のフォーク系ロックグループ、ケブネカイゼのセカンドアルバム。前作のハードロック路線を捨て、ゲストに歌姫トゥリドを迎え、ギターやフィドル、コンガ、ドラム、ベースの編成で北欧民族音楽に変化したプログレッシヴフォークの最高傑作となった作品。グループ名であるスウェーデンの最高峰のごとく、厳しくもおおらかな大自然を音像化した独特のリズムとサウンドが心地よい彼らの初期の代表作でもある。

 ケブネカイゼは1970年にギタリストのケニー・ホカンソンとドラマーのペレ・エクマン等を中心に、スウェーデンの首都ストックホルムで結成されたグループである。元々ケニー・ホカンソンは1967年にペレ・エクマンと共にベイビー・グランドマザーズというトリオグループで活躍してきたミュージシャンで、ハンソン&カールソンで有名なヤンネ・カールソンが経営するストックホルムのフィリップスクラブのハウスバンドに所属していたという。他にそのクラブにはハモンドオルガンやビブラフォン、フルートを演奏するメッキ・ボーデマルク率いるメッキ・マーク・メンというグループがおり、人気だったその2つのグループは1968年にヨーロッパツアーを敢行していたジミ・ヘンドリックスのスウェーデン公演の前座を務めている。その後もベイビー・グランドマザーズとメッキ・マーク・メンは、共にコンサートツアーを行い、1968年9月から1969年4月まで行われたミュージカル『ヘアー』のスウェーデン版にあたるキャストメンバー&ミュージシャンとして活躍したという。この頃からケニー・ホカンソンとペレ・エクマンは、メッキ・マーク・メンのメンバーとして活動し、アルバム制作の参加だけではなく曲の提供も行ったとされている。メッキ・マーク・メンはスウェーデン国内にとどまらず、ヨーロッパでも人気を集め、1970年にスウェーデンのロックグループとしては初となる米国ツアーに乗り出している。しかし、米国ツアーでグループはビザの期限を過ぎて滞在したことで多額の借金を作り、経済的な混乱を招いたことが原因でレコードレーベルから契約を破棄される事態に陥ってしまう。3枚目のアルバム『マラソン』は別のレーベルであるソネットからリリースされたが、売り上げは借金の肩代わりをしてくれたマネージャーへの返済に充てられ、不満を感じたメンバーはメッキ・ボーデマルクを除く全員が脱退することになる。

 脱退したケニー・ホカンソンとペレ・エクマン、ベラ・リナーソン(ベース)の3人は、元スチームパケットに所属していたロルフ・シェラー(ギター)を迎えて、スウェーデンの最高峰の名を採ったケブネカイゼとして活動を開始する。彼らはすぐにサイレンスレコードと契約し、1971年にデビューアルバム『レサ・モット・オケント・モール』をリリース。そのアルバムはギターを中心としたブルージーなハードロックとなっており、1960年代のザ・クリームやマウンテンといったグループにインスピレーションを受けたサウンドになっている。ケニー・ホカンソンはこのままハードロックタイプのカルテットとして進もうとしたが、国民的フィドラーであるビョルン・シュトービと出会ったことで考えを改めることになる。彼は古いフィドラーに興味を持ち、スウェーデンの伝統的なメロディを探求したいと考えたという。彼はすぐにポップグループであるホモ・サピエンスのマッツ・グレンヤード(ヴァイオリン、ギター、フィドル)、ペレ・リンドストローム(ギター、フィドル、ハーモニウム)、グンナー・アンデルセン(ドラムス)、トマス・ネツラー(ベース)といった民族音楽に長けたミュージシャンを迎えている。一方でギタリストのロルフ・シェラーは、音楽性が変わったことで脱退し、代わりにジャズギタリストであるインゲマル・ブッカーが加入。他にもヨラン・ラーゲルベリ(ベース)やハッサン・バー(パーカション)といった同じく民族音楽に長けたメンバーを引き入れている。彼らは次のアルバムのレコーディングを行う際、スウェーデンのフォークロックグループであるトゥリドの歌姫、マリット・トゥリド・ルンドクヴィストを迎え、1973年にセカンドアルバム『ケブネカイゼⅡ』をリリースすることになる。そのアルバムは前作のハードロック路線から一変し、ギターやフィドル、コンガ、ドラム、ベースを中心とした民族音楽とロックが融合した北欧らしく美しいプログレッシヴなフォークとなった画期的な作品となっている。

★曲目★ 
01.Rättvikarnas Gånglåt(義人の歌)
02.Horgalåten(ホルガローテン)
03.Skänklåt Från Rättvik(レットビークからの贈り物)
04.Barkbrödlåten(樹皮のパンの歌)
05.Comanche Spring(コマンチ・スプリング)
★ボーナストラック★
06.Horgalåten ~Live~(ホルガローテン~ライヴ~)

 アルバムの1曲目の『義人の歌』は、トゥリドの歌姫であるマリット・トゥリド・ルンドクヴィストのスキャットをフィーチャーした楽曲になっており、明るく心地よいギターとヴァイオリン、フィドルを奏でたトラディショナル性の強い楽曲。リズムはギニア人のバー・ハッサンによる3ビートのコンガがあり、全体的にケルト的な雰囲気のあるメロディアスなアレンジに仕上げている。2曲目の『ホルガローテン』は、複数のギターを中心とした楽曲となっており、魅惑的ともいえるアラビアンな雰囲気が漂うアレンジが施されている。ここではパーカッションが抑えられているが、生き生きとしたリズムとギターによるダンスチックな印象がある。3曲目の『レットビークからの贈り物』は、モダンなギターワークとゆったりしたベースライン、そして遊び心のあるパーカッションがある楽曲。ヴァイオリンやベース、パーカッションのリズミカルで反復的な流れに、非常に明るいリードギターが独特な世界を描いている。4曲目の『樹皮のパンの歌』は、2人のギタリストが同じメロディで異なるパートを演奏した楽曲。コンガの音色が心地よく、ラテンビートのある北欧フォークと言っても良いだろう。5曲目の『コマンチ・スプリング』は、16分を越える大曲となっており、アメリカのインディアンであるコマンチ族をテーマにしたアルバムのハイライトである。この曲だけギタリストのインゲマル・ブッカーによって書かれたもので、これまでのトラディショナルな雰囲気を排除したジャジーな楽曲になっている。サイケデリックなリズムと情熱的なコンガ上で相互作用するヴァイオリンとギターによるアグレッシヴな演奏があり、プログレッシヴな要素を加味させている。ジャジーなブッカーのギターやネツラーのベース、そして脈動するパーカッションによるリズミカルな演奏によるサイケデリック性のあるフォークロックともいえる。6曲目の『ホルガローテン~ライヴ~』は、CD盤のボーナストラックとなっており、同時期のライヴ音源を収録したものである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ギターやヴァイオリン、フィドルを中心に北欧らしいメロディを構築しているが、コンガを含めたパーカッションが活きており、これが独特でユニークな民族音楽を作り上げている。非常にジャム的なセッションで同じような楽器をうまく使い分けており、アレンジ力だけではないミュージシャンの力量の高さが垣間見えるアルバムでもある。

 本アルバムは伝統的なスウェーデンのフォークをベースにしているものの、様々な楽器をミックスしたことでサイケデリック性のあるプログレッシヴなロックとして注目されることになる。後に同じ路線で1975年に『ケブネカイゼⅢ』、アフリカの民族音楽を取り入れた1976年の『リュス・フラン・アフリカ』、ジャズロックになった1977年の『エレファント』など、立て続けにアルバムをリリースし、スウェーデンにおける代表的なロックグループとしての地位を固めることになる。ケブネカイセはメンバーチェンジを行いつつも、年間100回のライヴを行うグループとして有名で、伝統的な音楽をベースにジャズやロック、クラシックといったジャンルを融合して新たな音楽を作り続け、人気はますます高まっていったという。1978年にこれまで世話になったサイレントレコードから離れ、これに合わせてギタリストのケニー・ホカンソンとペレ・エクマンもグループから離れて活動。ヴォーカルのトーマス・ネツラーやギター兼ヴァイオリンのマッツ・グレンヤード、パーカッションのハッサン・バーが残り、新たにキーボード奏者のパー・レジュリング、ドラマーのペレ・ホルムを加えた6枚目のアルバム『ヴィ・ドラル・ヴィダーレ』をマーキュリーからリリース。シンフォニックなスタイルになったアルバムだが、この時からメンバーの活動が別々の方向に本格的に進み、アルバムリリース後に解散することになる。ギタリストのケニー・ホカンソンは、1979年にDag Vagというグループを結成を経て、多くのミュージシャンとコラボレーションを行い、ボ・ハンソンの3枚のアルバムにも参加。1984年にはユッカ・トロネンを含めたビルズ・ブギー・バンドを結成し、その後はスタジオミュージシャンとして活躍することになる。ドラマーのペレ・エクマンはセッションミュージシャンとなり、スウェーデンの多くのアーティストのアルバムに参加したという。その後、ケブネカイゼは1988年にガーデットでのライヴのために一時的に再結成したものの長続きはせず、誰もがこのまま終わるだろうと思っていたという。しかし、2001年のある時、ケニー・ホカンソンが近代美術館の庭園での音楽パーティーに招かれた際、主催者の1人がケブネカイゼのメンバーを連れて演奏することが可能かどうかを尋ねてきたらしい。ホカンソンはできる限りメンバーを見つけてグループをまとめる努力をすると答え、後に関係者全員と連絡が取れたという。この時、ペレ・エクマンとハッサン・バー、マッツ・グレンヤード、インゲマル・ベッカー、ペッレ・リンドストローム、トーマス・ネツラー、3枚目のアルバムから参加したベース兼ヴォーカリストのゴーラン・ラガーバーグが集まり、23年ぶりにケブネカイゼを再結成。ブレダンにあるリハーサル室を借りて練習し、ストックホルムのタントガーデンを中心にギグを開始している。2004年12月10日に行われたライヴは『På Grand 10.12.04』というタイトルでセルフリリースされ、2009年からはサブリミナルサウンドレーベルからアルバムのリリースを果たしている。2012年にリリースした『アバンチュール』が最後のアルバムとなっているが、ライヴを中心に現在でも活動を続けているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフィドルを楽器に据えて民族音楽とロックを融合したスウェーデンのプログレッシヴフォークグループ、ケブネカイゼのセカンドアルバム『ケブネカイゼⅡ』を紹介しました。ケブネカイゼは同じスウェーデンのプログレッシヴロックグループであるカイパやダイス、ラグナロクの後ぐらいに聴いていたグループで、本アルバムとサードアルバム、そして5枚目のジャズロック&シンフォニックな路線となった『エレファント』を良く聴いていました。ケブネカイゼはアルバム毎にアフリカの民族音楽やジャズロックを取り入れた作品があるために、巷に言われているトラディショナル&フォークロックにとどまらない幅広さと奥行きがあるグループです。その中でも前作から一変して北欧フォーク&民族色を押し出したプログレッシヴな展開になったのが本アルバムとなります。ツインギター、ツインフィドル、ツインベース、ツインドラム、パーカッションという独特の編成に、トゥリドの歌姫であるマリット・トゥリド・ルンドクヴィストをゲストに迎えた本アルバムは、ケブネカイゼ独自のサウンドを確立した大傑作と言っても過言ではないと思います。

 さて、アルバムは作曲家でもあるケニー・ホカンソンが、スウェーデンの伝統的なメロディを探求したいと考えて作られたインストゥメンタル曲になっています。1曲目からフィドルやギター、ヴァイオリン、そしてトゥリドの歌姫によるスキャットが美しいトラディショナルな楽曲となっていて、その明朗さはスコットランドの民族舞踊を思い出させます。民族的なメロディを使用しているものの、アグレッシヴなギターやヴァイオリンの響き、そして推進力のあるパーカッションが活きており、この辺りが単なるトラディショナルなフォーク音楽に寄らない新しさがあります。5曲目はギタリストのインゲマル・ブッカーによるジャズのアプローチのあるフォークロックとなっていますが、その曲の長さとギターとヴァイオリンのソロ展開があるなど、非常にプログレッシヴな要素があります。この曲はフォークをベースにした民族的な音楽とは一線を画したジャズ的な要素をからめた魅力的な楽曲ですが、たぶん、彼らにとって本アルバムは民族音楽プラスといった実験性、もしくは模索の段階だったのではないでしょうか。そんないろいろと試すような自由さがあったからこそ、後にアフリカの民族音楽やジャズロック、シンフォニックロックと言った他ジャンルと結びつけたアルバムが出来たのではないかと個人的に思っています。

 本アルバムはハードロック路線からフィドルを使用した北欧民族音楽にシフトしたプログレッシヴフォークの傑作です。民族音楽のスタイルを維持しながら、自由で大らかなメロディと技巧的なアレンジが光った楽曲は、聴いていて心地よい気分にさせてくれるはずです。

それではまたっ!