【今日の1枚】Brian Auger's Oblivion Express/Same | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Brian Auger's Oblivion Express/Same
ブライアン・オーガーズ・オブリヴィオン・エクスプレス/ファースト
1971年リリース

荒くれハモンドオルガンをフィーチャーした
豪快なファンキー系ジャズロック

 1970年にブライアン・オーガー主宰のグループ「ザ・トリニティー」を受け継ぐ形で結成された、ブライアン・オーガーズ・オブリヴィオン・エクスプレスの記念すべきデビューアルバム。そのアルバムはこれまでのハモンドオルガンをフィーチャーしたジャズロックに、よりヘヴィでプログレッシヴな要素を加味し、さらにフュージョンに連なるクロスオーヴァーを展開した豪快なサウンドになっている。同時代のソフト・マシーンやマハヴィシュヌ・オーケストラとはひと味違う、ハードでファンキーなジャズロックを提示した傑作でもある。

 グループの主宰であるブライアン・オーガーは、1939年7月18日にイギリスのロンドンのハマースミスで生まれ、独学でキーボードをマスターし、1963年にジャズピアニストとしてプロ活動を始めている。同年にアイルランド出身のベーシストであり、後にマハヴィシュヌ・オーケストラのメンバーとなるリック・レアードとドラムスのフィル・キノーラをメンバーにしたトリオグループ、ザ・トリニティを結成。これまでピアノをメインに弾いていたオーガーは、アメリカのジャズオルガン奏者のジミー・スミスの影響を受け、ハモンドオルガンを弾くようになる。しかし、度重なるメンバーチェンジによって活動が停滞し、オーガーは1965年にはロッド・スチュワートや女性ヴォーカリストのジュリー・ドリスコール(現ジュリー・ティペッツ)などとスティームパケットを結成。そのR&Bを主体としたソウルフルで革新的なジャズロックサウンドはイギリス国内で注目されたという。1968年にはジュリーと共にデイヴ・アンブローズ(ベース)、クライヴ・タッカー(ドラムス)を迎えてザ・トリニティを再興し、同年のモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演。その後、ザ・トリニティはブライアン・オーガーの名を冠したグループに変化し、アルバム『ディフィニットリー・ホワット』のリリースやアメリカのブルース歌手のサニー・ボーイ・ウィリアムソンのレコーディングに参加するなど積極的に活動を行っている。1969年には3枚目のアルバム『ストリートノイズ』、1970年にアルバム『ビフォア』をリリースし、時代を先取りしたクロスオーヴァーサウンドを展開していたが、ジュリーはジャズミュージシャンのキース・ティペットと結婚し、彼とコラボレーションをするようになる。そんな中、オーガーはプログレッシヴロックの時代に入ったのを機に、よりヘヴィでプログレッシヴなサウンドを提示した新たなプロジェクトを立ち上げることになる。それがブライアン・オーガーズ・オブリヴィオン・エクスプレスである。メンバーはブライアン・オーガー(ヴォーカル、キーボード)、元ピート・ブラウン・ピブロクト出身のジム・マレン(ギター)、バリー・ディーン(ベース)、ロビー・マッキントッシュ(ドラムス)の4人編成である。彼らはアドヴィジョン・スタジオに入り、エマーソン・レイク&パーマーやイエスと関わったエディ・オフォードをエンジニアに迎えてレコーディングを開始している。こうして1971年にデビューアルバム『ブライアン・オーガー・オブリヴィオン・エクスプレス』がリリースされることになる。そのアルバムはこれまでのハモンドオルガンを中心としたジャズロックに、ファンキーでアヴァンギャルド的な色彩とフュージョンに連なるクロスオーヴァーを取り入れた野心的なサウンドとなっている。

★曲目★
01.Dragon Song(ドラゴン・ソング)
02.Total Eclipse(トータル・エクリプス)
03.The Light(ザ・ライト)
04.On The Road(オン・ザ・ロード)
05.The Sword(ザ・ソード)
06.Oblivion Express(オブリヴィオン・エクスプレス)

 アルバムの1曲目の『ドラゴンソング』は、ジョン・マクラフリンの曲でマハヴィシュヌ・オーケストラの『火の鳥』に収録されている『One Word』をベースにした楽曲。緊張感を保ちながらブライアンのハモンドオルガンとライドなジム・マレンのギターが疾走し、ドラマーのロビー・マッキントッシュとベーシストのバリー・ディーンがしっかりとしたリズムを刻んでおり、まさに新たな時代を迎えたグループの始まりを予感させる逸品である。2曲目の『トータル・エクリプス』は、1970年代のプログレッシヴロックに寄せた11分を越える長尺の楽曲となっている。インプロゼーションなオープニングはモッズの要素のあるジャズロックとなっており、エレクトリックピアノと少し歪んだギターがムーディーな演出を作り上げている。ブライアンの素晴らしいピアノとオルガン演奏は、様々なトーンと設定を活用しており、スペイシーでありながら意外と繊細な音空間になっているのが特徴である。3曲目の『ザ・ライト』は、ブライアンのヴォーカルをフィーチャーしたR&Bベースのグルーヴィーな楽曲。オルガンとヴォーカルのユニゾンの部分でのコーラスやコード進行は、ブライアンの持つ巧みなポップセンスが表現されている。4曲目の『オン・ザ・ロード』は、ジャズロックとブルースロックの両方を吸収したヴォーカル曲。オルガンに密接に関わるギターが貢献しており、ジャジーなギターやオルガンのソロが心地よいフュージョンと言っても良く、全体的に調和のとれたジャズポップとなっている。5曲目の『ザ・ソード』は、オルガンハードロック的な要素のある楽曲となっており、ベースがラインを引っ張った疾走感あふれる内容になっている。オルガンはディープ・パープルのジョン・ロードの奏法に似ているが、ブライアンは絶えずコードを変更しつつ、ギターのマレンがさらに拡張させている。6曲目の『オブリヴィオン・エクスプレス』は、これもパープルらしい曲になっており、ヘヴィなギターとオルガンがメインとなっているが、ロビー・マッキントッシュの素晴らしいドラミングが堪能できる。後半のブライアンの叫び声に近いハモンドオルガンのソロは、まるでジャケットの蒸気機関車のような力強さがある。こうしてアルバムを通して聴いてみると、マハヴィシュヌ・オーケストラとマイルス・デイヴィスのフュージョン初期の傑作を彷彿とさせるR&Bを基準としたジャズロックとなっており、1970年代初期のハモンドオルガン主導のハードロックのアルバムの中でも優れた作品となっている。オルガンを前面に出し、疾走感のあるリズムやギターソロを展開させ、ヴォーカルをフィーチャーさせるなど、ジャンルをものともしない多彩なサウンドを取り入れようとするグループの方向性がよく表れた作品だと思える。

 アルバムはR&Bやファンク、ジャズロックを融合した新たな領域として評価され、すでに知名度があったブライアン・オーガーがさらに一躍脚光を浴びるようになる。彼らはすぐにセカンドアルバムに着手し、『ベター・ランド』を同年末にリリース。1972年にはゲストにヴォーカリストのアレックス・リガードウッドを迎え、名作『Truth』を収録した3枚目のアルバム『セカンドウインド』を発表し、そのファンキーなグルーヴ感はその後のアシッドジャズの開拓者として再評価を受けることになる。グループはメンバーチェンジを経ながら1977年の8枚目の『ハッピネス・ハートエイクス』をリリース後にオブリヴィオン・エクスプレス名義での活動を停止。ブライアン・オーガーはソロに転向して再度ジュリー・ティペッツと共にレコーディングした『思い出にアンコール』を1978年にリリースしている。彼は1980年代に2枚のソロアルバムをリリースしていたが、様々なジャズミュージシャンとの親交からスティーブ・エヴァンス(ベース)、ラリー・ヴァン(ドラムス)、リック・ハンナ(ギター)、ディック・モリッシー(サックス)をメンバーにした新生オブリヴィオン・エクスプレスを再結成。1996年に9枚目となる『心の鍵』をリリースしている。その後はブライアン・オーガーを中心に息子のカーマや娘のアリ、その後はもう1人の娘であるサヴァンナを含むファミリーグループとして2014年までアルバム制作やライヴ活動を行ったという。また、ザ・トリニティも2010年代にブライアンの娘であるサヴァンナを擁して、同名義としては43年ぶりに作品を残している。現在84歳となったブライアン・オーガーは表舞台から離れているが、自分の子供たちの演奏を見守る一方、地元のパブやクラブでピアノやオルガンを時折披露しているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は大衆的なジャズロックを開拓し、アシッドジャズの先駆けと評価されるブライアン・オーガー率いるオブリヴィオン・エクスプレスのデビューアルバムを紹介しました。ブライアン・オーガーといえばザ・トリニティ時代にアメリカのジャズオルガン奏者のジミー・スミスの影響を受け、いち早くハモンドオルガンを取り入れたミュージシャンとして有名です。しかし、当時のハモンドオルガンは、1960年代初頭のアメリカのブルースで少数の黒人ミュージシャンだけが使用していた新しい電子キーボードであり、そのサウンドはあまりにも攻撃的で、ピアノと違って相性が悪く乱雑だと考えられていたそうです。その後、ザ・ナイスのキース・エマーソンやディープ・パープルのジョン・ロードが好んで使用し、電子キーボードとしてのポジションを得ることになります。そんなブライアン・オーガーは停滞しつつあったジャズに、マハヴィシュヌ・オーケストラやソフト・マシーンといったグループと共に新たなジャズロックの定義をもたらしたミュージシャンと言っても良いと思います。でも、ジュリー・ドリスコール(現ジュリー・ティペッツ)やロッド・スチュワート、ジミー・ペイジといった名だたるアーティストと演奏した経歴を持っているにも関わらず、なかなかメジャーになり切れない通好みのミュージシャンでもあります。

 さて、本アルバムはザ・トリニティ時代を受け継ぐ形で結成されたオブリヴィオン・エクスプレスの最初のアルバムとなります。大きく違うのがこれまでのスタイルに加えて、プログレッシヴロックのサウンドに近づけたヘヴィでファンキーなジャズロックになっています。1曲目の『ドラゴン・ソング』は、ジョン・マクラフリンの曲でマハヴィシュヌ・オーケストラの『火の鳥』に収録されている『One Word』が元になっていて、サウンドの感触もソフト・マシーンに寄せているなど、他の作品やリスペクトがあって立ち位置がややあやふやなところがあります。それでも11分を越えるプログレッシヴな長尺の曲をはじめ、ドライヴィンなベースがうねるハードロック調の曲、さらにR&Bやファンク、ジャズロックといった複雑な融合があるものの、変則的な演奏にこだわらず、よりオーソドックスなスタイルを追求していて、非常に聴きやすいサウンドにしているところに好感が持てます。この辺りが大衆的なジャズロックを開拓してきたブライアン・オーガーならではのスタイルといったところでしょう。ヘヴィでありながらサイケデリックでアシッドなジャジーチューンに満たされ、クロスオーヴァー的な要素を加味させた本アルバムは、間違いなく当時の混沌としたジャズロックに新風を取り入れた傑作と言えます。ジャズロック好きにはもちろん、ハモンドオルガン好きな方にもおすすめの1枚です。

それではまたっ!