【今日の1枚】Cressida/Asylum(クレシダ/アサイラム) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Cressida/Asylum
クレシダ/アサイラム
1971年リリース

オルガンやストリングスを中心に確かな技巧で
繰り広げられる英国らしい気品に満ちた名盤

 ヴァーティゴレーベル屈指の人気作であり、ジャケットアートはキーフの最高傑作のひとつと評価されるクレシダのセカンドアルバム。前作の英国然としたオルガンロックを継承しつつ、本作ではギターの存在感が増し、大胆にストリングスを導入しているなど、全体的に起伏に富んだメリハリのあるドラマティックなプログレッシヴロックとなっている。全員の確かな技巧とクラシカルなポップセンスからなる気品に満ちた質感は、英国ロックの奥深さと味わいを伝えた彼らの最高傑作でありオルガンロックの名盤でもある。

 クレシダは1968年にイングランド北西部にあるランカシャー州でザ・ドミネイターズというグループで活動していたギタリストのジョン・ヘイワースがロンドンに訪れていた時、リードシンガーのアンガス・カレン(またはアンガス・キュレン)との出会いから始まる。彼はロンドンのアールズコート近くのバークストンガーデンズにあるカレンの家に招待され、ヘイワースの家族と共同生活をするようになる。2人は共同生活の中で本格的なグループの活動を目指して曲作りを始めていた時に、ベースのケヴィン・マッカーシやドラムスのイアン・クラーク、オルガン奏者のロル・コッカーが加わり、チャージというグループ名でザ・ドアーズやドリフターズといったグループのカヴァー曲を中心に演奏をしていたという。オリジナル曲のレパートリーが増えてきたことにより、活動範囲を本国イギリスからドイツに広げ、少しずつグループの知名度が高まっていた矢先に、オルガン奏者のロル・コッカーが結婚と義父の事業を継ぐために脱退。彼の後任はオーディションの末、ピーター・ジェニングスが担当することになる。ピーターは元パラマウントピアニストのアンディ・スタインズと12弦ギターを演奏するブルースのギグをはじめ、ホワイト・ラビットというグループで演奏してきたオルガニストである。彼を加えて書き溜めた楽曲を収めたデモテープのレコーディングを行い、1969年にフィリップス・レコードが立ち上げたばかりの新レーベル、ヴァーティゴと契約を交わすことに成功する。彼らはこの時、ウイリアム・シェイクスピア作の悲劇で知られる「トロイラスとクレシダ」にちなんで、グループ名をクレシダと名づけている。

 クレシダはドイツのハンブルグで行われた、イースト・オブ・エデンやコロシアムのライヴの中で複数のアーティストが出演する“対バン”イベントでデビューを果たし、後にブラック・サバスやブライアン・オーガー、バークレイ・ジェームス・ハーヴェストといった有名グループのジョイントコンサートを通じてヨーロッパ中をサーキットして回ったという。多くの場数を踏んでロンドンに戻ってきた彼らは、ビージーズの初期のアルバムを担当したことで有名なオジー・バーンをプロデューサーに迎え、ウェセックススタジオでアルバムのレコーディングを行い、デビューアルバムとなる『クレシダ』が1970年2月に発表される。そのアルバムはヘイワースとカレンが作り出したポップで温かみのあるメロディと、ピーター・ジェニングスの叙情あふれるハモンドオルガンが織り成す古き良き英国然としたサウンドになっている。アルバムはイギリスを中心に好意的に受け入れられ、手応えを感じた彼らだったが、創始メンバーだったジョン・ヘイワースが家庭の事情で活動が出来なくなり5月に脱退を表明。彼らはヘイワースが脱退する直前にシングル曲も制作していたが頓挫してしまい、グループ存続の危機を迎えてしまう。彼らは後任ギタリストにジョン・カリーを新メンバーとして迎えて存続を図り、セカンドアルバムの制作に着手。彼らはこれまで小曲中心だったソングライティングからの脱却し、より実験的なアプローチのある複雑に構成された長尺の楽曲を書き上げたという。また、レコーディングにはオーケストラおよび音楽監督としてグレアム・ホールを迎え、大胆に管弦を加えたストリングスオーケストラを表現手段として活用している。また、ゲストにフルート奏者のハロルド・マクネア、アコースティックギタリストにポール・レイトンが参加し、セカンドアルバムである『アサイラム』が1971年にリリースされることになる。そのアルバムは前作の英国然としたオルガンロックを継承し、ギターやストリングスを交えた起伏のあるドラマティックなアンサンブルが功を成した英国オルガンロックの最高傑作に数えられる作品である。

★曲目★ 
01.Asylum(アサイラム)
02.Munich(ミュンヘン)
03.Goodbye Post Office Tower Goodbye(グッドバイ・ポスト・オフィス・タワー・グッドバイ)
04.Survivor(サヴァイヴァー)
05.Reprieved(リプリーヴド)
06.Lisa(リサ)
07.Summer Weekend Of A Lifetime(サマー・ウィークエンド・オブ・ア・ライフタイム)
08.Let Them Come When They Will(レット・ゼム・カム・ホエン・ゼイ・ウィル)

 アルバムの1曲目の『アサイラム』は、アンガス・カレンが作曲したアグレッシヴなハモンドオルガンが主導するヴォーカル曲。そこにギターやパーカッションが加味され、ピーター・ジェニングスのワイルドなオルガンの響きにタイトなリズム、ジャジーなギターがかみ合ったスリリングな展開が聴きどころの逸品である。2曲目の『ミュンヘン』は、ピーター・ジェニングス作曲の9分を越える楽曲。メロディをドラマティックに彩る艶やかなストリングスを加味させ、フィル・ミラー風のギターソロやそれに呼応するかのようなアグレッシヴかつ流麗に疾走するオルガンソロが素晴らしい。後に管楽器による静謐なクラシカルなパートを経て、バロック調のオルガンからジャズロック風の跳ねたリズムによるクラシカルなロックが展開し、情感的で甘いヴォーカルが英国風のストーリーテイリングのスタイルを作りだしている。最後まで英国の叙情美とリリカルなメロディがあふれたブリティッシュオルガンロック屈指の名曲である。3曲目の『グッドバイ・ポスト・オフィス・タワー・グッドバイ』は、当時イギリスで最も高い建造物とされた郵便局タワー(現テレコムタワー)を歌った楽曲。アコースティックギターとジャジーなピアノを中心に畳みかけるような展開のある楽曲。最後になぜか爆発の効果音があり、短いながらも邪悪なユーモアが隠されている。4曲目の『サヴァイヴァー』は、ワイルドなオルガンが暴れまわり、チェロを導入した管弦楽がクラシカルな雰囲気を与えた短い楽曲。5曲目の『リプリーヴド』はジャズ風の感覚とウイットに富んだポップセンスが合わさった楽曲。ピアノとベース、ドラムスの3ピースで進み、スキャット風のヴォーカルが印象的である。6曲目の『リサ』は、オーケストラとハモンドオルガンを中心に、ゲストのハロルド・マクネアのフルート演奏が光ったシンフォニックな楽曲。後半では美しいギターのアルペジオとヴァイオリンをバックにしたしっとりとしたヴォーカルがあり、英国的な感性が息づいた内容になっている。7曲目の『サマー・ウィークエンド・オブ・ア・ライフタイム』は、ソリッドなアコースティックギターと浮遊するオルガンによる鮮烈なバトルが展開された楽曲。フォーキーな感覚がある中で、パーカッションを筆頭にスリリングな疾走感がたまらない。8曲目の『レット・ゼム・カム・ホエン・ゼイ・ウィル』は、12分を越える大曲で脱退したジョン・ヘイワースが残した楽曲。アコースティックギターとヴォーカルで始まり、後にストリングスが響きを経て、エレクトリックギターとオルガンによるインタープレイが展開される。的確に刻むリズム隊や洒落たヴォーカル、ラテン風味のあるパーカッションがあるなど多彩な曲想があり、クレシダの魅力が存分に発揮された内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ピーター・ジェニングスのオルガンプレイとストリングスオーケストラによるシンフォニックな曲調に、新たに加入したカリーがグループのニーズに合わせて調整した軽やかなジャズの風味を加味したプログレッシヴロックと言っても良いだろう。アルバムは2曲の大曲と6曲の小曲に分かれた内容になっているが、どれも強烈な個性があり、伝統的な英国のクラシカルなロックをベースにしながらも、彼らが持つポップセンスと全く飽きさせないアレンジ力が名盤と謳われる所以であると思われる。

 本アルバムは10分を越す大曲とキーフが手がけたジャケットアートも相まって、プログレッシヴロックの一面を持った作品として高く評価されたという。しかし、ギグの不足やわずかな売り上げしかなく、経験の浅いマネジメントとの軋轢が原因でアルバムが完成した頃には、すでにグループは解散状態であったという。解散後、オルガン奏者のピーター・ジェニングスは音楽学校に通い、ジャバウォックやゴースト・オブ・レモラといったロックグループでの演奏。その後はスコットランドに移り住み、多くの映画プロジェクトで作曲や演奏を行ったという。ドラマーのイアン・クラークはユーライア・ヒープに加入し、名盤である『LOOK AT YOURSELF~対自核~』に参加。ベーシストのケヴィン・マッカーシはトランクウィリティというグループに加入後、1976年にアメリカのロサンゼルスに移り、そこで執筆とプロデュース業に携わり、小さなスタジオを運営しているという。ギタリストのジョン・カリーはブラック・ウィドウに加入し、1980年代にはオーディンというプログレッシヴロックグループを結成している。同じくギタリストのアンガス・カレンは音楽業界から去っており、現在はフランスのカルカソンヌ近郊に住んでいるという。クレシダは活動歴は2年という短い期間だったため、後にヴァーティゴ幻のオルガンロックグループとして名を刻むことになる。しかし、解散から約40年後の2010年に、ジョン・ヘイワースが亡くなった知らせを聞いたアンガス・カレン、イアン・クラーク、ケヴィン・マッカーシの3人は、ピーター・ジェニングスに声をかけて再集結。スコットランドのギタリスト、ロジャー・ニーヴェンを加えて、2011年12月2日にロンドンのカムデンタウンのアンダーワールドで、ヘイワースの追悼も含めた1夜限りのクレシダ再結成のライヴを行っている。そのライヴ時に合わせてレコード・コレクター・マガジンで限定アナログ盤としてリリースした『Trapped In Time -The Lost Tapes』のアルバムは、その後未発表のトラックを含めたCDとして復刻している。彼らは2013年にスウェーデンで開催されたプログフェスにも参加しており、その際にクレシダの大ファンであると公言しているスウェーデンのプログレッシヴメタルグループ、オーパスのヴォーカル兼ギタリストであるラース・ミカエル・オーカーフェルトが個人的に選んだアーカイブ素材の限定版LPがリリースされたという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国オルガンロックの最高傑作の1枚と評されるクレシダのセカンドアルバム『アサイラム』を紹介しました。以前にデビューアルバムを先に紹介しており、クレシダは今回で2枚目になります。複数の頭像が無造作に置かれた中で一体だけ火に包まれて倒れているという、キーフがデザインした個性的なジャケットアートが目を惹きつけますね。本アルバムは早い段階で入手して聴いたものですが、当初は数あるオルガンプログレの1グループとして認識していたものの、最近になって改めて聴いてその魅力を再発見したアルバムでもあります。英国然としたオルガンロックを披露したデビューアルバムは、ザ・ムーディー・ブルースやプロコル・ハルム、レア・バードに通じるようなポップセンスとジェントルな気品を感じさせたものです。しかし、本アルバムは小曲中心だったオルガン主体の楽曲からギターやストリングスを大々的に活用し、10分を越す大曲2曲を擁した実験的なアプローチのあるプログレッシヴロックとなっています。2枚ともコロコロと転がるクラシカルなオルガンワークがメインですが、古典的な要素と実験的な要素がうまく噛み合ったアレンジの妙が素晴らしく、今では双方とも英国オルガンロック屈指の名盤として個人的に好きな作品となっています。

 さて、本アルバムは創始メンバーだったジョン・ヘイワースが脱退して、新たにジョン・カリーを迎えて臨んだ作品です。ソングライターでもあったヘイワースがいなくなったことはグループにとって危機的な状況でしたが、ヴォーカル兼ギタリストのアンガス・カレンが請け負って、ややビートがかっていた前作のカラーをより洗練させた方向に導いています。鳴り響くハモンドオルガンと共に、ドラマティックに展開する楽曲構造が見事で、美しいストリングスも加わって盛り上がる部分は繊細にして壮麗です。さらに泣きのメロディや時にブルージーなフレーズもこなすギターもなかなか魅力的で、サウンドに厚みと奥深さを巧みに作り出しています。最後の11分を越える曲の『レット・ゼム・カム・ホエン・ゼイ・ウィル』は、脱退したジョン・ヘイワースが残した曲ですが、もしかしたら当初からセカンドアルバムは長尺の楽曲で構成された作品にしようと決めていたのかもしれません。それだけ彼らの演奏力に対する自信とプログレッシヴロックに対する意気込みがあったのだろうと思います。

 本アルバムはドラマティックに楽曲を彩るストリングスやブラスセクションも素晴らしいオルガンロックの傑作とされています。英国ロックの奥深さと味わいを伝えた本アルバムは、今聴いても全く色褪せない気品に満ちあふれていますよ。

それではまたっ!