【今日の1枚】Streetmark/Nordland(ストリートマーク/ノードランド) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Streetmark/Nordland
ストリートマーク/ノードランド
1976年リリース

バロック風オルガンを中心にアングラかつ
リリシズムに満ちたシンフォニックロック

 ライヴステージを中心に7年に及ぶ下積みを経てリリースされたドイツのプログレッシヴロックグループ、ストリートマークのデビューアルバム。そのアルバムはバロック風のオルガンとシンセサイザー、テクニカルなギター、そしてアクの強いヴォーカルを融合した独特なメロディとポップセンスが冴えたシンフォニックロックとなっており、2つの組曲を中心に構築されたアングラかつリリシズムに満ちた魅力的な逸品となっている。1978年にメンバーが殺害される悲劇が起こったが、メンバーチェンジを経ながらも1980年代まで4枚のアルバムを残しており、その高いポップセンスに現在再評価されている。

 ストリートマークは1968年にドイツ西部の都市デュッセルドルフで、女性キーボード奏者のドロテア・ラウクスとギタリストのトーマス・シュライパーを中心に結成されたグループである。ドロテアは学生時代に音楽学校でクラシックピアノや作曲を学んでいたが、ザ・ビートルズやプロコル・ハルム、ザ・ナイスといったロックグループの楽曲に憧れ、オルガンやキーボードを演奏するようになったという。その時、彼女は地元でギタリストとして活躍していたトーマス・シュライバーとベルント・シュライバーの兄弟に出会っている。中でもロックグループとして活動したいと願っていたトーマスと意気投合し、2人でストリートマークというグループを結成することになる。結成当初はドロテアとトーマス以外、地元のメンバーを加えながらザ・ビートルズをはじめ、ジョン・メイオールやディープ・パープルのカヴァーを主に演奏していたという。カレッジやパブ、クラブなどで演奏するようになった彼らは、1969年にはレコード契約の話が持ち掛けられたが、契約内容に難色を示して拒否。その後、約5年以上地元のデュッセルドルフでライヴを中心に活動するようになっている。彼らはその間に勃興していたプログレッシヴロックに興味を示し、英国のエマーソン・レイク&パーマーやオランダのフォーカス、エクセプションの影響を受けながら独自のスタイルを構築していったという。1975年にはメンバーが固まり、ハンス・シュヴァイス(ドラムス)、ゲオルク・ブッシュマン(ヴォーカル)、ヴォルフガング・ヴェストファル(ベース)を加えた5人編成になった頃、同年に元ブレインレーベルのギュンター・ケルバーによって新たに設立されたスカイ・レコーズと契約している。スカイ・レコーズはプログレッシヴロックやエレクトロニック、アンビエントに力を入れたレーベルであり、ラムセスやクラスター、コンラッド・シュニッツラー、ハラルド・グロスコップフといった多くの著名なアーティストの作品を輩出している。彼らはドイツのケルンにあるコニーズ・スタジオに入り、そのスタジオのオーナーであり、アシュ・ラ・テンペルやホルガー・シューカイ、Neu!、クラスターなど、多くのクラウトロックの作品に携わったコニー・プランクがプロデュース兼レコーディングエンジニアを担当。そしてトーマスの弟であるベルント・シュライバーがミキシングとサウンドボードを担当し、結成から8年経った1976年にデビューアルバムである『ノードランド』がリリースされることになる。そのアルバムはキーボード奏者のドロテア・ラウクスのクラシカルなオルガンやシンセサイザーとトーマス・シュライバーのテクニカルなギターワークを中心に、ザ・ビートルズのカヴァー曲やJ.S.バッハの曲を加え、ハードでユニークな音楽性を披露した独特なシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.House Of Three Windows(3つの窓のある家)
 a.House For Hire(貸家)
 b.Green Velvet Curtains’(グリーン・ベルベット・カーテン)
 c.Eleanor Rigby(エリナー・リグビー)
02.Amleth Saga(アムレス・サーガ)
03.Italian Concert In Rock(イタリアのロックコンサート)
04.Da Capo(ダ・カーポ)
05.Nordland(ノードランド)
 a.Waves And Visions(波とビジョン)
 b.Lyster Fjord(リスター・フィヨルド)
 c.Ladoga(ラドガ)
 d.Reality Airport(リアリティ空港)

 アルバムの1曲目の『3つの窓のある家』は、3つの楽章からなる組曲形式となっており、夢心地のようなオルガンの響きからテンポアップして、ギターを含めた軽快でクラシカルなオルガンロックとなる楽曲。ゲオルク・ブッシュマンのヴォーカルスタイルはフォーカスのタイス・ヴァン・レールに近く、インストの部分は明らかにプロコル・ハルムを意識している。3つ目の『エリナー・リグビー』は、ザ・ビートルズのアルバム『リボルバー』にも収録されている1966年のシングル曲のアレンジである。テンポの良いリズム上で表現力豊かなドロテアのオルガンとヘヴィなトーマスのギターが引っ張ったハードな内容になっている。2曲目の『アムレス・サーガ』は、トーマスのギターとアクの強いゲオルグのヴォーカルをメインとしたハードロック調の楽曲。途中からハープシコードとロングトーンのギターによるメロディアスな曲調となり、さらに柔らかなシンセサイザーをバックにしたクラシカルな展開になっていく。3曲目の『イタリアのロックコンサート』は、J.S.バッハの『イタリア協奏曲第一楽章』のアレンジ曲。クラシックを学んできたドロテアの軽快なオルガンに絡むようなトーマスのギターが特徴である。4曲目の『ダ・カーポ』は、ブルージーなトーマスのギターとリズミカルなオルガンをバックにしたテンポの速い楽曲。アクの強いゲオルグのヴォーカルはこれぐらいのリズムとテンポ上で発したほうが良いという好例でもある。5曲目の『ノードランド』は4つの楽章からなっており、ノルウェーのフィヨルドで有名なノードランド(またはヌールラン)をテーマにした組曲となっている。『波とビジョン』は海の波と風の音をバックにギターのストローク、そして電子音を交えたシンセサイザーによる抒情的なイントロから始まり、『リスター・フィヨルド』はロマンチックなギターとオルガンをメインとした美しい展開となる。途中でジャズっぽい曲調に変化したり、美しいハモンドオルガンのパートがあったり、リズミカルなオルガンロックになったりと、プログレッシヴな曲想が随所に聴き取れる。ゲオルグのヴォーカルもパワフルだが、やや抑え気味なのが利点なところだろう。『ラドガ』は、一転してハモンドオルガンとシンセサイザーを中心としたミドルテンポとなり、ゲオルグの情感的なヴォーカルがポイントである。『リアリティ空港』はエレクトリックピアノを利用したジャズロック的なアプローチのある楽曲となり、後にトレースのリック・ヴァン・ダー・リンデンばりのアグレッシヴでリズミカルなオルガンロックとなる。後半はタイトなリズム上で奏でるオルガンハードといった展開となり、フィヨルドの激しい波打ち音でフェードアウトしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、最初から最後までドロテアのクラシカルでエレガントなオルガンやシンセサイザーが引っ張る内容になっており、タイトなリズム隊やテクニカルなギターを絡めた一級品のキーボードロックとなっている。メロディアスで高いセンスを誇る彼女のキーボードプレイは魅力的だが、アクが強くダミ声に近いゲオルグのヴォーカルの結びつきはクラウトロックならではのユニークさと捉えるべきだろう。

 本アルバムは長い間、ライヴで培った演奏力を元に練り上げた楽曲で構成されており、音楽評論家からも高く評価されたという。彼らはすぐに2枚目のアルバムのレコーディングに入ろうとしたが、ヴォーカルを務めたゲオルク・ブッシュマンとベーシストのヴォルフガング・ヴェストファルが脱退。ブッシュマンは自身のグループであるストレートシューターというハードロックグループを結成することになる。新たなヴォーカリストにはソロアーティストとして活躍していたヴォーカル兼キーボード奏者のヴォルフガング・ライヒマン、そして新たなベーシストにはマンフレッド・クナウフが加わり、1977年にセカンドアルバム『アイリーン』がリリースされる。その後、ライヒマン名義でソロアーティストの活動も続けていたヴォルフガング・ライヒマンは、ソロアルバム『Wunderbar』をレコーディングしている。しかし、アルバムリリース前の1978年8月20日にライヒマンがデュッセルドルフの旧市街を歩いていた時、理由もなく2人の酔っ払いに刺され、さらに不適切な医療行為による内出血によって4日後に死亡する悲劇が起こっている。このライヒマンの死に衝撃を受けたスカイ・レコーズとストリートマークのメンバーは深く哀しみ、1979年に1曲のボーナストラックを加えたヴォルフガング・ライヒマン&ストリートマーク名義で『アイリーン』を再リリースしている。その後、そのアルバムは『ドリームス』というタイトルに変更されている。ライヒマンが亡くなった後、ドロテアとトーマスはベーシストのユルゲン・プルタを加えたトリオ編成になり、インスト曲が多くなった3枚目のアルバム『ドライ』を1979年にリリース。このアルバムからシングルカットされた『ラヴァーズ(恋人たち)』は、ドイツで大ヒットする快挙を成している。1981年には4枚目のアルバム『スカイレーサー』をリリースするが、ドロテアとトーマスはそれぞれの道を歩むことになり、同年にグループは解散することになる。ドロテア・ラウクスは解散後の1981年にDeutsche Wertarbeit(ドイツの職人技)というプロジェクトを立ち上げ、煌びやかなシンセサイザーやリズムマシーンを駆使し、ヴォーカルを兼ねたアルバムをリリースしており、その後は地元でオルガニスト兼ヴォーカリストとして活動。一方のトーマス・シュライバーは裏方に回り、スタジオのセッションギタリストとして活躍していくことになる。本アルバムは廃盤となったが、25年後の1993年にスカイレコーズより初CD化を果たし、プログレ愛好家からドイツのシンフォニックロックの隠れた傑作として注目されることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はドイツの隠れたシンフォニックロックの傑作と言われているストリートマークのデビューアルバム『ノードランド』を紹介しました。このアルバムは過去に比較的に安かった多くの輸入盤を中古ショップで漁っていた時期に手に入れたものですが、オランダのリック・ヴァン・ダー・リンデン率いるトレースのアルバムにも収録されていたJ.S.バッハの『イタリア協奏曲第一楽章』のアレンジ曲が印象深かった記憶があります。改めて聴き直したのですが、電子音楽やアンビエント系のクラウトロックが多いスカイ・レコーズからリリースしたアルバムにしては珍しい、クラシカルなシンフォニックロックといった感じです。彼らがあまり知られていない理由は、他のグループで行うアルバムのフォローアップツアーをやっておらず、地元のデュッセルドルフ以外で注目されていなかったことが大きかったのではないかと思っています。

 さて、本アルバムは2つの組曲をはじめ、ザ・ビートルズのアレンジ曲やJ.S.バッハの『イタリア協奏曲第一楽章』のアレンジ曲が収録されている点から、結成から5年あまり培ってきたグループの演奏力とアレンジ力の集大成といった作品になっています。女性キーボード奏者であるドロテア・ラウクスのクラシカルで表現力豊かなオルガンやハープシコード、シンセサイザーに、軽いジャジーのあるテクニカルなギター、そしてアクの強い英語のヴォーカルが渾然一体となった内容と言っても良いと思います。ドロテアが影響を受けたというオランダのフォーカスや英国のプロコル・ハルムの要素が多分にあって、ゲオルク・ブッシュマンのヴォーカルスタイルは何となくゲイリー・ブルッカーに似ている感じがします。ただ、美しいメロディによるインストパートが素晴らしいが故に、このヴォーカルスタイルを持ち込んだことは本アルバムにとって果たして良かったのかな~?と少し思ってしまいます。その辺りがクラウトロック独特のアングラ感というかマイナー感が漂っているようで、個人的には愛らしいジャーマンシンフォニックロックの1枚となっています。

 本アルバムは1976年リリースにしては古い感じを受けると思いますが、女性らしいエレガントさを持ったドロテア・ラウクスのキーボードプレイのセンスが光った魅力的な作品です。メロディアスでエレクトロニックなサウンドスケープが加味されたセカンドアルバムの『アイリーン』と共にオススメしたいです。

それではまたっ!