【今日の1枚】Rainbow Theatre/Fantasy Of Horses | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Rainbow Theatre/Fantasy Of Horses
レインボー・シアター/ファンタジー・オブ・ホーシズ
1976年リリース

多彩な弦楽器や金管楽器を擁した
重厚なシンフォニックオペラ

 マルチプレイヤーであるジュリアン・ブラウニングが中心となって結成されたオーストラリアのプログレッシヴロックグループ、レインボー・シアターのセカンドアルバム。前作のキング・クリムゾンを思わせるメロトロンやギター、金管楽器のみならず、今回はさらにオーボエやクラリネット、ヴァイオリン、チェロが加えられ、ジャズやクラシックをベースにした映画音楽さながらの重厚なシンフォニックロックとなっている。完成度の高い楽曲の構成面やアレンジ面だけではなく、演奏テクニックも当時のオーストラリアのロックシーンの中でもずば抜けており、デビューアルバムの『無敵艦隊』と並ぶ傑作となっている。

 レインボー・シアターは、オーストラリアのメルボルンで、作曲家、アレンジャー、ギタリスト、メロトロン奏者であるジュリアン・ブラウニングが中心となって結成されたグループである。ブラウニングは文化的な素養のある家庭で育ち、独学でギターを覚え、学校ではクラシックピアノと音楽理論を学んでいる。ロックギターはクリームのエリック・クラプトン、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、またはジミ・ヘンドリックスなどから影響を受け、その後、オーストラリアの映画やテレビ、ドキュメンタリーなどの作曲を手掛ける高名なブルース・スミートンと出会い、ジャズプレイヤーのアラン・コゴゴフスキーのアルバムにも参加している。いくつかのブルース系のグループを渡り歩いた後、ファーグ・マッキノン(ベース)、グレアム・カーター(ドラムス)の2人に声をかけ、1973年にレインボー・シアターを結成する。最初はトリオ編成で演奏していたが、後にスティーヴ・ナッシュ(サックス、クラリネット、フルート)、元ロンドン・エクスプレスというグループにいたマーティ・ローズ(ヴォーカル)が加入し、5人編成で地元のメルボルンでギグを行っている。ブラウニングはグループ結成時に英国のキング・クリムゾンのデビューアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』を聴いてかなり衝撃を受けたらしく、さらにマーラーやストラヴィンスキーのようなクラシック音楽とロバート・フリップやジョン・マクラフリンのような冒険的なギターを好むようになったという。彼は自分が思い描いたユニークな音楽を創造しようと決め、ホーンセクションを強化するためにフランク・グラハム(トランペット)、ドン・サンティン(トロンボーン)を加入させ、そして音に深みを持たせるためにマシュー・コウゼンズ(キーボード)を加入させている。また、これまでヴォーカリストだったマーティ・ローズからテナー歌手のキース・ホーバン(リードヴォーカル)に交代し、新たなラインナップでメルボルンのクラブでライヴステージを行っている。そのステージはオーストラリアで所有しているグループが少なかったハモンドオルガンやメロトロンを大々的に使用し、銅鑼を含む巨大なドラムセット、勇壮なホーンセクションに観客は度肝を抜いたという。

 ファーストアルバムにも収録されたいくつかの曲をステージを行うごとに話題となり、レインボー・シアターの名は次第に広まっていったと言われている。1975年になるとリハーサルやギグを行いつつ曲を完成させ、ブラウニングはポリドールを含むいくつかのレコード会社にデモテープを持参したが契約には至らず、レコード会社無しでアラン・イートン・スタジオで録音を行っている。その後、クリアー・ライト・オヴ・ジュピターというレーベルと契約を交わし、デビューアルバム『無敵艦隊』をリリースすることになる。本アルバムは1588年7月にエリザベス一世の治世にあった英国を征服すべく、スペインのフェリペ二世が100隻を誇る無敵艦隊を派遣したアルマダの海戦をテーマにしている。スペインで最高の祝福を受けた大いなる艦隊が、折からの嵐や戦術の失敗などから大敗をし、ガレオン船サン・サルバドル号など多数の船が撃沈していく勇壮と悲哀を描いた一大交響詩となっている。アルバムリリース後もグループはメルボルン周辺でギグを続けたが、一般的なパブではなく大学やコンサートサーキットが中心だったという。そのため、多くのメンバーを維持する観客の人数は見込めず、1976年前半ではメンバーの出入りが激しかったと言われている。キーボーディストのマシュー・コウゼンズやサックス、クラリネット、フルート奏者のスティーヴ・ナッシュ、トロンボーン奏者のドン・サンティンが脱退し、ヴォーカルのキース・ホーバンがオルガンの担当になっている。改めてマーティン・ウェスト(サックス、クラリネット)、イアン・レルフ(トロンボーン)、トリシア・シェヴェナン(フルート)、クリス・ストック(オーボエ)をメンバーとして加入させ、アームストロング・スタジオでギル・マシューズをエンジニアに迎えて次なるアルバムの録音を開始。そこにはカリン・マックゲチー、スティーヴン・デュラント、ニア・マレーの3人のヴァイオリニスト、ローワン・トーマス(ヴィオラ)、サラ・グレニー(チェロ)のストリングセクションがゲストとして参加している。前作よりも多くのメンバーによるレコーディングが行われ、1976年末にセカンドアルバム『ファンタジー・オブ・ホーシズ』がリリースされる。そのアルバムは前作とは違ってキング・クリムゾンの影響は抑えられており、よりクラシカルなシンフォニックロックとして非常にクオリティーの高い作品となっている。

★曲目★
01.Rebecca(レベッカ)
02.Dancer(ダンサー)
 a.Staircase(ステアケース)
 b.The Big Time(ザ・ビッグ・タイム)
 c.Spin(スピン)
 d.Theatre(シアター)
 e.Farewell(フェアウェル)
03.Caption For The City Night Life(キャプテン・フォー・ザ・シティ・ナイト・ライフ)
04.Fantasy Of Horses(ファンタジー・オブ・ホーシズ)
 a.Early Light(アーリー・ライト)
 b.Frolic(フロリック)
 c.Trappers(トラッパーズ)
 d.Captives(キャプティヴス)
 e.Frolic(フロリック)
 f.Escape(エスケイプ)
 g.Cliff Edge(クリフ・エッジ)
★ボーナストラック★
05.Eagle Odyssey~From Symphony No.3~(イーヴル・オデッセイ~交響曲第3番より~)

 アルバムの1曲目の『レベッカ』は、哀愁のメロトロンから始まり、軽快なリズムセクションをバックにした勇壮なホーンが鳴り響き、一気にジャジーな展開となる楽曲。リードも兼ねたメロトロンとテクニカルなアコースティックギターが凝縮されており、ブラウニングの素晴らしいキーボードとギターワークが堪能できる。2曲目の『ダンサー』は、5つの楽章からなる組曲となっており、クラシカルなオルガンとフルートを含んだ管楽器による繊細なアンサンブルとオペラ調のテノールがから始まり、途中から曲調がアップテンポとなり、手数の多いドラミングと多彩な管楽器が入り乱れるインタープレイへとなだれ込む。6分辺りからエコーをかけたハープシコードを皮切りにクラシカルなピアノをバックにした賛美歌風のヴォーカルとなり、後にフルートとストリングスが加わって哀愁の空間を演出している。今度はミディアムテンポの管楽器とメロトロンによる複数のセクションを織り交ぜながら聴く者の心を揺さぶる。3曲目の『キャプテン・フォー・ザ・シティ・ナイト・ライフ』は、手数の多いリズムセクションと管楽器による疾走チューン。畳みかけるようなリズムにテクニカルな管楽器、そしてユニークなギタープレイが圧巻であり、中盤ではドラムソロが展開されているなど聴きどころが多い。4曲目の『ファンタジー・オブ・ホーシズ』は、16分に及ぶ7つの楽章で構成された一大組曲。美しいピアノをバックにした伸びやかなヴォーカルに導かれ、管楽器とリズムセクションが加わったインストパートへと移行する。ヴァイオリンといった弦楽器も加わり、フルートやオーボエが良い感じでアクセントになっている。4分半から壮大なメロトロンと管楽器をバックにしたオペラ調のヴォーカルとなり、勇壮と哀愁を帯びたシンフォニックロックとなる。再びピアノソロをバックにした感情的なヴォーカルとなり、後に管楽器とメロトロンによる悲壮感を演出している。11分過ぎにはテノールによる合唱から勇壮さを取り戻したかのような明るいアンサンブルとなり、心が浮き立つような管弦楽器の響きが爽快である。最後はあふれんばかりのメロトロンが鳴り響き、テノール風の優しく力強いヴォーカルによって静かにフェードアウトしている。ボーナストラックの『イーヴル・オデッセイ~交響曲第3番より~』は、後に現代クラシックの音楽家として貢献するジュリアン・ブラウニングが作曲した交響曲第3番からの抜粋である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、技巧的なギターやリズムセクションといった楽器に、金管楽器やメロトロン、木管楽器が美しさを提供する絶え間ないドラマティックな演出が施された素晴らしいアルバムである。ジャズロックのアタックや初期のキング・クリムゾンのメロディックなアプローチ、そして映画音楽さながらのシンフォニックな感性が組み合わさっており、ジャズの雰囲気にクラシックとシンフォニックの音楽技法を最大限に利用したブラウニングの構成力とアレンジ力が冴えた傑作と言えよう。

 セカンドアルバムは高く評価されたもののプレスした枚数は少なく、一部の限られたファン以外は特に知られぬままグループのメンバーはより流動的となり、最終的に数か月後の1977年の前半に解散している。解散の主な理由としては時代の音楽的関心の変化と、これほど大規模なミュージシャンのグループによるツアーに伴う莫大なコストが足かせとなっていたことが大きい。メンバーのほとんどはクラシック界やジャズ界に流れていったが、中心人物だったジュリアン・ブラウニングは作曲家兼アレンジャーとなっている。彼は地元であるメルボルンでオーケストラの一員となり、作曲家兼クラシックのピアニストとして活躍したという。レインボー・シアターの2枚のアルバムはすぐに廃盤となったが、約30年後の2006年にオーストラリアの伝説的なグループであるビリー・ソープ&ジ・アズテクスのドラマーだったギル・マシューズと、メルボルンを拠点とするギタリスト兼シンガーのテッド・レスボーグが設立したAztec Recordsから、正規のCD化を果たしている。その13分に及ぶボーナストラックの『イーヴル・オデッセイ~交響曲第3番より~』は、ブラウニングが作曲&アレンジした楽曲であり、メルボルン・シンフォニー・オーケストラによる素晴らしい交響曲となっている。


 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はオリジナリティあふれるシンフォニックロックを実現したオーストラリアのプログレッシヴロックグループ、レインボー・シアターのセカンドアルバム『ファンタジー・オブ・ホーシズ』を紹介しました。先にファーストアルバムの『無敵艦隊』を紹介しましたが、その勇壮なホーンセクションとテクニカルなギター、そしてメロトロンなど、まるでキング・クリムゾンの影響が感じられた作風でしたが、本作は金管楽器やメロトロンだけではなく、ヴァイオリンやオーボエ、クラリネットといった楽器が加味されて、より重厚なシンフォニックロックに仕上げています。彼らのサウンドは「クラシックに影響を受けたジャズ・ロック」と評されることが多いのですが、クラシック分野からはストラヴィンスキー、ムソルグスキー、ワーグナーの影響があり、ジャズ&ロックからはキング・クリムゾンやマハヴィシュヌ・オーケストラなどの影響があると聞きます。そのため、クラシカルなサウンドばかりではなく、手数の多いリズムセクションによるジャジーなインタープレイや讃美歌に近いオペラ調のテノールの歌声があり、元々、クラシック愛好家だったジュリアン・ブラウニングの目指すサウンドが、より明確な形で表現された感じがします。ファンタジックな音楽は、メロトロンやオルガンの多用によって弱められがちですが、フュージョンの傾向を持った素晴らしいリズムセクションによって最大限に活かされています。14人のミュージシャンが参加しているアルバムですが、クラシックやジャズをベースに他の楽器とのバランスが良く、ブラウニングの練り込まれたアレンジ力には驚かされます。

 さて、本アルバムはジャケットとタイトル通り、「馬」をテーマにした作品です。ブラウニングは南ウェールズの高原で放し飼いにされている「野生のブランビー」の窮状についての本を読んでいたそうです。ブランビーとはオーストラリア内で群れで自由に歩き回る野生馬のことです。しかし、過剰繁殖によって自然破壊や在来の動植物に損害を与える動物として、今でも捕獲や射殺がされているそうです。人間の利益のためにこれらの動物が直面する危険と、まるで相反するようなオーストラリアの自然の美しさは、彼にとってこれ以上の無い新しいアルバムのインスピレーションになったのだろうと思います。ブラウニングはセカンドアルバムを作る時に「最初のアルバムで何か違うことをやったから、今度はユニークなアプローチを考え出し、この作品を作るための新しい領域を見つけたいと願っていた」と回想しています。「野生のブランビー」がテーマのきっかけになりましたが、そこに美しい大自然を加えたことでより幻想性を高めたということです。

 オーストラリアのプログレッシヴロックグループと言えばセバスチャン・ハーディーを思い浮かべますが、これだけテクニカルで自由な発想のあるシンフォニックロックを披露したレインボー・シアターのアルバムは通好みと言えます。デビューアルバムの『無敵艦隊』共々にクラシックやジャズ、ロック、オペラを巧みにアレンジした重厚な叙事詩をぜひ堪能してほしいです。

それではまたっ!