【今日の1枚】I Pooh/Alessandra(イ・プー/ミラノの映像) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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I Pooh/Alessandra
イ・プー/ミラノの映像
1972年リリース

甘美なバラードの中に一抹の
切なさを秘めた珠玉の名盤

 プログレッシヴロックの枠を飛び越えて、イタリアンロック&ポップを代表するグループとなるイ・プーの5作目であり、CBS移籍2作目にあたる作品。本アルバムは前作で極上のラヴポップを披露した『オペラ・プリマ』を踏襲しており、イタリア然とした切ないヴォーカルによる甘美なバラードや華麗なるオーケストラを全編にわたって活用した珠玉の名盤となっている。イ・プーは本アルバムでイタリアにおける地位を不動のものとするが、ヴォーカリストのリッカルド・フォッリは本作品を最後にグループから離れることになる。

 イ・プーはイタリア北部の都市ボローニャで、1966年に結成されたグループである。メンバーはヴァレリオ・ネグレーニ(ドラムス)、マウロ・ベルトーリ(ギター)、マリオ・ゴレッティ(ギター)、ジルベルト・ファッジョーリ(ベース)、そしてイギリス人のロバート・ギロット(キーボード)の5人で、当初ビートグループだったジャガーズから「くまのプーさん」から名前を取ったイ・プーとグループ名に変えている。彼らはミラノにあるマイナーレーベルのヴェデッテから、英国のナンバー1のヒット曲『キープ・オン・ランニング』のイタリア語ヴァージョンであるシングル『Vient Fuori』でデビューしている。後にロバート・ギロットがイギリスに帰国したため、代わりにピエールフリッポ・エ・レ・コバンのメンバーとしてボローニャに来ていたロビー・ファッキネンティが加入する。このメンバーで1964年に全米でナンバー1となったフォー・シーズンズの『悲しきラヴドール』のイタリア語ヴァージョン『Quello Che Non Sai』をリリースするが、後にジルベルト・ファッジョーリが脱退。代わりにスレンダーズに在籍していたリッカルド・フォッリがメンバーとなる。テロ事件を扱った曲『Brennero 66』を発表した後に、RCAが中心となって1966年9月にローマで行われたアンチ・サンレモ音楽祭の「バラのフェスティバル」に参加して、イタリア国内でイ・プーの名が知られるようになる。やがてこれまでのカヴァーシングルを集めたファーストアルバム『Per Quelli Come Noi』がリリースされるが、1967年の初頭にマウロ・ベルトーリが脱退。4人となったメンバーはこれまでカヴァー中心だった楽曲からオリジナル曲を作るようになり、1967年から1968年にかけてシングルを立て続けにリリースする。その中の1968年に発表した『In silenzio/Piccola Katy』がグループ初のヒットとなり、シングルチャートで10位にランクインされる。この曲はヴァレリオの歌詞、ロビーの曲、リッカルドのヴォーカル、そしてオーケストレイションが組み込まれており、後のイ・プーのオリジナリティが見えはじめた楽曲となっている。1969年にはそのヒット曲を加えたセカンドアルバム『Contrasto』を発表。この頃に初期メンバーで作曲を手がけていたマリオ・ゴレッティが脱退し、代わりに当時17歳だったドディ・バッターリアが加入している。彼らは新曲『Mary Ann』を引っさげて、その年の夏に開催されたカンタジーロ・フェスティヴァルの参加を皮切りに、イタリア中を回るライヴツアーを行っている。やがて『Mary Ann』を除くヴァレリオとロビー作によるサードアルバム『Memorie』を発表し、確実にファンを増やしていったという。

 一方、ローマでイ・プーのシングル『In silenzio/Piccola Katy』を聴いた名プロデューサーであるジャンカルロ・ルカリエッロは、ロビー・ファッキネンティの曲作りの才能に注目していたという。ジャンカルロはローマでRCAの仕事をしており、その後ミラノにあるCGDに移っている。彼はマイナー・レーベルだったヴェデッテからイ・プーを迎えて、同系列のCBSシュガーからイ・プーを売り出そうと考えていたという。こうしてイ・プーは、ジャンカルロ・ルカリエッロをプロデューサーとして迎えて曲作りを始めることになる。ルカリエッロはヴァレリオの歌詞とロビーの曲を活かすべく、ジャンフランコ・モナルディにアレンジとオーケストラの指揮を任せ、ヴォーカルのリッカルドをアイドルに仕立てたという。このようにして1971年の夏にフェスティバル・パールの参加曲としてシングル『君をこの胸に』を発表。この曲はイタリアのシングルチャートで1971年9月から9週連続1位となり、続くシングル『ペンシエロ』も12月に1位を記録する大ヒットとなる。このヒットした2曲を加えたCBS移籍後初のアルバム『プリマ・オペラ』が制作される。このアルバムは新しいイ・プーの船出にふさわしい処女作というイメージのタイトルが付けられ、壮大なオーケストラによるシンフォニックなサウンドをバックにした華麗なるラヴオペラとなっている。アルバムは1971年11月7日にチャートで13位にランクされ、セールス的に大成功を収める。この大ヒットでヴァレリオ・ネグレーニは自身の歌詞の才能に気づき、ドラムスをステファノ・ドラーツィオに任せて演奏面から退き、ヴァレリオは歌詞専任でグループを支えることになる。こうして自信を持った彼らは、再度ジャンカルロ・ルカリエッロをプロデューサーを迎えて5枚目のアルバムのレコーディングを行い、1972年に『Alessandra(ミラノの映像)がリリースされる。そのアルバムは前作同様にオーケストラを全編に配した内容となっており、若者たちの恋愛や苦悩、願望といった生々しいヴァレリオ・ネグレーニの歌詞をリッカルド・フォッリが切なく歌う極上のラヴポップとなっている。
 
★曲目★ 
01.La Nostra Eta' Difficile(ロマンの世代)
02.Noi Due Nel Mondo E Nell'Anima(愛のルネッサンス)
03.Mio Padre, Una Sera(青春の哀しみ)
04.Nascero' Con Te(初めての恋人)
05.Io In Una Storia(大人の遊び)
06.Col Tempo, Con L'eta' E Nel Vento(風のコンチェルト)
07.Signora(季節の終り)
08.Cosa Si Puo' Dire Di Te ?(青春に目覚めた頃)
09.Via Lei, Via Io(夜を終わらせないで)
10.Donna Al Buio, Bambina Al Sole(愛の後に美しく燃える君)
11.Quando Un Lei Va Via(思い出の部屋)
12.Alessandra(ミラノの映像~愛のイマージュ~)

 アルバムの1曲目の『ロマンの世代』は、美しいストリングスとオーケストラをバックに切々と歌うヴォーカルが素晴らしい楽曲。ヴァイオリンの爪弾きがアクセントとなっていて、時に管楽器が盛り上げており、困難な時代を生き抜こうと呼びかける力強いメッセージとなっている。2曲目の『愛のルネッサンス』は、しっとりしたピアノとアコースティックギター、そして柔らかなストリングスによるバラード曲。お互いに惹きあう2人きりの愛の世界を描いたラヴソングとなっている。3曲目の『青春の哀しみ』は、アコースティックの爪弾きとモーグシンセサイザーによるフォーキーな楽曲となっているが、ここで初めてエレクトリックギターが登場している。ある晩の父親を描いた歌詞となっており、若いがゆえに許されない男女の愛を歌っている。4曲目の『初めての恋人』は、フルートをフィーチャーした優しくそして甘酸っぱい男女の出会いを描いた楽曲。後半には荘厳なオーケストラをバックにまるで恋人を得た喜びを描いているようである。5曲目の『大人の遊び』は、ヴォーカルハーモニーが素晴らしいバラード曲。アコースティカルな中でエレクトリックギターが縫うように奏でているのが印象的である。6曲目の『風のコンチェルト』は、静謐なピアノとストリングスによる美しいコンチェルト形式の楽曲となっており、大人になりゆく若者たちの決意を表現しているようである。7曲目の『季節の終り』は、ピアノやフルートといった室内楽の形式とストリングスやアコースティックギターを絡めた牧歌的な楽曲。ヴォーカルと曲調が少し切ない雰囲気を漂わせている。8曲目の『青春に目覚めた時』は、ロビー・ファッキネンティがリードヴォーカルを務めた楽曲。プラトニックな愛を歌った感傷的で哀愁に満ちた内容になっており、シングルとしてもリリースされている。9曲目の『夜を終わらせないで』は、流麗なピアノとアコースティックギターによる楽曲となっており、時折奏でられるエレクトリックギターが印象的である。力強いヴォーカルは悲しさを表しており、様々な影響によって2人が別れることになった歌詞になっている。10曲目の『愛の後に美しく燃える君』は、原題は『暗闇の中の女、太陽の中の少女』となっており、情熱的で感情的な最後の夜を共にする男女の愛を力強く歌っている。11曲目の『思い出の部屋』は、主にリッカルド・フォッリが歌っており、彼女から昔の恋心を告白した後に別れた男性の失望を歌詞にしている。コンサートでも定期的に演奏される有名な曲でもある。12曲目の『ミラノの映像~愛のイマージュ~』は、しっとりとしたピアノとアコースティックギターの爪弾きによる楽曲となっており、ストリングスやコーラスを交えつつ曲調がくるくる変わるシンフォニックな一面を持っている。まるで長い夜から明けた朝のような気持ちにさせられる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、アルバム全体が美しい旋律と感情的な歌詞に彩られており、聴き手の心の奥底に触れるようなメロディに満ちた内容になっている。また、ストリングスやオーケストラ、ピアノ、アコースティックギター、フルートといった楽器の組み合わせが素晴らしく、曲ごとに心に残るメロディや感傷的なヴォーカルを引き立たせており、イタリアにおけるプログレッシヴポップの輝かしい1枚として何十年にもわたって愛され続けることになる。

 本アルバムは前作の『プリマ・オペラ』をはるかに上回る売り上げを記録し、初のゴールドディスクを獲得する。本作品でイ・プーはイタリアン・ポップス史上最高のグループと讃えられるようになるが、ヴォーカリストのリッカルド・フォッリがソロに転向するために脱退してしまう。代わりにヴォーカル兼ベーシストとしてレッド・カンツィアンが加入し、1973年からオーケストラを帯同した国内ツアーを行い、1973年には初のアメリカツアー、1975年には東ヨーロッパへのツアーを慣行し、世界的にイ・プーの人気を押し上げている。ツアーの合間にアルバム制作も滞りなく進め、1975年には『ロマン組曲』や『ミラノの騎士』といった傑作アルバムを毎年のようにリリースしている。1983年には世界歌謡祭で初来日し、1990年にはサンレモ音楽祭に『Uomini soli』で初参加し優勝。1994年にはバチカン市国で行われたクリスマス・コンサートで『E non serve che sia Natale』をローマ法王の前で披露し、2006年のFIFAワールドカップドイツ大会のイタリア代表公式応援ソングとしてイ・プーの曲が使用されている。まさしくイタリアの国民的グループとして君臨し続け、2016年の結成50周年として行われたボローニャのコンサートを最後に、イ・プーの活動を締めくくっている。そこにはグループから離れていたリッカルド・フォッリや2009年に一時的に脱退していたステファノ・ドラーツィオが復帰しており、最後にふさわしいコンサートになったという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアンポップ史上最高のグループであるイ・プーの『ミラノの映像』を紹介しました。前回はCBS移籍後第一弾であり、ラヴポップの仕掛人と言われるジャンカルロ・ルカリエッロをプロデューサーに迎えた『オペラ・プリマ』を先に紹介していますが、本作品は男女の至上の愛をテーマにしたヴァレリオ・ネグレーニによる若者の愛の苦悩や哀しみ、喜びといった歌詞が冴えまくった内容になっています。本作で初めてムーグシンセサイザーを使用していて、全編にわたってオーケストラを配した美しい旋律の中で哀愁のこもったヴォーカルは絶品であり、単なるポップソングにとどまらないドラマティックの粋を極めたアルバムだと思います。このアルバムでイ・プーはイタリアにおける最高のグループになっただけではなく、世界的にも知れ渡ることになります。ちなみに本アルバムでグループ初のゴールドディスクを獲得しています。

 さて、本アルバムはロビー・ファッキネンティの娘に捧げられた作品として知られています。これはレコード会社やプロデューサーであるジャンカルロ・ルカリエッロが望んでいたものであり、特に女性をターゲットにした内容にしたそうです。それはタイトルとジャケット写真がほとんど示唆しているように、女性聴衆を意識したレコード会社の意図がよく表れています。そんなアルバムの歌詞には両親の都合によって妨げられた10代の若々しい生活のイメージが浮かび、恋愛にはまだ早い年齢や父の姿、暗闇の中の女性、太陽のように明るい少女が登場します。そして突然の別れや出会いを描き、若い男女の愛の苦悩や哀しみ、そして喜びといった感情を普遍的なメロディと共にロマンティックに表現しています。まるで少女漫画にありそうなエピソードじゃないですか。そんな10代の若々しい愛の歌詞に対して、ジャンフランコ・モナルディのオーケストラによるストリングスのアレンジはどこか情熱を帯びていて、さらに感情的な起伏を与えている感じがします。エレクトリックギターがあまり使われていないところから見ると、数あるイ・プーの作品の中でも、最もロック色の薄い作品と言われています。しかし、それにも増して多彩な楽器を精緻なほどにバランスよく配置して、さらにストリングスやメロトロン、ムーヴシンセサイザーを使用したプログレッシヴ的なアプローチも聴かせたポップソングは極上としか言えません。

 本アルバムはイ・プーが持つ美しいメロディと情熱的なヴォーカルが際立った傑作です。プログレッシヴ色は薄いですが、多くの人に深い感情的な共鳴をもたらす美旋律と表現力にあふれた彼らの作曲とアレンジには驚かされるばかりです。

それではまたっ!