【今日の1枚】Arachnoid/Arachnoid(アラクノイ/アラクノイの憂鬱) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Arachnoid/Arachnoid
アラクノイ/アラクノイの憂鬱
1979年リリース

不気味な不協和音と緊迫感が漂う
ダーク系シンフォニックロック

 『太陽と戦慄』や『レッド』期のキング・クリムゾンの流れを汲むサウンドとダークなスペースロックを融合したフランスのプログレッシヴロックグループ、アラクノイのデビューアルバム。そのサウンドは改造したファルフィッサオルガンやメロトロン、コルグシンセサイザーなどといったヴィンテージキーボードとロバート・フリップを彷彿とさせるヘヴィなギターを中心に、不気味な不協和音と実験的な要素を加味したドラマ性の強いシンフォニックロックとなっている。たった1枚のアルバムを残して解散してしまうが、そのフランス特有の冷ややかな響きと耽美な魅力を持ったサウンドは未だ鮮烈ですらある。

 アラクノイはフランスのパリ東部郊外にあるコミューン都市グルネー=シュル=マルヌで、1970年に結成されたグループである。元々は1960年代後半にパトリック・ウィンドリッチ(ベース、ギター、ヴォーカル)とミシェル・パイロット(ギター)とのデュオからスタートしていたが、パトリックが英国のキング・クリムゾンやピンク・フロイドに衝撃を受けたことでデュオを解消し、改めてメンバーを集めてアラクノイを結成したという経緯がある。メンバーとして加わったフランソワ・フォジエール(キーボード)のオルガンやメロトロンによるシンフォニックなサウンドを持ち味としていたが、グループ名の「脳のクモ膜」の通り、サイケデリックな側面を持った演奏に一定の評価があり、カルト的な人気を博していたという。キング・クリムゾンが1974年に解散した頃、今度はフランスのアンジュやアトール、アール・ゾイといったプログレッシヴなサウンドを吸収し、独自の音楽性を築いていったという。グループはいくつかのラインナップの変更を経て、1976年頃にはパトリック・ヴォインドリッチ(ベース、ギター、ヴォーカル)、フランソワ・フォジエール(オルガン、メロトロン、ヴォーカル)、ピエール・クティ(ピアノ、シンセサイザー)、ニコラス・ポポフスキー(ギター)、バーナード・ミニグ(ドラムス)、マーク・メリル(ヴォーカル、タンバリン)の6人編成となっている。彼らはほとんど地元から離れず、ライヴを中心に活動をしてきたため、初めてレコーディングの機会を得たのが結成から、何と7年後の1978年である。フランスのメリクールにあるDivox Internationalという小さなレーベルと契約した彼らは、スタジオ・デュ・シェズネーに入り、レコーディングを開始。ゲストにフルート兼サックス奏者にフィリップ・オノレ、バックヴォーカルにイヴ・ジャヴォー、クリスティーン・マリー、マルティーヌ・ラトーを迎えて、1979年にデビューアルバム『アラクノイの憂鬱』をリリースすることになる。そのアルバムはキング・クリムゾンの『太陽と戦慄』の流れを汲んだメロディが主体ではない精緻なインストゥメンタル作品となっており、ヘヴィなギターと不協和音の多いキーボードによる継続的な緊張感をもたらした独自性の強いダーク系シンフォニックロックとなっている。

★曲目★ 
※1995年ベル・アンティーク盤より。
01.Le Chamadère(シャマデール)
02.Piano Caveau(ピアノ・カヴォ)
03.In The Screen Side Of Your Eyes(イン・ザ・スクリーン・サイド・オヴ・ユア・アイズ)
04.Toutes Ces Images(心象風景)
05.La Guêpe(すずめばち)
06.L'Adieu Au Pierrot(道化師の別れ)
07.Final(ファイナル)
★ボーナストラック★
08.L'Hiver~Les Quatre Saisons De L'Enfer Lère Partie~Live(冬~冥府の四季 第一楽章~ライヴ)
09.L'Adieu Au Pierrot~Live Version~(道化師の別れ~ライヴ・バージョン~)
10.Final~Live Version~(ファイナル~ライヴ・バージョン~)
11.Pianos Caveau~Different Mix~(ピアノ・カヴォ~ディファレント・ミックス~)

 アルバムの1曲目の『シャマデール』は、14分近くの大曲となっており、ミステリアスなシンセサイザー音からフランス語のヴォーカル、コーラスギターが入る前にファジーなギターやパーカッシヴなドラムスによるジャズっぽい楽曲となる。そしてキング・クリムゾンのようなダークで半音階的なコード進行が続き、少女の声や怒りに似たヴォーカルが加わり、ワウベースやスペイシーなキーボードによる混沌としたサウンドに昇華していく。その後は鳥の鳴き声のようなシンセサイザー音によるシンフォニック調の穏やかな雰囲気となり、ハイハットとファジーなギター、そしてエレクトリックピアノによるカンタベリーミュージックに変化し、囁くようなヴォーカルとシンセサイザーによる奇妙なノイズで幕を閉じている。2曲目の『ピアノ・カヴォ』は、語り口調のヴォーカルと流麗なピアノソロから始まり、後にベースギターのソロと不気味でシンセサイザー音、そしてパーカッションによるダークな楽曲に変化する。やがてオルガンとエレクトリックピアノの両方のサウンドを持つシンセサイザーが支配し、次第にパーカッションと共にペースアップしてサイケデリック性の強い奇妙な音世界を構築している。3曲目の『イン・ザ・スクリーン・サイド・オヴ・ユア・アイズ』は、ギターやフルート、そして静謐なオルガンを中心としたバラード風の楽曲となっている。シンフォニックロックになる前にエネルギッシュなセクションがあり、後にキング・クリムゾンを思わせるメロトロンが使用されている。4曲目の『心象風景』は、最後の曲を逆再生したような奇妙な音から始まりメロウなギターをバックにした抒情的なヴォーカル曲。2分を過ぎたあたりからヘヴィなギターとシンセサイザーによる荘厳なシンフォニックロックとなり、後にフリップ風のギターと多彩なキーボードで壊れやすいメロディを幾重にも紡ぎ、最後は次第にクリムゾン的な混沌としたサウンドになっている。5曲目の『すずめばち』は、まさに蜂が飛んでいるようなシンセサイザー音から、ブルージーなギターと複数のキーボードからなるアートロック。2分後には重厚なメロトロンを皮切りにテクニカルなアンサンブルとなり、曲調が変わると喧騒に似た声をバックにしたシアトリカルなヴォーカルが続いていく。最後は半ジャズ的なグルーヴと脈動的なロックのリズムが交互に演奏されるという、なかなかワイルドな展開になっている。6曲目の『道化師の別れ』は、穏やかなキーボードとギターによる短い楽曲となっており、ドラムロールからヘヴィでダークな7曲目の『ファイナル』に続く。ファズを利かせたギターや渦巻くようなキーボードが幾重にも被さり、ワイルドなシンフォニックロックとなって終えている。ボーナストラックの『冬~冥府の四季 第一楽章~ライヴ』は、まさにキング・クリムゾン的な混沌とした演奏上でマグマに似たコーラスをフィーチャーしており、『道化師の別れ~ライヴ・バージョン~』は、フランス語のヴォーカルがフィーチャーされている。両方とも1977年3月27日にパリの「ラ・ペニッシュ」で録音されたライヴ曲である。『ファイナル~ライヴ・バージョン~』はメタリックなギターとうねるようなシンセサイザーによるヘヴィな楽興となっており、こちらは1976年12月にヴェール・シュル・マルヌのザ・ミル・クラブで録音されたものである。『ピアノ・カヴォ~ディファレント・ミックス~』は、ピアノソロメインとした楽曲であり、一瞬、演出かと思えるぐらいの音飛びがある。後半はシンセサイザーやメロトロンを駆使したシンフォニックな展開があるが、こちらのほうが抒情性が高い。こうしてアルバムを通して聴いてみると、スペイシーなキーボードと硬質なギター、多彩なリズムチェンジのあるエッジの効いたダークなサウンドだが、流暢ながら直感的な演奏が目立ち、それでいてモダンでダイナミック性のあるプログレッシヴロックとなっている。どこか曖昧で複雑さのあるアレンジは不気味さを通り越して狂気すら感じるが、アートロックやサイケデリックロック、シアトリカルロックを巧妙に取り入れたサウンドには知性があり、フランスならではの耽美な感性が息づいた傑作ともいえる。

 アルバムをリリースした1979年は、すでにパンク/ニューウェーヴが席巻していた時期であり、また、マイナーなレーベルからのリリースということもあって売り上げはほとんど無かったという。彼らはマネジメントの欠如と音楽の方向性を見失ったことで疲れ果て、同年に解散している。解散後、メンバーの中心的存在だったパトリック・ウィンドリッチは、レコーディングエンジニア兼プロデューサーとなり、ジョニー・サンダースやシャルル・ド・ゴールといった多くのアルバムのエンジニアを務めたという。ほとんどのメンバーはセッションミュージシャンや作曲家として活躍していくことになるが、ギタリストのニコラス・ポポフスキーは1987年にカセットテープでオリジナルアルバムをリリースしている。そのアルバムにはアラクノイ時代のキーボード奏者であったピエール・クティやゲストだったサックス兼フルート奏者のフィリップ・オノレが参加している。実は1979年にリリースしたDivox International盤のレコードには1曲が欠落しており、1988年に音源を入手したムゼアが完全版として再リリースしている。また、1995年にはベル・アンティークがボーナストラックにライヴ曲を収録したCDをリイシューしており、当時の彼らの卓越したライヴパフォーマンスが堪能できる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフランスの偉大なる一発屋とも言われ、キング・クリムゾンフォロワーの間では高く評価されているアラクノイのデビューアルバムを紹介しました。フランスのプログレといえばステップ・ア・ヘッドやメモリアンス、サンドローズなど、アルバム1枚を残して解散してしまったグループは多いものの、その残したアルバムのクオリティの高さにはいつも驚かされます。今回紹介するアラクノイも1970年に結成して10年近く活動歴があるにも関わらず、たった1枚のアルバムしか残せなかった奇特なグループですが、やはり素晴らしい逸品になっています。確かにパンク/ニューウェーヴが席巻していた1977年以降、急激に起こった新しいトレンドや流行に乗りたくないアーティストやグループは存在していましたが、彼らはある意味極めつけと言っても良いです。アンダーグラウンドシーンで長年活動しつつ、時代を読まずに独自のプログレッシヴロックを磨き続けてきた結果、あの多彩なヴィンテージキーボードとヘヴィなギターによる、不気味な不協和音と実験的な要素を加味した緊迫感のあるシンフォニックロックになったということです。バックグラウンドのギターとキーボードのテクスチャーは『太陽と戦慄』期のキング・クリムゾンからの影響が強く、他にもアンジュやピュルサー、シャイロックといったフレンチプログレの要素も多分にあります。ダークな一面はユニヴェル・ゼロっぽく、前衛性やズールの要素はマグマでしょうか。多くのプログレグループのサウンドを吸収しては独自に昇華してしている感じがします。それでもシアトリカルなヴォーカルをはじめ、メロトロンやオルガンによる抒情的なサウンドもあり、フランスらしい耽美的な魅力が放たれた傑作であることは間違いないです。

 さて、上にも書きましたが本アルバムがリリースされた当初、レコードレーベルと裏ジャケットの両方に記載されているにも関わらず、3曲目の『In The Screen Side Of Your Eyes』が欠落していたという事実があります。4分ほどの曲ですが、この間違いは最終的にムゼアが1988年の再リリース時に修正されています。なぜ曲が欠落してしまったのかは不明ですが、単にレコードA面に収まり切れなかった可能性もあります。……が、ムゼア盤のレコードにはきちんと収録されているところを見ると忘れていた…いやいやまさか、そんな事あるわけが…はぁ~ため息しか出ない。こんなに良くできたアルバムなのに、いくら弱小レーベルだからと言っても扱いがヒド過ぎだと思います。というわけで、レコードはムゼア盤、CDはライヴ音源が収録されているベル・アンティーク盤がオススメです。

それではまたっ!