【今日の1枚】Surprise/Assault On Merryland | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Surprise/Assault On Merryland
サプライズ/アサルト・オン・メリーランド
1977年リリース

キラリと光る瞬間を詰め込んだ
明朗なファンタジックプログレ

 英国をはじめとする多くのプログレグループから影響を受けたアメリカのプログレッシヴロックグループ、サプライズの唯一作。王女の魔法によって暗闇に飲まれたメリーランドという国を取り戻すために、王子や王女、生き物たちが活躍する童話の世界を描いており、ハモンドオルガンやピアノ、ミニモーグ、チェレステといった多彩なキーボードと12弦&エレクトリックギター、フルート、ピッコロといった管楽器を駆使したロマンティックでメロディアスなシンフォニックロックとなっている。限定1,000枚でリリースされた当初は音楽評論家から大袈裟でチープなサウンドと揶揄されたが、後にその幻想的なメロディと卓越した演奏が注目され、多くのファンから「失われたプログレの宝石」と評価された稀有なアルバムでもある。

 サプライズはアメリカのミズーリ州セントルイス出身の高校を卒業したばかりの4人のメンバーによって、1976年に結成されたグループである。メンバーはマーク・ビール(ヴォーカル、フルート)、リック・ベス(ギター、ベース)、ブレア・ブレイク(キーボード)、デイブ・ケリー(ドラムス、パーカッション)で、結成後は地下室を使って主に英国のイエスやジェネシス、ジェントル・ジャイアントといったプログレグループのカヴァー曲から活動を始めている。そんな多くのプログレ曲を難なく演奏する彼らを見た友人は、オリジナル曲を描いてはどうかと勧めたという。自信を持ったリックとブレアの2人は、アコースティックギターとノートを持って近所の美しい森にこもって、自身のアイデアを詰め込んだプログレッシヴな楽曲を作成している。2人はこの美しい森で曲を作りながら、剣と魔法のファンタジックな世界をモチーフにした楽曲にしようと決めている。作成した曲を周囲に聴かせたところ、反応が非常に高かったことから、この曲を元にしたコンセプトアルバムの制作に踏み切ったとされている。彼らはメンバーの両親から資金を集め、1976年末にセントルイスのテクニソニックス・スタジオに入ってレコーディングを開始している。プロデュースはアイク&ティナ・ターナーやスティーヴィー・ニックス、マンフレッド・マンといったアーティストのアルバムを手掛けたビル・シューレンバーグとグループのメンバーが行い、後にマイケル・マクドナルドと一緒に仕事やツアーを行うエンジニアのチャック・サバティーノの支援によってアルバムを完成させている。そして物語世界をひとつにまとめたようなファンタジックなジャケットデザインは、100ドルという料金で依頼を受けたメンバーの友人であるフィル・テンパーによって描かれたという。こうして完成したアルバムは自主レーベルであるカルーセルレコードより、1,000枚という限定枚数で1977年秋にリリースされることになる。そのアルバムはメリーランドという架空の国を舞台にしたコンセプトアルバムとなっており、煌びやかなキーボードと多彩なリフを持つギター、美しいフルートやピッコロといった楽器を駆使し、英国をはじめとする多くのプログレからの影響とアメリカらしいメロディアスなトーンを持った幻想的なシンフォニックロックとなっている。

★曲目★ 
01.Eve Of The Assault(襲撃の前夜)
02.Merryland(メリーランド)
03.The Acrobat Between The Stars(星間の曲芸師)
04.Palace Of King Ferris(フェリス王の宮殿 )
05.Tyrangatang(ティランガタン)
06.Dance The Tarantella(タランテラの踊り)
07.Tournament Of Love(愛のトーナメント)
08.March Of The Squatamaudars(スクワタマウダースの行進)
09.A Day Without Light(光のない一日)
10.The Wonderful Sunshiner(ワンダフル・サンシャイナー)
11.Grand Finale(グランド・フィナーレ)

 改めてメンバーと演奏楽器を紹介しよう。マーク・ビール(ヴォーカル、フルート、トランペット、ピッコロ)、リック・ベス(12弦ギター、エレクトリックギター、ベース)、ブレア・ブレイク(ハモンドオルガン、ピアノ、ミニモーグ、チェレステ)、デイブ・ケリー(ドラムス、ティンパニ、ベル、ゴング、トライアングル、ジャイロスコープ)であり、1人が複数の楽器を担当している。1曲目の『襲撃の前夜』は、サーカスのような効果音と流麗なピアノと煌びやかなシンセサイザーの音から始まり、2曲目の『メリーランド』で雄大でメロディックなギターを中心としたポップ色の強い演奏に変わる楽曲。控え目なヴォーカルのバックにはアコースティックパッセージのあるギターとメロトロンやシンセサイザー、ピアノによる素晴らしい色彩を与えており、曲調をクルクル変えながら聴き手を飽きさせない。3曲目の『星間の曲芸師』は、オフビートのリズムに合わせた壮大なシンセサイザーのリフから始まり、手数の多いドラミングとリードギターを加えたシンフォニックな展開となる楽曲。電子的なうねりのあるスペイシーな雰囲気の中で12弦ギターやメロトロンが効果的に使われており、中盤では鳥の鳴き声のような美しいフルートが使用されている。4曲目の『フェリス王の宮殿』は、夜をイメージさせる虫の鳴き声の効果音をバックにアコースティックギターとピアノ、シンセサイザーを奏でた牧歌的なヴォーカル曲。後半には魅力的なフルートとキーボードによる美しいアンサンブルになっている。5曲目の『ティランガタン』は、弾むようなヘヴィなギターリフとハモンドオルガン、そしてエコーのかかったヴォーカルによるハードロック。パンチの効いたロックンロールと激しいギターソロが展開されており、その重厚なサウンドは後のヘヴィメタルにも通用する。6曲目の『タランテラの踊り』は、砂利の上を歩く足音から東洋的なサウンドになり、渦巻くようなスペイシーなキーボードが特徴の楽曲。中盤からヘヴィなギターとハモンドオルガン、ハーモニックなコーラスにフルートをフィーチャーしており、短い曲ながら非常にユニークなサウンドとなっている。7曲目の『愛のトーナメント』は、クールなギターリフからブレイクして落ち着いたメロディアスなアンサンブルとなる楽曲。アメリカらしいコーラスを活かしたポップソングとなっており、インスト面のヘヴィなギターとのギャップが面白い。8曲目の『スクワタマウダースの行進』は、ヘヴィなギターリフからアップテンポのシンセサイザーによるメロディックなサウンドに変化するヴォーカル曲。トライアングルやリードギターのブレイクも素晴らしく、ヘヴィながらロマンティックな雰囲気にさせてくれる。9曲目の『光のない一日』は、チャイムやアコースティックギター、フルートによるバラードになっており、心のこもったヴォーカルが印象的な楽曲。12弦ギターによるソロがあり、改めてリック・ベスの素晴らしいギターテクニックが披露されている。10曲目の『ワンダフル・サンシャイナー』は、アコースティックギターとシンセサイザーをバックにした優しいヴォーカル曲となっており、中盤からリズムチェンジがありクールなギターリフと多彩なシンセサイザーによるアンサンブルが展開される。そして最後の『グランド・フィナーレ』で拍子が再び変わり、速いテンポの中で大音量のギターリフによって幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、過度なハードロックやシンフォニックロックの要素がある中で非常にバランスを保ったポップ性の高いプログレッシヴロックとなっていると思える。英国のシンフォニックプログレの概念を持ったキーボードと、より際立ったディストーションギターが掛け合わされ、曲ごとに多彩なムードや曲調の変化を作り出した優れた逸品と言える。

 アルバムは1,000枚という限定枚数だったが、地元を中心にすぐに売り切れたという。しかし、一部の評論家から大袈裟で安っぽい、あるいは陳腐すぎると非難され、それ以上のプレスは無かったとされている。メンバーは自分たちのやりたいことが成し遂げられたと満足して、一度もライヴ活動をすることなく友好的に解散している。解散後のメンバーの動向は不明だが、唯一、キーボード奏者のブレア・ブレイクは、オルタナティヴロックグループであるLusk(ラスク)の1997年アルバム『Free Mars』の収録曲『Blair's Spiders』に参加している。後に1,000枚限定のオリジナルアルバムはコレクターの間で高く取引をされるレアアイテムとなり、美品は1枚25万円~30万円という破格の値段が付けられたと言われている。こうした中、ツァラトゥストラ・プログレッシヴ・レコーディング社のジェフ・ログスドンが、サプライズが録音したと思われる酸化したマスターテープを発見し、テネシー州ナッシュビルにあるMasterfonicsで再加工を経て、新たな技術のもとでCDリマスタリングに成功。1995年にリリースされたリマスターCDには、12ページの小冊子とミズーリ州セントルイスのIcon Studiosでリミックスされた『ティランガタン』をボーナストラックとして収録している。彼らの唯一のアルバムには1970年代のメジャーなプログレに影響を受けた多くの才能が込められており、失われたファンタジープログレの逸品として語り継がれていくことになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1970年代後半にキラ星の如く出現しては消えた、アメリカのプログレッシヴロックグループ、サプライズの唯一作『アサルト・オン・メリーランド』を紹介しました。以前に某中古CDショップでときどきプログレCD(輸入盤)大放出セールがありまして、確かその時にジャケットに惹かれて購入した覚えがあります。サプライズというグループはその時に初めて知ったのですが、実際にCDをかけた時、オープニングで「ヤバい!」と思ったものです。私自身、少し仰々しいくらいのこの手のサウンドが実に好みでして、さらに明るくテンポの良いメロディアスな曲調に感心してしまい非常に最後まで楽しめた1枚でした。こういった作品を聴いて毎回思うことですが、注目されることの無い自主レーベルで短期間のレコーディングと少ない枚数でリリースされるアルバムが、メジャーレーベルでリリースされる大物グループのアルバムよりも遥かに素晴らしいサウンドに仕上げていることにいつも驚かされます。本アルバムも間違いなくその部類に入る1枚と言えます。しかも20歳に満たないメンバーが複数の楽器をうまく使い分けて演奏し、コンセプトアルバムとしてリリースしてしまうエネルギーは大したものです。

 さて、本アルバムの世界観となったメリーランドですが、そういえばアメリカにメリーランド州という地域があったな~と最初は思いました。しかし、スペルが違うことに気がついて調べてみたら、『オズの魔法使い』で有名な児童小説家ライマン・フランク・ボームの1901年の作品『メリーランドのドットとトット』から拝借したのではないかと思っています。そこには女王が治める魔法の国メリーランドに連れていかれたドットとトットが、メリーランドにある7つの不思議な谷を巡るお伽噺となっています。たぶん、この話をベースにアレンジしたものではないかと考えています。実際のアルバムの楽曲はその世界観をイメージしていて、ファンタジックでありながら非常に明るいメロディにあふれた作品となっています。1曲目から多彩なキーボードによるサーカスやメリーゴーラウンドのような幻想的な雰囲気の中でアップテンポなサウンドスケープに切り替わる瞬間は美しく、楽曲の配置やアレンジのレベルが相当高く聴いていて心地よい気分になります。この辺りは名盤を手掛けたプロデューサーとエンジニアの手腕によるものが大きく、キャッチーで聴きやすいアルバムにしようとしていることが分かります。とはいっても、5曲目の『ティランガタン』は、当時としてはもっと評価されても良いプログレッシヴメタルであり、彼らの演奏の幅広さとパフォーマンスの高さがうかがえます。シンフォニックで効果的なブレア・ブレイクのキーボードが注目されがちですが、個人的に全曲ギターとベースの両方を演奏するリック・ベスの才能は驚嘆に値します。彼のギターリフはヘヴィメタルに通用するポテンシャルを持っています。一聴すると確かに仰々しくキャッチー過ぎるメロディがチープに聴こえてしまうこともありますが、それにも増して欧州の多くのプログレをベースにアメリカンプログレの利点を最大限に活かしたサウンドは、1970年代後半の音楽シーンにおいて奇跡的だと思います。

 本アルバムはアメリカのプログレッシヴロックグループの中でも多彩な楽器をうまく使い分け、メロディに主体を置いたクオリティの高い作品です。長尺な曲は無いに等しく、3分から6分ほどに聴きやすくまとめた楽曲は、すでに1980年代のプログレッシヴポップを見据えた作りにしていると感じます。

それではまたっ!