【今日の1枚】Mirror/Daybreak(ミラー/デイブレイク) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Mirror/Daybreak
ミラー/デイブレイク
1976年リリース

女性キーボード奏者と管楽器を擁した
幻の技巧派シンフォニックロック

 フォーカスやフィンチといったグループのサウンドを継承したオランダのシンフォニックロックグループ、ミラーの唯一作。そのサウンドは女性キーボード奏者のポーラ・メネンとサックスやオーボエ、フルートを奏でるフィリップ・デ・ゴーイを中心とした優美なシンフォニックロックとなっており、ベースを強調した技巧的な演奏はイエスのようであり、管楽器による哀愁のあるメロディはキャメルを思わせる。自主制作でリリースされた本アルバムは、わずか500枚という少なさから幻の作品とされてきたが、約40年後の2015年にドイツのペイズリープレスから初CD化を果たしている。

 ミラーは1972年にオランダのヘルダーラント州の州都であるアーネム(アルンヘム)で結成されたグループである。結成当時は高校時代の友人同士である4人で活動を開始しており、メンバーはキース・ワルレイヴンス(ギター)、ヨハン・ザーネン(ベース、ヴォーカル)、ポーラ・メネン(ピアノ、シンセサイザー、ヴォーカル)、ピーター・フランセン(ドラムス)である。彼らは主に英国のピンク・フロイドやイエス、オランダの人気グループだったフォーカスやフィンチ、アース&ファイアーに影響された演奏を繰り広げており、ポーラ・メネンのクラシカルなキーボードを強調したサウンドだったという。地元で人気になりつつあった1973年に新たにフィリップ・デ・ゴーイ(サックス、オーボエ、フルート)をメンバーに加えて、管楽器をフィーチャーしたシンフォニックなサウンドに変化している。彼らは地元のアーネムから首都であるアムステルダムへとライヴを含めた活動範囲を拡大し、メンバーでオリジナル曲を制作してはアルバムレコーディングの機会をうかがっていたという。しかし、デモテープを作成しては多くのレコード会社に掛け合ったものの契約に結び付かず、3年の月日が経つことになる。彼らは最終的に自主レーベルからアルバムを出すことに決め、オランダのアーネムにあるStable Studioで6日間にわたってレコーディングをしている。スタジオエンジニアにはロエル・トーリングが務め、プロデュースはグループで行い、1976年に『デイブレイク』というタイトルでリリースされることになる。そのアルバムは10分を越す3曲を含めた4曲が収められており、多彩な管楽器とキーボード、そしてギターによる小オーケストラ風のアンサンブルを軸にした緩急のあるメロディアスなシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Daybreak(デイブレイク)
02.Goodbye(グッドバイ)
03.Dear Boy(ディア・ボーイ)
04.Edge Of Night(エッジ・オブ・ナイト)

 アルバムの1曲目の『デイブレイク』は、冒頭から初期のイエスを彷彿とさせるサウンドから、スローなサックスソロ、反芻するベース音上でフルートが奏でられるなど、遊び心のある展開が心地よい楽曲。中盤以降はキーボードのメロディに合わせたギターや管楽器によるキャメルのような優美なサウンドになる。後半のポーラ・メネンの幽玄なスキャットと共に奏でられるメロディアスなギターは、ヤン・アッカーマン、もしくはマリオ・ミーロのような甘美さがある。2曲目の『グッドバイ』は、涼やかな男女混声によるスキャットとテクニカルなベースをメインとしたリズムセクションから始まり、ドリーミーな雰囲気から一転、スリリングなギタープレイに変化する楽曲。緩急を極めたような怒涛の展開から、中盤以降はメランコリックなシンセサイザーとギターによるフュージョンテイストのサウンドになっている。3曲目の『ディア・ボーイ』はアルバムで唯一、3分強でまとめられたポーラ・メネンが歌うロマンティックなヴォーカル曲。美しいギターとシンセサイザーをバックに、瑞々しいポーラのヴォーカルとその声をなぞるような柔らかなフルートの響きが素晴らしい。4曲目の『エッジ・オブ・ナイト』は、夢想的なオーボエの響きとシンセサイザー、そしてポーラのスキャットに似た美しいヴォーカルのある一大シンフォニックロックとなっており、リズムチェンジのある技巧的なアンサンブルが見られる楽曲。手数多くスピーディーに畳み掛けるドラムや疾走するギター、涼やかなトーンのキーボードや管楽器による押し引きから生まれる美しいメロディが聴きどころである。ギターソロの部分ではデヴィッド・ギルモア風の奏法があり、1970年代のピンク・フロイドのタッチすら感じられる逸品となっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、穏やかな女性ヴォーカルと途切れることなく流れる美しいギターとキーボードによる壮大なテーマを演奏しつつ、古典的なフルートやサックス、オーボエといった管楽器をうまく取り入れた甘美なシンフォニックロックとなっていると思える。また、曲の中にリズムチェンジやスリリングなギタープレイといった緩急のある展開があり、メロディだけではない彼らの高い演奏技術やセンスも感じられる。

 アルバムは自主レーベルでわずか500枚というプレス枚数だったため、多くの人の耳に届くことはなかったという。リリース後、彼らはグループの知名度を上げるために母国オランダの都市を回るツアーを行っている。しかし、ツアー後に音楽の方向性を巡りメンバー間の意見の相違によって、ベーシストのヨハン・ザーネンが脱退してしまう。これによりグループの存続が難しくなり、1976年末に解散することになる。解散後、それぞれセッションミュージシャンを務めていたが、フィリップ・デ・ゴーイがミラーのメンバーだったキース・ワルレイヴンスとヨハン・ザーネンに声をかけ、新たにハンス・ランバース(ドラムス)とトゥール・フェイエン(キーボード)を加えたLethe(レーテ)というグループを1978年に結成する。1981年にキャメルのサウンドに似た1枚のセルフアルバムをリリースしたものの、長続きはせず解散している。その後、キース・ワルレイヴンスとヨハン・ザーネンはミラー時代のドラマーだったピーター・フランセンと共に、Looking For Cluesというカヴァーグループで演奏したという。一方のフィリップ・デ・ゴーイは音楽家として1980年代以降、テレビや映画、イベントといった数多くの音楽プロジェクトで活躍することになる。本アルバムは廃盤後、一度も再発されることなく時が過ぎ、オランダのプログレッシヴロックの幻の作品となるが、2015年にStable Studioに残された音源を元にドイツのペイズリープレスから初のCD化を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はオランダの幻とされたシンフォニックロックグループ、ミラーの唯一のアルバム『デイブレイク』を紹介しました。ドイツのペイズリープレスからデジタルリマスター化されたCD盤を持っているのですが、4ページの小冊子が付いていて音質もそれなりに良いものになっています。ジャケットは黒のバックに「Mirror」とデザインされたロゴとタイトルがあり、裏にはメンバー5人の写真があるだけで、自主制作盤らしく素気ない感じがします。とはいえ、中身は10分を越える楽曲を4曲中3曲も収録した大作指向のシンフォニックプログレとなっていて、自主制作とは思えないキーボードと管楽器を中心としたシャープかつタイトなアンサンブルが特徴の作品となっています。

 1曲目からイエスの『サード・アルバム』に収録されている『パーペチュアル・チェンジ』を彷彿とさせるリフから始まり、フルートやサックスを絡めたキャメルのようなロマンチックなサウンドになっていて、エレクトリックギターはフォーカスを感じさせます。2曲目はエネルギッシュなリズムセクションとギターによるフィンチ、またはセバスチャン・ハーディーのようなサウンドとなり、3曲目はポーラがヴォーカルを務めるロマンティックな歌曲で、アルバム唯一の3分強の内容になっています。4曲目はバラエティに富んだ壮大なシンフォニック叙事詩となっていて、部分的にデヴィッド・ギルモア風のギターソロがあってピンク・フロイドっぽいところがあります。こうしたことから彼らは英国のイエスやキャメル、ピンク・フロイド、同国オランダのフォーカスやフィンチといった様々なグループの奏法やサウンドを取り入れていることが分かります。決して管楽器やキーボード、ギターがグイグイ引っ張るわけでもなく、どちらかというと技巧的なリズムセクションとのアンサンブルを心掛けている感じがします。涼やかなフュージョンテイストのあるシンフォニックロックと言う感じで、飛びぬけた演奏や楽曲があまりありませんが、メロディアスなテーマを手堅く演奏している点は妙に好感が持てます。

 エネルギッシュなリズムセクションとギターと対照的に、涼やかなトーンのキーボードや流麗なフルートやサックスといった緩急のアンサンブルが魅力的な1枚です。マイナーとは言わせない彼らのサウンドをぜひ、一度堪能してほしいです。ちなみに解散後に一部のメンバーが結成したレーテというグループのアルバムも、本作と同じ10分弱の3曲を擁した内容になっています。さらにシンフォニックなサウンドになっているらしく、ミラーの後継グループとも言われているそうです。こちらも合わせて聴いてみると良いかもしれません。個人的に両方とも紙ジャケで再発してほしいです。

それではまたっ!