【今日の1枚】Tetragon/Nature(テトラゴン/ナチュレ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Tetragon/Nature
テトラゴン/ナチュレ
1971年リリース

オルガンロックの様式美を兼ね備えた
1970年代初期の高水準の逸品

 1967年に結成したTrikolon(トリコロン)から発展した、ドイツのオルガンハードロックグループ、テトラゴンの唯一作。そのアルバムはJ.S.バッハの『フーガ』を取り入れたクラシカルなハモンドオルガンとラウドなギターによるスリリングな演奏を軸に、完成度の高いオルガンロックの様式美が全編に渡って展開された作品となっている。また、ジャーマンロックらしい実験的なサイケデリック要素やジャズ色があるなど多彩な表情を魅せており、アングラでダウナーなオルガンロックが堪能できるマニアックな1枚として評価されている。

 テトラゴンは元々、ドイツのニーダーザクセン州にある都市オスナブリュックで1967年に結成したトリコロンから発展したグループである。トリコロンは北ドイツ初のエレクトリック・ブルース・バンドの1つ、ブルース Ltdに所属していたヘンドリック・シェイパー(キーボード、トランペット)を中心に、ラルフ・シュミーディング(ドラムス)、ロルフ・レットバーグ(ベース)を加えたトリオ編成のグループで、英国のザ・ナイスの影響を受けたサイケデリックなオルガンロックを演奏していたという。彼らは1969年に自主レーベルであるルアンプール・アコースティックから、デビューアルバム『Cluster』がリリースされる。そのアルバムはヘンドリック・シェイパーのグルーヴィーなハモンドオルガンと独特なトランペットによる、10分を越える3つの楽曲を中心とした意欲的な作品となっている。しかし、アルバムリリース後にドラマーのラルフ・シュミーディングが脱退。残った2人はヨアヒム・ラーマン(ドラムス)を迎え、もう1人ギタリストとしてユルゲン・イェーナーを加えている。メンバーが4人となった事で、グループ名は以前の名前を使い続けるよりも新しくした方が良いと考え、1971年にグループ名をテトラゴンと改めている。彼らはヨアヒム・ラーマンの両親の友人が経営する地元の都市部から離れた古い農場の納屋に録音機器を設置し、不安定な状況でレコーディングを行っている。これは彼らがあらかじめ決まった音楽スタイルには従わず、自由な空気の中で演奏したいという願望からである。Revox A77の2トラックテープレコーダーと、各楽器のサウンドを最大限に捉えるために慎重に配置された7つのマイクを使用して録音し、レコーディングエンジニア兼プロデューサーにはピーター・クレッチマンを招いて、ほぼ再録不能のライヴ録音という形をとっている。結局、彼らは最後までレコード会社を介せず、アルダアス・ハクスリーの『すばらしい新世界』で描かれた薬物による名にちなんだソーマという自主レーベルを立ち上げ、同年の1971年にオリジナルアルバムである『Nature』をリリースしている。そのアルバムはトリコロン時代のクラシカルなオルガンロックをベースに、イェーナーの攻撃的なギターが加味されたスリリングな内容となっており、様々なジャンルをものともしない自由さを謳歌したヘヴィなキーボードロックとなっている。

★曲目★ 
01.Fuge(フーガ)
02.Jokus(ジョーク)
03.Irgendwas(何か)
04.A Short Story(ちょっとした話)
05.Nature(ナチュレ)
★ボーナストラック★
06.Doors In Between(ドアーズ・イン・ビトウィーン)

 アルバムの1曲目の『フーガ』は、言わずと知れたJ.S.バッハの『トッカータとフーガ ニ短調』のアレンジ曲。15分という長尺となっており、ハモンドオルガンにラウドなギターが絡み、後に繊細なベースやドラムスが加わり、ジャム的なセッション風に進んでいく。8分後にはドラムソロや即興的なギタープレイといったジャジーな展開があるなど、クラシカルな楽曲をそれぞれの楽器が役割を果たした魅力的な作品に仕上げている。2曲目の『ジョーク』は、笑い声のような音が響き渡る19秒のSEになっており、3曲目の『何か』は、ピアノとギターによる即興的なセッションからテンポの速いオルガン上でスリリングなギターが畳みかける楽曲。その後、流麗なピアノシーケンスのソロとなり、アコースティックギターに持ち替えたイェーナーの巧みなギターが絡んでいく。ベースとドラムスは不在だが、最後までキーボードがリズムを担ったユニークなサウンドになっている。4曲目の『ちょっとした話』は、静かなハモンドオルガンのソロから即興的なリズム隊が加わり、疾走感あふれるテクニカルなジャズロックに変貌する。全体的にベースがリードしており、ブルージーなギターやハイアットを多用するドラムス、そしてオルガンが絡んでいくというジャムセッション風の楽曲になっている。5曲目の『ナチュレ』は、端正なハモンドオルガンからファズを利かせたオルガンとギターをバックにヴォーカルをフィーチャーした13分を越える楽曲。ヴォーカルはヘンドリック・シェイパー。途中からスピーディーなオルガンハードロックが展開し、4分後にはソフト・マシーンのマイク・ラトリッジが使用するファルフィサがファズされたようなオルガンがあり、サイケデリックな雰囲気に包まれていく。再度ヴォーカルとメロディが戻ってアルバムを終えている。ボーナストラックの『ドアーズ・イン・ビトウィーン』は、1972年にゲオルクスマリエンヒュッテで行われたライヴをCD化にあたって収録された楽曲。サイケデリックでパワフルなオルガンと攻撃的なギター、そして手数の多いドラミングによるテクニカルなジャムセッションとなった14分に及ぶ演奏となっており、非常に聴き応えのある内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、クラシカルなハモンドオルガンやピアノを中心としたグループだが、グルーヴィーなギターやリズムセクションが躊躇なく加味されている点からして、彼らがジャムセッションやライヴでの即興的な演奏を得意としていることが分かる。変化に富んだ複雑でテクニカルな演奏の中に多くのバリエーションが潜んでおり、華やかさは少ないが決して他のオルガンロックグループに劣らない魅力的なアルバムである。

 本アルバムは自主レーベルのため、配布した枚数はわずか400枚だったという。彼らは1971年末にハンブルクのスタジオでセカンドアルバムの制作を開始したが、資金的な問題でレコード化には至っていない。その後、1972年2月12日にドイツのオスナブリュックの南西にある都市ゲオルクスマリエンヒュッテで行われたライヴを最後に解散している。このライヴ公演から『ドアーズ・イン・ビトウィーン』という曲が、後に本アルバムのCD化に伴いボーナストラックに追加されている。解散後、キーボード奏者のヘンドリック・シェイパーは1973年にドイツのロックミュージシャン兼作曲家であるウド・リンデンバーグのグループに加入。その後、クラウス・ドルディンガーが結成したドイツのロックグループ、パスポートに加入し、1978年のアルバム『アタラクシア』より、クリスチャン・シュルツェの後任キーボード奏者として活躍している。ドラマーのヨアヒム・ラーマンは、伝統的なフォークグループであるフィーデル・ミッシェルから派生したファルケンシュタインというグループを結成し、アルバム3枚を残している。その後はソングライターとなり、1991年にミック・フランケと共同で新レーベルのスローモーションレコードを設立している。ギタリストのユルゲン・イェーナーは、セッションミュージシャンとなり、ギターだけではなくパーカッショニストとしても活躍。ベーシストのロルフ・レットバーグは、ドイツのミュージシャンであるコンスタンティン・ヴェッカーのグループのメンバーとなり、彼の関わる映画やミュージカルの音楽に貢献したという。本アルバムはリイシューされることなく時が過ぎたが、フランスのプログレッシヴロックレーベルであるムゼアから1995年に初CD化され、その後、2000年代に入ってドイツやアメリカでリリースされることになる。また、お蔵入りとなった幻のセカンドアルバムは当時のエンジニアだったピーター・クレッチマンがマスターテープを所有していたことで、38年ぶりとなる2009年にガーデン・オブ・ディライツから『ストレッチ』というタイトルでリリースされている。さらに1973年12月29日と30日にレコーディングされたという未発表の6曲を収録したアルバム『アガペー』も2012年にCD化されており、そこにはザ・ナイスの『For Example』のカヴァー曲が収められているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は自主レーベルから僅かな枚数でリリースされたアルバムが、約30年という時が過ぎて評価されつつあるテトラゴンのデビューアルバム『ナチュレ』を紹介しました。私は2009年にリイシューされたライオンプロダクションズのCD盤を入手して聴きましたが、このアルバムは当時知る人ぞ知るアングラ系クラウトロックの1枚として有名な作品だったそうです。トリコロン~テトラゴンは非常にライヴで定評のあったグループで、地元のオスナブリュックでは知られた存在でしたが、それがレコーディングされたアルバムがあったこと自体、あまり知られていなかったようです。そもそも自主レーベルでわずか数百枚という枚数だったため、仕方が無かったのかも知れません。調べてみたら他にも当時にレコーディングされた音源が発掘されて、自主制作ながらも完成度の高い1970年代初頭のドイツのオルガンロックグループとして認知されることになります。後に多くの国からCD化されているのを見ると、プログレ系で良くある当時は埋もれてしまったけど時を越えて評価されたアルバムだということが分かります。

 さて、本アルバムですがキーボード奏者のヘンドリック・シェイパーとギタリストのユルゲン・イェーナーを軸としたサイケ&ジャズ色のあるオルガンロックとなっています。ほとんどの曲はジャムセッション風のインストゥルメンタルとなっていて、タイトル曲のみヴォーカルが入っています。エコーを利かせたクラシカルなオルガンと荒々しくも攻撃的なギターをミックスしたサウンドは、ザ・ナイスやエッグというグループに即興的なギター要素を加えた感じを受けます。オルガンはキース・エマーソンよりも煌びやかさは少ないものの、ジャズ的なエッセンスのある曲『ちょっとした話』は、ヘンドリック・シェイパーが「マイク・ラトリッジが使用したような歪んだエフェクトを生み出すため、カスタマイズしたファルフィサ・オルガンを入手した」と述べている通り、少しソフト・マシーンっぽくなっています。全体的に聴くとブルースにルーツを持ちながら、ジャズやクラシックの傾向があり、1970年代初頭によく見られた様々な要素をハイブリッドしたプログレッシヴロックと言っても良いです。また、ボーナス曲のライヴ音源は14分を越す長尺の楽曲であるにも関わらず、全くダレることのないライヴグループとしてのレベルの高さが伺えます。このようなスキルのある高水準のアルバムが埋もれていたとは信じられないくらい価値ある逸品だと思います。

 本アルバムはトリコロンの流れを汲んだサイケデリック&エクスペリメンタル色を加味しつつ、端正ながら1970年代初期のクラウトロックらしいアングラ感が漂うオルガンロックです。自主制作ながら完成度の高い彼らの推進力の高い演奏をぜひ堪能して欲しいです。また、私は未聴ですが、2009年にCD化を果たしたセカンドアルバムの『ストレッチ』も本アルバムにも劣らない、オルガンとギターのジャムで満たされたグルーヴィーなオルガンロックとなっているそうです。

それではまたっ!