【今日の1枚】King Crimson/Red(キング・クリムゾン/レッド) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

King Crimson/Red
キング・クリムゾン/レッド
1974年リリース

プログレッシヴロックの最終進化形であり
未来への予言となった歴史的名盤

 ロバート・フリップ、ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードの3人を核にレコーディングを行った、キング・クリムゾンの1970年代最後のスタジオアルバム。そのアルバムはライヴで培った超絶技巧の演奏力と即興から生み出される緊迫感、それでいて哀歌にも似たメロディがドラマティックに交差する、非の打ちどころのない威厳さと力強さが備わった究極のサウンドとなっている。未来が約束されているにも関わらず、解散してしまった極めて稀な作品であり、その強烈なサウンドは後に多くのアーティストやハードロック、メタルグループにも影響を与えることになる歴史的な名盤でもある。

 集合離散を繰り返すプログレッシヴロックシーンにおいて、キング・クリムゾンほど体現し、進化し続けたグループは少ないだろう。アルバム毎にメンバーチェンジがあり、プロジェクト的な意味合いを持つ彼らの作品とサウンドは、他のグループよりも時代を一歩先んじていた。1969年に『クリムゾン・キングの宮殿』でセンセーショナルなデビューを飾ったが、主要なメンバーは離れ、オリジナルメンバーとして残ったのはロバート・フリップ唯一人となっていた。ロバートはグループの存続を図るために新たなメンバーを迎えては斬新ともいえるサウンドを生み出し、プログレッシヴロックグループとしての矜持を保っていたともいえる。人はそれを奇跡的と讃えるが、グループの内情はメンバー間の確執と思惑で渦巻いていたのである。ロバートがグループの存続をあきらめたのは、4枚目のアルバムである『アイランズ』発表後、デビュー以来、グループのブレーンであった作詞家のピート・シンフィールドを解雇した頃だろう。1972年2月にグループは北米ツアーに向けてリハーサルを行っていた時に、ロバートはグループの解散を決意することになる。実際に北米ツアーを終えた4月に一度、グループは解散したが、キング・クリムゾンがボストンでイエスのサポートを務めて以来、知己となっていたドラマーのビル・ブルーフォードがメンバーとなった事で、彼の考えは大きく変わることになる。ロバートは即興集団グループであるカンパニーのパーカッショニストであったジェイミー・ミューアに声をかけ、ファミリーというグループでヴォーカル兼ベーシストだったジョン・ウェットンを引き入れ、さらに新鋭のキーボード兼ヴァイオリニストであるデヴィッド・クロスを迎えて、新たなラインアップによるキング・クリムゾンを創生したのである。これまでグループの存続を考えていたロバートが、初めて自分と相容れるメンバーと共に結成したグループだと言えよう。こうして1973年3月に5枚目となるアルバム『太陽と戦慄』がリリースされる。そのアルバムは2人のパーカッショニストからなるタイトなリズムセクションと無機質なギターによる、「静と動」の即興性の高いダイナミックなアンサンブルとなった究極の作品となり、イギリスでのアルバムチャート最高位20位にランクインする快挙を成し遂げている。ロバート・フリップにとっては面目躍如となったアルバムだが、すでに足元はぐらつき始めており、多彩なパーカッションを披露したジェイミー・ミューアがレコーディング終了後に脱退。残ったメンバー4人で1973年10月23日のスコットランドのグラスゴー公演、11月15日のスイス・チューリヒ公演、11月23日のオランダ・アムステルダム公演でライヴを続行している。その公演で披露したライヴ曲を元にロンドンのエアー・スタジオで、演奏やヴォーカルを加味したアルバム『暗黒の世界』を1974年3月29日にリリースしたものの、ツアー終了後にデヴィッド・クロスが脱退することになる。彼はアルバムリリース後の3月からヨーロッパツアー、5月にはアメリカツアーといったこの止めどないライヴスケジュールに疲弊してしまったと言われている。1974年7月の段階でメンバーはロバート・フリップ、ビル・ブルーフォード、ジョン・ウェットンの3人体制となる。

 アメリカツアーを終えたキング・クリムゾンは、増々ファンの熱意や期待が高まっていったという。1974年7月8日にロンドンのオリンピックスタジオに入ったロバート・フリップ、ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードは、これまで感じたことの無い空気に満ち溢れていたという。実質、ギターとベース、ドラムスというパワートリオとなったが、それぞれの想いは他所にライヴアーティストとしての評判に見合うスタジオアルバムが作れる位置づけだったと言えよう。J.G.ベネットの書物を読むなどスピリチュアルな指向に傾倒していたロバートは不安を感じて、一度はグループを休ませようかと考えていたという。しかし、そんなロバートの想いなど気付きもせず、この勢いのままレコーディングをしたいジョンとビルとの間にわずかな不和が生じることになる。7枚目となるアルバムのレコーディングは、背景に光と影のあるスタジオで行われたという。レコーディングにはロビン・ミラー(オーボエ)、マーク・チャリグ(コルネット)、そして元メンバーであるメル・コリンズ(ソプラノサックス)、デヴィッド・クロス(ヴァイオリン)、イアン・マクドナルド(アルトサックス)が参加している。こうして約1ヵ月間のレコーディングが終了し、1974年9月27日に『レッド』と名付けられたアルバムがリリースされることになる。そのアルバムは成功したツアー後の興奮冷めやらぬまま行ったレコーディングであり、硬質なギターリフと超絶なリズムセクションから生み出される凄まじいインプロゼーションとドラマティックな展開、そして管弦楽が彩りを与えるという、まさしく有終の美にふさわしい圧巻のクオリティに満ち溢れたサウンドとなっている。

★曲目★
01.Red (レッド)
02.Fallen Angel(堕落天使)
03.One More Red Nightmare(再び赤い悪夢)
04.Providence(神の導き)
05.Starless(スターレス)

 アルバムの1曲目の『レッド』は、ロバート・フリップの硬質なギターのリフを中心としたインストゥメンタル曲。ギターが上昇していく音にベースがユニゾンし、タイトなリズムに乗せて高音域と低音域を交互にバランスをとるアンサンブルが絶妙である。テンションが一瞬たりとも緩むことなく持続するという、その緻密に練り上げたサウンドは重厚でありながらどこかクールでもある。2曲目の『堕落天使』は、死に行く天使に対する悲しみを込めたジョン・ウェットンのヴォーカルメロディが美しいバラード曲。陰鬱なチェロのセクションやオーボエ、コルネットといった楽器が登場し、ただ美しいだけではない全ての楽器が交互に激しいバトルを繰り広げられた内容になっている。終末の直前の救いようのない悲しみがあるような張りつめた緊張感が漂った楽曲である。3曲目の『再び赤い悪夢』は、シャッフルさあるリズムセクションとメタリックなギターによるインプロゼーションが心地よい楽曲。一貫して変拍子や転調、リズムチェンジを繰り返した進行で曲が進み、爽快なシンバルブレイクが印象的である。ヴォーカルのバックで多彩な奏法とエフェクトを使ったフリップの変則的なギターやゲストのイアン・マクドナルドのアルトサックスも聴きどころである。4曲目の『神の導き』は、即興的なヴァイオリンに不穏ともいえるベース音が絡むイントロから始まる楽曲。ヘヴィなギターやハイアットやリムショットを利かせるパーカッションが加わり、うねりを上げるベースによる奔放とも言えるライヴインプロゼーションを創生している。前作の『暗黒の世界』を引き継ぐ、恐ろしいほどの緊張感と切迫感が漂った内容である。5曲目の『スターレス』は、メロトロンを効果的に使用した初期のキング・クリムゾンからジャズエッセンスを加味した後のキング・クリムゾンを包括したような圧巻の展開が素晴らしい屈指の名曲。3人の卓越した非の打ちどころのない演奏に、メル・コリンズやロビン・ミラー、イアン・マクドナルドといったゲスト陣の楽器が絡み、静と動のメリハリを効かせながらドラマティックに進行して行く。中でもセカンドギターの役割を果たしているベースのラインと転調がキーポイントとなっており、儚げなヴォーカルパートや激しいジャズ的なインプロゼーションパートのどちらも存在感を示している。こうしてサックスを交えて一気に終末に向けて加速していき、狂気に似た切迫さと退廃的な美しさをまとった楽曲は終わりを告げる。

 アルバムは音楽評論家から高く評価され、イギリスでのアルバムチャートは45位、アメリカでは66位といった最高位を付けている。しかし、リリースの直前にロバート・フリップによってグループの解散が宣言されていたという。解散は世界的に衝撃が走ったとされているが、ロバートにとってはキング・クリムゾンというグループはすでに終わっていると言いたかったのかも知れない。1974年9月にロバートが解散時に「このグループはすでに存在しない」という言葉を使っていたからである。それでも本アルバムの影響は計り知れない。それはまさにヘヴィメタルのサウンドの原点であり、後に多くのミュージシャンが影響を受けて引き合いに出すほどになる。解散後、ビル・ブルーフォードは、カンタベリーシーンのナショナル・ヘルスやゴング、そしてフィル・コリンズの要請でジェネシスのツアーメンバーなどのセッション活動を経て、1977年にソロアルバム『フィールズ・グッド・トゥ・ミー』を発表している。ジョン・ウェットンは、同じEGレコードに所属するロキシー・ミュージックのツアーに準メンバーとして参加。その後、ユーライア・ヒープに加入して2枚のアルバム制作に携わっている。1978年にビル・ブルーフォードをメンバーにしたスーパーグループ、U.K.を結成するも2枚のスタジオアルバムで解散。1981年にはプログレッシヴロック界の著名なプレイヤーが集結したエイジアを結成することになる。ロバート・フリップは解散後に「もうギターは弾かない」と決心し、半ば音楽業界から引退状態だったという。しかし、キング・クリムゾン活動時でも多くのアーティストとの交流を持ってきた彼に声をかける者は多く、特にデヴィッド・ボウイとブライアン・イーノの呼び掛けで音楽活動に復帰している。後にフリッパートロニクスというロバートが発明した機材を使ったソロアルバム『エクスポージャー』を1979年に発表。そのアルバムにはダリル・ホールをはじめとする多くのアーティストが参加している。自信を得たロバートは1981年にエイドリアン・ブリュー、トニー・レヴィン、ビル・ブルーフォードと共に新生キング・クリムゾンを結成し、7年ぶりとなるアルバム『ディシプリン』をリリースすることになる。解散後のビル・ブルーフォードはジャズロックを目指し、ジョン・ウェットンはドラマティックなプログレッシヴロックを目指すなど、2人はキング・クリムゾンで得た経験を活かそうとしたのだろう。一方のロバート・フリップはプログレッシヴロックそのものが終焉を迎えることを予見していたのかも知れない。1970年代後期のパンク/ニューウェーヴの台頭で、プログレッシヴロックが淘汰されていく中で、ロバート・フリップは何を感じたのであろうか。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は破壊と再生を繰り返してきたキング・クリムゾンがひとつの到達点として作られた7枚目のアルバム『レッド』を紹介しました。このアルバムはキング・クリムゾンの数ある作品の中でも強烈なインパクトを与えたデビューアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』と双璧を成すほど人気の高い作品で、かく言う私も大好きなアルバムでもあります。個人的にいろいろとこのアルバムについて想いはありますが、強いて言うのであれば本アルバムでプログレッシヴロックそのものが確かに終焉に向かうことになったかなと改めて感じたことです。ピンク・フロイドは1973年に初の全米1位となったコンセプトアルバム『狂気』をリリースし、イエスは1973年に大作主義を全面的に打ち出した『海洋地形学の物語』をリリースし、エマーソン・レイク&パーマーは1974年に『恐怖の頭脳改革』をリリースし、ジェネシスは1973年に『月影の騎士』をリリースしています。それぞれ共通しているのは、その後のアルバムからメンバーチェンジがあったり、制作が困難を極めたり、楽曲の方向性が変わったりとひとつの転換期を迎えていることです。キング・クリムゾンがプログレッシヴロックの指標となっているとは言い切れませんが、1972年まで5人メンバーで推移してきたものの、1973年には4人編成となり、1974年には3人なっています。キング・クリムゾンが凄いのはメンバーが減っているにも関わらず、サウンド幅がほとんど変わらず、ひいてはさらに巨大になっていることです。最初期にメロトロンを活用した中世を思わせるサウンドからインプロゼーションを極めたジャズロックへと時代を先取りしたような音楽の高みへと昇りつめていきます。そこにはライヴで培ったメンバー間の緊張感と常に危機的状況だったグループ内の関係性が、ある意味、究極のサウンドを形成しているのだろうと思っています。クリムゾンのサウンドは抒情性と技巧を極めていますが、どこか仄暗く冷めた感じがするのは、そのせいでしょうね。ある意味、プログレッシヴロック、ひいてはロックのひとつの到達点となったアルバムこそ、本作品の『レッド』だとも言えます。

 さて、本アルバムですが、タイトルの『レッド』は、そんなグループ内の危機的状況を表していて言い当て妙だという人もいます。まさしくジャケット裏のメーターが限界のレッドゾーンを振り切っているように、異常ともいえる緊張感とテンションが繰り広げられたサウンドになっています。1曲目の『レッド』からロバート・フリップの硬質なギターとリズムセクションによる執拗なほど洗練されたインプロゼーションとなっており、2曲目の『堕落天使』は彼らの持つ抒情性を引き出したミディアムテンポのバラードとなっており、ロバート・フリップの弾くギターのスケールやリフ、ジョン・ウェットンの悲哀を讃えたヴォーカルが甘美な世界を構築しています。このあたりで一気に惹きこまれていくこと間違いなしです。3曲目の『再び赤い悪夢』はシャッフルさあるリズムセクションを中心に、メタリックさがあふれるギターの質感が結実したアンサンブルとなっています。4曲目の『神の導き』は、ギターとベースによる圧巻のインプロゼーションがサウンドの切迫感を募らせており、5曲目の『スターレス』はどこかデビューアルバムの『クリムゾン・キングの宮殿』を彷彿とさせていて、後の高密度なジャズエッセンスを加味させてきた彼らのサウンドが融合したスケール感のある楽曲となっています。12分に及ぶ長尺の楽曲であるにも関わらず、ひとつも手を抜かず静と動のメリハリを効かせ、ゲスト陣を交えながらキング・クリムゾンの歴史をなぞった展開になっていると感じます。これは1曲目から最後までスタジオアルバムでありながら、彼らのライヴパフォーマンスを余すことなく魅せた作品であり、改めてライヴに長けたキング・クリムゾンらしい曲の構成や展開になっていると思います。これだけの音圧があるくらいだから、ライヴで聴いたらきっと鳥肌が立つだろうな~と、聴くたびに想像してしまいます。

 本アルバムはトリオ編成による高密度なアンサンブルとなった作品です。紆余曲折しながらプログレシーンをリードし、一時代を築いてきた彼らの気迫と緊張感がひとつのエネルギーとして放出されたサウンドは、今聴いても感慨深いものがあります。

それではまたっ!