【今日の1枚】Fruupp/Future Legends(知られざる伝説) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Fruupp/Future Legends
フループ/知られざる伝説
1973年リリース

神話や伝承をモチーフに英国らしい
気品に富んだシンフォニックロックの名盤

 そのクラシカルかつ幻想的なサウンドで根強い人気を誇る北アイルランド出身のプログレッシヴロックグループ、フループのデビューアルバム。そのサウンドはアコースティックギターやストリングス、オルガンといった楽器を中心とした伝統的なフォークのメロディをベースにした抒情派シンフォニックロックとなっており、「The Tramp And The Priest」なる物語に導かれて始まるトータルアルバムとなっている。キーボードによるクラシカルなアレンジだけではなく、ジャズや教会音楽、ブルース、ホンキートンクといった多彩な要素を組み込んでおり、当時のイギリス本土のプログレとはどこか違うアイデンティティを持った名盤でもある。

 フループは1969年にヴィンセント・マッカスカー(ギター、ヴォーカル)を中心に北アイルランドのベルファストで結成されたグループである。結成以前はブルース・バイ・ファイヴというグループ名でR&Bやブルースを中心に演奏しており、地元のパブやクラブでギグを重ね、ロンドンのシンガーソングライターであるキャット・スティーヴンスの北アイルランド公演のバックを務めるなど人気を博していたという。マッカスカーは音楽マネージャーとなっていた友人のポール・チャールズに誘われ、イギリスで活動するためロンドンに渡っている。このマッカスカーのイギリス行きは、当時プログレッシヴ/サイケデリックといった音楽の最先端だった地で活動したいという願いからである。残されたメンバーはキーボード奏者のスティーヴ・ヒューストンを迎えて活動を続行している。一方のマッカスカーはイギリス本土で納得したメンバーが見つからず帰国し、チャールズのマネジメントの下で新たなグループを結成することになる。マッカスカーは自身の書いた曲を演奏してくれるメンバーを募り、ブルース・バイ・ファイヴのメンバーだったキーボード奏者のスティーヴ・ヒューストンやヴォーカリストだったマイルス・マッキー、そしてパブバンドのリードギタリストだったピーター・ファレリーがベーシストとして参加。また、オーディションでドラマーのマーティン・フォイが選ばれ、グループ名をフループとしている。マッカスカーは一度アイルランドに戻ってリハーサルを重ね、1971年6月にロリー・ギャラガーの前座としてデビューを果たすことになる。その数日後にはイギリスのマンチェスターに渡り、シン・リジィの前座として初のイングランド公演を行い、彼らは活動の拠点をイングランドに定めることになる。その後、リードヴォーカリストだったマイルス・マッキーが脱退し、ベーシストのピーター・ファレリーがリードヴォーカリストに就任。彼らはイギリスで何とか知名度を上げるために1971年から積極的にギグを重ね、そのギグの回数は1年に230回にも及んだという。そんなフループの存在を聞きつけたドーン・レコーズの社長であるロビン・ブランチフラワーがDecisionで行われたギグを見て興味を抱き、1973年にパイレコード傘下の新興レーベルであるドーン・レコーズと契約することになる。グループは同年の7月にロンドンの南東のケント州にあるエスケイプスタジオに入り、プロデューサーにデニス・テイラーを迎えてレコーディングを開始。1973年10月にデビューアルバムである『知られざる伝説』をリリースすることになる。
 
★曲目★
01.Future Legends(知られざる伝説)
02.Decision(決意)
03.As Day Breaks With Dawn(夜明け)
04.Graveyard Epistle(土に埋もれた書簡)
05.Lord Of The Incubus(夢魔の王)
06.Olde Tyme Future(過ぎ去りし未来)
07.Song For A Thought(瞑想の詩)
08.Future Legends(知られざる伝説)
★ボーナストラック★
09.On A Clear Day(オン・ア・クリアー・デイ)

 改めてメンバーと楽器を紹介しておこう。ヴィンセント・マッカスカー(ギター、ヴォーカル)、スティーヴ・ヒューストン(キーボード、オーボエ、ストリングス)、ピーター・ファレリー(ベース、リードヴォーカル)、マーティン・フォイ(ドラムス、パーカション)である。ストリングスの指揮者はマイケル・レニーが務めている。アルバム1曲目の『知られざる伝説』は、宮廷音楽のようなストリングスを使用した非常にクラシックでロマンチックなイントロから始まる。2曲目の『決意』は、一転してリズムセクションを加えたドライブ的なギターリフとストリングスによるヘヴィなサウンドで彩ったバラードポップ。ヴォーカルパートはピアノと繊細なリズム隊による英国ロックとなっており、後半は重厚なストリングスを交えたマッカスカーのヘヴィなギターソロは圧巻である。3曲目の『夜明け』はシンフォニックなクラシック音楽とハードなブルースロックを融合した楽曲。キーボードとギタープレイのインタープレイから始まり、ピーター・ファレリーの夢想的なヴォーカルが印象的である。オーボエとピアノのアンサンブルは美しく、ソフト面とハード面のアクセントが強烈な内容になっている。4曲目の『土に埋もれた書簡』は、クラシカルでありながらヘヴィなアンサンブルから始まり、ロマンチックなアコースティックギターとキーボードをバックにしたフォークロックから東洋的なエッセンスのあるオーボエをリードにしたクラシカルなユニゾンとなる。複雑な曲調でありながら畳みかけるようなバロック調の演奏は聴いていて鮮烈である。5曲目の『夢魔の王』は、荘厳なオルガンとストリングス、そしてイエスのスティーヴ・ハウを思わせるギタープレイが満載のフォーキーなハードロック。途中でブギーを挟むなど、クラシカルなピアノやストリングスと相対的なハードなギターの組み合わせが面白い。6曲目の『過ぎ去りし未来』はギターとピアノ&オルガンによる美しいメロディとコントラストで構成された哀愁の楽曲。厳かなオルガンの響きと抑制されたギター、繊細なドラミング、そしてコーラスを湛えたヴォーカルパートなど、牧歌的な英国ロックに寄せた内容になっている。7曲目の『瞑想の詩』は、7分を越えるアルバムの中で最も長いトラックとなっており、アグレッシヴなギターから内省的なヴォーカルパートとなる楽曲。中盤のオーボエの美しいソロを経てストリングスとギターによるエネルギッシュな演奏になっていく。最後はパワフルなリズム隊とギターとストリングスが一体となって締めくくっている。最後の『知られざる伝説』は1曲目の内容をコーラス風にアレンジしている。ボーナストラックの『オン・ア・クリアー・デイ』は、当初はアルバムに収録されていたが、後にアルバムから外された楽曲。スティーヴ・ヒューストンが書いた曲で、煌びやかなオルガンをメインにしたポップテイストの強い楽曲となっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、北アイルランドのフォークロックをベースにクラシカルなオルガンとストリングスを交え、マッカスカーが英国から持ち帰っただろうと思われるハードなギターワークが融合した幻想的で抒情的なプログレッシヴロックとなっている。セカンドアルバムからはテーマに沿った抑制的なサウンドになっていくが、多彩なジャンルを汲み込む複雑な展開があるにも関わらず、一貫して美しいメロディを湛えた本アルバムは強烈であり鮮烈ですらある。

 彼らはアルバムのプロモーションのため、2か月にわたるツアーを実施。ツアーの最後である11月29日ではベルファストのウィットラホールでアルスター・ユース・オーケストラと共演している。そのツアーの間に次のアルバムに向けた制作を行い、1974年4月にセカンドアルバムである『七不思議』、同年8月にはサードアルバムである『太陽の王子~虹の果ての黄金伝説~』を立て続けにリリースしている。その後、キーボード奏者のスティーヴ・ヒューストンは宗教に目覚めたことを理由に脱退。代わりにジョン・メイスンが加入し、1974年11月にアルバムに先駆けてシングル『Janet Planet/Why』をリリースしている。そしてプロデューサーに元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドを迎えて、1975年にリリースした4枚目のアルバム『当世仮面舞踏会』は、その卓越したポップセンスとファンタジックな世界観が昇華されたグループの最高傑作と位置づけられている。1975年12月にはFriars Aylesbury Clubで行われたコンサートをモビールを使って録音したが、マスターテープが火事で焼失したことでリリースには至っていない。彼らはキング・クリムゾンをはじめ、ジェネシスとクイーンサポートする英国ツアーを行い、翌年の1976年には5枚目となるアルバム『Doctor Wide's Twilight Adventure』の制作に取り組んでいる。しかし、レコードのセールスが芳しくなかったことやパンク/ニューウェーヴの到来もあり、1976年9月にロンドンのラウンドハウスでのコンサートを最後に、グループは正式に解散をしている。ヴィンセント・マッカスカーは北アイルランドのパブバンドで演奏を続けた後、音楽ショップに務めたという。ピーター・ファレリーはMGMというグループを結成し、後にザ・ムーンというグループの加入を経てセッションミュージシャンとして活躍。マーティン・フォイはザ・バッド・アーティクルズというアイルランドの人気グループに参加している。ジョン・メイスンはそのままロンドンに残り、ジャズロック&フュージョングループであるVISITOR 2035の1978年のアルバムに参加。その後も仲間と趣味で音楽を続けていたが、残念ながら亡くなっている。なお、2022年にフループの2枚組ライヴアルバム『Masquerading With Dawn』がBad Pressingsレーベルからリリースされている。これは1975年6月12日に行われたライヴ録音が新たに発見され、リマスター化したものである。また、2023年にはDVD、本、CD、グループの関連アイテムが含まれたボックスセット『A Twilight Adventure』が発売されている。このボックスセットは、未発表だった5枚目のスタジオアルバムからタイトルを借用しており、デビューアルバムから50周年を記念して作られたものである。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は愛すべき北アイルランド出身のプレグレッシヴロックグループ、フループのデビューアルバム『知られざる伝説』を紹介しました。フループは1990年にリイシューされたブリティッシュ・プログレ・クラシックスというシリーズのCDから長らく愛聴していたグループです。昨年の2023年にはベル・アンティークより最新リマスター化されたSHM-CD盤がリリースされたばかりで、かく言う私も手に入れた次第です。本アルバムは何よりもステンドグラス風にあしらったジャケットデザインが美しく、驚いたことに本アルバムとセカンドアルバムの『七不思議』のデザインはベーシストのピーター・ファレリーが描いたものだそうです。そのファンタジックなデザインが象徴するように、本アルバムは内ジャケットに書かれている「The Tramp And The Priest(浮浪者と僧侶)」といった物語に導かれて始まるトータルアルバムになっていて、妖精伝説をはじめとする神話や伝承を重んじる北アイルランドらしい世界観に満ちています。

 さて、本アルバムですが、フループがリリースした4枚のアルバムの中でも最もクラシカルで最もアグレッシヴなサウンドとなっています。宮廷音楽を思わせるオープニングから、クラシカルで繊細なフォークロックを期待してしまいますが、だんだんとそのニュアンスからかけ離れていき、意外とハードなオルガンロックとなっていきます。1曲1曲はストリングスを交えたシンフォニック調ではありますが、マッカスカーのギターがワイルドで、さらにリズムやテンポを変えた巡るましい曲調の変化やジャズ、教会音楽、ブルーズ、ホンキートンクといったジャンルをアクセントとして組み込んでいます。一聴すると荒っぽい感じを受けますが、クラシカルなストリングスやオーボエによる牧歌的で素朴な音色が底辺にあり、絶妙なバランスの中で演奏されていることが分かります。それでもホッとするような美しいメロディが随所にあるのは、彼らの演奏レベルの高さに裏打ちされた一種のセンスと言わざるを得ません。この変化に富んだ楽曲を抒情的でどこか牧歌的なニュアンスに変えてしまうサウンドこそ、フループの魅力だと思います。

 フループがリリースした4枚のアルバムは、どれも名盤扱いになっています。北アイルランドらしいファンタジックなテーマをベースにしたドラマティックでロマンティックな楽曲は、1970年代の英国ロックの醍醐味が詰まっています。

それではまたっ!