【今日の1枚】Abedul/Nosotros(アベドゥル/ノソトロス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Abedul/Nosotros
アベドゥル/ノソトロス
1979年リリース

静と動のパートを織り交ぜた
スペインのシンフォニックプログレ

 後にヘヴィメタルグループのEVOに参加するベーシスト兼作曲家のペドロ・ブルークが在籍していたスペインのプログレッシヴロックグループ、アベドゥルの唯一作。そのアルバムは煌びやかなキーボードとヘヴィなギターによるシンフォニックロックとなっており、アナログシンセをフィーチャーした抒情的な「静」のパートとアグレッシヴな展開を魅せる「動」のパートを織り交ぜた魅力的なサウンドとなっている。市場に多く出回ることなく廃盤となったため、長らく陽の目に当たらなかったアルバムだが、2023年にThe Fish Factoryから発見したマスターテープを元に初のリマスターCD化を果たしている。

 アベドゥルはスペインのバルセロナで1979年に結成されたグループである。メンバーはアルバート・アラネガ(キーボード)、ホセ・ルイス・ペレス(ギター)、ルイス・ヴィジエ(ドラムス)、ナルキッソス・ベイジュ(ヴォーカル)、元マシンロックのメンバーだったペドロ・ブルーク(ベース)の5人である。スペインで人気の高かったトリアーナやグラナダといったプログレッシヴ指向の強いグループを作りたかったアラネガとペレスを中心に結成されたと言われており、そこにハードロック指向の強いブルークとヴィジエを加えた形で活動を開始している。アラネガは音楽学校でピアノと作曲を専攻し、同じ作曲家であるペレスと共に曲を創り上げ、地元のバルセロナのクラブを中心にライヴを行っていたという。彼らはレコード会社であるコロムビアのプロデューサーに接近し、ホセ・ルイス・デ・カルロスによるグループ、ロス・チョルボスのメンバーだったホセ・マヌエル・オルテガ・エレディア(芸名マンザニータ)のソロアルバムにも協力している。この流れでプロデューサーにアルバム制作の打診を行ったが、時代はプログレッシヴな音楽を受け入れる市場は無くなりつつあり、スペインではディスコが主に流行していたという。最終的にアルバムのレコーディングは認められたが、グループにとってあまり良い契約では無かったとされている。彼らはバルセロナにあるエストゥディオ・コロンビアというスタジオで数日間レコーディングを行い、1979年末に本デビューアルバム『ノソトロス』をリリースする。そのアルバムは煌びやかなキーボードとギターによるシンフォニックなサウンドに、アグレッシヴなハードロックやファンキーなディスコが溶け合った独特のプログレッシヴロックとなっている。

★曲目★
01.Flash(閃光)
02.Últimos Momentos(最期の瞬間)
03.Walking(ウォーキング)
04.Sobre Fuego(燃えている)
05.El Monstruo Y La Mariposa(怪物と蝶)
06.Impresión(インプレッション)
07.Renacer De La Aurora ~Boreal~(オーロラ・リボーン~北方~)
08.84 H.D.G.

 アルバムの1曲目の『閃光』は、エレクトリックなキーボードとギター、リズミカルなドラムを中心としたアップテンポのインストゥメンタル曲。ピンク・フロイドの『Dark Side Of The Moon』にある『On The Run』を彷彿とさせる。中盤あたりからペレスのロック調のギターとアラン・パーソンズ・プロジェクトを思わせるアラネガのキーボードがなかなか心地よい。2曲目の『最期の瞬間』は、ナルキッソス・ベイジュのヴォーカルをフィーチャーした小曲。シンセサイザーを加味したポップ色の強いニューウェーヴ調のサウンドだが、メロディは一級品である。3曲目の『ウォーキング』は、高揚感のあるハモンドオルガンとヘヴィなギターによるハードロック。途中からオルガンとギターによるユニゾンが展開され、1970年代初期の英国のハードロックに寄せた作りにしている。4曲目の『燃えている』は、シングルカットされた楽曲。ハモンドオルガンのソロからハードロック調のサウンドに代わり、どこかディスコ調が感じられる軽妙さがポイントになっている。5曲目の『怪物と蝶』は、シンセサイザーと抒情的なギターによるバラード曲で、ベイジュのヴォーカルが最も冴えた楽曲でもある。中盤からヘヴィなギターリフとスペイシーなキーボードによるインストや変拍子を加味した曲調の変化といっためくるめく展開があり、プログレッシヴな側面が垣間見れる。6曲目の『インプレッション』は、スペイシーなキーボードとギターリフを中心としたアンビエント指向の楽曲。鳥の鳴き声をフィーチャーしており、ある種のソフトなラテンジャズと言っても良いサウンドである。7曲目の『オーロラ・リボーン~北方~』は、ファンキーな要素のあるポップな楽曲。キーボードとドラミングにスピードがあり、スピードが増すごとにサウンドはディスコ調に変化していく。後半には牧歌的なプログレッシヴロックが挿入されているなど聴きどころが多い。8曲目の『84 H.D.G.』は、荘厳さのあるキーボードと手数の多いドラミングが印象的なプログレッシヴ性の高い楽曲。ギターとキーボードによるユニゾンによるリフが続き、短いながらも心地よい安心感を与えてくれる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前半は煌びやかなキーボードとギターによるポップ調の小曲と言った感じで、後半は抒情性とアグレッシヴ性の両方を兼ね揃えたプログレッシヴな側面を魅せた楽曲となっている。ディスコ調のリズミカルなキーボードをメインにしているあたり、時代に合わせた作りにしているが、最後の方でプログレッシヴな作風を残そうとする彼らの意地がそこはかとなく感じられる。

 アルバムはプロモーションを行わなかったこともあり、ほとんど売れずに終わっている。その後にシングル『Sobre Fuego/84 H.D.G.』のリリースも不発に終わり、グループは早々に解散をしている。解散後、ギタリストのホセ・ルイス・ペレスとドラマーのルイス・ヴィジエは、ヴォーカリストのセルジオ・マカロフのバックバンドを経て、ロス・ラピッズを結成。1980年にアルバムをリリースしたがレコード会社からセカンドアルバムを拒否され、今度はザ・ドンキーズとグループ名を変えて活動している。ドンキーズは1990年代後半まで活動をし、ペレスは作曲家兼ギタリストとして活躍したという。ベーシストのペドロ・ブルークは、バルセロナのナイトクラブ「バーナヘビー」や「メタル」、「レインボー」の広報兼ミュージシャンとして働いていたという。そこでハードロックやメタルに興味を持つグループが集まるのを見て、彼は若きミュージシャン達と共にヘヴィメタルグループ、EVOを結成。1980年代に2枚のアルバムをリリースして、スペイン屈指のメタルグループとして君臨する。彼は後に過激とされたヘヴィメタルの認識を変えるべく、COHE(Colectivo Heavy Nacional)を創設し、「ヘヴィメタルは暴力ではない」というスローガンのコンサートを国内で行っている。ペドロ・ブルークはその後も1980年代にスペインにおけるメタルの祭典を計画しては多くのグループの演奏の機会を与えつつ、海外のメタルグループを招聘するなど力を注いだという。この結果、彼は専門誌「ヘビー・ロック」で最優秀ベーシストに選出するなど高い評価を得ている。1989年には自身のグループであるブルーケを結成するなど精力的な活動をしていたが、1992年7月28日に脳腫瘍で37歳という若さで亡くなっている。それからブルークの死から30年後、本アルバムは廃盤後、長らく再プレスすることなく40年以上経ったが、2023年にグループのメンバーとブルークの家族によって公式にリマスターCD化を果たすことになる。


 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は最近CD化を果たして陽の目を見たスペインのプログレッシヴロックグループ、アベドゥルの唯一のアルバム『ノソトロス』を紹介しました。実はアベドゥルのアルバムは非公式ですが、1990年代に日本のタチカレコードがCDRで販売していたようで、それでグループを初めて知ったプログレファンも多くいたそうです。私はトリアーナやイトイズ、イセベルグ、グラナダといったスペインのプログレッシヴロックグループを聴いてきましたが、このアベドゥルというグループは全く知りませんでした。そんなグループが2023年に初CD化を果たしていることを考えると、まだまだスペインには埋もれたグループがたくさんあるのだと再認識したものです。

 さて、本アルバムですが、1979年というプログレッシヴロックにとっては終焉時にリリースされたものです。一聴するとスペインの数あるプログレの中でもカジュアルな部類に入るサウンドになっていると思います。エレクトリックピアノやシンセサイザーといった煌びやかなキーボードとテクニカルなギターを中心としたシンフォニックロック要素とハードロック要素がうまく合わさったサウンドになっています。そこにディスコ調の要素が加味されているのは、たぶん時代を反映しているのではないかと思います。前半の曲はエレクトロニックなジャズ要素の強いサウンドになっていますが、後半になるにつれてアナログシンセによる抒情的なパートと動きのあるプログレッシヴな展開を織り交ぜたシンフォニックなサウンドになっていきます。決して並外れたアルバムではありませんが、ツボを押さえたメロディをはじめ、スペインならではのキーボードとギターの心地よいユニゾンやアップテンポのアンサンブルは聴き応えがあります。後半のシンフォニック調のサウンドを耳にしたとき、きっと彼らはこんな音楽をやりたかったんだろうな~と思いました。スペインのプログレファンの方は、この機会にぜひ一度聴いてみてほしい作品です。

それではまたっ!