【今日の1枚】Holding Pattern/Holding Pattern | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Holding Pattern/Holding Pattern
ホールディング・パターン/ファースト
1981年リリース

巧みなギターと多彩なキーボードによる
めくるめく展開が魅力の隠れた逸品

 ネオプログレの時代が目前に迫りつつあった1980年代初頭にセルフリリースされた、ホールディング・パターンのデビューアルバム。そのサウンドはスティーヴ・ハケット風の巧みなギターワークとメロトロンやモーグ、グランドピアノ、ハモンドオルガンを駆使したキーボードによる魅力的なメロディを湛えた内容となっており、その絶えず変化する技巧性のある演奏は1970年代のクラシカルプログレを継承した前衛性を持っている。セルフリリースだったため、4曲29分足らずという短いアルバムだったが、1991年にアメリカのCDレーベルであるArt Sublimeから、その4曲を加えた14曲のフルアルバム『マジェスティック』の再発を果たしている。

 ホールディング・パターンは、アメリカのコネチカット州ハートフォードで、ギタリストのトニー・スパーダを中心に結成されたグループである。トニーは音楽学校でアコースティックギターやエレクトリックギター、シンセギター、さらに理論と和声学を学び、ハート音楽大学ではクラシックギターと作曲を専攻していたという。彼は英米のプログレッシヴロックを好んで聴いており、イエスやジェネシス、ハッピー・ザ・マン、ディキシー・ドレッグスがお気に入りだったという。その中でもジェネシスのスティーヴ・ハケットのギター奏法に憧れ、何度もコピーして弾いていたと言われている。卒業後、地元のコネチカット州を拠点にセッションミュージシャンとなり、多くのグループに参加している。当時のコネチカット州はジャズが盛んであり、トニーもジャズギタリストとして演奏していたという。トニーはこの経験からジャズやブルース、ブルーグラス、クラシック、ロックなど、様々な音楽スタイルに精通し、地元のコネチカット州では有名なギタリストの1人となっていたという。転機となったのは1978年にマイアミのタレント・アソシエイツ・エージェンシーでアレンジとプロデュースを担当することになり、また、ABCレコードでスタジオミュージシャンとしてのポジションを得たことである。プロデュース業とコンポーザーの両方の経験をしたトニーは2年後に、地元のコネチカット州に戻り、1980年に元エリシアン・フィールドとウィスパーのメンバーだったドラマーのロバート・ハッチンソンと共にホールディング・パターンを結成。後にメンバーを募り、ベーシストのジェリー・ラランセットとキーボード奏者のマーク・タネンバウムが加入し、4人編成で活動を開始している。コネチカット州を中心にギグを行い、評判が高かったことからトニーの提案でインストゥメンタル曲を中心に自身がプロデュースしたアルバムを出そうと考えたという。それが4曲入りとなった本セルフアルバム『ホールディング・パターン』である。そのアルバムは巧みなトニーのギタープレイとモーグやメロトロン、ピアノ、ハモンドオルガンなどを駆使するマークのキーボードプレイが織り成す爽快なプログレッシヴロックとなっており、高い技巧性と構成美を持った逸品の4曲となっている。

★曲目★
01.Another Point Of View(アナザー・ポイント・オブ・ビュー)
02.Honor Before Glory(ホーナー・ビフォア・グローリー)
03.Jigsaw Dream(ジグソー・ドリーム)
04.Out Of The Tunnels(アウト・オブ・ザ・トンネルズ)

 アルバムの1曲目の『アナザー・ポイント・オブ・ビュー』は、トニー・スパーダの爽快でドラマチックなギター演奏とマーク・タネンバウムの支配的なモーグシンセサイザーで幕を開ける。途中でブレイクを挟み、キャメルのアンディ・ラティマーを彷彿とさせるメロディックなギターを中心としたシンフォニックスタイルに昇華していく。ギターとキーボードが絶えず変化するテーマを導いており、複雑な中に1本芯の通った素晴らしい楽曲となっている。2曲目の『ホーナー・ビフォア・グローリー』は、初期のジェネシス、または完全にヴォーカル曲に転向する前のキャメルを彷彿とさせるトニーの芳醇なギタープレイとキーボードを前面に出した荘厳なシンフォニックロック。エフェクトをかけたギターの響きに焦点を当てており、ギター至高のプログレの逸品となっている。3曲目の『ジグソー・ドリーム』は、ハッピー・ザ・マンの流れを汲むジャズフュージョンテイストの楽曲。モーグシンセサイザーやオルガン、巧みなギター、そして繊細なリズムセクションがうまく合わさっており、また、複雑なブレイクを挟んだりとメンバーの演奏テクニックを強調した内容になっている。4曲目の『アウト・オブ・ザ・トンネルズ』は、テクニカルなフュージョン風のキーボード上でドラマチックなギターが変化を与えているという複雑なテンポを伴った楽曲。複雑に渦巻くキーボードの音色にと激しいリズムセクション、まるで踊るようなトニー・スパーダのギターが特徴的である。めぐるめく展開の中でキーボード奏者のマーク・タネンバウムのセンスが発揮されており、こちらもハッピー・ザ・マンを彷彿とさせる技巧的な演奏が光っている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、4曲ともセルフリリースとは思えないクオリティの高い楽曲となっており、1970年代のキーボードによる荘厳なシンフォニックサウンドに、クラシックプログレファン垂涎の味わい深いギターワークが大きな特徴となっている。前の2曲がジェネシスやキャメル風のプログレッシヴなロックであり、後ろの2曲がハッピー・ザ・マン風の技巧的なフュージョン/ロックといえる。たった4曲で1970年代のプログレから1980年代のフュージョンサウンドを体現しており、そのセンスが後の彼らの音楽活動に大きく影響していくことになる。

 アルバムは地元のコネチカット州を中心としたレコード店のみの流通だったため、プレスした枚数は少なかったとされている。グループはその後もライヴを中心に活動を続け、トニーはセッションギタリストやプロデュース業を兼任している。彼らは1980年代にスティーヴ・モーズやカンサス、リック・ウェイクマン、スティーヴ・ハウのコンサートライヴでも共演を果たし、グループの知名度が上がるにつれて、彼らが残したホールディング・パターンのアルバムが注目されるようになったという。途中でキーボード奏者のマーク・タネンバウムがグループから離脱し、代わりにスティーヴ・コジコウスキーが加入。そしてヴォーカルにジェフ・ブリュワー、パーカッションにカーク・マッケンナ、バックヴォーカルにマーク・ダイアモンドやポッポ・カラーゾが参加したセルフアルバム『Radio Safe』を1990年にカセットテープでリリース。これをきっかけに多くのファンからの要望で、1991年にデビューアルバム『ホールディング・パターン』とカセットテープの数曲、そして新曲を加えた14曲をカップリングしたニューアルバム『マジェスティック』のCD盤を発表している。このフルアルバムのリリースに満足したのかトニーは、グループを同年に解散。トニーはソロに転向し、ホールディング・パターンのメンバーが参加したソロアルバム『バランス・オブ・パワー』を発表。そのアルバムは批評家から絶賛され、特にプログレッシヴロックファンから高い評価を得たという。彼は2005年にもセカンドソロアルバム『ザ・ヒューマン・エレメント』をリリースしており、演奏はトニー・スパーダのギターとロブ・ゴットフリードのドラムス、トニー・カステラーノのベース兼キーボードのパワートリオとなっている。同年にホールディング・パターンのオリジナルメンバーが集って再結成を果たし、ライヴを経て2008年1月にアルバム『ブレイキング・ザ・サイレンス』をリリース。そのアルバムのボーナストラックには2005年に東京で開催されたポセイドンフェスティバルでのライヴが収録されているという。2008年からはライヴツアーを敢行し、ノースカロライナ州のチャペルヒルを皮切りにボストン、トロント、イタリア、ポルトガル、リトアニア、フィンランド、ラトビアと周り、2009年10月には天才ギタリストであるスティーヴ・モーズとの共演を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアメリカのコネチカット州出身のプログレッシヴロックグループ、ホールディング・パターンのデビューアルバムを紹介しました。ホールディング・パターンは1991年にフルレンスのアルバムがリリースされていますが、実は未入手でして、今回、2000年初頭あたりに入手したCleefo Recordsの輸入盤の4曲入りのアルバムを取り上げています。個人的にはギタリストのトニー・スパーダの方を知っていまして、彼のソロアルバム『バランス・オブ・パワー』のCDを持っています。こちらも輸入盤でしたが、スティーヴ・モーズ・バンドと同じようなパワートリオとなっていて、トニーのロックとも言えずジャズとも言えない多彩なスタイルのギタープレイが魅力的です。このあたりも共演したスティーヴ・モーズのギタースタイルに影響を受けた可能性があります。ホールディング・パターンのメンバーを参加させているので、事実上、トニー・スパーダ名義となっただけのセカンドアルバムと言っても良いと思います。今ではギター指向のプログレッシヴロックの優れた1枚として認知されているそうです。機会があればぜひ聴いてみてください。

 さて、そんなトニー・スパーダのギターをフィーチャーした本アルバムですが、1981年リリースというプログレッシヴロックとしては終焉を迎えていた時期であり、英国のマリリオンを筆頭にネオプログレが台頭するのは1983年頃です。アメリカでもその時期はニューウェイヴ、パワーポップ、AORなどが盛んで、プログレッシヴロックを標榜したアルバムなどリリースしてくれるレコード会社なんて皆無だったと思われます。そのため、セルフリリースという形になったわけですが、プロデュース業も兼ねていたトニー・スパーダだからこそ出来た非常にクオリティの高いインストゥメンタル作品になっています。トニーの変化するメロディに基づいたシンフォニック調のドラマティックなギターと、マーク・タネンバウムの支配的なムーグシンセサイザーやメロトロン、ピアノ、ハモンドオルガンは、キャメルの『雨のシルエット』のインストゥメンタル部とハッピー・ザ・マン、スティーヴ・ハケット在籍時のジェネシスをミックスさせたようなメロディアスなプログレッシヴロックと言えます。さらに素晴らしい数のブレイクがあり、カンタベリーテイストのフュージョンも加味させていて、テクニックだけに頼らない時代に沿ったサウンドを構築しているのも印象深いです。たった4曲の29分に満たないアルバムですが、その高い技巧性も相まって、1970年代のプログレファンも虜にするほど優れた作品だと思います。

 ハッピー・ザ・マンをはじめ、後期キャメルや初期ジェネシスのファンに聴いてほしいことはもちろんですが、スティーヴ・モーズ風の天性のセンスを持ったトニー・スパーダのギタープレイもぜひ堪能してほしいです。

それではまたっ!