【今日の1枚】Big Sleep/Bluebell Wood | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Big Sleep/Bluebell Wood
ビッグ・スリープ/ブルーベル・ウッド
1971年リリース

哀愁のオルガンやストリングスを加えた
リリシズム溢れる格調高い英国ロック

 1966年から活動してきたアイズ・オブ・ブルーからグループ名を変更してリリースされた、ビッグ・スリープの唯一作。そのアルバムはクラシカルなストリングスやオルガン、格調高いピアノ、ブルージーなギター、感傷的なヴォーカルなどを湛えつつ、サイケデリック性やスワンプ要素のある1970年代初期らしい哀愁のブリティッシュロックとなっている。あまりにも個性的なアルバムジャケットとサウンドがかけ離れていたために多くのリスナーに届けられることは無かったが、その抒情性溢れるメロディは一聴に値する。後にジェントル・ジャイアントに加入するドラマーのジョン・ウェザースが在籍していたことでも有名である。

 ビッグ・スリープは1966年から活動してきたアイズ・オブ・ブルーからグループ名を変更したものである。アイズ・オブ・ブルーはイギリス南西部にあるウエールズのニース出身のグループで、ザ・マスタングスというビートバンドで活動していたメンバーを中心に結成されている。当時のメンバーはウィンダム・リーズ(ヴォーカル)、レイモンド・ウイリアムス(ギター)、リッチー・フランシス(ベース)、ゲイリー・ピックフォード=ホプキンズ(ギター、ヴォーカル)、フィル・ライアン(キーボード)、ジョン・ウェザース(ドラムス)の6人編成となっている。彼らは1966年に開催されたメロディ・メイカー誌主催のコンテストで優勝し、デッカレコードと契約。1967年までに2枚のシングルをリリースしている。その曲はプロデューサーにノエル・ウォーカーが担当してたことあり、R&Bやソウルをベースとしたサイケデリックなサウンドであったという。その後、メンバーを替えながら陽の目の当たらない活動を続けていたが、プロデューサーのルー・レイズナーに見出され、レーベルをマーキュリーに移籍している。アメリカ人であるルー・レイズナーは、当時イギリス支社に出向いており、偶然にも彼らのサウンドを聴いて将来性を見たのだという。彼らはルー・レイズナーのプロデュースの下、1968年にデビューアルバム『ザ・クロスローズ・オブ・タイム』をリリース。そのアルバムには当時マーキュリー傘下のパルサー・レーベルに所属していたグラハム・ボンドが2曲提供している。アルバムリリース後、レイズナーは彼らをバジー・リントンのバックバンドを務めさせたり、映画のサウンドトラックに起用したり、またはカエターノ・ヴェローゾの楽曲のアレンジをフィル・ライアンに依頼するなどしたという。そうした活動の中、1969年にセカンドアルバム『イン・フィールズ・オブ・アルダス』を発表。そのアルバムもグラハム・ボンドの曲を取り上げているが、様々なジャンルの楽曲が並ぶトータル作となっており、時代を反映させたロックアルバムとなっている。

 ライヴでも1967年のピンク・フロイドとの共演をはじめ、1969年にはラヴ・スクラプチャーやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター、レッド・ツェッペリンなど層々たるグループと演じている。1970年にはレイズナーとドラムスのジョン・ウェザースがプロデュースしたエインシェント・グリースの『ウーマン・アンド・チルドレン・ファースト』が発表される。その作品にはジョン・ウェザースやゲイリー・ピックフォード=ホプキンズ、フィル・ライアンも参加していたが、好作品にも関わらず商業的な成果は上がらなかったという。この状況を打開するため、レイズナーは彼らにグループ名の変更とレーベルの変更を進言している。やがて彼らはビッグ・スリープというグループ名にし、レーベルをB&C傘下のペガサスに移籍することになる。この時、ヴォーカルのウィンダム・リーズは脱退しており、メンバーはゲイリー・ピックフォード=ホプキンズ(ギター、ヴォーカル)、レイモンド・ウイリアムス(ギター)、リッチー・フランシス(ベース、ヴォーカル)、フィル・ライアン(オルガン、ピアノ)、ジョン・ウェザース(ドラムス、ヴォーカル)の5人となっている。グループ名とレーベルの変更という環境の中で、ルー・レイズナーがプロデュース、ジョン・ティンパーリーがレコーディングエンジニアを務めた作品が本アルバムの『ブルーベル・ウッド』である。事実上、アイズ・オブ・ブルーのサードアルバムにあたるが、繊細なヴォーカルにシリアスなピアノやストリングスが絡むという、これまでのR&B路線から飛躍的に変化した格調高いサウンドになっている。

★曲目★
01.Death Of A Hope(デス・オブ・ア・ホープ)
02.Odd Song(オッド・ソング)
03.Free Life(フリー・ライフ)
04.Aunty James(アンティ・ジェイムス)
05.Saint & Sceptic(セイント・アンド・セプティック)
06.Bluebell Wood(ブルーベル・ウッド)
07.Watching Love Grow(ウォッチング・ラヴ・グロウ)
08.When The Sun Was Out(ホエン・ザ・サン・ワズ・アウト)

 アルバムの1曲目の『デス・オブ・ア・ホープ』は、シリアスなピアノの音色と情感たっぷりのヴォーカルから始まり、そしてストリングスが加わった途端にクラシカルな雰囲気が漂う楽曲。中盤にはヴァイオリンを含むポップ風の作りになっており、曲を提供したジョン・ウェザースのアレンジ力の素晴らしさを痛感する。2曲目の『オッド・ソング』はピックフォード=ホプキンスが提供した楽曲。美しいオルガンの響きからアコースティックギター、ピアノをベースにしたフォーク風のサウンドとなっている。後半はエレクトリックギターが加わったロックンロールになっている。3曲目の『フリー・ライフ』はジョン・ウェザースの曲で、ドリーミーなオープニングからピアノやギターが効果的に使われたブルース曲になっている。オルガンを使用しているが、後半になるにつれてジミー・ペイジ風のギターがあり、曲調がレッド・ツェッペリンを思わせる。4曲目の『アンティ・ジェイムス』は、リッチー・フランシスが提供したピアノを中心としたユーモラスな楽曲。英国風の洒落たポップとなっているが、暗いヴォーカルのためかマイナー調に聴こえてしまう。それでも曲展開は哀愁を帯びており、手数の多いドラミングなど聴きどころが多い。5曲目の『セイント・アンド・セプティック』もフランシスの曲であり、厳かな響きのあるオルガンとギターから、ワウワウのギター、コーラスのあるヴォーカル曲。美しいメロディから一転してストリングスを交えた複雑な曲展開となっていき、掴みどころのない内容となる。アレンジにジョン・ウェザースが加味しているところから、後のジェントル・ジャイアントに迫るような楽曲である。6曲目の『ブルーベル・ウッド』は、フランシスが提供した11分を越える大曲。オルガンやピアノによる穏やかなイントロからフルートをはじめとする管楽器が加わり、後にスワンプ、サイケデリック、ジャズロック、ブルースが入り混じるような展開となる。後半にはオルガン全開のキーボードロックとなり、そこにヘヴィなギターが絡むという素晴らしいアンサンブルを披露している。独特なベースラインも必聴である。7曲目の『ウォッチング・ラヴ・グロウ』は、美しいピアノのイントロから始まる小曲。ゆったりとしたヴォーカルからリズム隊が加わると一気にリズミカルなサウンドとなるのが印象的である。8曲目の『ホエン・ザ・サン・ワズ・アウト』は、今までの仄暗い曲調とは打って変わったノリの良い陽気なロックンロールナンバーとなっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、クラシカルなピアノやブルージーなギター、そして哀愁のヴォーカルが非常に英国らしい湿っぽさを持っているが、ヴァイオリンを含めたストリングスが加わったことで格調高いロックサウンドになっていると思える。ジョン・ウェザースをはじめとするアレンジャーの働きで、単調になりがちな曲が目まぐるしく曲調を変化させているなど、プログレッシヴな感性が随所にあり、メンバーが持つ個性が絶妙なバランスの中で活かされたアルバムであることが良く分かる。

 アルバムは1970年代初期の英国ロックの薫り漂う好作品だったが、商業的な成功を収めることはなく、アルバムリリースした年にグループは解散している。解散後、ベーシストのリッチー・フランシスは、1972年にレイズナーがプロデュースした『ソング・バード』というソロアルバムをペガサスからリリースしている。ギタリストのゲイリー・ピックフォード=ホプキンズは、ワイルド・ターキーやリック・ウェイクマンのグループ、山内テツ&ザ・グッド・タイムズ・ロール・バンドなどを渡り歩き、2003年にソロアルバム『GPH』を発表する活躍を見せていたが、2013年に病気のために65歳で亡くなっている。ドラムスのジョン・ウェザースとキーボード奏者のフィル・ライアンは、ピート・ブラウンのピブロクトに参加し、後にギタリストだったレイモンド・ウイリアムスも加入。ピブロクト解散後はそれぞれの道に進み、ウイリアムスはピート・ブラウンのソロアルバム『ザ・“フォゴトン”・アソシエイション』に参加。ライアンは同郷のロックグループであるマンに参加し、その後、ウイリアムスと共にニュートロンズを結成している。ライアンはピート・ブラウンとのデュオ名義で多くのアルバムを作成したという。ウェザースは1972年からジェントル・ジャイアントに参加して1980年までプレイし、他にもワイルド・ターキーやグラハム・ボンドのマジック、グリース・バンドといったグループなど多岐に渡って参加している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はジェントル・ジャイアントのドラマーであるジョン・ウェザースが在籍していたことで有名なビッグ・スリープの『ブルーベル・ウッド』を紹介しました。タイトルの『ブルーベル・ウッド』とは、英国などに産する、青色の釣り鐘形の花をつける植物が敷き詰められた森のことで、別名、妖精の青い森とも言われています。写真で見ると分かりますが、美しいことはもちろん、緑の樹木と青いラベンダーのようなブルーベルが敷き詰められた空間は幻想的ですらあります。この11分を越える収録曲『ブルーベル・ウッド』を中心としたアルバムですが、全体的にリリシズムなピアノとクラシカルなオルガンをバックに情感のこもったヴォーカルが身に染みるブリティッシュ然としたサウンドになっています。ワウワウのギターがあったりしてサイケデリックな名残はあるものの、キーボード奏者のフィル・ライアンがアレンジしたという美しいヴァイオリンを含んだストリングスもあって、1960年代から確実に一歩進んだ内容になっています。さらに10分を越えるタイトル曲をはじめ、特徴的なベースライン、フルートといった管楽器が入っているなど、プログレッシヴな感性も息づいています。これだけ聴きどころの多い抒情的なアルバムにも関わらず、上にも書いた通り二度見したくなるようなジャケットデザインですよ。暗い洞窟の中で手から足の生えた意味不明の生き物(モンスター)が立ち塞いでおり、まるで剣士や魔法使いが立ち向かって倒されたのかと思わんばかりのジャケット裏の絵になっています。ジャケットの絵はスティーブ・トーマス・アソシエイツというデザイナー集団が描いたものです。彼らはザ・ローリング・ストーンズの『Get Yer Ya-Ya's Out!』やスリー・マン・アーミーの『ア・サード・オブ・ライフタイム』といったアルバムジャケットを手掛けています。たぶん、1曲目の『デス・オブ・ア・ホープ(絶望)』からイメージして描いたのではないかと思われます。とはいえ、もう少し、内容に沿ったジャケットデザインにしても良かったのではないでしょうか。今でも曲を聴いた後にジャケットを見るとうなだれてしまいます。ちなみにヨーロッパ盤はブルーベルに顔を模したコミカルなイラストになっていました。そりゃそうだろうな~と。

 本アルバムは前身グループであるアイズ・オブ・ブルーの事実上、三作目にあたる作品ですが、これまでR&B中心だったサウンドからピアノやオルガン、ストリングスといったクラシカルな要素を加味したぶん、非常に格調高い内容になっています。というよりも絶妙と言っても良いくらいのバランスのアンサンブルになっています。メンバーは解散後に多岐に渡って活躍していくことになりますが、本アルバムに至ってはそんなメンバーの個性が重なり合った稀有な作品と言ってもよいと思います。聴けば聴くほど味わい深い哀愁のブリティッシュロックが感じられるはずです。アルバムジャケットはさて置き、ぜひ、通して聴いてほしいです。

それではまたっ!