【今日の1枚】Ragnarok/Ragnarok(ラグナロク) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Ragnarok/Ragnarok
ラグナロク/ファースト
1975年リリース

壮大なメロトロンと哀愁のギターによる
浮遊感のあるシンフォニックロック

 北欧神話の世界における終末の日を表す「ラグナロク」を名にした、ニュージーランドのプログレッシヴロックグループのデビューアルバム。そのアルバムはニュージーランドのロックグループとしては初となるメロトロンを大々的に使用し、英国のプログレに影響を受けたと思われる哀愁のメロディと、モーグシンセサイザーを利用した浮遊感のあるサイケデリックな要素のあるシンフォニックロックとなっている。女性ヴォーカリストのリー・マールフリッドの神秘的な歌声と合わせてセバスチャン・ハーディーやピンク・フロイドに迫るそのサウンドは、アルバムチャートで国内のロックアーティストとしては異例の10位を記録する傑作となっている。

 ラグナロクは1974年にニュージーランド北島の都市オークランドで結成されたグループである。元々は1970年初頭に結成したロス・ミューア(ベース、ヴォーカル)、マーク・ジャイエット(ドラムス)、アンドレ・ジャイエ(キーボード、ヴォーカル)といったクライストチャーチ出身のスウィート・フィートというトリオグループが母体となっている。後にギタリストのジョン・フィールディング が加入したことにより、グループ名をフライング・ワイルドに変えている。彼らは国内のすべてのパブを回る活動をしており、当初はピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンといった英国のロックをカヴァーするなど、パブでは人気のグループだったという。しかし、ギタリストのジョン・フィールディングが、キーボード奏者のニール・インウッドと共にトルピード・ジーンというグループを結成するために脱退。代わりのギタリストにラモン・ヨークを迎えて再スタートを切ったものの音楽に行き詰まってしまい、1973年にグループは活動停止に陥っている。残った4人は音楽の方向性を模索していた時に転機が訪れる。それは国内で音楽プロデューサーも兼ねていたアンドレ・ジャイエが、国内で輸入されたばかりのメロトロンという楽器を手に入れたのである。メロトロンという楽器はニュージーランドのアーティストの楽曲で使用されたことが無く、ジャイエはこのメロトロンを大々的に使用した音楽を作ろうとオリジナルの曲を作り始めたという。彼が意識したのは英国のピンク・フロイドやイエスといったプログレッシヴロックであり、また、1973年にデビューして人気グループとなっていたオーストラリアのセバスチャン・ハーディーである。そして同じく国内のパブで人気だった女性ヴォーカルのリー・マールフリッドを迎えたことで、グループ名を北欧神話の世界における終末の日のことであるラグナロクとしている。ジャイエは自身でプロデューサーを担いつつメンバーと共にリハーサルを行い、知り合いであるStebbing Recording Centerのエンジニアであるトニー・モーンの下でアルバムレコーディングを行っている。そして国内でシングルを中心に扱っていたレボリューションという小さなレーベルから、1975年に同名のデビューアルバムがリリースされることになる。そのアルバムはモーグシンセサイザーやメロトロンを駆使した壮大なキーボードと、伸びやかなトーンで哀愁感たっぷりのギター、そしてパワフルでありながら神秘的なリー・マールフリッドのヴォーカルによるサイケデリック性の強いシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Fenris(フェンリス)
02.Butterfly Sky(バタフライ・スカイ)
03.Fire In The Sky(ファイン・イン・ザ・スカイ)
04.Rainbow Bridge(レインボー・ブリッジ)
05.Raga(みんな)
06.Caviar Queen(キャビア・クイーン)
07.Dream(ドリーム)
08.Dawning Horn(暁の角笛)

 アルバムの1曲目の『フェンリス』は、シングルで大ヒットとなった名曲。浮遊感のあるメロトロンをバックに神秘的なリー・マールフリッドのヴォーカルが冴えており、サイケデリックなギターを交えたファンタジック性のある楽曲となっている。2曲目の『バタフライ・スカイ』は、こちらもメロトロンを大々的に使用し、ロス・ミューアをリードとした男性陣によるヴォーカル曲。セバスチャン・ハーディーを思わせるメロディとなっており、哀愁のあるギターが胸を打つ。3曲目の『ファイン・ザ・スカイ』は、リー・マールフリッドの力強いヴォーカルとメロトロンを中心とした英国ロックを意識した楽曲。後半になるとヴォーカルのハイトーンと共に手数が多くなるドラミングが印象的である。4曲目の『レインボー・ブリッジ』は、水の音と合わせた淡いアコースティック風のギターとパーカッションを中心とした静を強調した楽曲。中盤からモーグシンセサイザーによるサイケデリックな雰囲気となり、一気にスペイシーなサウンドに変化していく。そして再度静かなるギターの音色と美しいメロトロンの響きに乗せた柔らかな男性ヴォーカルが印象的である。5曲目の『みんな』は、クラウトロックにありがちなスペイシーな音から始まり、シンセサイザーとメロトロン、そして哀愁のギターによるコズミックサウンド。キーボードによる浮遊感を表す一方で、しっかりシンフォニック性のあるサウンドを示しているのが心地よい。6曲目の『キャビア・クイーン』は、2枚目のシングルとなった楽曲で、明朗なギターのアルペジオと軽快なリズムを中心とした開放的なナンバー。ギターの使い方や変拍子のあるリズムが、まるでイエスのようである。7曲目の『ドリーム』はアコースティカルなギターの音色とうっすらと鳴り響くメロトロンを活かした楽曲。そこにエレクトリックなシンセサイザーが加わり、タイトル通り夢うつつな世界を描いている。8曲目の『暁の角笛』は、重いギターとリズムセクションを中心としたサイケデリック性の強いハードロック。荘厳なコーラスが加味されておりシンフォニックな要素もあるが、最後は実験的なサウンドで終えている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前半はメロトロンを駆使したシンフォニック性の強い楽曲になっているが、後半になるにつれてモーグシンセセイザーによるサイケデリック性の強い楽曲になっている。これといった演奏技術は披露した楽曲はほとんど無いものの、リズミカルな曲はロス・ミューアの優れたベースとマーク・ジャイエットの安定感のあるドラムがあったからだといえる。

 本アルバムはニュージーランド国内で初となるメロトロンを使用したプログレッシヴロックということで話題が沸騰。ニュージーランドのアルバムチャートではロックアーティストとしては異例の10位を記録している。また、すぐに2枚のシングル『フェンリス/ファイン・イン・ザ・スカイ』、『キャビア・クイーン/ボーン・トゥ・ワンダー』がリリースされ、ラジオでも頻繁に流れるほど大ヒットしたと言われている。その後、ヴォーカルを務めたリー・マールフリッドはグループから離れ、ソロ活動に専念していくことになる。彼女が抜けたことでメンバーは4人となったが、専任のヴォーカルは置かずに全員がヴォーカルを兼任することに決めている。次の年の1976年にポリドールと契約することに成功し、セカンドアルバム『Nooks』を発表。合わせてシングル『Five New Years/The Fourteenth Knock』もリリースしたが、カリスマ的であったリードヴォーカリストのリー・マールフリッドがいなくなったことと、英米のプログレッシヴロックが下火になった影響から、前作よりも大きく売り上げを落としてしまったという。彼らは再び音楽の方向性を見失うことになり、1976年11月26日のラジオ放送用として録音されたライヴコンサートを最後に解散することになる。ちなみにライヴの音源は『Live In New Zealand』というタイトルで、2006年にCDとしてリリースされている。解散後のメンバーのほとんどはセッションミュージシャンとなり、キーボーディストのアンドレ・ジャイエは音楽プロデューサーとして活躍している。また、デビューアルバムでリードヴォーカリストを務めたリー・マールフリッドは最も成功したメンバーとなっている。彼女はソロ転向後、ジョー・コッカーのニュージーランドツアーでのオープニングを含むシングル曲をリリースして、国内で注目の歌手となっている。その後はロンドン、ロサンゼルス、ナッシュビルに移り住み、ソングライターとして活動し、シーナ・イーストンの『You Could Have Been With Me』やボニー・レイットの『Storm Warning』といった曲を提供している。彼女は2000年代に入って再度音楽活動を開始しており、2004年に12曲入りアルバム『Goddess of Love』をリリースしている。本アルバムはニュージーランド以外の流通は無く、国外に広まることなく廃盤となっている。しかし、インターネットの普及と同時にプログレファンを中心に作品が認知され、そのシンフォニックな演奏が高く評価されて多くの人が再発を願っていたという。やがてリリースから47年後の2022年3月に念願のCD&レコードの再発がFrenzy Musicから果たされることになる。再発は奇しくも2020年6月23日に逝去したアンドレ・ジャイエの追悼が込められている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は数少ないニュージーランドのプログレッシヴロックグループ、ラグナロクのデビューアルバムを紹介しました。ラグナロクと言えば1972年に結成したスウェーデンのジャズロックグループやノルウェーのイェルフとジョンソによって1994年に結成されたブラックメタルグループなどがありますが、若い人にとってはオンラインゲームのラグナロクの方が有名かも知れません。その中でもこの数年にニュージーランドにもラグナロクというプログレッシヴロックグループがあることを知りました。オセアニアではオーストラリアのセバスチャン・ハーディーがあまりにも有名ですが、ホントにこの数年のあいだに知られざるオーストラリアやニュージーランドのロックグループが陽の目を見るようになってきたと思います。本アルバムも長らく失われていたマスターテープを発掘して、CD盤(レコード盤)で再発リマスター化したのが2022年です。しかも47年ぶりです。まさに知る人ぞ知るアルバムと言っても良いです。

 さて、アルバムですがシンフォニックロックとしての一面を持っているものの、1970年代の古典的な英米独のロックに影響されたと思えるサウンドになっています。最大のポイントはニュージーランドに輸入されたばかりのメロトロンを大胆に使用していることで、他にもアンドレ・ジャイエによるモーグシンセサイザーやオルガンが大きくフィーチャーされています。また、ラモン・ヨークのヘヴィなギターもなかなかかっこ良く、抒情的な英国のロックに寄せているのも好感が持てます。それにも増して女性ヴォーカリストのリー・マールフリッドの神秘的な歌声は惹かれるものがあって、アルバムのクオリティは結構高いです。1曲目の『フェンリス』や2曲目の『バタフライ・スカイ』などの哀愁のあるメロディは、きっと日本人なら好きになると思います。彼らは自分たちの音楽をスペースロック、またはコズミックロックと言っている通り、確かにスペイシーなサウンドやサイケデリックな要素もあります。この辺りは結成以前からピンク・フロイドの曲をライヴなどでカヴァーしていたことが由来しているのだと思っています。

 ここでは割愛していますが、再発したFrenzy MusicのCDリイシュー盤には、シングル『キャビア・クイーン』のB面に収録した『ボーン・トゥ・ワンダー』やラジオクリップ曲、『バタフライ・スカイ』と『Raga』のライヴバージョン、そしてリー・マールフリッドがトランスフォーマーというグループと組んでいたシングル曲、グループ結成前のフライング・ワイルドの5曲がカップリングされています。ラグナロクを知る上ではこれ以上ない内容になっていますので、気になった方はぜひ聴いてみてみてください。

それではまたっ!