【今日の1枚】Jethro Tull/Aqualung(ジェスロ・タル/アクアラング) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Jethro Tull/Aqualung
ジェスロ・タル/アクアラング
1971年リリース

信仰や宗教に関するイアンの
音楽的知性が表れた初期の歴史的な名盤

 ロックにフルートを持ち込み、デビュー当初から独自の存在感を放っていたプログレッシヴロックグループ、ジェスロ・タルが1971年に発表した4枚目のアルバム。そのアルバムはこれまでよりもキーボードの割合が多くなり、プログレ的な要素とトラッド的な音作りが絶妙なブリティッシュロックのエッセンスが凝縮された作品となっている。また、信仰や宗教に関するテーマを盛り込み、その知性あふれる歌詞が話題となり、全英アルバムチャートでは最高4位を記録し、アメリカのビルボード200では7位という初の全米トップ10入りを果たすなど、一躍世界的なグループにのし上がった初期の名盤である。

 ジェスロ・タルはブルースをルーツとするグループ、ジョン・エヴァンズ・スマッシュの元メンバーだったイアン・アンダーソンとグレン・コーニックを中心に1967年に結成されたグループである。ジェスロ・タルというグループ名の由来は、18世紀の農民で発明家だった男の名前であり、スコットランド・エディンバラ出身のイアン・アンダーソンは、その男の名前をとってグループ名にしている。結成当時のラインナップは、イアン・アンダーソン(フルート、ヴォーカル)とグレン・コーニック(ベース)、ミック・エイブラハムズ(ギター、ヴォーカル)、クライヴ・バンカー(ドラムス)の4人で、ジャズやブリティッシュトラッドといった泥臭いフィーリングを含むなど、他のブルースロックグループとは一線を画した曲を演奏していたという。1968年にアイランズ・レコードと契約した彼らは、デビューアルバム『日曜日の印象』をリリースし、ロックにフルートを持ち込んだ画期的な作品として注目されたという。年末にローリング・ストーンズが製作したTVショー『ロックンロール・サーカス』の出演が決まっていたが、リリース直後にミック・エイブラハムズが脱退。1968年12月に後にブラック・サバスと改名してデビューするアースのギタリスト、トニー・アイオミを一時的に参加させて『ロックンロール・サーカス』の収録を乗り切っている。この時のステージではイアン・アンダーソンの片足立ちのフルート演奏が注目され、その衝撃的なフルート奏法に観客は度肝を抜いたという。最終的にはゲッセマネというグループのギタリストであったマーティン・バーが加入し、セカンドアルバム『スタンド・アップ』を1969年にリリース。アルバムに収録されたJ.S.バッハの楽曲をジャジーにアレンジしたインストゥメンタル曲『ブーレ』に注目を集まり、そのブルース以外にも音楽性を拡充させたことで全英アルバムチャート第1位を獲得している。その後、クリサリスレコードに移籍し、オルガン、キーボード奏者にジョン・エヴァンを新たにメンバーとした1970年リリースのサードアルバム『ベネフィット』は、アメリカのアルバムチャートで11位を記録。アメリカでは同じクリサリスレコードに所属するトラフィックやテン・イヤーズ・アフター、プロコル・ハルムなどと共に人気のブリティッシュロックグループとしての地位を確定させている。その後、ベーシストのグレン・コーニックが脱退し、代わりにイアンの幼馴染であったジェフリー・ハモンドが加入し、次のアルバムの制作に向けて動き始める。グループはこれまでイアン・アンダーソンの文学的な気品とリリシズムを毒々しいユーモアを交えてテクニックで演出していたが、イアン自身は今度のアルバムに信仰や宗教に関するテーマを盛り込もうと以前から考えていたという。レコーディングは1970年のクリスマスの前後に行われ、プロデューサーにイアン・アンダーソンとテリー・エリスが担当した4枚目のアルバム『アクアラング』が1971年にリリースされる。そのアルバムはこれまで以上にキーボードの割合が多くなり、プログレ的な要素の強い音楽性に宗教と人間の関係といったテーマが融合したジェスロ・タルの初期のコンセプト作として注目された名盤となっている。

★曲目★
01.Aqualung(アクアラング)
02.Cross-Eyed Mary(クロス・アイド・マリー)
03.Cheap Day Return(失意の日は繰り返す)
04.Mother Goose(マザー・グース)
05.Wond'ring Aloud(驚嘆)
06.Up To Me(アップ・トゥ・ミー)
07.My God(マイ・ゴッド)
08.Hymn 43(讃美歌43番)
09.Slipstream(後流)
10.Locomotive Breath(蒸気機関車のあえぎ)
11.Wind-Up(終末)

 アルバムの1曲目の『アクアラング』は、その名の通りスキューバ・ダイバーが水中で泡を立てながら息をするイメージから作られた造語で、浮浪者の視点から社会の卑劣な側面を探った楽曲。軽快さとヘヴィさのあるギターリフとヴォーカルを中心にした壮大なタッチの内容になっており、ジェフリーのピアノが哀愁を帯びている。後半のギターとピアノのアンサンブルはエネルギッシュで痛快であり、フルートが演奏に加わっていない数少ない楽曲にもかかわらず人気の高い名曲である。2曲目の『クロス・アイド・マリー』は、イアンのフルートとピアノ、メロトロンから始まるブリティッシュナイズされた楽曲。ヘヴィなギターリフに存在感のあるリズムセクションが印象的だが、クラシカルなエッセンスのあるフルートが魅力的である。3曲目の『失意の日は繰り返す』は、流麗なアコースティックギターによるフォークタッチの楽曲。短い曲だが柔らかなヴォーカルが牧歌的なブリティッシュフォークを彷彿とさせる。ちなみに英タイトルの『チープ・デイ・リターン』とは、電車の切符の名前に由来している。3曲目の『マザー・グース』は、フルートとアコースティックギターによるトラディショナルな楽曲。途中から魅惑的なエレクトリックギターが使用されており、単なるフォークロックにとどまらないセンスを誇っている。5曲目の『驚嘆』は、アコースティックギターと美しいストリングスによる素晴らしい楽曲。エヴァンの優しいピアノが効果的であり、心温まるクラシカルな内容になっている。6曲目の『アップ・トゥ・ミー』は、笑いのイントロを持ち、アコースティックギターとフルートによるユニゾンリフが目立った楽曲。時折入ってくる笑い声とエレクトリックギターが曲に狂気を与えている。7曲目の『マイ・ゴッド』は、リリカルなアコースティックギターによるアルペジオ、そしてエレクトリックギターパート、フルートソロ、コーラスを盛り込んだプログレッシヴロック要素の高い楽曲。ここでは神と宗教に関するイアンの意見を要約するというコンセプトで作られている。8曲目の『讃美歌43番』は、ジェフリーのピアノとブルージーなギターをベースにしたノリの良いロックンロール。終始ヘヴィな演奏となっているが、フルートとピアノが良いアクセントとなっている。9曲目の『後流』は、ストリングスを加えたアコースティックな逸品。最後は少し音が歪んだストリングスがフェードアウトしていくという不安なイメージを演出している。10曲目の『蒸気機関車のあえぎ』は、1曲目の『アクアラング』に次ぐ名曲と呼ばれており、ジャズテイストの強いピアノのイントロから、遠くからバーレのエレクトリックギターのソロ、やがてヘヴィなギターリフをバックにしたアンサンブルはスリリングである。イアンのフルートソロはアルバムの中で最も力強い演奏になっている。11曲目の『終末』は、ピアノとアコースティックギター、そして語るようなヴォーカルが印象的な楽曲。この曲は2つの対称的なパートに分かれており、最初のパートはアコースティックのスローギターから、2番目のパートは同様にスローなピアノから始まっており、構成美に特化した内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、従来のブルース色の強い楽曲からジェフリーのピアノやキーボードが多く使われており、ロック、フォーク、プログレの要素を巧みに組み合わせたコンセプチュアルな作品になっている。そこにはイアンの考察する宗教と人間の関係という哀愁にも似た歌詞を、ギターやピアノ、フルートといった楽器でメロディアスに表現した楽曲は衝撃的であり画期的である。

 本アルバムは全英アルバムチャートでは23週チャート圏内に入るなど最高4位を記録。また、アメリカのビルボード200では7位に達して、初の全米トップ10入りを果たしている。1971年7月にはRIAAによってゴールドディスクに認定され、リリースから18年後の1989年11月にはトリプルプラチナの認定を受けている。日本では本アルバムで初のオリコンLPチャート入りを果たすなど、現在累計で700万枚を越えているという。リリース後に行われたアメリカツアーも大成功を収め、世界的なグループとしてその地位を獲得することになる。その後、ドラマーのクライヴ・バンカーの脱退し、代わりにバリモア・バーロウが加入。1972年にリリースした『ジェラルドの汚れなき世界』、1973年にリリースした『パッション・プレイ』は、アルバム全体が一曲という大胆な作品として話題となり、全米アルバムチャート1位を獲得。その後もメンバーの入れ替えなどもあったが、その時代の変遷に合わせて様々な形態を取り込んで進化し、激動の1970年代を乗り切っている。1989年にはグラミー賞ベストHR/HM部門が新設され、数あるHR/HMグループがある中で、ジェスロ・タルのアルバム『クレスト・オブ・ア・ネイヴ』がノミネートされ、有力候補であったメタリカ『メタル・ジャスティス』を差し置いて受賞するという快挙を成し遂げている。日本でも熱烈なファンが多いことで有名であり、2005年までに4回の来日を果たしている。2013年のイアン・アンダーソン来日公演では、アルバム『ジェラルドの汚れなき世界』の完全再現ライヴを実施している。2011年にはグループ活動が事実上の停止し、2014年にイアン・アンダーソンは無期限停止を公表している。しかし、3年後の2017年9月に、イアンは、グループのデビューアルバム『日曜日の印象』の50周年を記念して、2018年に新しいスタジオ・アルバムをレコーディングするためのツアー計画を発表して再始動。同年3月1日から予定通り、ワールド・ツアーを開始している。そして2022年には約18年ぶりとなるオリジナルアルバム『ザ・ゼロット・ジーン』を発表し、その健在ぶりをアピールしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はその独自のスタイルを貫き通し、現在でも活動を続けているプログレッシヴロックグループ、ジェスロ・タルの4枚目のアルバム『アクアラング』を紹介しました。私がジェスロ・タルに初めて触れたアルバムが、この『アクアラング』です。ジェスロ・タルといえば、ローランド・カークに影響を受けたイアン・アンダーソンの片足立ちの唾吐きフルート奏法やさらにパントマイム劇を取り入れたライヴが有名です。今ではジェスロ・タル=イアン・アンダーソンと言われるくらい、ロックにフルートを持ち込んだ功績は大きいと思います。ちなみにジャケットのカバーアートはアメリカの画家バートン・シルバーマンの手によるもので、描かれている人はイアン・アンダーソン本人らしく、浮浪者の風体となっています。実はイアン・アンダーソンの最初の妻、ジェニーがクレジットに記載されています。元々ジェニーが撮り続けていたロンドンのホームレスの写真が曲のインピレーションになったらしく、それがイアンの浮浪者から見る信仰や宗教に関する考察がテーマになったと言われています。

 さて、アルバムですがキーボード奏者のジョン・エヴァンと、ベース奏者としてジェフリー・ハモンドがメンバーとして正式に迎えられて、演奏面の強化が図られた作品になっています。アルバムの作り自体は前作までと同じですが、これまでよりもキーボードの割合が多くなっていて、プログレ的な要素とトラッド的な音作りが絶妙なブリティッシュロックのエッセンスが凝縮された作品になっています。キャッチーなリフのあるハードロックと豊かなトラッド色を加味しつつ、それぞれの曲に輪郭のある明確なメロディをもたらしています。何よりもジェスロ・タル音楽の真骨頂はブリティッシュフォーク的な側面にあり、フルートだけでなくストリングスやメロトロンといった荘厳なバックがあってこそ、アルバム全体に牧歌的な雰囲気を創り出しているように思えます。本アルバムはイアン曰く、コンセプトアルバムではないと言っていますが、宗教と人間というテーマを持ったトータル的なアルバムであることは間違いなく、後のアルバム『ジェラルドの汚れなき世界』や『パッションプレイ』といった世界中で人気を博す長尺の楽曲が生まれた原点となったことは言うまでもありません。

 本アルバムはジェスロ・タルが頂点を極めた歴史的な名盤です。ブリティッシュロック界の宝ともいうべきギターリフが堪能できる名曲『アクアラング』をはじめ、イアンが目指していたブリティッシュロックの緻密なアレンジの効いた様々な楽曲をぜひ聴いてほしいです。

それではまたっ!