【今日の1枚】Osiris/Osiris(オシリス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Osiris/Osiris
オシリス/ファースト
1982年リリース

バーレーンでカリスマ的な人気を誇る
キーボードとギターによる技巧派プログレ

 ペルシャ湾に浮かぶ30以上の島からなる中近東の国、バーレーンが誇るプログレッシヴロックグループ、オシリスのデビューアルバム。そのアルバムはオルガンやモーグシンセサイザー、エレクトリックピアノといったトリプルキーボードとリードギターによる英国のジェネシスやキャメルに通じる幻想的なサウンドが特徴であり、さらにアラビアならではの独特のリズム感のあるプログレッシヴロックとなっている。2020年には最新アルバムをリリースしているなど活動歴は長く、今なおバーレーンの英雄的なロックグループとして名高い。

 オシリスは1979年にバーレーンの首都マナーマで結成されたグループである。元々は音楽的な才能の高いモハメド・アルサデキ(リードギター、アコースティックギター、ヴォーカル)とナビル・アルサデキ(ドラムス、パーカッション)の兄弟が、1969年に結成したウィッチというファンク系のロックグループに遡る。ライヴを中心にバーレーンでは良く知られたグループだったが、兄のモハメドはアメリカのテキサスに学業を続けるため、一方、弟のナビルはロンドンに渡航するために、グループは1975頃に解散している。1979年にバーレーンに戻った2人の兄弟は、欧米の変化する音楽シーンを目の当たりにし、バーレーン初のプログレッシヴロックを結成することを決意する。2人は地元で同じような考えを持つミュージシャンを集め、モハメド・シャフィー(ベース、ヴォーカル、キーボード)、サミ・アル・ジャメア(フェンダーローズ、ピアノ、ミニモーグ)、モハメド・アミン・クーヘジ(リズムギター、ベース、パーカッション)、アブドゥル・ラザク・アーリアン(オルガン、ミニモーグ、ポリフォニックシンセ、コルグキーボード)をメンバーにしている。モハメドとナビルは複雑な音楽や豊かなメロディをはじめ、アラビア文化を融合させたオリジナルの曲を作りはじめ、豊穣を司るエジプト神であるオシリスというグループ名にして活動を開始。結成当初はあまり知名度が広まらなかったが、イサ・ジャナヒ(ヴァイブ、パーカッション、ヴォーカル)というカリスマ的な歌手をメンバーに迎えた時に一気に注目を集めることになる。イサはステージ上で派手な色の服とマントを身に着け、その圧倒的な存在感で聴衆を魅了。さらにライヴでは2人が欧米で経験したレーザーやライトショー、スモークを使用した派手なステージを行うなど、バーレーンでトップの人気を誇るロックグループに登りつめる。1981年には本アルバムの制作を開始するが、当時バーレーンのマナーマにあった唯一の8トラックスタジオ(イーヴル・スタジオ)で、わずか3日でレコーディングとミックスが完了している。この録音時にはゲストにハリド・アルモタワ(ベース)、ナデル・ラフィー(コンガ)、サバ・アルサデキ(ギター)の3人が参加している。しかし、バーレーンにはレコードプレス工場がなかったため、フィリピンで1,000枚ほどプレスを行い、1982年にデビューアルバム『オシリス』がリリースされることになる。そのアルバムは長くリッピングするミニモーグとアナログシンセサイザーによる幻想的なサウンドと、ヴァイブやパーカッションによるアラビアン的なリズムを擁した全編英語歌詞によるエキゾチックなプログレッシヴロックとなっている。

★曲目★
01.Fantasy(ファンタジー)
02.Sailor On The Seas Of Fate(運命の海の船乗り)
03.Struggle To Survive(生き残るための闘い)
04.Atmun(アムン)
05.Embers Of A Flame(炎の残り火)
06.A Story Of Love(愛の物語)
07.Paradox In A Major(パラドックス イ長調)
★ボーナストラック★
08.Look Before You Leap(石橋を叩いて渡る)

 アルバム1曲目の『ファンタジー』は、一定のキーボードとギターによるシークエンスのリフで幕を開け、1分後ぐらいから力強いドラミングでフィルイン。そしてメロディアスなギターとエレクトリックピアノをベースにした甘いヴォーカルとなる。厚みのあるキーボードと手数の多いドラムで忙しい感じを受けるが、哀愁のあるギターとヴォーカルが巧みに打ち消したなかなか高等なテクニックを披露した楽曲である。2曲目の『運命の海の船乗り』は、カモメの鳴き声からシンセサイザーとパーカッシヴなコンガを中心とした異国情緒のある11分を越える楽曲。後に哀愁のギターとシンセサイザーによるアンサンブルとなり、突然フェードアウトしてエレクトリックピアノをバックにした穏やかなヴォーカルとなる。後半はヴァイブとギターによるファンタジックな雰囲気に包まれた美しいサウンドとなり、最後までメロディアスに徹した内容になっている。3曲目の『生き残るための闘い』は、ヘヴィなタッチのギターとキーボードによるイントロから、エレクトリックピアノとヴァイブを使用したアンサンブルをバックにサバ・アルサデキの哀愁のヴォーカルが冴えた楽曲。とにかくリードギターやヴァイブが美しく、後半のエンディングに向けたギターのリフとキーボードのアップビートは新鮮ですら感じる。4曲目の『アムン』は、ギターリフから独特なリズム上のシンセサイザーが絡み合ったシンフォニック系の楽曲。後半部にはユニゾンするギターとベースによるフレーズがメロディアスであり、後にオルガンと荒々しいギターを交えたソロが展開される。5曲目の『炎の残り火』は、ハードなギターリフからエレクトリックピアノをバックにした夢心地なヴォーカルが印象的な楽曲。中間部では飛翔するオルガンとギターソロのインスト部分は聴き応え十分である。6曲目の『愛の物語』は、哀愁のリードギターとエレクトリックピアノをメインとした美しいヴォーカル曲。時折絡み合うシンセサイザーが曲に深みを与えており、手数の多いドラミングが単なるバラード曲としないところが好印象である。後半ではテクニカルなギターソロが展開されている。7曲目の『パラドックス イ長調』は、浮遊感のあるパーカッシヴなパートとギターソロのパートから、アラビア圏ならではの異国情緒のある楽曲。後に曲調が変わり、やや重々しい雰囲気の中で技巧的なリードギターの響きが、独特の世界観を創り上げている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、多彩なキーボードによる幻想的な響きを追ってしまうが、1970年代のギター主導のシンフォニックロックの影響が多分に組み込まれたサウンドになっていると思える。曲のイメージに合わせた多彩なキーボードの使い分け、技巧的でありながら哀愁のあるギター、手数の多くも繊細さのあるリズムセクションなど、中東の小さな国にこれだけレベルの高いプログレッシヴロックが存在していたというのは驚きである。

 フィリピンでプレスされた1,000枚のアルバムはバーレーンで販売されたが、数枚だけ英国と米国に渡っただけで、まさに本アルバムのレコードは「知る人ぞ知る」激レア化したのは言うまでもない。しかし、地元のバーレーンではトップレベルの人気を誇るロックグループとして君臨したという。その後、シングルで『ファンタジー』をセルフリリースし、数年を開けて1984年にセカンドアルバム『神話&伝説』、1988年にサードアルバム『反射』を同じくセルフリリースで販売している。彼らはメンバーを替えながらもマイペースでライヴやアルバム制作を行い、地元の歌手やアーティストのバックバンドを務めるなどして活動し続けたという。1990年代はアルバムのリリースは無かったが、突然2002年にフランスのレーベルであるムゼアから『ビヨンド・コントロール・ライヴ』をリリース。実は廃盤となっていた本アルバムを発掘し、1997年にCD化を果たしたのがムゼアである。そしてそのムゼアと契約を果たしたオシリスは、2007年にモハメドとナビルの兄弟とモハメド・シャフィー、アブドゥル・ラザク・アーリアン、イサ・ジャナヒ、サミ・アル・ジャメアのオリジナルメンバーがレコーディングに集い、新たなメンバーと共に制作したスタジオアルバム『過去からのビジョン』を20年ぶりにリリースすることになる。2010年には『テイルズ・オブ・ザ・ダイバーズ・ライヴ』を経て、2020年6月26日にはシンフォニック度がさらに高まった最新スタジオアルバム『テイク・ア・クローサー・ルック』のリリースを果たしており、現在でも活動を続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はペルシャ湾に浮かぶ小さな国であるバーレーンのプログレッシヴロックグループ、オシリスのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムは過去に知り合いから借りて聴いたことのある作品で、確かムゼア盤のCDだったと思います。最初に聴いた感想は、同年代に活躍していたドイツのシンフォニックロックグループのエニワンズ・ドーターを思い浮かべてしまいました。確かにジェネシス的な要素もありますが、そこに中近東ならではのリズム感と哀愁のメロディーが加味された感じです。アラビア出身のロックというとワールドミュージック的かファンク的なノリのある音楽かな?と思ってしまいがちですが、これだけメロディアスでテクニカルなプログレッシヴロックグループが存在していたというのはビックリです。でも、同じ中近東のイスラエルにもツインガーレやアトモスフィアといった良質なアルバムを残したプログレッシヴロックグループがありますから侮れません。アルバム自体は輸入盤だったので解説すべて理解したわけではないのですが、その後いろいろと調べてみるとバーレーンでは、国内初のプログレッシヴロックとして、オシリスというグループは今でも英雄的な存在とされているそうです。

 さて、アルバムですが、聴いての通り全ての曲のメイン楽器は、モハメド・アルサデキが奏でるリードギターです。冒頭でトリプルキーボードと謳いましたが、その多彩なキーボードはサポートに徹しているのが面白いです。そのため、手数の多いドラミングとハードなリフや哀愁のメロディと弾き分けるギターによって、単にシンフォニックなサウンドに陥らないところに欧米のグループとはまた違ったプライドが感じられます。ファンタジックな曲は得てして冗長になりがちですが、そこはリズムセクションが引き締めていて、最後まで一気に聴けるのが好印象ですね。個人的には1曲目の『ファンタジー』と2曲目の『運命の海の船乗り』、4曲目の『アムン』、6曲目の『愛の物語』がオススメです。気になった方はぜひ一度聴いてみてほしいです。

それではまたっ!