【今日の1枚】Ange/Le Cimetière Des Arlequins(道化師たちの墓所) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Ange/Le Cimetière Des Arlequins
アンジュ/道化師たちの墓所
1973年リリース

暗黒と狂気の美の世界を作り出した
フレンチシアトリカルロックの名盤

 フランスのジェネシスと呼ばれ、現在でも活動をし続けるプログレッシヴロックグループ、アンジュのセカンドアルバム。そのアルバムは前作のオルガンを主体としたプロコル・ハルム路線から変化し、劇的とも言えるクリスチャン・デカンのシアトリカルなヴォーカルをはじめ、重いリズム隊、陰鬱としたオルガン、歪んだギターなど、狂気と美の世界が広がった不気味なサウンドとなっている。本アルバムは英国プログレッシヴロックとフランスの伝統音楽を組み合わせた作品として高く評価され、1976年にゴールドディスクを獲得することになる名盤でもある。

 アンジュは1969年に、フランシス・デカン(オルガン、メロトロン、ヴォーカル)とクリスチャン・デキャンプ(オルガン、ピアノ、アコーディオン、ヴォーカル)の兄弟によって、フランス東部のブルゴーニュ地方にあるベルフォールという都市で結成している。後にジャン=ミッシェル・ブレゾヴァール(ギター)、ダニエル・ハース(ベース)、ジェラール・ジェルシュ(ドラムス)が加わり、5人編成で活動を開始。当初は英国のプロコル・ハルムやキング・クリムゾンといった英国のプログレッシヴロックの影響を受けた演奏をしていたという。彼らはフランスのCAEPE Recordsと契約し、1970年にシングル『Israel/Cauchemar』でデビューを果たしている。その後もベルフォールのラ・ペピニエールを皮切りにライヴを積極的に行い、デキャンプ兄弟のオルガンを主体としたクラシカルな演奏は、地元で人気を得ていたといわれている。彼らの音楽性が大きく変わったのは、フランシス・デカンによるフランスの中世の文学や風刺を歌詞に盛り込んだことだろう。新たにフィリップスに移籍した彼らは、1971年にシングル『Tout Feu tout Flamme』をリリースするが、そのサウンドは劇的な歌詞と情感的なヴォーカルを湛えたプログレッシヴロックとなっている。1972年になると彼らはパリにあるスタジオ・ダヴーでレコーディングを行い、デビューアルバム『カリカチュール』をリリースする。ヘヴィなオルガンを操るフランシスとヴォーカルに狂気を秘めたクリスチャンの兄弟による個性的なサウンドは、後にフランスを代表するシアトリカルロックの片鱗を魅せることになる。アルバムリリース後に彼らはツアーを行い、フランスの俳優兼歌手であるジョニー・アリデイのツアー「ジョニー・サーカス」の最初のコンサートでオープニングアクトを務めている。その後、初めて英国に渡ってキングダム・カムの前座としてツアーを行い、レディング・フェスティヴァルにも出演するなど、アンジュの知名度は徐々に高まることになる。フランスに帰国した彼らはパリのスタジオ、デ・ダムでレコーディングを行い、また、アルバムにある『糸杉の怪』の曲のみ、エルヴィル城のスタジオ、ミッシェル・マーニュで録音してアルバムが完成。前作には無かったメロトロンを導入し、独特のサイケデリックサウンドと狂気に似たヴォーカルをフィーチャーしており、英国プログレッシヴロックとフランスの伝統音楽を組み合わせたアンジュの初期の傑作となっている。
 
★曲目★
01.Ces Gens-Là(これらの人々)
02.Aujourd'hui C'est La Fête De L'apprenti Sorcier(今日は魔法使いの弟子の家でお祭りだ)
03.Bivouac ~1re Partie~(露営~パート1~)
04.L'espionne Lesbienne(レズビアンの女スパイ)
05.Bivouac ~Final~(露営~フィナーレ~)
06.De Temps En Temps(ときどき)
07.La Route Aux Cyprès(糸杉の怪)
08.Le Cimetière Des Arlequins(道化師たちの墓所)

 アルバムの1曲目の『これらの人々』は、フランスのシャンソン歌手であるジャック・ブレルの1966年の名曲のカヴァー。アレンジは印象的なイントロのギターが際立っており、重苦しいリズム隊と共に全体的に陰鬱な雰囲気を与えているが、クリスチャンの説得力のあるヴォーカルが乗ることによって、より視覚的なイメージになっている。この曲を1曲目に配したことで、自分たちがフランスのグループであることを誇示しているように思える。2曲目の『今日は魔法使いの弟子の家でお祭りだ』は、よりロック志向になった楽曲であり、強力なギターリフ上でメロトロンが演奏され、クリスチャン・デカンの演劇的なヴォーカルによって支配されている。中間には鳥の鳴き声のようなフルートが響き、華やかな魔法使いのパーティーの様子を描いている。3曲目の『露営~パート1~』は、Bivouacの力強いコーラスとオルガンをベースにした奇怪な叫び声のあるヴォーカルという2つのパートのある楽曲。後半にはスピーディーなリズム上で刻むギターリフとアグレッシヴなオルガンソロが展開されている。4曲目の『レズビアンの女スパイ』は、フルートが挿入されたアコースティックギターによるヴォーカル曲。時折笑い声の入る不気味なヴォーカルと牧歌的なフォーク調の音が対照的である。5曲目の『露営~フィナーレ~』は、タイトなリズム上でヘヴィなギターとメロトロンが交錯したシンフォニックな楽曲。うねるようなメロトロンと暴走気味のギターなど、すべてを呑み込むような不気味なスケールで迫ってくるようである。6曲目の『ときどき』は、メロトロンやピアノによる重厚なユニゾンから始まり、高らかなヴォーカルが印象的な楽曲。他の楽曲と比べてメロディアスであり、煌びやかで幻想的なメロトロンとギターソロ、情感あふれるヴォーカルが全体を包んでいる。最後にはテープの逆回転の効果音で終了している。7曲目の『糸杉の怪』は、牧歌的なアコースティックギターによるフォーク調の楽曲。バックにはメロトロンやフルートが静かに響いており、繊細的な歌声と共にノスタルジックな雰囲気を与えている。8曲目の『道化師たちの墓所』は、8分以上もある大曲になっており、ヴォーカルに合わせてメロトロンとつぶやくようなベースとギターから始まる。悪夢の空間を漂うような楽曲の中で狂気に近い歌声が印象的である。次第にリズムは高まっていき、ヘヴィさを伴いながら善良な仮面をかぶった道化師たちをあざ笑いながらアルルカンの墓地へと誘っている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、フランス語ならでは不気味さと美しさ、饒舌な語り、塞ぎ込んでは狂って笑い叫ぶといったクリスチャン・デカンのシアトリカルなヴォーカルが一種の世界観を形成しているアルバムである。そこに覆いかぶさるように眩惑するメロトロン、歪んだギター、重い足取りのリズム隊が、より不気味でおぞましい悪夢の世界に引き込んでいる。ヨーロッパならではの暗黒と退廃、そして狂気と美が渦巻いた唯一無二の傑作になっていると思える。

 アルバムは英国のプログレッシヴロックとフランスの伝統を説得力のある方法で組み合わせた画期的な作品として高く評価され、最終的に20万枚を売り上げ、1976年にはゴールドディスクを獲得することになる。彼らは1973年から1976年にかけてイギリスで110回のコンサートを行い、1973年8月26日にはイギリスのレディング・フェスティバルでジェネシスのオープニングアクトを飾っている。1974にリリースした3枚目のアルバム『新ノア記』は、ヴァイオリニストのヘンリ・ロフスタフを迎え、牧歌的でお伽噺のようなアプローチとシンフォニックなサウンドの融合で、フランスにおけるシアトリカルロックの最高傑作とされている。その後、ドラマーがジェラール・ジェルシュからグエノール・ビガーに交代し、1975年に4枚目のアルバム『エミール・ジャコティのお伽噺』は、1人の老人がストーリーテラーとなったトータルアルバムとなっている。再度、ドラマーがジャン・ピエール・ギシャールに交代した5枚目のアルバム『マンドランの息子たち』は、サーカス一座の旅芸人の世界を描いた最も演劇的な作品となっており、彼らの夢想的なシアトリカルロックの傑作とされている。しかし、この頃よりプログレッシヴロックが淘汰される流れがフランスでも起こるようになり、毎年のようにアルバムをリリースするものの売上は伸び悩んだという。それでも、メンバーチェンジを繰り返しながらも彼らの演劇的なスタイルはほとんど変わっていない。フランスのラジオ局であるRTLが後援したことで、アンジュは1977年末まで絶え間なくツアーを行い、1公演に6,000人規模の観客を集めたと言われている。1980年以降はよりロック的なサウンドに変化するが、1995年にデキャンプ兄弟とジャン=ミッシェル・ブレゾヴァール、ダニエル・ハース、ジェラール・ジェルシュの創設メンバーによる最後のツアーを行い解散することになる。その後、フランシス・デカンは解散後、作曲やプロデュース、映画音楽などに貢献し、ソロアルバムも多数リリースする活躍を見せる一方、クリスチャン・デカンは、1999年にクリスチャン・デカン・エ・フィスというグループで活動し、数枚のアルバムをリリース。同年には息子のトリスタン・デキャンプと共にアンジュを引き継ぎ、アルバム『La Voiture À Eau(水車)』をリリースして復活。その後、2000年代も定期的にアルバムをリリースしており、クリスチャン・デカンの変わらぬ創造力の高さを現在でも見せつけている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフランス最高のシアトリカルロックグループであるアンジュのセカンドアルバム『道化師たちの墓所』を紹介しました。私が最初にアンジュに触れたのがまさしく本アルバムからです。個人的に次のサードアルバムの『新ノア記』と共に重宝しているアルバムでもあります。ジャケットアートがサイケデリックな雰囲気を醸し出していますが、ジャック・ウィルスという画家のMonument Stellaireという絵で、この頃のアンジュの不気味さを良く表していると思います。前作からサウンド的に最も進化したのがメロトロンの導入で、前作のクリスチャンの弾くハモンドオルガンとフランシスの弾くバイカウントだけで様々な音程を変化させたものでしたが、本作では明確に使い分けています。ひと言でいうと、深く湿ったような独特のサイケデリックなサウンドとエキセントリックなヴォーカルをフィーチャーしたヘヴィシンフォニックになっていて、ヴォーカルのフランス語ならでは不気味さと美しさ、そして何よりもメロトロンやギター、リズム隊が不気味でおぞましい悪夢の世界に引き込んだ作品になっています。一方で最初にフランスのシャンソン歌手であるジャック・ブレルの曲のカヴァーがあったり、牧歌的なアコースティックなサウンドがあったりと、彼らがフランスのグループであることに威信をかけていることがうかがえます。時に笑い声や塞ぐような歌声、絶叫する歌声に合わせるかのような時に激しく時に夢心地な演奏に、これがシアトリカルロックかと思える視覚的な曲になっています。彼らの本領はまさしく最後の曲『道化師たちの墓所』に集約されています。

 

 さて、アンジュは英国で何度もツアーを行うほど人気を博していましたが、英国市場にはなかなか進出できなかったそうです。理由は彼らがフランス語で歌っていたからですが、5枚目のアルバム『マンドランの息子たち』で英語バージョンを試みています。しかし、ご存じの通り英国ではプログレッシヴロックが低迷していた時期であり、ほとんど売れることなく断念しています。一方の日本では次の『新ノア記』で初めてアンジュがレコードとしてリリースされ、デビューアルバムと本アルバムは2013年のSHM-CD盤が初という恐ろしいことになっていました。『新ノア記』が未だに人気が高いのは、いち早く日本に紹介されたアルバムでもありますが、プログレファンからは本アルバムを推す人がやたら多いと聞いています。ジャケットがサイケデリック過ぎるのが理由なのかな~と個人的に思っています。

 本アルバムは英国のプログレッシヴロックとフランスの人気伝説を説得力のある方法で組み合わせたと評された画期的な作品です。アンジュがフランスだけでなく、ヨーロッパのプログレッシヴロックシーンやケベックでもその名を知られるようになった本アルバムをぜひ一度聴いてほしいです。

それではまたっ!