【今日の1枚】Phylter/Phylter(フィルター) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Phylter/Phylter
フィルター/ファースト
1978年リリース

クールな幻想性とハードな展開が同居する
ベルギー産シンフォニックロック

 プログレッシヴロックが衰退していた1978年にキラ星のごとく登場したベルギーのシンフォニックロックグループ、フィルターの唯一作。そのサウンドはフレンチ・シンフォを思わせる冷ややかな質感のキーボードやヴァイオリン、歪んだギターなどを交え、リリカルなパートとエネルギッシュなパートをダイナミックに使い分けた幻想的なシンフォニックロックとなっている。無人島の洞窟に隠れて大嵐から逃れた船員たちの物語を描いたコンセプトアルバムとなっており、無名ながらそのクオリティの高さにプログレファンの間でも注目された作品でもある。

 フィルターは1977年頃にベルギーの美しい都市ブルージュで、一流のキーボード奏者と言われたパトリック・フィリップスによって結成されたグループである。メンバーはパトリック・フィリップス以外に、マーク・ヴァン・ボーテル(リードギター、ヴォーカル)、ポール・ヴァン・ボーテル(ベース)、クリスチャン・ザマン(ドラム)の4人編成であり、それぞれベルギーの歌手のバックバンドを務めたことのある腕利きのミュージシャンだったという。元々、英国のイエスやジェネシス、キャメルといったプログレッシヴロックに興味を持っていたパトリックが、本格的にグループを結成しようとしたきっかけは同じベルギー出身のプログレッシヴロックグループ、マキャベリの成功だったと言われている。マキャベリは1974年に結成したグループで、ハーヴェストと契約して1976年にデビューアルバムをリリースしている。また、1977年にリリースしたセカンドアルバム『ジェスター』は、メロトロンや変拍子を多用したサウンドと黙示録的な未来の文明をテーマにした印象的な歌詞が高く評価され、ベルギー国内で好セールスに恵まれた作品である。これを知ったパトリックは、自身が目指す音楽を演奏したいと強く思い、知り合いのミュージシャンを集めてフィルターというグループを結成することになる。彼はメンバーと共に数曲のリハーサルを行い、デモテープを作成。後に地元のシンガーソングライターやフォークアーティストを輩出している新参のレーベル、パルジファル(Palsifal)と契約することになる。パトリックはさらに無人島の洞窟に隠れて大嵐から逃れた船員たちの物語をテーマにしたコンセプトアルバムを実現するため、ポール・ヴァン・ボーテルと共にアレンジを施し、レコーディング時にジャン=マリー・アールツ(リズムギター)、レンス・ファン・デル・ザルム(ヴァイオリン)をゲストとして招いている。こうしてレコーディングが終了し、全編英語歌詞によるデビューアルバム『フィルター』が1978年にリリースされることになる。そのアルバムは重厚なヴォーカルと柔らかなメロディに包まれた中で、冷ややかなキーボードによるファンタジック性と歪んだギターによるハードロック的な熱気が同居したイエスやジェネシスの影響下にある絶品のシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Overture(序曲)
02.Dreams Of Yesterdays(ドリームス・オブ・イエスタデイズ)
03.Phylter(フィルター)
04.Promenade(プロムナード)
05.Consideration(考慮)
06.Down And Mood For Change(夜明けの気分転換)

 アルバムの1曲目の『序曲』は、パトリックとポールの2人の共作。オープニングの大嵐の轟音から始まり、物悲しい低いトーンのキーボードと抒情的なギターから、やがて複数によるヴォーカルとツインギターならではの明朗なカッティングのあるアンサンブルに変貌する。4分あたりから曲調が変わり、エレクトリックピアノによる華麗なキーボードプレイになり、大嵐の効果音と共にオープニングのテーマに戻ってフェードアウトしている。2曲目の『ドリームス・オブ・イエスタデイズ』は、夢想的なシンセサイザーとメロディアスなギターから始まり、讃美歌風のコーラス風のヴォーカルハーモニーが特徴の楽曲。その後にはハードロックに似たツインギターとキーボードによるパワフルなアンサンブルに変貌する。3曲目の『フィルター』は、唯一パトリック1人が作曲した楽曲。掻き鳴らしたようなギターとオルガンからキャメルを思わせるような柔らかなアンサンブルであり、やがて圧巻のアンサンブルへと昇華していく内容になっている。チェンバロ風のストリングスやエレクトリックピアノ、ローズピアノなどを使い分けたキーボードと泣きに近いメロディアスなツインギターは聴きどころである。4曲目の『プロムナード』は、荘厳なキーボード上で歌う憂いのあるヴォーカルハーモニーからこちらもキャメルを思わせるような柔らかなギターとキーボードによるアンサンブルになる。その後はスペイシーなキーボードをブリッジにして再度ヴォーカルハーモニーとなり、美しいシンセサイザーとエレクトリックピアノで終えている。5曲目の『考慮』は、オルガンとシンセサイザーに抒情的なヴァイオリンが加わった楽曲。2分過ぎから今度はギターがリードするハードロックとなり、歪んだキーボードを経てキャッチーなヴォーカルハーモニーとなる。チャーチ風のオルガンをはじめとした複数のキーボードを使い分けるパトリックの腕前がうかがえる内容になっている。6曲目の『夜明けの気分転換』は、15分に及ぶ大曲。鳥の鳴き声と共に美しいオルガンがフェードインして、メロディアスなギターとのアンサンブルとなる楽曲。3分過ぎから曲調が変わり、ツインギターによるリフを中心にしたハードロック調に変貌する。7分あたりからゆったりとした夢想的なエレクトリックピアノの響きと語るようなヴォーカルハーモニーとなり、優しいギターの音色が心地よい。11分過ぎから再度ハードロック路線とゆったりとしたオルガンを繰り返し、無人島から脱出したのだろうか喜びに近いヴォーカルと明朗なアンサンブルで幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ゆっくりと構築されるキーボードのリードで始まり、後のネオプログレのギターリフが主導し、イエスに似たヴォーカルハーモニーを繰り返した対位法の効果をうまく利用した楽曲が多く感じられる。メロディーに重点を置きつつも時折、技巧を凝らした攻撃的なアンサンブルが取り入れられており、思った以上にバラエティーに富んだ作品になっている。

 アルバムはリリースされたものの売れ行きは芳しくなく、グループはその年に解散している。理由はレーベルであるパルジファルの規模が小さく、宣伝に力を入れられず、売れたレコードは数百枚程度だったといわれている。また、英国に端を発したパンク/ニューウェーヴがベルギー国内にも浸透し始め、プログレッシヴロックがあまり注目されなくなってしまったことも大きい。解散後の各メンバーは再度セッションミュージシャンとして活躍していくことになるが、後に新たなグループを結成する動きは無かったという。こうして無名のままフィルターというグループは歴史の中で埋没していくことになるが、1993年に陽の目を見ることになる。それはフランスのインディペンデントレーベルであるスパラックスが、廃盤となっていたフィルターのマスターテープをバルジファルから譲り受けることに成功している。そして本アルバムにゲストとして参加し、後にララやTC MATICといったグループを歴任してベルギーの名ギタリストとなったジャン=マリー・アールツの広告を載せた初CDとしてリリースしている。このCD化で多くのプログレファンに無名だったフィルターというグループが注目されることになる。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はベルギーの幻と言われてきたシンフォニックロックグループ、フィルターの唯一のアルバムを紹介しました。上記で書いている通り、私もスパラックスのCD盤で初めてグループの存在を知り、中古で買って聴いてきたのですが、ちょっと紹介しようかどうか悩んでいたんです。それはあまりにもグループの情報が少ないからです。分かっているのはメンバーがベルギーで一流のセッションミュージシャンであったことと、ジェネシスやキャメルと比較したシンフォニックプログレに位置するグループであることぐらいでしょうか。ここまで情報が少ないのは、メンバー全員がその後に表立った活動をしてこなかったことや弱小レーベルだったことも影響していると思います。スパラックスがCD化していなければ、ホントに無名のまま陽の目を見ることは無かったでしょうね。そういう意味では個人的に出会えてとても良かったです。

 さて、アルバムの方ですが、イエスやジェネシス、キャメルから影響されたと思えるサウンドになっていますが、広がりのあるシンセサウンドをベースに、ロマンティックな間奏を織り交ぜ、ツインギターによる非常にパワフルなヘヴィサウンドが特徴になっています。このゆったりとした幻想的なキーボードから、聖歌隊のようなヴォーカルハーモニー、そしてハードロックばりのギターリフが1曲の中に同居した構成は、個人的になかなか面白いです。言い換えれば1970年代初期のキーボードサウンドと1980年代初頭のネオプログレにあるギターサウンドをミックスさせたような感じです。一聴すると安っぽく聴こえるかも知れませんが、パトリックのオルガンやシンセサイザーをはじめ、エレクトリックピアノ、フェンダーローズピアノといった多彩なキーボードが色彩豊かにしてくれています。それでも冷ややかに聴こえてしまうのは、テーマとなった無人島の洞窟に流れ着いた難破船をテーマにしたからかも知れません。無名とはいえ埋もれてしまうには惜しいアルバムです。

 夢想的なシンセサイザーと目が覚めるようなハードな展開のある楽曲が多いですが、確かなメロディを湛えたシンフォニックロックになっています。激しい嵐の中でなんとか逃げられる洞窟を見つけ、疲れ切った船員たちの文脈を捉えながら聴くと、これがコンセプトアルバムであることが分かります。聴いたことの無い方はぜひっ!
 
それではまたっ!