【今日の1枚】Sloche/Stadaconé(スローシェ/スタダコーン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Sloche/Stadaconé
スローシェ/スタダコーン
1976年リリース

縦横無尽のツインキーボードを活かした
ケベック州出身のプログレッシヴジャズロック

 カナダのジャズシーン等で活躍していた5人のプレイヤーによって結成されたケベック州出身のプログレッシヴグループ、スローシェのセカンドアルバム。そのサウンドは骨太のリズム上で華やかなストリングスとジャジーなオルガン、そしてアナログシンセサイザーなどを擁したツインキーボードが縦横無尽に展開するヴルーヴィーなジャズロックを披露している。ハービー・ハンコックやマハヴィシュヌ・オーケストラを意識したファンキースタイルでありながらハードロック的な要素やブルースロック的な要素もあり、単にジャズロックにとどまらない革新性が秘められた傑作である。

 スローシェは1971年頃にカナダのケベック州出身で、ピアニストである両親を持ち、独学でキーボードをマスターしたピエール・プシャールによって結成されたグループである。当初のメンバーは他にジャック・コラン(ベース)、フェルナン・パレ(ドラム)、マルセル・ペリニー(ギター)による4人編成でスタートしているが、1975年のデビューアルバム制作時には、誰一人創設メンバーが関わっていないという珍しいグループでもある。彼らは地元のケベック州を中心に活動をし、主にフランク・ザッパやヨーロッパのプログレッシヴロックを掘り下げつつ、マハヴィシュヌ・オーケストラから影響されたジャズロックを演奏していたという。1974年になると創設メンバーであるブシャールは、後にグループの中心となるレジャン・ヤコラ(キーボード、ヴォーカル)にプロジェクトを引き継いだことでグループから離脱。これに伴い、グループは多くのメンバーチェンジを行い、最終的にレジャン・ヤコラ(キーボード、ヴォーカル)、キャロル・ベラール(ギター、ヴォーカル)、ピエール・エベール(ベース、ヴォーカル)、ジル・キアソン(ドラム)、マーティン・マレー(キーボード、サックス、ヴォーカル)の5人に落ち着くことになる。彼らは積極的にライヴを行いつつ、アルバム制作のための楽曲を作り続け、デモテープを多くのレコード会社に送りつけたという。そのうちの1つであるRCAビクター部門のプロデューサーに認められて契約。1975年にデビューアルバムである『J'un Oeil』をリリースすることになる。このアルバムは複数のテーマによる超絶技巧の演奏により、ハービー・ハンコックスタイルのジャズファンクサウンドを保ったプログレッシヴロックとジャズフュージョンを融合した傑作となっている。アルバムリリース後、ケベック州のさまざまな地域のラジオで彼らの音楽が流れ、スローシェが注目されることになる。一定の評価を得た彼らはツアーを行い、次のアルバムの制作に取り掛かるが、ドラマーのジル・キアソンが脱退し、代わりにアンドレ・ロベルジュが加入。さらにチェレスタとパーカッションを演奏するジル・ウエレが新たに加わり、6人のメンバーとなる。彼らはより先鋭的なジャズロックを目指すと共に、ケベックの民族的なテーマを盛り込んだアルバムを作りたいと願い、かつてケベックに存在したというイロコイ族の村を冠したセカンドアルバム『スタダコーン』を1976年にリリースする。そのアルバムはジャズ、クラシック、プログレッシヴロック、エレクトロニカを複雑に混ぜ合わせたフュージョンとなっており、ケベック最高のジャズロックとして君臨した傑作となっている。

★曲目★
01.Stadaconé(スタダコーン)
02.Le Cosmophile(コスモフィル)
03.Il Faut Sauver Barbara(バーバラを救え)
04.Ad Hoc(アド・ホック)
05.La "Baloune" De Varenkurtel Au Zythogala(ラ・"バルーン"・デ・ヴァレンクルテル・オー・ジトーガラ)
06.Isacaaron ~Ou Le Démon Des Choses Sexuelles~(イッサカロン~あるいは性的なものの悪魔~)

 アルバムの1曲目の『スタダコーン』は、ダイナミックで縦横無尽なアンサンブルが爽快な楽曲。キャッチーでありながらアップビートなジャズファンクのグルーヴ感あふれるサウンドになっており、楽曲全体の雰囲気を創り上げている。冒険的なギターパートをはじめ、様々な音色を配したキーボードパートの他、後半にはトリッキーともいえるスペースロックの瞬間やジェントル・ジャイアント的なヴォーカルハーモニーの形をした変化球が飛び出すなど聴いていて飽きない内容になっている。後半には2曲目の『コスモフィル』は、コズミックなエレクトリックピアノが疾走するフュージョンナンバー。その後は1970年代初頭のシンフォニックプログレの雰囲気をもたらす並外れたキーボードプレイによるジャズファンクモードになっている。素晴らしいヴォーカルパートもあり、デビュー当時のイエスを彷彿とさせる変拍子を伴った内容もフィーチャーされている。3曲目の『バーバラを救え』は、短い曲ながら拍子的なキーボードサウンドを中心とした楽曲。緩急のあるコード進行の巧みなコントロールによって、ジャズフィーリングの中でロックらしいルーズさがあり、ユーモア感覚にあふれた内容になっている。4曲目の『アド・ホック』は、粘着質なリズムとグルーヴィなベースラインがファンクネスにあふれた楽曲。カンタベリー風のキーボードロールとギターサウンドを備えており、当時のハードロックによくある泣きのギターフレーズが随所に飛び出した爽快な内容になっている。5曲目の『ラ・"バルーン"・デ・ヴァレンクルテル・オー・ジトーガラ』は、美しいキーボードのメロディラインとメランコリックなギターが同居するフュージョンサウンド。ウェザー・リポートに属するジャズサウンドになっているが、スローシェがこれまでに演奏したものよりもロック的である。6曲目の『イッサカロン~あるいは性的なものの悪魔~』は、11分半という最長のトラックとなっており、グループがデビューアルバムをレコーディングする前に書かれた楽曲。リードするピアノのパッセージから、遊び心のあるシンセライン、そしてパンチの効いたベース主導のセグメントに至るまで、クラシック音楽やジャズ、プログレッシヴロックの境界線を曖昧にしたような独自性のあるサウンドになっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作よりも音楽的な焦点がはるかに絞られており、ハービー・ハンコックスタイルのジャズファンクのヴルーヴィーさを保ちつつ、より洗練されたパフォーマンスを披露していると思える。テクニックを強調し過ぎず、メロディアスに焦点を当てつつもユーモラスであり、当時のジャズフュージョンとは似て非なる音楽である。 スリリングな即興性のあるクールなジャズフィーリングを創造しているが、あくまで軸となっているのはロックであり、彼らがプログレッシヴジャズロックと今でも呼ばれる所以なのかもしれない。

 アルバムは一定の評価を得て、グループは1977年までライヴ演奏を続けたが、財政難のため活動を中止している。理由は1976年頃からパンクとニューウェイヴ時代が訪れ、芸術的なプログレッシヴな音楽が淘汰される流れになったことと、1977年にフランス語憲章が成立し、英語使用の規制とフランス語使用の促進が図られたため、英語を話す多くのミュージシャンがケベック州から転出してしまったからである。この流れはケベック州の多くのプログレッシヴロックグループ共通の課題となり、ケベック州におけるプログレッシヴロックの第一波の終わりの始まりとなっている。メンバーのほとんどはセッションミュージシャンとして活躍し、様々なアーティストのアルバムに貢献する一方、音楽の世界から身を引いてしまったメンバーもいたという。また、キーボーディストのレジャン・ヤコラはクレッシェンドというグループを結成して1985年に1枚のアルバムをリリースしている。スローシェの2枚のアルバムは廃盤となってしまったが、ケベック州を拠点に多くのプログレッシヴロックのアルバムを発掘するProgQuébecによってリマスター化され、2009年に初CD化を果たしている。このCDのリリースを機にスローシェというグループが多くのプログレファンに注目され、後にケベック州最高のジャズロックグループとして認知されることになる。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はケベック州最高のプログレッシヴジャズロックと誉れ高いスローシェのセカンドアルバム『スタダコーン』を紹介しました。初めて聴いたのが、まさにProgQuébecからリイシューされたCDです。数年前に中古で2枚とも手に入れたのですが、それ以前にタチカレコーズからもセカンドアルバムのみCDRとしてリリースされていたようです。レーベルであるProgQuébecは、スローシェのオリジナルテープをなんとか入手するために4年に及ぶ手続きを経て、ニューヨークのソニー(現在はRCAの所有者)の倉庫から発見されたと言われています。スローシェの2枚のアルバムはどちらも傑作として名高いですが、デビューアルバムはあからさまなプログレを意識したサウンドになっていて、冒険的なフュージョンを求める人にとっては良いかもしれません。セカンドアルバムは前作の音楽的な方向性を維持していますが、リターン・トゥ・フォーエバーやウェザー・リポートからの影響があるジャズ的なエッセンスを強めたパフォーマンスとダイナミック性のあるサウンドになっていると思います。複雑な展開はほとんどなく、メロディに主体を置いたカラフルさと力強さをもたらしたグループ本来の可能性を発揮した作品になっています。私はセカンドアルバムの方が前作よりも先鋭さとユニークさが伴っていると感じて取り上げた次第です。

 さて、アルバムのタイトルにもなったこのスタダコーンという地名ですが、かつてカナダという国名が付けられる以前に、ケベック州に存在していたイロコワ族の村の名前が由来となっています。フランスの探検家であるジャック・カルティエが、1535年に2度目の「ニュー・フランス」への航海中に初めてサンローレンス川を航海した時にこのイロコワ族の村スタダコナがあったそうです。その後、イロコワ族が使用していたイロコワ・フロン語の「村」、または「和解」を意味するカナタという言葉から国の名前であるカナダになったという説があります。ケベック州が他のカナダの地域と比べて違うのは、こういった歴史が古くからあり、フランスを含むヨーロッパの伝統が息づいているところにあります。本アルバムもジャズロックであるはずなのに、クラシックやロック、ブルースといったジャンルが見え隠れしているのは、こうしたケベック州の独特さが所以になっていると思います。

 本アルバムは1970年代のケベック州の多くのプログレッシヴロックが淘汰されていく中で、最後まで生き残ったグループとされています。ジャズロックにとらわれない凄まじい才能にあふれた彼らのカラフルなサウンドをぜひ聴いてほしいです。

それではまたっ!