【今日の1枚】Focus/Hamburger Concerto | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Focus/Hamburger Concerto
フォーカス/ハンバーガー・コンチェルト
1974年リリース

クラシック的手法を取り入れた
スケール感のあるシンフォニックアルバム

 すでに世界的なグループとなり、絶大な人気を誇るオランダのプログレッシヴロックグループ、フォーカスの5枚目のアルバム。名盤と誉れ高い『フォーカスⅢ』、ライヴ盤『フォーカス・アット・ザ・レインボー』と続くオリジナルアルバムということで、大きな期待を寄せられた作品であり、クラシック的手法を取り入れたこれまでにないスケール感のあるシンフォニックロックとなっている。ドラマーのピエール・ヴァン・ダー・リンデンがトレースに参加するために脱退し、代わりにイギリス人のコリン・アレンが参加した本アルバムは、彼らの真骨頂とも言える20分大の組曲を擁した渾身の作品となっている。

 フォーカスは1970年にオランダの北ホラント州アムステルダムで結成したグループである。1969年にキーボード奏者のタイス・ファン・レールが、ドラムスのハンス・クルフェールとベーシストのマーティン・ドレスデンと共に結成したトリオ・タイス・ファン・レールが母体となっている。そこに元ブレインボックスで演奏していたギタリストのヤン・アッカーマンが合流する形で、1970年の秋にフォーカスが誕生することになる。同年にアルバム『イン・アンド・アウト・オブ・フォーカス(Focus Plays Focus)』でデビューし、1971年1月にシングルとして発表したアッカーマン作の新曲『ハウス・オブ・ザ・キング』がヒットするなど、グループはヨーロッパで注目されたという。しかし、アルバム発表後にヤン・アッカーマンがリズムセクションの不満から脱退してしまい、グループは突然の活動停止に追い込まれることになる。そんな中、ヤン・アッカーマンがかつて在籍していたブレインボックスのドラマーだったピエール・ヴァン・ダー・リンデンとベースのシリル・ヘイヴァーマンズと共に新たなグループを結成しようとしたが、レコード会社はアッカーマンとファン・レールの両者に一緒に活動を続けるように哀願したという。アッカーマンの主張通りにピエール・ヴァン・ダー・リンデンとシリル・ヘイヴァーマンズをメンバーに採用し、さらに名プロデューサーとして名高いマイク・ヴァーノンを起用するなどの要素を整えたことで、アッカーマンを連れ戻して1971年にセカンドアルバム『ムーヴィング・ウェイヴス(フォーカスⅡ)』をリリースしている。そのアルバムは本国オランダをはじめ、イギリスやアメリカでトップ10入りを果たす快挙を成し遂げている。特にファン・レールとアッカーマンの共作『悪魔の呪文 (Hocus Pocus)』は、ハードでキャッチーなギターのリフと、ヨーデルを用いたヴォーカルが合体した非常にインパクトの強い楽曲となっており、シングルカットされて世界的なヒットを記録したという。後にベーシストのシリル・ヘイヴァーマンズがソロ活動のために脱退し、後任にベルト・ライテルを迎えたサードアルバム『フォーカスⅢ』を1972年にリリース。先行したシングル『シルヴィア』がシングルチャートで2週にわたって9位を記録し、アルバムは1972年11月11日付のアルバムチャートで初登場7位となり、同年12月2日に1位を獲得している。さらに全英アルバムチャートでは16週のあいだトップ100入りして、最高6位を記録。アメリカのビルボード200では35位に達し、日本では1973年4月10日に発売され、オリコンLPチャートで88位を記録している。フォーカスはイギリスで絶大な人気を得て、この年のメロディ・メーカー誌の人気投票のギタリスト部門で、それまで10年連続でトップに選ばれていたエリック・クラプトンに代わってヤン・アッカーマンが栄冠を手にし、英語圏以外のロックアーティストで最も成功したグループと評されることになる。

 フォーカスは1973年3月から4月にかけて大規模なアメリカツアーを行い、続いてロンドンのレインボー・シアターで5月4日と5日の2日連続の公演を皮切りにイギリスツアーを行っている。その5月5日のレインボー・シアターでの演奏を収録した初のライヴアルバム『フォーカス・アット・ザ・レインボー』を1973年10月に発表。この後にドラマーのピエール・ヴァン・ダー・リンデンが脱退し、プロデューサーのマイク・ヴァーノンの推薦でイギリス人のコリン・アレンが加入している。1974年1月から3月にかけて、ロンドンのバーンズ・オリンピック・サウンド・スタジオでレコーディングを行い、1974年5月に通算5作目となるアルバム『ハンバーガー・コンチェルト』を発表することになる。そのアルバムはフォーカスが本来持っているヨーロッパならではのクラシカルな音楽とテクニカルなジャズの要素が合致したメロディアスな作品に仕上がっており、何よりも彼らの真骨頂とも言える20分大の組曲を擁した渾身の作品となっている。
 
★曲目★
01.Delitiae Musicae(リュートとリコーダーのための小品~音楽の歓び~)
02.Harem Scarem(ハーレム・スカーレム)
03.La Cathedrale De Strasbourg(ストラスブルグの聖堂)
04.Birth(バース)
05.Hamburger Concerto(ハンバーガー・コンチェルト)
 a.Starter(スターター)
 b.Rare(レア)
 c.Medium I(ミディアムⅠ)
 d.Medium II(ミディアムⅡ)
 e.Well Done(ウェル・ダン)
 f.One For The Road(ワン・フォー・ザ・ロード)
06.Early Birth(アーリー・バス)

 アルバムの1曲目の『リュートとリコーダーのための小品~音楽の歓び~』は、オランダが誇るリュート奏者ヨアヒム・ヴァン・デン・ホーヴが1612年に作った曲をヤン・アッカーマンがアレンジした楽曲。フルートとクラシカルなギターが絡む牧歌的で美しい内容になっている。2曲目の『ハーレム・スカーレム』は、シングルチャートで22位に達したフォーカスらしい楽曲。ヤン・アッカーマンのヘヴィでインプロゼーションを利かせたギターとタイス・ファン・レールのリズミカルなピアノを中心とした内容になっており、ジャズ要素とクラシック要素が融合した素晴らしい一曲である。3曲目の『ストラスブルグの聖堂』は、フランスとドイツの国境付近にあるストラスブルグ大聖堂をモチーフにした楽曲。荘厳なピアノとチャーチオルガンを駆使したクラシカルな内容になっており、口笛を含んだ優しいコーラスを経て、後半ではヤン・アッカーマンのギターソロが哀愁を帯びている。次第にアンサンブルに力強さを増しつつ、再び冒頭のピアノとチャーチオルガンで締めている。4曲目の『バース』は、チェンバロ風のオルガンから始まり、緊迫感のあるセッション風のアンサンブルに移行していく楽曲。タイトルの『バース』はヤン・アッカーマンの長男が誕生したことを祝ってヤン自身が作曲している。オルガンやフルートと共に泣きのヤンのギターが冴えまくっており、本来3分程度の楽曲だったものを制作中に編曲が重ねられて8分間近くの大作に仕上がったと言われている。5曲目の『ハンバーガー・コンチェルト』は、6章からなる20分に及ぶ組曲。最初の『スターター』はタイス・ファン・レールが作曲しており、ドイツの作曲家ブラームスが1873年に作曲した「ハイドンの主題による変奏曲」の主題の改作。続く『レア』はその主題の曲にヤンのヘヴィなギターとファン・レールのオルガンによるメロディアスなアンサンブルになった楽曲にしている。『ミディアムⅠ』はタイス・ファン・レールのヨーデルが素晴らしい内容になっており、まさにミディアムテンポで進む荘厳なキーボードをベースに美しいサウンドになっている。『ミディアムⅡ』はヤン・アッカーマンのソリッド兼メロディアスなギターを中心としたAOR風味のある楽曲。オルガンをバックにヤンのインプロゼーションたっぷりのギターソロは圧巻のひと言である。『ウェル・ダン』の歌詞はオランダの詩人であり劇作家であるヨースト・ファン・デン・フォンデルが17世紀に作った戯曲に基づいている。ヘヴィな作風になっており、手数の多いドラミングとピアノをバックにロングトーンのヤンのギターが沁み入る曲になっている。そして『ワン・フォー・ザ・ロード』ではシンセサイザーを導入した壮大な曲となって幕を下ろしている。6曲目の『アーリー・バス』は、アナログ盤には収録されなかった曲。『バース』の曲を3分ほどにした短い曲で、シングル『ハーレム・スカーレム』のB面に収録したものである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、これまで以上にクラシカルな作風となっているものの、曲構成からテクニックに至るまで充実したアルバムだと言っても良い。とにかく楽曲と演奏の安定感が半端ない。長尺の組曲を加えているあたりに世界中のファンの期待に応えようとするメンバーの意気込みが感じられる傑作になっている。

 アルバムは母国オランダでアルバムチャートで最高5位となり、ノルウェーのアルバムチャートでは7週連続トップ20入りし、最高16位を記録。また、全英アルバムチャートでは5週にわたってチャート圏内に入り、最高20位を記録し、アメリカのビルボード200では66位に達している。一方、日本では1974年7月に発売され、オリコンLPチャートで39位となり、チャート順位と売上共に日本におけるフォーカス最大のヒット作となったという。日本でも知名度が上昇したことにより、ついに1974年と1975年の2年連続で来日を果たしている。このフォーカスの人気によって、日本でもイギリスやアメリカのロック以外のユーロ・ロックにも注目が集まる契機となったと言われている。1975年にドラマーのコリン・アレンが脱退し、今度はアメリカ人のドラマーのデヴィッド・ケンパーが参加した6枚目のアルバム『マザー・フォーカス』を発表。しかし、このアルバム後にソロ転向を考えていたギタリストのヤン・アッカーマンが脱退することになる。彼はリハーサルやステージで同じ曲を演奏することにうんざりしていたという。後任にジャズ界で知名度のあったフィリップ・カテリーンが加入し、アメリカ人ドラマーのスティーヴ・スミスやアメリカ人歌手のP.J.プロビーを迎えた『Focus con Proby(新しき伝説)』を1978年にリリースしている。しかし、そのアルバムはレーベルがEMIとなってアメリカ寄りに制作されたことにイギリスの市場は冷たい反応を示したという。その後、オランダでのいくつかのギグの後に、タイス・ファン・レールはフォーカスを解散させている。しかし、5年後の1983年にアッカーマン側の経営陣がファン・レールと再会して新しい音楽をレコーディングするよう促したことをきっかけに、アッカーマンとファン・レールが同意することになる。最初はフォノグラム・レコードと契約を結び、イギリスのプロデューサーであるトレヴァー・ホーンと録音を開始したが頓挫。その後、ヴァーティゴとレコード契約を結び、フォーカスではなく2人のデュオとしてレコードを出すよう要求したアルバムが、1985年リリースの『青い旅路 -フォーカス-』である。そのアルバムは商業的に失敗に終わったが、後の1990年にファン・レール、アッカーマン、ファン・デル・リンデン、ライテルが一時的に集結し、オランダのラジオ局Radio Veronicaの番組「Oud Van Goud」のためにライヴ演奏している。その後も何度かフォーカス結成を試みたものの挫折を繰り返していたが、2002年にファン・レールがフォーカスのトリビュート・バンドのメンバーたちを招いてフォーカスを正式に再結成する。翌年に27年ぶりのアルバム『フォーカス8』を発表し、以降2009年に『フォーカス9 / ニュー・スキン』、2012年に『X』、2014年に『ゴールデン・オールディーズ』とコンスタントにアルバムをリリースしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はオランダの偉大なプログレッシヴロックグループ、フォーカスの5枚目のアルバム『ハンバーガー・コンチェルト』を紹介しました。以前に『フォーカスⅢ』と『フォーカス・アット・ザ・レインボー』を紹介していまして、これで3枚目になります。フォーカスはプログレッシヴロックを聴き始めてから、英語圏以外の中で最も好きなグループです。今でもスマホ内に入れて聴いています。ドラマーのピエール・ヴァン・ダー・リンデンが在籍していた頃が黄金時代と呼んでいますが、本アルバムも決して前作に劣らない素晴らしい内容になっています。全体的にタイス・ファン・レールのクラシカルな要素のあるキーボードとヤン・アッカーマンのジャズロック要素のある甘美なギターが至高であり、尚且つスリリングでテクニカルな演奏は鳥肌が立つほどです。聴けば聴くほど感動してしまうのは、フォーカスの音楽性がいかに幅広く、決して何かの模写をしたというような安易な曲構成ではないからでしょうね。ヨーロッパやアメリカ、そして日本でも人気が高かった理由は、他ではなかなか真似できないフォーカスならではの美学があるからだと思っています。

 さて、本アルバムのタイトルである『ハンバーガー・コンチェルト』ですが、これを思いついたのはヤン・アッカーマンです。アメリカのニューヨークにあるヒルトン・ホテルに滞在中にハンバーガーを食べながら『トム・ジェリー』のアニメを見た時に浮かんだそうです。タイトルの『HAMBURGER CONCERTO』のロゴが、いかにもハンバーガー屋さんのネオン管を表していますよね。また、曲名にあるハンバーグの焼き方が曲調を表しているのがユニークです。もうひとつ、『ハンバーガー・コンチェルト』は組曲になった大曲ですが、元々はイギリスのツアー終了後に取り掛かった『イラプション』の進化系であるヴェスヴィオ火山をモチーフにした『ヴェスヴィアス』という曲だそうです。当初、ツアー終了後に次のレコーディングに苦痛を感じていたヤン・アッカーマンが姿を見せなくなり、ヤンとメンバーの間で大きな溝ができていたといいます。仕方なくタイス・ファン・レールとピエール・ヴァン・ダー・リンデン、ベルト・ライテルの3人でベーストラック盤のレコーディングに入ったものの、お蔵入りとなっています。本来であればレコーディングセッションからオリジナルアルバムが作られて4枚目の作品として世に出るはずでしたが、メンバー間の不和がもたらした穴を埋めるために、急遽『ライヴ・アット・ザ・レインボー』のアルバムを出す羽目になった経緯があります。つまり、本アルバムに収録された『ハンバーガー・コンチェルト』が、かの『ヴェスヴィアス』の最終系ということになります。おそらく、ヤン・アッカーマンやタイス・ファン・レールにとってもこれ以上ないほど熱のこもった作品になったのだろうと思います。なぜなら、次のアルバム『マザー・フォーカス』で、3分ほどのポップな小曲を演奏するグループへと変貌してしまうからです。

 本アルバムはクラシック的手法を取り入れたこれまでにないスケール感のあるシンフォニックロックになっています。ヤン・アッカーマンやタイス・ファン・レールのロックの美学が詰め込まれた楽曲と演奏をぜひ、堪能してほしいです。

それではまたっ!