【今日の1枚】May Blitz/The 2nd Of May | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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May Blitz/The 2nd Of May
メイ・ブリッツ/セカンド・オブ・メイ
1971年リリース

ドライヴ感あふれるギターが炸裂する
ハードロックトリオのセカンドアルバム

 元ジェフ・ベック・グループのドラマーだったトニー・ニューマンが所属するトリオグループ、メイ・ブリッツのセカンドアルバム。そのアルバムは結成当時弱冠16歳だった2人のカナダ人プレイヤーを擁し、前作よりもドライヴ感あふれるギターをメインにしたカラフルでメロディアスなプログレッシヴハードロックになっている。ジャズからの影響が感じられる実験的なインプロビゼーション要素が加わっており、一段とスケールアップした1枚である。

 メイ・ブリッツはドラマーのトニー・ニューマン、ギタリストのジェームズ・ブラック、ベーシストのリード・ハドソンによるトリオグループである。メイ・ブリッツの歴史は1969年にハーヴェストレーベルに1枚のアルバムを残したベイカー・ルーに遡る。ベイカー・ルーはドラマーのキース・ベイカー、ギタリストであるクレム・クレムソン、ベーシストのテリー・プールによって結成したヘヴィブルースロックトリオである。アルバム発表後にテリー・プールとキース・ベイカーが脱退し、その2人がちょうどカナダから渡英していた16歳のギタリストのジェームズ・ブラックと知り合って結成したのがメイ・ブリッツである。しかし、結成間もなくテリー・プールとキース・ベイカーは、グラハム・ボンド・オーガニゼーションに誘われてしまい、残ったジェームズ・ブラックはグループを立て直すためにジェフ・ベック・グループを脱退したドラマーのトニー・ニューマンに声をかけている。ブラックがニューマンに声をかけた理由は、2人がジェフ・ベック・グループのアメリカ公演中に知り合いとなっていたからである。ニューマンはこの若いギタリストに興味を持ってその誘いを受け、ブラックの学友でかつて一緒にスカイラーク・ザ・ミッシング・リンクスというグループで演奏していたベーシストのリード・ハドソンをカナダから呼び寄せて再編成したのが後のメイ・ブリッツである。英国人と2人のカナダ人というトリオ編成で再スタートした彼らは、ヴァーティゴ・レーベルと契約して1970年にデビューアルバム『メイ・ブリッツ』を発表する。そのアルバムはアコースティックギターを多用した柔らかなサウンドとハードロック的な要素のある構成に力を入れたこだわりの楽曲となっている。アルバム発表後に彼らはブラック・サバスやフェイセズといったグループのヨーロッパツアーのサポートアクトを行い、キャンド・ヒートなどのオープニングアクトも務めている。そのツアーが終了してイギリスに戻ってレコーディングされたのが本アルバムである。プロデューサーにはヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターやリンディスファーンといったプログレッシヴロックやパブロック系の作品を手掛けたジョン・アンソニーが担当し、1971年にセカンドアルバム『セカンド・オブ・メイ』をリリースすることになる。そのアルバムはドライヴ感あふれるギターによるハードロック要素とテクニカルなドラムによるジャズ要素が加わった豪快なサウンドになっている。

★曲目★
01.For Mad Men Only(フォー・マッド・メン・オンリー)
02.Snakes And Ladders(スネイクス・アンド・ラダーズ)
03.The 25th Of December 1969(1969年12月25日)
04."In Part"(イン・パート)
05.8 Mad Grim Nits(8・マッド・グリム・ニッツ)
06.High Beech(ハイ・ビーチ)
07.Honey Coloured Time(ハニー・カラード・タイム)
08.Just Thinking(ジャスト・シンキング)

 アルバムの1曲目の『フォー・マッド・メン・オンリー』は、ヴォーカルメロディとのユニゾンでドライヴしまくるギターとニューマンの破壊力のあるドラムがもたらす豪快なハードロック。やや荒々しさもあるがギターとベース、ドラムのトリオ編成によるダイナミズムを体現した迫力のサウンドになっている。2曲目の『スネイクス・アンド・ラダーズ』は、サイケデリック性のあるブルージーな楽曲となっており、ヴォーカルのスタイルはジミ・ヘンドリックスを彷彿とさせる。強いベースラインと繊細なドラミングが特徴で、エフェクトやコーラス、ヘヴィなギターがまるでブラック・サバスをイメージさせる。3曲目の『1969年12月25日』は、一転してメロディアスな楽曲に変わり、ポップなクリスマスソングになっている。サウンド自体はジャジーなリズムとブルージーなギターによるものだが、彼らの違う側面を見せた曲調になっている。4曲目の『イン・パート』は、ニューマンの技巧的なドラミングが冴えた楽曲。フルートを駆使したジャズテイストの強いサウンドになっており、ヴォーカルはラップ調になっているのがポイント。後半はニューマンのドラムソロが炸裂する。5曲目の『8・マッド・グリム・ニッツ』は、前曲から続く形で進む非常にスピーディーなリズム隊とワイルドでファジーなギターによるインストゥメンタル曲。アヴァンギャルドの印象のあるブラックのギターとニューマンの手数の多いドラミングが衝突する様は痛快すらある。6曲目の『ハイ・ビーチ』は、前作にもあったアコースティックギターの響きを活かしたフォークロックになっており、美しい歌詞が特徴の楽曲である。7曲目の『ハニー・カラード・タイム』は、ジャズに影響されたクールさとスマートな展開の切り返しが巧みな楽曲。同じヴァーティゴレーベルに所属するパトゥに通じるものがある。8曲目の『ジャスト・シンキング』は、ゆったりとした曲調の中で、アコースティックギターと軋んだようなギターエフェクトのエコーがかかった楽曲。メロディアスな内容になっており、歌詞は優しい愛を綴ったものになっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ブルージーでハードなブラックのギターとジャジーでテクニカルなニューマンのドラム、強いベースラインを持ったハドソンの3人が主張し合い、より洗練されたアルバムになっていると思える。スリーピースバンドならではのダイナミズムのある迫力のサウンドとなっているが、ポップな要素やジャズ要素を加味しており非常にヴァラエティ豊かなサウンドに昇華しているのが特徴的である。

 アルバムは前作同様、元ジェフ・ベック・グループのドラマーであるトニー・ニューマンが在籍している作品として注目されたが、商業的にはうまくいかず、その年にグループは解散している。ドラマーのトニー・ニューマンは1973年に元ザ・ガンのエイドリアン・ガーヴィッツとポール・ガーヴィッツの兄弟によって結成されたスリー・マン・アーミーに参加。1974年に解散後、今度はキース・エリスらと共にボクサーというグループを結成している。その後はセッション活動にも力を入れ、デヴィッド・ボウイやマーク・ボラン、デヴィッド・カヴァーデールのアルバムでドラマーとして参加している。1990年代以降もセッション活動を続け、サム・ブラウンやデボラ・ボーナムなどと定期的に演奏している。ギタリストのジェームズ・ブラックはF.B.I.というファンクロックグループに参加後、スタジオミュージシャンとして活躍。ベーシストのリード・ハドソンはカナダに帰国してスタッシュというグループを結成して活躍し、その後は音楽業界から引退している。メイ・ブリッツのアルバムはその後、ドイツやオーストラリアにも流通したものの枚数は極端に少なく、長らくヴァーティゴレーベルの幻の名盤として君臨し続けることになる。日本で初めてリリースされたのは1990年の日本フォノグラムからリイシューされたCDからである。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はブリティッシュハードロックの幻の名盤と言われたメイ・ブリッツのセカンドアルバム『セカンド・オブ・メイ』を紹介しました。メイ・ブリッツのグループ名は、“5月の爆撃”という意味で、第二次世界大戦中の1941年5月にナチスドイツ軍がイギリスに空爆を行ったことを指しています。つまり、爆撃を持った破壊力のあるサウンドを目指したグループだということが分かります。B級とは言いませんが、1970年代初頭にはレッド・ツェッペリンやディープ・パープルといった華やかなハードロック勢の影に隠れるようなグループが多数あり、メイ・ブリッツもその中の1グループとなります。とりわけ顕著なのが、ジェフ・ベック・グループのデビューアルバム『ベック・オーラ』に参加していたドラマーのトニー・ニューマンが所属していたグループであることぐらいで、アルバムのプレスした枚数が極端に少なく、ヴァーティゴレーベルの熱心なコレクターアイテムといった感じだったそうです。しかし、ジェフ・ベックの人気と関係あるグループに注目が集まったことで、1980年代まで本アルバムのブートレグ(海賊盤)が出回り、次第にファンが多くなっていることに気付いた日本のレコード会社が、1990年に急遽CD化したという経緯があります。それまではグループ名は知識として聞いていたものの、ジャケットデザインすら知らないファンが多くいたそうです。

 さて、本アルバムは当時16歳の2人のアーティストとトニー・ニューマンによるトリオグループになっていますが、前作よりも豪快なハードロックを前面に押し出したスケール感のあるサウンドになっています。痛快とも言えるワイルドなブラックのギターが耳に残りますが、やはりトニー・ニューマンの技巧的なドラミングが素晴らしく、ハードロックだけではなくジャズやブルースといったどのジャンルにも的確に対応しています。とにかくカッコいいのひと言です。プログレッシヴさは少ないですが、ベースやドラムがグイグイと引っ張りつつ、エッジの効いたアヴァンギャルドなギターを引き立たせています。全体的にメロディも秀逸で最後まで聴ける内容になっているのが好印象ですね。元ジェフ・ベック・グループという肩書きがあればもっとメジャーなグループに参加できたはずのに、あえて若い2人のアーティスト共に演奏し始めたトニー・ニューマンの生き様も個人的にカッコいいです。

 本アルバムは1970年代初期の数あるブリティッシュハードロックの中でも埋もれさせたくない作品の1つです。ぜひ、トニー・ニューマンが若きアーティストと組んだ思い切りのよいサウンドを堪能してほしいです。

それではまたっ!