【今日の1枚】Kansas/Monolith(モノリスの謎) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Kansas/Monolith
カンサス/モノリスの謎
1979年リリース

カンサスが新たなる道を模索し始めた
1970年代最後のアルバム

 大ヒットアルバムとなった『永遠の序曲』、『暗黒の曳航』に続く、古代インカ帝国のモノリスの伝説をテーマにした1979年リリースのカンサス6枚目の作品。スタジオ作ではグループ初のセルフプロデュースであり、コンパクトながらもドラマティックなプログレッシヴハードとなっており、普遍的なメロディが散りばめられた非常に完成度の高いコンセプトアルバムになっている。現代文明への警鐘といったテーマ性をベースに、プログレッシヴグループたるカンサスが、将来を見据えて音楽的価値を模索し始めた重要な作品でもある。全米アルバムチャート10位を記録。

 カンサスは1969年から活動していたギタリスト兼キーボーディストのケリー・リヴグレンが率いるサラトガと、同じカンサス州出身でドラムスのフィル・イハート、ベーシストのディヴ・ホープが所属していたホワイト・クローヴァーというグループが合流し、1970年に結成したグループである。当初はミクスチャーミュージックの先駆的なアーティストであるフランク・ザッパに触発された演奏を続けていたが、英国に他のミュージシャンを探すために渡航していたフィル・イハートが全盛期だったプログレッシヴロックを目の当たりにして驚いたという。フィルは英国ロックの発展をまざまざと見て、アメリカの音楽の古さを痛感したといわれている。彼は急遽帰国してホワイト・クローヴァーから離脱していたヴァイオリニスト兼ヴォーカルのロビー・スタインハートを呼び寄せ、ヴォーカル兼キーボーディストのスティーヴ・ウォルシュ、ギタリストのリッチー・ウイリアムスを加えた6人編成としている。この6人のラインナップでドン・カーシュナーの名を冠したレーベルとレコーディング契約を結び、1974年にデビューアルバムとなる『カンサス・ファースト・アルバム』をリリースすることになる。その怒涛のようなキーボードとクラシカルなヴァイオリンによる壮大なスケールと甘美なメロディーは、後に彼らがプログレッシヴハードとして君臨する萌芽が感じられる作品となっている。翌年にリリースされたセカンドアルバムの『ソング・フォー・アメリカ』は、10分を越える大曲を含むカントリーミュージックが混在したプログレッシヴスタイルに挑んだ作品となり、同年にリリースされたサードアルバム『仮面劇』は、ポップながらもクラシックなアプローチのある名曲『銀翼のイカルス』が収録されており、グループが一段と演奏力を高めた作品となっている。彼らのリリースしたアルバムに一貫としていることは、常に様々な楽曲を取り入れては自分たちの音楽スタイルを模索し、向き合ってきたグループだといえる。そんな彼らの音楽スタイルが報われたのが、名盤と誉れ高い1976年の4枚目のアルバム『永遠の序曲』だろう。ヒットシングル『Carry On Wayward Son』を生み出し、アルバムチャート5位にランクインしている。次の1977年の『ポイント・オブ・ノウ・リターン~暗黒の曳航~』は、400万枚のセールスを記録し、シングル『すべては風の中に』は100万枚以上を売り上げている。この頃からカンサスはアメリカンプログレッシヴハードのトップグループに君臨することになる。

 カンサスは後にニューヨークのパラディウムやデトロイトのパイン・ノブ・ミュージック・シアターなどで行ったライヴを収録した『トゥ・フォー・ザ・ショウ~偉大なる聴衆へ~カンサスライヴ』をリリース。2枚組のアルバムとなった本作は、スタジオ録音を忠実にライヴで再現していることで高く評価され、『永遠の序曲』と『暗黒の曳航』に次いでプラチナディスクに輝いている。1978年には初のヨーロッパツアーを行い、帰国後に次のアルバムに取り掛かっている。それはアメリカの先住民であるインディアンたちが、祖先の霊を呼ぶ時にモノリスを前にして踊りながら歌う詩となっており、白人たちによって破壊された未来に再び先住民たちと平和な共存文明を築いていくテーマにしている。そんな現代社会の病巣をえぐるようなコンセプトアルバムをグループ初のセルフプロデュースで制作し、1979年『モノリスの謎』というタイトルでリリースすることになる。そのアルバムはコンパクトながらも、普遍的なメロディやテクニックに力を入れたプログレッシヴハードの持ち味が魅力となった作品になっており、ヒットを続けてきたカンサスというグループの将来を見据えた音楽的な価値を問う重要なアルバムでもある。

★曲目★
01.On The Other Side(オン・ジ・アザー・サイド~謎の沈黙~)
02.People Of The South Wind(まぼろしの風)
03.Angels Have Fallen(堕ちてきた天使)
04.How My Soul Cries Out For You(はるかなる情念)
05.A Glimpse Of Home(故郷への追想)
06.Away From You(アウェイ・フロム・ユー)
07.Stay Out Of Trouble(ステイ・アウト・オブ・トラブル)
08.Reason To Be(リーズン・トゥ・ビー)

 アルバムの1曲目の『オン・ジ・アザー・サイド~謎の沈黙~』は、カンサスらしい美しい旋律を湛えた楽曲となっており、スペイシーなモーグシンセサイザー、フロントマンであるロビー・スタインハートによる豪華なヴァイオリンをフィーチャーした内容になっている。力強くも憂いを帯びたスティーヴ・ウォルシュのヴォーカルが感動的ですらある。2曲目の『まぼろしの風』は、ケリー・リヴグレンが作曲したキャッチーなメロディと爽やかな口当たりのあるアップテンポな楽曲。彼が疲れ果てたライヴツアーの反省からノスタルジックな曲を作りたいと考えて作られたという曲である。3曲目の『堕ちてきた天使』は、ウォルシュの弾くピアノをバックにしたスローバラードから壮大なロックシンフォニーとなる楽曲。ウォルシュのヴォーカルは素晴らしく、スタインハートの力強いヴァイオリン、イハートのタイトなドラミング、ウィリアムズとリヴグレンの強烈なギターブリッジなど、メンバーが一体となった緩急のあるドラマティックな展開が味わえる逸品となっている。4曲目の『はるかなる情念』は、スピーディーなリズムセクションに、高速ギターリフやヴァイオリンが絡んでいくハードな展開となった楽曲。中盤に群衆の騒音やドアの開閉、ガラスの割れる音などが間に入り、イハートのドラムソロを経てアグレッシヴなアンサンブルとなって突き進んでいく流れになっている。5曲目の『故郷への追想』は、ケリー・リヴグレンが描いたキーボードとバイオリンの相互作用がうまく働いたメロディーラインが素晴らしい楽曲。クラシカルなバックでハードなギターが展開される内容は、かつてのカンサスらしいプログレッシヴハードらではの知性と感性が息づいている。6曲目の『アウェイ・フロム・ユー』は、華麗なキーボードとヴァイオリンの幕開けから、カントリー風のアコースティックなギターとピアノを織り交ぜた楽曲。ウォルシュのヴォーカルも素晴らしいが、手数の多いイハートのドラミングが光った内容になっている。7曲目の『ステイ・アウト・オブ・トラブル』は、遊び心のある典型的なアングリーロックチューンであり、スタインハートのローダウンのヴォーカルやウイリアムズのファンキーなギターが特徴の楽曲。8曲目の『リーズン・トゥ・ビー』は、カンサスのクラシックバラードの最高傑作。アコースティックギターの響きやピアノ、そしてウォルシュのヴォーカルがどこまでも優しく、美しい楽曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、曲の中に切れ味鋭いギターやヴァイオリンを組み入れたドラマティックな展開が散りばめられており、プログレッシヴハードの普遍的な魅力を放った作品になっている。コンパクトにまとめられているがコンセプトアルバムとしての完成度は高く、伝統的な精神性を基盤にしたカンサスの未来像が垣間見えるようである。

 アルバムはビルボードのアルバムチャートで10位にランクインし、市場での反応は上々だったという。しかし、大ヒットとなるシングルは無く、革新性が乏しいと書かれたローリングストーン誌のジョン・ウェンソンの評価が、後にグループに暗い影を落としていくことになる。後に彼らは全米ツアーした1979年の夏から秋にかけて行い、1980年1月に初めて来日を実現している。そんな中、イギリスではカンサスが標榜していたプログレッシヴロックが淘汰され、アメリカではジャーニーやボストン、ELO、TOTOといった産業ロック、またはAORが流行り、アメリカの音楽シーンで求められるサウンドにも変化が訪れていたという。1980年に『オーディオ・ヴィジョン』を発表するが、プログレッシヴなスタイルはすでに失っており、グループの方向性を見失いつつあったカンサスに見切りをつけたスティーヴ・ウォルシュが、ソロとして活動するために1981年に脱退を表明。また、1983年のアルバムの『ドラスティック・メジャーズ』では象徴的存在だったヴァイオリン奏者のロビー・スタインハートとケリー・リヴグレンも脱退してしまい、ついにカンサスは活動停止となる。しかし、3年の沈黙を経て、1986年にスティーヴ・ウォルシュが復帰し、リッチー・ウィリアムス、フィル・イハートの3人と、元ディキシー・ドレックスに在籍し、後にディープ・パープルに加入する天才ギタリストのスティーヴ・モーズを迎えて、9枚目のスタジオアルバム『パワー』がリリースされる。さらにキーボード兼バックヴォーカルにグレッグ・ロバートを迎えて『イン・ザ・スピリット・オブ・シングス』を1987年にリリースし、多くのライヴ活動を行う。1990年代もコンスタントにアルバムを発表し、最新アルバムは2020年にリリースした16枚目のアルバム『ザ・アブセンス・オブ・プレゼンス』である。メンバーにはドラマーのフィル・イハートとギタリストのリッチー・ウイリアムスの2人が中心となって現在でも活動を続けている。なお、元ヴァイオリン奏者でヴォーカリストのロビー・スタインハートは、残念ながら2021年7月17日に膵炎のため71 歳で亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1970年代最後にリリースされたカンサスの6枚目のアルバム『モノリスの謎』を紹介しました。このアルバムは前作の『永遠の序曲』や『ポイント・オブ・ノウ・リターン~暗黒の曳航~』の次に聴いた作品で、カンサスの伝統的な精神性を基盤にしながらもドラマティックな作りに感嘆したものですが、前作と比べて色合いが大きく変わった印象を持ったものです。大作主義的な作りは影を潜めてコンパクトな曲でまとめられていますが、ちょうどアメリカではジャーニーやボストンといった産業ロックやAORが流行り、アルバムよりもシングル主体のチャートになりつつあったアメリカの音楽シーンが原因のひとつとなっています。淘汰されつつあるプログレッシヴロックのあり方を模索し、間違いなくカンサスの今後の音楽価値の方向性を指し示したアルバムであると言っても過言ではないと思います。それでも、バラードを含むキャッチーなメロディが散りばめられていますが、意地ともいえるテクニカルな演奏とプログレッシヴな感性が盛り込まれているのはさすがとしか言えません。5曲目の『故郷への追想』なんて、何度聴いても感動的です。商業的にはアルバムチャートに10位にランクインするなど市場の評価が高かったものの、ローリングストーン誌の評価が低かったために本アルバムの価値を著しく落としている気がしてなりません。辛口な評価をしたジョン・ウェンソンは、カンサスの大ファンだったと本人も認めています。それだけプログレッシヴハードのトップに君臨していたカンサスに対する期待が高かったのでしょうね。

 さて、本アルバムのジャケットは、宇宙服を着たインディアンと現代の白人文明が崩壊した近未来を描いたような強烈なデザインとなっています。先にも書きましたが、カンサスは迫害され続けるインディアンが、白人社会が破壊した未来に再び平和な共存文明を築くというテーマに基づいて作られたアルバムです。ジャケットのデザインはリーバイスのコマーシャルを担当したというアーティスト、ブルース・ウルフによって2曲目の『まぼろしの風』を聴いて描いたそうです。この絵を見たメンバーは非常にクールだと絶賛したそうです。なぜ、このようなテーマにしたのかの理由として、後にキリスト教に改宗するケリー・リヴグレンが、以前に彼が信奉していたというウランティアの本の影響があったとされています。このウランティアの本とは1924年から1955年の間にシカゴで創刊された本らしく、地球という惑星をウランティアとして、その意図は宗教、科学、哲学を結びつけて「拡張された概念と高度な真実を提示する」ことを述べたオカルト本らしいです。そういえばカンサスは映画『2001年宇宙の旅』の大ファンだったそうなので、もしかしたらこういったオカルティックな風潮がアメリカにあったのかもしれませんね。

 

 本作は鋭いヴァイオリンをフューチャーし、普遍的なメロディが散りばめられた非常に完成度の高いコンセプトアルバムです。将来を見据えて音楽的価値を模索し始めたカンサスの知性と感性が息づいた感動的な本作をぜひ聴いてみてほしいです。

それではまたっ!