【今日の1枚】Anders Helmerson/End Of Illusion | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Anders Helmerson/End Of Illusion
アンデルス・ヘルメルソン/エンド・オブ・イリュージョン
1981年リリース

スリリングに展開する鍵盤裁きが堪能できる
テクニカルシンフォニックアルバム

 エマーソン・レイク&パーマー、U.K.タイプのテクニカルシンフォニックロックを披露するスウェーデンのキーボーディスト、アンデルス・ヘルメルソンのデビュー作。攻撃的なハモンドオルガンとMOOG/ARPシンセサイザーを主体に演奏されるキーボードを中心に、ギターやヴァイオリンを加え、畳みかけるような演奏はスリリングにして圧巻。ニューウェイヴ時代にリリースされたことで評価を得ることできず、一度は音楽業界から離れたヘルメルソンだったが、1990年代にカルト的な人気を集めるようになり、2002年に再度ミュージシャンとして復活していくことになる隠れた名盤である。

 アンデルス・ヘルメルソンは1959年2月5日にスウェーデン南部のルンドで、父はジャズピアニスト、母はピアノ教師という音楽一家に生まれ、その後に両親は離婚し、母親と共に南東にあるカルマルに移住している。ヘルメルソンは幼少の頃に母親の影響でクラシックを中心に聴いていたが、1964年にザ・ビートルズやスウェーデンの人気グループであるザ・ヘップ・スターズの登場でロックに目覚めるようになる。また、彼はアメリカからルイ・アームストロングやファッツ・ウォーラーといったジャズミュージシャンによる影響で、クラリネットやサックスを吹き、特にサックスを好んで覚えたという。1970年代になるとチック・コリアやマハヴィシュヌ・オーケストラといったジャズロック、その後はフランク・ザッパ、イエス、ジェネシスといったプログレッシヴロックに目覚めていくようになり、15歳でギター&ヴォーカリストのペーター・ブリンゲルソン率いるKung Tungというプログレッシヴロックグループに加入している。彼はKung Tungで当初はサックス奏者として演奏していたが、エレクトロニック・ピアノを中心とするキーボード奏者として活躍するようになる。グループはスウェーデン全土を回るツアーを行うなど人気を集めていたが、ヘルメルソンはグループで活動するかたわら、ストックホルムの音楽学校に通いつつ作曲に力を注いでいる。この頃の彼は現代音楽を含むクラシックにも造詣が深くなり、1976年にKung Tungを脱退。彼はKung Tungや音楽学校を通じて多くのミュージシャンと交流を深め、また、初めてシンセサイザーを入手したことでその楽器の可能性を感じてプロのミュージシャンになることを決意する。1978年にはドラマーのペル・ベルグルンドとベーシストのウルフ・ベイエルストランドと共にリハーサルを開始するが、その音楽性は当時姿を消しつつあったプログレッシヴロックであり、メロトロンやストリングスを導入を通じて、電子音楽やシンフォニックロックの要素も取り入れようとしていたという。1979年に本アルバムの元となるデモテープを制作。このデモテープでレコーディング契約を得ようとは思わなかったヘルメルソンだったが、知人を通じてスウェーデンの国営ラジオで流したところプロデューサーのアンデルス・ブルマンから高く評価される。これに勇気づけられたヘルメルソンは、音楽学校を卒業後の1979年にストックホルムのデシベル・スタジオを予約し、24トラックのアルバム制作に取り掛かることになる。資金不足だったためレコーディングは3年がかりで行われたが、その間に彼はセッションミュージシャンやアルバイト、ラジオ用のジングルの制作などで費用を賄ったという。レコーディングに参加したミュージシャンは、クリスター・ヴィキンソン(ドラム)、ペル・ヨンソン(ドラム)、ペル・ベルグルンド(ドラム)、ステン・フォルシュマン(ベース)、マッツ・イングルンド(ベース)、ビャルネ・ザン(ギター)、ラルシュ・エケルルンド(アコースティックギター)、マッツ・グレンゲルド(ヴァイオリン)、アンデルス・ヨンソン(パーカッション)、ウルフ・アダカー(シーケンサー)というスウェーデンの名のあるミュージシャンが集結。1981年にアンデルス・ヘルメルソンのデビューアルバムとなる『エンド・オブ・イリュージョン』がリリースされることになる。そのアルバムは電子的なモーグシンセサイザーやハモンドオルガンを駆使し、クラシカルでありながらジャズ要素を加味したスリリングな演奏を披露するヘルメルソンをはじめ、甘美なギターやヴァイオリンが織りなすテクニカルなインタープレイに満ちた内容になっている。

★曲目★ 
01.7th Heaven(7番目の天国)
02.Microwar(マイクロウォー)
03.The Fantasies(ザ・ファンタジーズ)
04.Robot Village(ロボットの村)
05.String Song(ストリング・ソング)
06.Rising Mind(ライジング・マインド)
07.Electronical Story(エレクトリカル・ストーリー)
08.End Of Illusion(エンド・オブ・イリュージョン)
09.Missinterpreted Omen(ミスインタープリティド・オーメン)
10.Custom Thrill(カスタム・スリル)
11.Amnesia(アムネジア)
12.Dancing Progressions For Computers(ダンシング・プログレッションズ・フォー・コンピューターズ)
13.Automatic Hammer(オートマティック・ハンマー)
14.Digital Anthem(デジタル・アンセム)

 アルバムの1曲目の『7番目の天国』は、超高速のキーボードシーケンサーで始まり、リズムセクションが加わると次第にシンフォニックなロックになっていく楽曲。切れ目なく次の2曲目の『マイクロウォー』となり、浮遊感のあるテクニカルなキーボードプレイとジェネシスを思わせるドラミングが印象的な楽曲となる。転調を繰り返しながらアグレッシヴに攻めるヘルメルソンのキーボードが堪能できる。3曲目の『ザ・ファンタジーズ』は、ビャルネ・ザンの端正なギターやマッツ・グレンゲルドのヴァイオリンが加わり、ジャズロック風味の強いの演奏になっている。4曲目の『ロボットの村』は、一転してミステリアスな雰囲気となり、近未来的なキーボードが渦巻く内容になっている。5曲目の『ストリング・ソング』は、アコースティックギターとストリングスの響きが美しい短い楽曲。6曲目の『ライジング・マインド』は、流麗なピアノソロが展開され、リズムセクションが加わると跳ねるような鍵盤がまるでキース・エマーソンを思い起される。7曲目の『エレクトリカル・ストーリー』は7分を越えるナンバーで、静と動を活かした最もシンフォニック色の強い楽曲。ピアノとオルガンによるアグレッシヴなアンサンブルとなっており、その変幻自在なプレイはパトリック・モラーツの『ストーリー・オブ・アイ』を彷彿とさせる。シーケンサーを交えた高速の展開の中で、北欧らしい透明感の溢れるメロディーが非常に胸を打つ。8曲目の『エンド・オブ・イリュージョン』は、クラシカルなオルガンワークからU.K.的な疾走感のある展開が聴きどころの楽曲。聴いていて思わずU.K.の『アラスカ』を思い浮かべる人もいるだろう。後半はヴァイオリンが加わり、より疾走感が増している。9曲目の『ミスインタープリティド・オーメン』は、軽快なスネアドラムに合わせたシンセサイザー曲から、一転してエレクトロニックな音楽に変貌する楽曲。この辺りは1980年代風のシンセサイザーミュージックといったところだろう。10曲目の『カスタム・スリル』は、クラヴィネットを導入した実験的な内容になっており、スリリングな内容になった楽曲。11曲目の『アムネジア』は一転してリズミカルなサウンドになり、モーグを活かしたメロディアスな楽曲になっている。後半に展開されるギターとシンセサイザーによるインタープレイが心地よい。12曲目の『ダンシング・プログレッションズ・フォー・コンピューターズ』は、無機質なシーケンサーの響きとパーカッションを中心とした楽曲。やがて高速の畳かけるようなキーボードワークに支配され、テクニカルなアンサンブルに変化していくヘルメルソンの腕前が光ったナンバー。13曲目の『オートマティック・ハンマー』は、鬼気迫るテクニカルなピアノソロになっており、流れるような鍵盤裁きからヘルメルソンのクラシックの造詣と演奏力がうかがえる内容になっている。14曲目の『デジタル・アンセム』は、エマーソン・レイク&パーマーを思わせる疾走感の溢れる内容になっており、後半にはゆったりとしたピアノソロで幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、シーケンサーやシンセサイザーといった電子機器を駆使しているが、ピアノやオルガンといった古典的なクラシックをベースに作られているアルバムになっている。1970年代のキース・エマーソンやオランダのリック・ヴァン・ダー・リンデン、パトリック・モラーツ、エディ・ジョブソンといったキーボーディストの影響が感じられるが、それに弛まず果敢に挑み、北欧らしい透明感のある展開を擁した独自性を貫いた作品になっていると思える。

 アルバムは1981年にリリースされたが、パンク/ニューウェーヴの台頭により、ほとんど注目されなかったという。1982年にはSkiv BolagetというスウェーデンのTMC傘下の小レーベルからもリリースされたが、実りの無いままで終わっている。ヘルメルソンは失望して音楽業界に見切りをつけてスウェーデンのウプサラ大学で医学を学ぶようになる。アンデルス・ヘルメルソンというアーティスト共に忘れられたアルバムとなったが、Kung Tungに在籍していたギタリストのピーター・ブリンゲルソンがスウェーデンの人気ジャズロックグループであるラグナロクに加入した際、彼とアルバムについて言及。他にも複数のアーティストから若きキーボーディストであるヘルメルソンの話題があり、それを知った多くのプログレッシヴロックファンがアルバムを求めるようになったという。やがてその人気に後押しされる形で、1993年に70年代のプログレッシヴロックを発掘してリリースをするフランスのムゼアレーベルよってCD化が果たされる。この時でもヘルメルソンは外科医として働き続け、たまたま客船の船医となって務めているときにリオデジャネイロが気に入って住み着くようになる。この環境がヘルメルソンの音楽に対する関心を呼び起こし、現地のミュージシャンを集めて、2002年に20年ぶりとなるアルバム『フィールズ・オブ・イナーシャ』をリリースしている。そのアルバムはクラシックの影響下にあるプログレをブレンドした意欲的な内容になっている。さらに2010年にはブライアン・ベラー(ベース)、マルコ・ミンネマン(ドラム)という強力なメンバーを迎えたサードアルバム『トリプル・リップル』をリリースしている。2018年にはロンドンのアビー・ロード・スタジオでレコーディングされた4枚目のアルバム『クアンタム・ハウス・プロジェクト』をリリースし、プログレッシヴ・ジャズロック・フュージョンの力作として話題となっている。2021年にはルーカス・ヒィラ(ベース)とファン・メジア(ドラム)を迎えた5枚目のアルバム『オーパス・アイ』をリリース。ヘルメルソン特有の折衷的なプログレッシヴロックと革新的なオリジナルジャズの音楽を、現代クラシック音楽のコンテポラリー・スタイルのピアノを通じて展開していく内容になっている。2022年にはブラジルを中心にツアーを行い、その成功に伴い世界規模のツアーを計画しており、日本も視野に入れているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスウェーデンの若きキーボーディストであるアンデルス・ヘルメルソンのデビューアルバム『エンド・オブ・イリュージョン』を紹介しました。このアルバムは紙ジャケ化した時に初めて聴きました。シーケンサーやシンセサイザーといった電子的なサウンドに傾倒せずに、エマーソン・レイク&パーマーやU.K.といったグループを標榜とするクラシックやジャズの要素を加えたキーボードプレイを果敢に挑んでいるのが好印象です。8曲目の『エンド・オブ・イリュージョン』なんて、U.K.の『アラスカ』を彷彿とさせます。他にもいくつか1970年代のプログレッシヴロックの楽曲をうかがわせるところもあり、思った以上にアグレッシヴな演奏になっていて聴いていてワクワクします。このアルバム全体を通じてヘルメルソンが目指していたものは、攻撃的および積極的な技巧派電子音楽の創造を通じた西欧文明に対する評価であったとインタビューで語っています。当時はその評価が得られませんでしたが、彼の創造したアルバムは時代を越えて傑作と評価されることになります。もうひとつ、このアルバムがレコーディングされた1979年は、ヘルメルソンがまだ20歳だったことも特筆されるべきことです。躊躇ない演奏スタイルは若さとも言えますが、これだけ完成度の高いアルバムを作り出してしまった才能は恐ろしいものがあります。

 さて、そんな若きキーボーディストであるヘルメルソンですが、彼の才能はレコーディング時にも発揮していたと言います。彼の音楽的な才能に惚れ込んだサウンド・エンジニアのオレ・ラルソンは、自らプロデュースとエンジニア担当に志願して、なおかつ資金面や精神面を支援したと言います。さらに彼の音楽性にいち早く関心を寄せたシーケンサーのウルフ・アダカーをはじめ、ベーシストのステン・フォルシュマンやドラマーのクリスター・ヴィキンソンなど、多くのミュージシャンが参加しているところを見ると、彼の人望の高さもあると思います。また、ギタリストにはオランダの名ギタリストであるヤン・アッカーマンが担当する予定だったそうです。スケジュールの都合で急遽ビャルネ・ザンが担当することになりましたが、ヤン・アッカーマンが参加していればもっと注目された作品になったかも知れません。まだ20歳そこそこの無名に近いアーティストにこれだけの人が集まるというのはなかなか無いと思います。

 ニューウェイヴの台頭と共に消え失せたアルバムですが、当時もっともプログレッシヴな感性と新たな音楽性を組み入れた意欲的な作品です。まだ聴いたことの無い方は、この機会にぜひとも堪能してくださいな。

それではまたっ!