【今日の1枚】Ache/De Homine Urbano(エイク/組曲「都会の男」) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Ache/De Homine Urbano
エイク/組曲「都会の男」
1970年リリース

荘厳なハモンドオルガンを中心に繰り広げる
世界初のロックバレエとなったアルバム

 ザ・ナイスやプロコル・ハルムのセカンドアルバムを彷彿とさせるオルガンを主体とした、デンマーク出身のエイクのデビューアルバム。そのアルバムは荘厳なハモンドオルガンとリッケンバッカーのギターを中心とした組曲風のシンフォニックロックとなっており、高水準の作曲能力と演奏力を誇った内容になっている。フィリップスよりリリースされた本アルバムは、世界初のロックバレエとされており、後に“エイク・ロック・シアター”というグループ名で、ロックやダンス、バレエ、演劇、サイケデリックなライトショーと一体化したアート集団となっていくことになる貴重な作品である。

 エイクは1960年代の初期に活動をしていたビートグループ、ザ・ハーロウズに遡る。デンマーク音楽アカデミーを卒業をしたピーター・メリン(ベース)、グレン・フィッシャー(ドラムス)によって結成されたザ・ハーロウズは、トルステン・オラフソン(ドラムス)とフィン・オラフソン(ギター)の兄弟によるグループ、ヴォイセスのサポートを受けて共に活動をしていたという。1967年にピーター・メリンはグループから一旦離れたため、トルステン・オラフソンがベースを引き継ぐ形で、そしてフィン・オラフソンもギタリストとしてザ・ハーロウズに参加することになる。一方のメリンは王立劇場で使用していたハモンドオルガンM3を買い取り、その年の末に再度グループに復帰している。こうして4人のメンバーとなった彼らはグループ名をエイクと変えて活動を開始する。彼らはヴァニラ・ファッジやプロコル・ハルム、ザ・ナイス、ザ・ムーディー・ブルースといったハモンドオルガンを主体としたアートロックに影響を受けており、マーシャルとレスリー・スピーカーを通じた豊穣なハモンドオルガンの音色と当時珍しいとされたリッケンバッカーのギターがエイクのサウンドの基本となっている。1968年の春にグループはグレン・フィッシャーの自宅の地下室でリハーサルやジャムセッションを行い、本アルバムにある即興演奏やリフ、テーマが出来上がっていったという。彼らは1968年の秋に後にコペンハーゲンズ・クラブ27に出演して注目を集め、12月末にコペンハーゲン学生協会で行われたデンマーク初とされるビートフェス“エレクトリック・クリスマス”にも出演し、エイクというグループが一躍有名になっている。そんなエイクの活躍にオラフソン兄弟の友人であるミッケル・シャーフがテスカトリポカのライトショーを立ち上げている。彼らはその後もディープ・パープルやブロードウィン・ピッグ、ザ・ストローブスのサポートアクトを務め、TV番組のToppopにも出演。また、1969年2月に出演したラジオ番組ダニッシュ・ビートで音楽ジャーナリストのトーベン・ホイヤーに注目され、後に王立バレエ団の芸術監督として著名となるデンマークの人気バレエダンサー、ピーター・シャウファスを紹介している。ピーターは自身のビートバレエのビジョンを実現してくれるグループを探しており、意気投合した彼らは1969年2月から実験的なロックバレエ“De Homine Urbano(組曲「都会の男」)”の音楽を制作している。すなわち本アルバムである。さらにピーターはフィリップスの傘下であるノルディスク・ポリフォンのプロデューサーで、元ザ・クリフターズのジョニー・ライマーとコンタクトを取り、本作品のプロデューサーを依頼している。1970年2月にリリースされたエイクのデビュー作『組曲「都会の男」』は、本国デンマークはもとより、世界初となったロックバレエとなった貴重な作品であり、豊穣なハモンドオルガンの音色とエモーショナルなリッケンバッカーのギターが織りなす高水準のシンフォニックロックとなっている。
 
★曲目★
01.De Homine Urbano(組曲「都会の男」)
 a.Overture(序曲)
 b.Soldier Theme(兵士のテーマ)
 c.Ballarina Theme(バレリーナのテーマ)
 d.Pas De Deux(2人のステップ)
 e.Ogre Theme(オーガのテーマ)
 f.Awakening(目覚め)
 g.The Dance Of The Demons(悪魔たちの踊り)
 h.Pas De Trois(3人のステップ)
 i.The Last Attempt(最後の試み)
 j.Finale(フィナーレ)
02.Little Things(リトル・シングス)

 アルバムは『組曲「都会の男」』と『リトル・シングス』の2曲構成となっており、それぞれレコードでいうA面、B面に配置されたものになっている。1曲目の『組曲「都会の男」』は10章で構成されており、19分を越える楽曲となっている。最初の『序章』は荘厳なハモンドオルガンとエモーショナルなギターの旋律から始まり、リズム隊が加わるとヘヴィなオルガンロックになっていく。独特な響きであるリッケンバッカーのギターが印象的である。『兵士のテーマ』はタイトなドラミングによるスリリングな楽曲になり、『バレリーナのテーマ』は、リッケンバッカーのギターの響きとオルガンをメインにした壮大なロックシンフォニーになっている。ベース音とピアノの『2人のステップ』を経て、『オーガのテーマ』では重厚なオルガンとギターからザ・ナイスを思わせるリズミカルなオルガンロックとなっている。曲調の変わる『目覚め』ではチャーチ風の伸びやかなハモンドオルガンとなり、重厚な泣きのギターが映えている。『悪魔たちの踊り』は、スピーディーなリズムと宙に浮くリッケンバッカーのギターの響きをメインとしたヘヴィロックとなっており、その演奏はアグレッシヴでテクニカルである。後半はタイトなリズムに重厚なオルガン、そして不協和音のピアノで終えている。コミカルなアンサンブルを間に挟んだ『3人のステップ』を経て、スリリングなオルガンロックを披露する『最後の試み』に移行する。クラシカルでありながらワイルドなオルガンと泣きまくりのギターが次第にヘヴィになっていきフェードアウトしていく様は聴き応えあり。『フィナーレ』は、その名の通り最後の締めで終えている。2曲目の『リトル・シングス』はこちらも18分を越える大作。静かなオルガンとギターの響きから始まり、ブリティッシュさながらのヴォーカルを湛えたオルガンロックを聴かせた楽曲。3分過ぎにはクラシカルなピアノをバックに語るようなヴォーカル、そして途中から荒れたようなサイケデリックな演奏を経て、エモーショナルなギターソロの展開となる。後半はザ・ナイスを彷彿とさせるアグレッシヴなオルガンロックとなり、15分過ぎにはパーカッションをバックにしたエスニック風の楽曲となって終えている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、強力なハモンドオルガンと泣きのギターがうねるプログレッシヴなシンフォニックロックだが、ヴォーカルが抒情的であり、非常にドラマティックである。組曲風とはいえ、決してダレるような作りになっておらず、彼らの作曲とアレンジセンスが光ったブリティッシュロックに劣らない極めてクオリティの高いオルガンロックになっていると思える。

 アルバムは後にバレエダンサーであるピーター・シャウファスの公演でも使用されたことで、世界初のロックバレエとして一躍注目される。その後、彼らはロックやバレエ、ダンス、ライトショーを一体化させた“エイク・ロック・シアター”というアート集団を企画し、センセーションを巻き起こすことになる。その勢いのまま、1970年8月にはシングル『シャドウ・オブ・ザ・ジプシー』をリリースし、ヨーロッパを中心に特にフランスで大ヒット。翌年の1971年にリリースしたセカンドアルバム『グリーン・マン』は、プログレッシヴ性とサイケデリック性が融合したデンマーク最初期のプログレッシヴロックの傑作となっている。ライトショーを含めたライヴは人気が高かったが、オリジナルラインナップでの演奏は1971年6月25日に行われた“ダースランド・フェス”が最後となる。ベーシストのトルステン・オラフソンが長期休暇と称してグループから離れることになるからである。エイクは人気絶頂の中でありながら、活動休止に追い込まれてメンバーはバラバラとなってしまう。1976年にピーター・メリンとフィン・オラフソンは、新たにスティヴ&スティーンというグループにいたヴォーカル兼パーカッションのスティグ・クロイツフェルトとベーシストのスティーン・トフト・アンダーセンを迎える。さらにドラマーのゲルト・スメデガード、ヴォーカル兼ギターのジョニー・ゲレットを加えた6人編成で、よりシンフォニック路線を強めたサードアルバム『Pictures From Cyclus 7』をリリース。1977年にはスティグ・クロイツフェルトが脱退し、新たにキーボーディストのパー・ウィウムが加入した4枚目のアルバム『Blå Som Altid』を続けてリリースしている。しかし、1979年にはピーター・メリンが再度グループから離れてしまい、長期休暇をしてしたトルステン・オラフソンが復帰したが、1980年のコペンハーゲンのソルト・ウェアハウスでコンサートを行ったのを最後にエイクは解散することになる。ギタリストのフィン・オラフソンはその後に2枚のソロアルバムをリリースし、プロデューサーとして活躍。フィンが中心となったフィン・オラフソン・バンドの1983年のアルバム『Helge Damsbo』では、エイクのメンバー全員が参加している。ピーターとオラフソン兄弟は断続的にエイク関連のプロジェクトを続けていたが、グループの再結成の無いまま20年が過ぎることになる。2004年にオリジナルメンバーが集結し、シングル『De Skæve Drømme』をリリースしたのを皮切りに、伝説とされたエイクが再結成される。その後は表立った活動をはしていなかったが、2018年11月30日に亡くなったドラマーのゲルト・スメデガードを追悼するためにコンサートを開催。現在は息子のヤコブ・スメデガードをドラマーに、フィン・オラフソン、トルステン・オラフソン、パー・ウィウム、ジョニー・ゲレットの5人で復活ライヴを行うことが決定している。

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はデンマークの伝説的なプログレッシヴロックグループであるエイクのデビューアルバム『組曲「都会の男」』を紹介しました。このアルバムはつい最近、紙ジャケで『グリーン・マン』といっしょに入手して聴きました。世界初のロックバレエとなったアルバムですが、ダンサーとして関わったピーター・シャウファスといえば、デンマークの王立バレエ団の芸術監督を経て、ホルステブロを拠点にピーター・シャウファス・バレエを設立して、今ではナイトの称号を授与された著名な方です。そんな本アルバムはザ・ナイスやプロコル・ハルムを意識したような豊穣なハモンドオルガンの響きを最大限に発揮したクラシカルロックですが、そこにエモーショナルなリッケンバッカーのギターが加わるという他のグループにはあまりないひと味違ったサウンドを作り出しています。バロックのバックグラウンドを持ちつつ、緩急のある絶え間ない楽曲となっており、合間にピアノやアコースティックギター、またはベース音を使いながら曲をつないでいて、よく練られた展開が印象的です。ほとんどインストゥメンタル曲になっていますが、多くのステージやリハーサルを駆使してレコーディングを行ったためか、デビューアルバムとは思えない非常に高い演奏力とアレンジセンスを持っています。クラシカルな楽曲とはいえ、ハモンドオルガンの響きは相変わらず素晴らしいな~と改めて思った1枚です。

 さて、2曲目の『リトル・シングス』は、ザ・ビートルズの名曲『エヴリィ・リトル・シング・シー・ドーズ』の曲を主体とした楽曲になっています。18分というオペラ風の大曲でありながら、華やかなオルガンロックから忍び寄るような不協和音のピアノと暗いオルガンの旋律となり、後にジャズフュージョン的なギターとパーカッションによって無国籍風の楽曲に変化します。サイケデリックともいえる内容もあり、1970年初頭のアルバムとはいえ、非常に実験的でプログレッシヴな感性に満ちたサウンドになっています。このあたりの要素は、さらにサイケデリックでシンフォニックな要素を強めたセカンドアルバム『グリーン・マン』に繋がっている感じがします。

 本アルバムはハモンドオルガンとリッケンバッカーのギターが織りなすドラマティックな楽曲になった作品です。デンマークのシンフォニックロックの創設者とも言われたエイクの良質なオルガンロックをぜひ一度、聴いてみてくださいな。

それではまたっ!