【今日の1枚】Biglietto per l'Inferno/地獄の乗車券 | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Biglietto per l'Inferno/Biglietto per l'Inferno
ビリエット・ペル・リンフェルノ/地獄の乗車券
1974年リリース

イタリアの混沌とした闇をテーマにした
強烈なヘヴィシンフォニックロック

 オパス・アヴァントラやセミラミスを輩出したトライデントレーベルからリリースしたビリエット・ペル・リンフェルノのデビュー作。そのサウンドはツインキーボードやギター、フルートなどを擁し、畳みかけるようなリズム隊による強烈なヘヴィシンフォニックロックとなっており、荒々しくもドラマティックな展開が味わえる作品となっている。レーベルが破産したため、1枚のスタジオアルバムのみ残して解散したが、現在でもムゼオ・ローゼンバッハと並ぶイタリアンダークシンフォニックの名盤として君臨している。

 ビリエット・ペル・リンフェルノは、1972年にイタリアのロンバルディア州にある都市レッコで結成されたグループである。元々はそのレッコのダンスホールで演奏していたGeeとMako Sharksという2つのグループが母体となっている。その2つのグループはすでに卓越したライヴパフォーマンスで地元でも高い評判となっていたことで、イタリアの新進気鋭のグループを輩出していたレーベル、トライデントのオーナーであるマウリツィオ・サルヴァトーリの目に留まることになる。2つのグループからメンバーが創出され、合体した形で編成されたのがビリエット・ペル・リンフェルノである。メンバーはMako Sharksよりマルコ・マイネッティ(ギター)、ファウスト・ブランチーニ(ベース)、ジュゼッペ・コッサ(キーボード)、Geeよりマウロ・ジェネッキ(ドラムス)、ジュゼッペ・パンフィ(キーボード)、クラウディオ・カナーリ(ヴォーカル、フルート)の6人編成であり、ダブルキーボードが特徴となっている。グループが結成された当初は英国のエマーソン・レイク&パーマーやキング・クリムゾン、ジェネシス、またはイタリアのバンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソを標榜したキーボードを主体としたプログレッシヴロックを目指していたという。しかし、メンバーのクラウディオ・カナーリが殺人、自殺、社会的衰退などといったイタリア社会の闇をテーマにした曲作りを考えるようになり、彼らの音楽の方向性を示した『ビリエット・ペル・リンフェルノ(地獄の乗車券)』というグループ名にしている。彼らはジュゼッペ・コッサとバッフォ・パンフィの2人のキーボーディストを中心に作曲を行い、クラウディオ・カナーリが社会性を追求した歌詞を作り上げた楽曲を元にリハーサルを開始。そしてトライデントのオーナーであるマウリツィオ・サルヴァトーリをプロデューサーに迎えてレコーディングを行い、1974年にデビューアルバムがリリースされることになる。そのアルバムは冒頭から展開される歪んだギターと激情とも言える強烈なヴォーカルを中心に、ツインキーボードとフルート、そして畳みかけるようなリズム隊によるダイナミックなヘヴィシンフォニックロックとなっている。
 
★曲目★
01.Ansia(苦悶)
02.Confessione(告白)
03.Una Strana Regina(奇妙な王女)
04.Il Nevare(降雪)
05.L'Amico Suicida(友は死ぬ)
★ボーナストラック★
06.Confessione~Strumentale~(告白~インストゥメンタル~)

 アルバムの1曲目の『苦悶』は、ロマンチックなキーボードとギターによるフォーキーな音色から、次第に畳みかけるようなリズム上で歪んだギターと荒々しいキーボードが展開する楽曲。怒りと宗教的な罪悪感を歌ったクラウディオ・カナーリの内面の葛藤ともいえるヴォーカルが象徴的である。2曲目の『告白』は、夢心地な雰囲気のあるヴォーカルからハードなギターリフを伴う静と動の展開が素晴らしい楽曲。後半のフルートとエレクトリックギターのリードを伴うサウンドは、ヘヴィなジェスロ・タルと言っても過言ではない。ハードな展開の中で時折弾かれるピアノが良いアクセントになっており、聴けば聴くほど惹きこまれるヘヴィシンフォニックロックの佳曲となっている。3曲目の『奇妙な王女』は、ゆったりとしたオルガンの響きと抑え気味のドラミングをバックに歌うヴォーカル曲から、一転してテンポの速いフルートとギターによる展開となる楽曲。激情とも言えるハードな展開から再びゆったりとした楽曲となり、感情を曲のテンポと転調に表しているようである。最後はメロウなギターソロから高速リフのアップテンポの曲になっており、最後まで息を尽かせない。4曲目の『降雪』は、ソフトとハードな展開がダイナミックにシフトするヘヴィなロックとなった楽曲。ギタリストのマルコ・マイネッティがリッチー・ブラックモアに似たギターフレーズを取り入れているためか、全体的にディープ・パープルのようなサウンドになっている。5曲目の『友は死ぬ』は14分に及ぶ大曲になっており、穏やかなイントロからヘヴィなギターリフと激しいフルートに変わり、深みのあるモーグシンセサイザーをバックにした情感あふれるヴォーカルが印象的な楽曲。後にアコースティックギターやピアノ、無調のシンセサイザーによるプログレッシヴなサウンドになっていく。7分過ぎにはモーグのようなフルートの音とヘヴィなギターのアンサンブルとなり、シンフォニック&サイケデリック性のあるシンセサイザーを交えつつ変調を繰り返しながら幕を閉じている。ボーナストラックの『告白』は、2曲目のインストゥメンタルヴァージョンである。こちらのほうがよりヘヴィに聴こえる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ヘヴィでありながら牧歌的なフォーク調のパートがあるなど、緩急を惜しむことなく変化に富んだ楽曲が多い。掴みどころのないサウンドと言ってしまえばそれまでだが、彼らの根底にあるイタリアの社会に対する怒りや悲しみといった感情がそのまま曲調に表れているのだろうと思える。また、ユーライア・ヒープやディープ・パープル、ジェスロ・タル、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターといった英国のハードロックやプログレッシヴロックに影響されたようなフレーズが垣間見えることも興味深い。

 アルバムは音楽の批評家たちによって好評を得たものの、レーベルの流通能力が低下したためか商業的な成功には至っていない。彼らはアルバムリリース後に精力的にライヴ活動を行い、1975年になるとプロデューサーにイタリアのシンガーソングライター兼マルチインストゥメンタリストのエウジェニオ・フィナルディを迎えてセカンドアルバムのレコーディングを開始する。しかし、レーベルであるトライデントがついに破産してしまい、リリースがかなうことなくグループは解散することになる。1975年の失われたアルバムは、1992年にプログレッシヴジャンルの復活を専門とするレーベル、Mellow Recordsが発掘してCDとして陽の目を見ている。解散後、ヴォーカルのクラウディオ・カナーリは、インドのスピリチュアルマスターであるバクティヴェダンタ・スワミ・プラブパーダの下で修業した後、1994年に聖ベネディクト騎士団のメンバーとして活動している。キーボーディストのジュゼッペ・バンフィは、名前をバッフォ・バンフィと変えて活動をし、ソロアルバムをリリースしている。実はビリエット・ペル・リンフェルノが解散する前にドイツでクラウス・シュルツェがプロデュースする契約を進めていたが、頓挫してしまい、残念がったクラウス自身が最終的にバッフォ・バンフィのソロアルバムに協力したというエピソードが残っている。ドラマーのマウロ・ジェネッキはイタリアのヴォーカル兼ギタリストのフランコ・ムッシーダと組んでアルバムを出すなど、様々な音楽プロジェクトに貢献している。ベーシストのファウスト・ブランチーニはシンガーソングライターとなり、作詞家としても活躍。1998年には小説家としてデビューしている。メンバーはそれぞれ違う道に進んだが、2007年にジュゼッペ・コッサ、マウロ・ジェネッキ、バッフォ・バンフィが顔をそろえ、そこにクラウディオ・カナーリが合流して、グループの歴史的なレパートリーをフォークで再解釈し、伝統的な楽器を使用して演奏するビリエット・ペル・リンフェルノ・フォークというプロジェクトで復活。それぞれ限られた時間の中で集まり、地元のレッコやミラノを中心にライヴ活動を始めている。そして新たなメンバーにエンリコ・ファニョーニ(ベース)、レナータ・トマセッラとラニエリ・フマガリ(管楽器)、女性のマリオリーナ・サラ(ヴォーカル)、カルロ・レディ(マンドリン、ヴァイオリン)、フランコ・ジャフレダ(ギター)が参加したアルバム『Tra L'Assurdo E La Ragione(非合理と合理のあわいに)』を2009年にリリースしている。さらに2015年には6年ぶりとなる最新アルバム『Vivi. Lotta. Pensa.』のリリースを果たしており、彼らの健在ぶりをアピールしている。なお、グループの創設者であり、ヴィーカル兼フルート奏者として活躍したクラウディオ・カナーリは、2018年8月27日にイタリアのトスカーナ州にあるミヌッチャーノという町で残念ながら亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はムゼオ・ローゼンバッハと並ぶヘヴィシンフォニックロックグループ、ビリエット・ペル・リンフェルノのデビューアルバムを紹介しました。このグループは紙ジャケで初めて聴いたのですが、かのオパス・アヴァントラやセミラミスを輩出したトライデントレーベルからリリースされたアルバムということで個人的に興味深々でした。ジャケットもジャンピングする男性を巻き取るようなデザインになっていて何となく意味深ですね。実際に聴いてみると、イタリアでありがちな単にキーボードによる甘美なメロディに逃げず、フルートとインパクトのあるヘヴィなギターリフによって強化されたハードロックを取り入れているところが好印象です。注目すべきは2人のキーボーディストの役割が面白く、1人のキーボーディストがクラシックにインスパイアされた演奏を掘り下げている一方で、もう1人がシンセサイザーで雰囲気を作る演奏をしており、お互いに補完し合い、競争の感覚がまったく無いことです。感情の起伏をそのまま曲調にしているためか、先の読めない展開が多くて聴いていて非常にワクワクしますが、アコースティックギターやフルートによるフォーク調をベースにしているので、思った以上にメロディアスなのが驚きです。彼らの作り出す音楽は、良く言えばプログレとハードロックの中間に位置するサウンドといった方が分かりやすいかも知れません。

 さて、本アルバムの歌詞はヴォーカリストでフルート奏者のクラウディオ・カナーリによって作られていますが、彼のイタリア社会における内面の葛藤と矛盾を示した歌詞が印象的です。歌詞では1人のカトリックの教育を受けている少年を主人公にしていて、彼の失望をそのまま描いていると言っても過言ではないです。最初の曲で怒りと罪悪感による心理的苦痛を歌い、2曲目で罪の告白を行う流れになっています。ここで司祭が「私はあなたを永遠の火から救うことはできません。あなたは地獄への切符しか持っていません」と言っているところから、グループ名になったのでは?と思っています。3曲目でそんな若者が、従うべき健全な道を教えてくれる大人を探していて、4曲目で誰も助けが無いことを憂慮し、最後に死を選んでいくという、悲しい結末になっています。最後の曲はカナーリの友人が軍服務中に実際に自殺した哀しみを描いたものだそうです。こういった歌詞を想像しながら曲を聴いてみると、また違った印象を持つかも知れません。

 端正な始まりから次第に混沌となっていくダイナミックなヘヴィシンフォニックロックが味わえる名作です。イタリア独特の激情あふれるサウンドをぜひ一度聴いてみてくださいな。

それではまたっ!