【今日の1枚】Jade Warrior/Jade Warrior(ジェイド・ウォリアー) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Jade Warrior/Jade Warrior
ジェイド・ウォリアー/ジェイド・ウォリアー
1971年リリース

武骨な中に独特の東洋旋律を巧みに取り入れ
プログレの精神性を反映した画期的なデビュー作

 遠く離れたアフリカや東洋の風情を加味し、元祖ワールドミュージックともいえるロックグループ、ジェイド・ウォリアーのデビューアルバム。そのサウンドはファズを利かせたギターやフルート、コンガといったパーカッションを駆使し、余韻を活かした独特ともいえるエキゾチックな世界を演出した唯一無二のアルバムとなっている。和風の画のようなジャケットデザインが功を呼び、現在でもオリジナルアルバムは1枚数万円にも及ぶ高い人気となっている。

 ジェイド・ウォリアーは中核となるジョン・フィールド(フルート、パーカッション、キーボード)とトニー・デューイグ(ギター)が、1970年に結成したグループである。2人は元々、1960年代初期に同じ工場で働く従業員でフォークリフトの運転手をしていたという。すぐにお互いがジャズやアフリカ音楽、オリエンタル音楽に興味があることを知り、最初はギターとコンガのデュオとして演奏するようになる。後に4トラックのレコーダーを購入し、多層オーバーダブの実験を開始している。この時にジョン・フィールドはストラヴィンスキーの『春の祭典』に強い影響を受けたという。1965年に2人はパトリック・ライオンズをヴォーカルに迎えたSecond ThoughtsというR&Bグループを結成。4曲入りのシングルを1枚残したがすぐに解散し、ヴォーカルを務めたパトリック・ライオンズは後にアレックス・スピロポウロスとニルヴァーナを結成する。一方のジョンとトニーの2人は、後にエンジニアとして活躍するトム・ニューマンのグループであるトムキャッツに加入する。グループは母国イギリスから離れて大半をスペインで過ごし、リリースした4枚のシングルはスペインのチャートを賑わすほど成功を収めている。1966年になるとイギリスに戻り、グループ名をトムキャッツからJuly(ジュライ)に変えて、サイケデリックポップを演奏するようになる。グループは1枚の同名のアルバムをリリースしたが、1968年にあえなく解散。トニーはメンバーチェンジを繰り返していたポップグループであるUnit4+2のオーディションに合格し、ギタリストとして活躍。そのグループのメンバーにはグリン・ハヴァード(ベース、ヴォーカル)、アラン・プライス(ドラムス)が在籍していたという。Unit4+2はペルシャ(トルコやイランなど)といった中東をめぐるように活動をし、様々なナイトクラブで演奏したが、すぐに経営的に困窮して帰国。グループは短期間の活動の後に解散し、トニーはメンバーだったグリン・ハヴァードに声をかけ、ジョン・フィールドと共にジェイド・ウォリアーを名乗るようになる。グループ名の由来はロンドンの演劇学校の舞踏劇のために書いた曲名『フェニックスと鳩』の一部から採ったものと言われている。トニーとジョン、グリンの3人は共同で作曲を行い、アルバムの最初の曲にもある『旅人』のデモテープを録音。そのテープを聴いた複数のレコード会社の中で前向きだったのが、新進気鋭のレーベルであるヴァーティゴである。この時、ヴァーティゴはちょうどロンドンで活躍していたアフロロックグループ、アサガイと契約したばかりで、彼らと似た音楽性を持つジェイド・ウォリアーに興味を持ったのである。アサガイもアフリカ音楽をルーツとしたワールドミュージックの先駆けとなったグループである。彼らは最終的にアサガイとパッケージングという形でヴァーティゴと契約を果たすことになる。実はかつて共に活動していたパトリック・ライオンズがヴァーティゴの重要なプロデューサーとなっていたことも影響している。こうして、ジョン・フィールドとトニー・デューイグ、グリン・ハヴァードのトリオに、アラン・プライス(ドラムス)、トニーの弟であるデヴィッド・デューイグ(ギター)、ディヴ・コナーズ(サックス)が適宜に参加する形で、デビューアルバム『ジェイド・ウォリアー』が1971年にリリースされる。そのアルバムは深みのあるフルートとコンガといったパーカッション、ファズの利いたカッティングギターが競い合う、エキゾチック性とサイケデリック性が混在する独特のサウンドとなっている。

★曲目★
01.The Traveller(旅人)
02.A Prenormal Day At Brighton(ア・プリノーマル・デイ・アット・ブライトン)
03.Masai Morning(マサイの朝)
04.Windweaver(風織り人)
05.Dragonfly Day(トンボの日)
06.Petunia(ペチュニア)
07.Telephone Girl(テレフォン・ガール)
08.Psychiatric Sergeant(精神医学士の軍曹)
09.Slow Ride(スロウ・ライド)
10.Sundial Song(日時計の歌)

 アルバムの1曲目の『旅人』は、うねりのあるファズギターを轟かせつつ、コンガとフルートを散りばめたエキゾチックなメロディを綴られた楽曲。冷ややかなギターの響きの残音と眠りを誘うようなフルートの音色が、広大なアフリカをイメージさせるようである。2曲目の『ア・プリノーマル・デイ・アット・ブライトン』は、ジェスロ・タルの影響が感じられるフルートを中心としたブルージーなロック。サイケデリックを思わせるギターのカッティングが随所にあり、ファズを利かせたシーンはなかなかヘヴィである。3曲目の『マサイの朝』は、『骨を放る』、『狩り』、『王達の儀式』の3つを含む曲で、パーカッションとフルートによるフリーフォームな演奏となっており、彼らのアフリカ音楽への傾向が感じられる楽曲。ファズを利かせたギターとヴォーカルが加わると、アフロロック色が強まっていく。アフリカらしいコーラスと共にテクニカルなパーカッションワークのグルーヴ感がいかにもワールドミュージック的である。4曲目の『風織り人』は、儚げなアコースティックギターとヴォーカルによるフォークロック。途中でファズを利かせたギターや美しいフルートがアクセントとなって、全体的に温かみのある曲に仕上げている。切れ目なくつながる5曲目の『トンボの日』は、『変容』、『太陽の精の踊り』、『死』の3つを含む曲で、遠くからのフルートと掻き鳴らすギターが、まるでキング・クリムゾン的な幻想空間を描いているような錯覚に陥る楽曲。パーカッションが入ると安定したリズムとなり、朗々としたフルートのソロが展開し、ギターが加わってゆったりとしたアンサンブルになっていく。最後はギターとフルートによる幻想的な雰囲気で終わっている。6曲目の『ペチュニア』は、ブルージーな音階を基調に、ベースとパーカッションをバックにトニーがアーシー風の泥臭いプレイを聴かせてくれる。ファズギターが加わるとより一層ワイルドな雰囲気に包まれる。7曲目の『テレフォン・ガール』は、前曲同様にブルージーな作りだが、こちらはハードロックの展開がある楽曲。ストレートな英国ロックとなっているが、ドラムレスのパーカッションであるというのが個性的である。ちなみにスキャット風のコーラスはグリン・ハヴァードである。8曲目の『精神医学士の軍曹』は、フルートとギターによるジャズ的なアプローチのある楽曲。ヴォーカルパートはどこかサイケデリック感が漂う。9曲目の『スロウ・ライド』は、ミステリアスなギターと端正なフルートの音色が合わさった奇妙な楽曲。まさにサイケデリックな感覚が残る浮遊感のあるサウンドである。10曲目の『日時計の歌』は、アルペジオを活かしたギターと落ち着いたフルートが、どこかオリエンタルな雰囲気に陥る楽曲。ギターがスピードを上げてファズがかかると、力強いロックに変貌し、再びまた美しいフルートとギターによるアンサンブルで幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ファズを利かせたギターがハードな一面を見せているが、アコースティックギターとフルートの残響音が深くこだまする非日常のエキゾチズムを極めたユニークな楽曲だと思える。この無常観とも言える雰囲気がたたずむ音の世界は、遠い日本の静寂を好む風流にも似た内容になっており、それが“翡翠の武者”というグループ名につながっているのだろう。

 アルバムはヴァーティゴのサポートを受けずに、ほとんど宣伝することはなかったが、英国でアサガイと共に注目されることになる。アサガイのアルバムにはジェイド・ウォリアーのメンバーによって書かれた曲をフィーチャーしており、また、アサガイのアルバム『ジンバブエ』にもメンバーがゲストで参加している。彼らは不在だったドラマーにアラン・プライスを正式にメンバーとして採用し、セカンドアルバム『リリースト』を同年にリリースをしている。このアルバムは前作のエスニックで世俗的なサウンドではなく、透明感のあるインストゥメンタルを中心とした楽曲となっている。そして1972年にはこれまでのアイデアをふんだんに取り入れ、洗練さを増したサードアルバム『ラスト・オータム・ドリーム』をリリースする。その後、英国のシンガーソングライター兼ギタリストのデイヴ・メイソンとアースクエイクのオープニングアクトを務めるために、アメリカに渡ってツアーを行っている。この時に米国でのジェイド・ウォリアーの販売に満足していたマーキュリーレコードによって宣伝され、さらにビリー・ガフのガフ・マスターズ・マネジメントが彼らのバックアップを務めるようになる。アメリカのツアー終了後、グループはスタジオに戻り、次なるアルバム『エクリプス』の録音するが、ヴァーティゴがグループとの契約を破棄。これが原因となってメンバー間での軋轢が高まり、グループは解散することになる。一方、彼らの音楽を聴いて深い感銘を受けたトラフィックのスティーヴ・ウインウッドが、ジェイド・ウォリアーがレーベルによって解散したと聞いて、彼の所属するアイランド・レコードのクリス・ブラックウェルに彼らと可能であれば契約してほしいと頼んでいる。こうしてジョンとトニーは、グリンを抜きに再結成し、アイランドと3枚のアルバムの契約を果たしている。1974年の『フローティング・ワールド』、1975年に『ウェイヴス』などの4枚のアルバムをリリースし、ジャズ・フュージョン&ワールドミュージックの一体化を進めたようなサウンドを追求することになる。その後、1984年にはトニーのソロプロジェクトに近い『ホライズン』や1989年に『アット・ピース』といったアルバムをリリースしている。一方のジョンは1980年代の終わりに若きベーシストであるデイヴ・スタートと出会い、ジェイド・ウォリアーの再編を考えるようになる。そこにギタリストのコリン・ヘンソンが加わり、残るはトニーに声をかけるだけだったが、彼は突然の心臓発作で1990年に亡くなることになる。残された3人は1992年に『ブリージング・ザ・ストーム』をリリースし、好評を得たことから1993年に『ディスタント・エコーズ』を立て続けにリリースしている。このアルバムにはゲストにソフト・マシーンのテオ・トラヴィスとキング・クリムゾンのデヴィッド・クロスが参加している。その後、オリジナルメンバーであるグリン・ハヴァードが加入するが、今度はコリン・ヘンソンが音楽性の違いからグループから離れている。しばらく音沙汰が無かったが、2008年に最新アルバムの『Now』を発表し、同年に35年ぶりのライヴを行っている。現在でもジョンとデイヴ、グリンの3人を中心に活動を続けており、次なるアルバム制作に向けて動き出している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアフリカと東洋的なエッセンスが混在した最初期のワールドミュージックを確立したジェイド・ウォリアーのデビューアルバムを紹介しました。ジェイド・ウォリアーといえば日本の浮世絵のようなジャケットデザインが有名で、本アルバムの和風の風景画とサードアルバムの武者画がひと際映えていて人気ですね。同じヴァーティゴと契約したアサガイは、南アフリカのミュージシャンによるアフロロックを英国にもたらしましたが、ジェイド・ウォリアーはどちらかというと東洋的なエッセンスを加味したオリエンタルな音楽を作り出した感じがします。とりわけ日本的な静謐さを曲の中に盛り込んでいて、強いて言うのであればギターは琵琶でフルートは尺八でパーカッションは鼓のようです。英国では珍しい楽器の余韻を曲の中に組み込んでいて、聴いていて何となく日本の伝統音楽に通じるものがあります。それをファンタジックと呼ぶのか、エキゾチックと呼ぶのか、サイケデリックと呼ぶのか聴く人それぞれだと思います。彼らはアイランド・レコードに移ってからよりジャズフュージョン&ワールドミュージック的なサウンドになっていきますが、このヴァーティゴ時代のアルバムがロック的な要素が残った独特の世界観を演出している気がします。キング・クリムゾンの芳香が漂うサードアルバムも好きですが、個人的にはワールドミュージックの先駆けともいえる感性が色濃く出ている本アルバムの方が好きです。

 さて、ヴァーティゴ時代に録音されたと言われている『エクリプス』ですが、一度お蔵入りになった後、1998年に英国のAcmeからLPとCDでリリースされているんですね。上でも書きましたが、1973年6月にリリースされる直前にリリースがキャンセルされたアルバムで、LP2枚組として発表される予定だったそうです。しかし、オリジナルのヴァイナル形式でのテストプレスとしてのみ存在していて、ヴァーティゴのカタログ番号には刻印されていたようです。ちなみにナンバーは“6360 086”です。アグレッシヴなハードロックと冷ややかなまでにクールなバラードが混在したアルバムで、そこにはやはり魅力的なアコースティックギターやフルートが散りばめられていて、後のフュージョンの文脈を確立したサウンドになっています。

 ヴァーティゴ時代のアルバムは、サイケデリックロックからプログレッシヴロック、そしてワールドミュージックへと変遷していく過程が表れています。その中でもドラムレスのエキゾチックなメロディを織り成した本アルバムは、他のグループには無い唯一無二のサウンドになっています。ぜひ、この機会に聴いてみてくださいな。

それではまたっ!