【今日の1枚】Mémoriance/Et Après...(メモリアンス/それから…) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Mémoriance/Et Après...
メモリアンス/それから…
1976年リリース

シャープなギターとシンセサイザーを軸とした
気品あふれる仏産シンフォニックロック

 1970年代の後期に2枚のアルバムを残したフランスのシンフォニックロックグループ、メモリアンスのデビューアルバム。そのサウンドはフランスのシアトリカルロックの要素がありつつも、初期のアトールを想起させる繊細なギターとシンセサイザーを軸としたオリジナリティあふれるシンフォニックロックとなっている。日本ではCDRで販売するタチカレコードでリイシューされたのみだが、そのクオリティの高さからセカンドアルバムと共に現在でもプログレファンから愛され続ける隠れた逸品でもある。

 メモリアンスはフランスの北西部の大西洋に臨む港湾に位置する都市ル・アーブルで、1970年初頭に結成したグループである。メンバーはジャン・フランソワ・ペリエ(キーボード)、ディディエ・ギヨーマ(ヴォーカル、ギター)、ジャン=ピエール・ブーレー(ヴォーカル、ギター)、ディディエ・ブッソン(ドラムス)、ミシェル・アゼ(ヴォーカル、ベース)の5人編成であり、テクニカルアドバイザーとしてクロード・ルタイレンテールがメンバーとして参加している。当初は英国のプロコル・ハルムやピンク・フロイドを中心としたブリティッシュ&サイケデリックロックに影響された楽曲を演奏していたが、アトールやアンジュ、カルぺ・ディエムといったグループが台頭してきたあたりから、本格的にプログレッシヴロックに傾倒していくことになる。地元のル・アーブルのクラブを中心にライヴ活動する傍ら、クラシックに精通しているジャン・フランソワ・ペリエを中心にオリジナル曲を書くようになり、レコード会社に送るためのデモテープを録音している。そのテープはアリオラ傘下のユーロディスクの目に留まり、1975年に契約をしている。このユーロディスクとはドイツのクラシック専門のレコード会社であるアリオラが、他のジャンルを抱えるために1960年代にフランスに設立したレーベルである。アトールとも契約しており、非常にプログレッシヴロックにも寛容なレーベルだったという。彼らはフランスのパリにあるStudio Gangに入り、プロデューサーにフランス映画音楽やフレンチポップのアーティストを手掛けたナップス・J・ラマルシュを迎えてレコーディングを開始。1976年にデビューアルバムとなる『Et Après...(それから…)』をリリースする。そのアルバムは10分以上の楽曲を含む4曲で構成され、初期のアトールを想起させる繊細なギターとシンセサイザーを軸としたオリジナリティあふれるシンフォニックロックとなっている。

★曲目★ 
01.Je Ne Sais Plus(もう分からない)
02.La Grange Mémoriance(ラグランジュの記憶)
03.Et Après...(それから…)
04.Tracsir(トレーサー)

 アルバムの1曲目の『もう分からない』は、スリリングなイントロとは裏腹に泣きのバラードをメインとした気品あふれる楽曲。ストリングスシンセサイザーとメロディアスなギターが絡み合い、抒情的なヴォーカルが印象的である。テンポや変調を駆使しつつも整ったピアノのリフレインやハーモニーが美しく、プログレッシヴな要素を巧みに取り入れていることが分かる逸品である。2曲目の『ラグランジュの記憶』は10分を越える内容となっており、オランダのヤン・アッカーマンばりの憂いのあるギターとクラシカルなキーボードの響きから始まり、沸き立つようなドラミングが心地よい楽曲。途中からキーボードやドラミングを中心にジャズロック的な勢いのある演奏に変わり、突然スローな展開と共に気だるさのあるヴォーカルが展開される。リードギターが時折ソロのストロークを描くため、シャイロックのファーストアルバムを彷彿とさせる。後半は再びギターの主導でスタイリッシュに決めつつ、さらにグルーヴィーなリズムが導入されたシンフォニックスタイルで終わっている。3曲目の『それから…』は、こちらも10分を越える内容になており、エキゾチックなイントロから緩急のあるキーボードと無調のギタープレイが混在するシアトリカルな側面を持った楽曲。アルバムの中で最も複雑さと変幻さがあり、エキサイティングな展開が怒涛のように押し寄せるところが魅力的である。ヴォーカルは声色パフォーマンスになっており、ささやくような不気味な声は曲自体を一層ミステリアスな雰囲気にさせている。後半はテクニカルでタイトなアンサンブルとなり、女性コーラスを用いた狂気さを湛えたまま終えている。4曲目の『トレーサー』は、エモーショナルな2本のギターとキーボードによるキャッチーなリズムとメロディーで構成された楽曲。ロック的な要素が強く優雅ともいえるクラシカルな展開もあるが、初期のウィッシュボーン・アッシュを彷彿とさせるギタープレイが素晴らしい。こうしてアルバムを通して聴いてみると、メランコリックな要素があるもののドラマティックな展開に目を見張るものがあり、無名のグループとは思えない非常に優れた演奏と作曲能力を秘めたアルバムだといえる。やはり2本のギターの存在感は大きく、キーボードと共に音の配置と動きの立体感を活かしたアンサンブルは非常に巧みであり、その熱気と冷気が交差するスタイリッシュな曲調は他のプログレッシヴロックグループとは似て非なるオリジナリティに溢れている。

 アルバムはアンジュやモナ・リザといったシアトリカルロックとは一線を画したシンフォニックロックとなったことで、プログレッシヴロックファンには高く評価された。その後、『トレーサー』と新たな曲『アイ・ドント・ノウ・エニモア』をカップリングしたシングルをリリースするが、商業的に芳しくなかったことでレーベルとの契約は解除。この時にドラマーのディディエ・ブッソンが脱退。代わりにクリストフ・ブーランジェが加入する。また、楽曲に厚みを持たせるためにキーボード奏者にパスカル・リジェを新たに加入させている。グループは3年のブランクを経て大手のフィリップスと契約することに成功し、1979年にセカンドアルバム『うたかたの日々』をリリースする。このアルバムはフランスの作家であるボリス・ヴィアンの1947年の小説『日々の泡(うたかたの日々)』をモチーフとしたトータルアルバムとなっている。ハードロック的な要素とジャズ的な要素を組み合わせたシンフォニックロックとなっており、その卓越したメロディセンスが高く評価されたアルバムとなっている。このアルバムでようやくグループが陽の目を見るようになったが、1981年にシングル『Sparadrap/Telephone』をリリース後、自然消滅に近い形で解散している。解散後のメンバーは特に所属したグループが無いことから、ほとんどはスタジオミュージシャンとなったか、または音楽業界から離れてしまったと思われる。これだけ演奏能力が高いメンバーであるにも関わらず、たった2枚のアルバムで消滅してしまったというのは残念である。セカンドアルバムは大手フィリップスからのリリースだったこともあり、日本でもフォノグラムから流通したが、ファーストアルバムは未だ持って国内で流通されておらず、2015年にようやくドイツのマイナーレーベルのペイズリープレスからCDリリースされたのみである。日本では先に述べたようにCDRを専門とするタチカレコードから1990年代に配布されてのみで、オリジナルレコードは現在でも極めて高額なレアアイテムとなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアンジュやアトール、モナ・リザの伝統を受け継ぐフランスのプログレッシヴロックグループ、メモリアンスのデビューアルバムを紹介しました。フランスでも比較的知られていないユニークなグループですが、プログレッシヴロックのファンの間ではセカンドアルバムの『うたかたの日々』が日本フォノグラムからリリースされていて、ユーロ・ロック・スーパーコレクションというシリーズで見かけたという人も多いと思います。私は某中古CDショップで3~4年前に本アルバムのペイズリープレス盤をセカンドアルバムと共に偶然入手しました。最初は全く知らなかったグループで、ジャケットのイメージからアンジュやモナ・リザと同じようなシアトリカルロックかな~と思いましたが、楽曲を聴いて繊細なギターとシンセサイザーを軸とした思った以上のドラマティックな展開に驚いたものです。私としては個性的なフランスのグループらしいシンフォニックロック色が強く打ち出されているファーストアルバムの方が断然好きですね。キーボードはあくまでバックに徹していているにも関わらず、非常にスリリングで尚且つメロディアスな楽曲となっています。スティーヴ・ハケットやヤン・アッカーマンをイメージさせるようなギターを前面に出しつつも、変調の多い楽曲の中で巧みなアンサンブルに昇華している点が素晴らしいです。個人的には手数の多いジャジーなドラミングとうねるような太いベースが、複雑で緩急のある曲調をうまくリードしていて、グループの演奏テクニックを押し上げている感じがします。権利上の問題で国内でのCD化は未だ果たせていませんが、ベル・アンティークあたりから、ぜひ紙ジャケ化してほしいです。

 初期アトールを想起させる演奏ですが、フランスのシアトリカルロックとは一線を画した本アルバムは、非常にクオリティの高いシンフォニックロックとなっています。クラシックとジャズ、サイケデリックといった要素をスタイリッシュに仕上げた楽曲は、ある意味気品に満ち溢れています。ぜひ、この機会に一度聴いてみてくださいませ。

それではまたっ!