【今日の1枚】Paladin/Charge!(パラディン/チャージ!) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Paladin/Charge!
パラディン/チャージ!
1972年リリース

ラテン的リズムと憂いのある英国然とした
サウンドが魅力の傑作プログレッシヴハード

 あらゆる音楽の要素をミックスし、当時の音楽業界で話題となったブリティッシュロックグループ、パラディンが1972年にリリースしたセカンドアルバム。そのサウンドはラテンロックグループであるサンタナを意識したようなアグレッシヴなリズムセクションをベースに、ストリングスやキーボードによるブリティッシュ然とした憂いを秘めたメロディが散りばめられた個性的な内容になっている。その多彩な音楽要素を取り入れた高水準の楽曲は、リリース当時の英国ロックシーンを見渡しても類似するグループが見当たらず、後に英国プログレッシヴハードの傑作と呼ばれるようになる。美しいアルバムジャケットの絵はロジャー・ディーンが手掛けている。

 パラディンはクラシックの教育を受けたマルチ楽器奏者であるピート・ソリー(キーボード)とジャズ出身のキース・ウェッブ(ドラムス)の2人によって結成したグループである。1969年晩秋のローリング・ストーンズのUSツアーのサポートアクトを務めたテリー・リードのバックバンドのメンバーだった2人は、アメリカ滞在中にツアーメンバーとして生活を送るよりもグループを組んで一旗揚げようと意気投合し、パラディンというグループを結成している。ロンドンに戻った2人は元ワールド・オブ・オズのピーター・ペケット(ベース、ヴォーカル)を迎えて、イングランド南西部のグロスターシャー州で家を借りて、共同生活を送りながらリハーサルとメンバー探しを行うことになる。ペケットはかつて共にグループで活動していたルー・ストーンブリッジ(キーボード)を加入させ、さらにストーンブリッジの勧めで元グリズビー・ダイクのデレク・フォリー(ギター)を加入させている。5人のメンバーとなったパラディンは、早速自分たちが制作した曲を元にリハーサルを行うが、ロックシーンにおいて他のグループとの差別化を図ろうと、もっとリズム隊を際立たせたサウンドを打ち出そうと考えたという。ソリーとウェッブはアメリカツアー中に全米で話題となっていたラテンパーカッションを大胆に導入したサンタナのサウンドを気に入っており、そこに当時イギリスで注目を浴びていたオシビサに代表されるアフリカ系のトライバルリズムを打ち出したサウンドをミックスさせようとしたという。こうしてソリーとストーンブリッジによるツインキーボードとフォリーのハードなギター、それを支えるウェッブとペケットによる複雑にしてアグレッシヴなリズムセクションを活かし、ロックやジャズ、アフロ、ラテンといったあらゆる音楽の要素をミックスしたサウンドを確立させる。ロンドンを中心にライヴ活動を本格的に開始したパラディンは、その独特ともいえるプログレッシヴなサウンドにロックファンや音楽評論家から注目を集め、1970年のクリスマスシーズンの頃には話題のグループのひとつに数えられていたという。すると多くのレコード会社がパラディンを獲得するために争奪戦が繰り広げられ、最終的にブロンズレコードと契約。1971年1月にフィラモア・リンカーンをプロデューサーに迎えて、デビューアルバム『パラディン』をリリースすることになる。そのアルバムは強烈ともいえるライヴ感やリズムに注力した個性的なサウンドだったが、ブリティッシュ然としたメロディとアメリカンロック的な大らかさを併せ持った迫力あるアルバムに仕上がっている。そしてデビューアルバムから1年後の1972年に、アメリカのマーケットに向けたセカンドアルバム『チャージ!』がリリースされる。そのアルバムはまさにサンタナばりのラテン的なリズムをベースに、エッジの効いたギター、美しいストリングスやピアノによるメロディを前面に打ち出したドラマティックな展開が随所に散りばめられており、その卓越したアレンジセンスは前作を遥かに凌いだ傑作となっている。

★曲目★
01.Give Me Your Hand(ギヴ・ミー・ユア・ハンド)
02.Well We Might(ウェル・ウィ・マイト)
03.Get One Together(ゲット・ワン・トゥゲザー)
04.Anyway(エニウェイ)
05.Good Lord(グッド・ロード)
06.Mix Your Mind With The Moonbeams(ミックス・ユア・マインド・ウィズ・ザ・ムーンビームス)
07.Watching The World Pass By(ウォッチング・ザ・ワールド・パス・バイ)
★ボーナストラック★
08.Give My Love To You(ギヴ・マイ・ラヴ・トゥ・ユー)
09.Sweet Sweet Music(スウィート・スウィート・ミュージック)
10.Anyway ~Variation~(エニウェイ~ヴァリエーション~)
11.Sweet Sweet Music ~Variation~(スウィート・スウィート・ミュージック~ヴァリエーション~)
12.Well We Might ~Variation~(ウェル・ウィ・マイト~ヴァリエーション~)
13.Fill Up Your Heart~Instrumental~(フル・アップ・ユア・ハート~インストゥメンタル~)
14.Bad Times~Instrumental~(バッド・タイムズ~インストゥメンタル~)

 アルバムの1曲目の『ギヴ・ミー・ユア・ハンド』は、前作のイメージを継承したパーカッションを多くフィーチャーしているが、プログレッシヴなオルガンが荘厳で迫力のあるハードロック。グルーヴィーな感覚はラテン的でありながらも、どこか英国然とした雰囲気が漂う絶妙なサウンドになっている。2曲目の『ウェル・ウィ・マイト』は、ソリーの痛快なエレクトリックピアノとフォリーのラウドなスライドギターが切り込むブギナンバー。この手のブギはアメリカ人が演奏するとルーズなノリになってしまうが、律儀すぎる演奏が非常に英国的である。3曲目の『ゲット・ワン・トゥゲザー』は、独特なキーボードによるメロディラインとワウギター、繊細なドラミングによるインストゥメンタル曲。ジャズ的なインプロゼーションがあり、メンバーによる高水準のアンサンブルを披露している。4曲目の『エニウェイ』は、荘厳なオルガンをバックに憂いのあるヴォーカルから始まり、美しいストリングスを導入した英国ロック的なメロディが光る名曲。前作を凌ぐコーラスパートが冴えており、何よりも曲の展開がドラマティックである。5曲目の『グッド・ロード』は、タイトなパーカッションのリズム上で、エッジの効いたギター、キーボードによる疾走感あふれる楽曲。さりげないストーンブリッジが弾くエレクトリックピアノの細かいアレンジが効いており、アメリカナイズされたかのようなドライな演奏とヴォーカルが新鮮である。6曲目の『ミックス・ユア・マインド・ウィズ・ザ・ムーンビームス』は、流麗でクラシカルなピアノのオープニングから始まり、エモーショナルなギターと英国然としたヴォーカルをメインとした楽曲。中間部のオルガンソロはまるでプロコル・ハルムのようであり、全体的にパラディンの卓越したポップセンスが散りばめられた名曲である。7曲目の『ウォッチング・ザ・ワールド・パス・バイ』は、ハーモニカとオルガンがカントリー風味を帯びたオープニングから、ダイナミックなキーボードソロを経てアメリカンなロックへと展開する楽曲。曲のパーツだけ見るとアメリカ的に聴こえるが、曲のつながりや展開はプログレッシヴであり英国的である。後半のフォリーのアグレッシヴなギターソロは必聴である。ボーナストラックはアメリカの市場向けにリリースしたポップなシングル曲『ギヴ・マイ・ラヴ・トゥ・ユー』、『スウィート・スウィート・ミュージック』、そして別テイクバージョンの『エニウェイ』と『スウィート・スウィート・ミュージック』、曲調がサンタナを意識したような3曲のインストゥメンタル曲が収録されている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作のラテン的なパーカッシヴの強さを抑えて全体的にポップなメロディラインを重視し、アメリカナイズされた演奏の中に英国的でプログレッシヴなフレーヴァーが散りばめられた刺激的なサウンドになっている。アメリカ市場を意識したためか個々のパーツはアメリカ印だが、キーボードとコーラスを含めたヴォーカルが英国然としたサウンドの繋ぎの役目を果たしており、彼らの曲のアレンジセンスは抜群といっても良いだろう。

 これだけ作曲能力とアレンジ力を施したアルバムだったが、結局アメリカでの成功を収めることはできず、本アルバムリリース後にキーボード奏者のルー・ストーンブリッジとギタリストのデレク・フォリーが脱退してしまう。残されたメンバーは新たにアメリカ人のギタリスト兼ヴォーカリストのジョー・ジャマーを加入させてグループの存続を図ったが、1972年の暮れに活動は停止し、そのまま解散することになる。解散後のピート・ソリーは、スナッフというグループで演奏し、プロコル・ハルムの1976年のアルバム『輪廻』でハモンドオルガンとシンセサイザーを担当し、ホワイトスネイクのデビューアルバムやザ・ジャムにも参加する活躍。また、1980年代はプロデューサーに転身して様々なアーティストのレコードプロデュースを行い、BMWやコカ・コーラのテレビCM用のジングルなども作成している。キース・ウェッブはスタッフォードのナグズ・ヘッドでパブを経営し、自らも演奏に加わりながら多くのミュージシャンをサポートしたという。その後は作詞家、編曲家として音楽活動を続ける一方、スティーヴィー・レイ・ヴォーンなどの多くのグループで演奏したという。ルー・ストーンブリッジは、元マンフレッド・マンのベーシスト兼ギタリストであるトム・マクギネスとジョン・メイオールのドラマーだったヒューイ・フリントが結成したマクギネス・フリントというグループに参加。その後はセッションミュージシャンとして活躍している。ピーター・ベケットはアメリカに移り、プレイヤーというグループを結成し、1977年に『ベイビー・カム・バック』という全米ナンバー1のヒット曲を世に出している。解散後のメンバーはそれぞれ別の道で活躍することになったが、2002年に30年ぶりとなるパラディン名義のアルバム『Jazzattack』をリリース。そのアルバムは1970年当時に録音していたインストゥメンタル中心のアウトテイク集だが、中近東風のエモーショナルな楽曲が集まったジャズロック+フュージョンの逸品となっている。このアルバムのリリースを機に再活動を期待したファンも多かったが、残念ながらドラマーのキース・ウェッブが2007年3月に亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国然としたサウンドにラテン的なエッセンスを融合させた、パラディンのセカンドアルバム『チャージ!』を紹介しました。ロジャー・ディーンの手掛けたアルバムジャケットの中でも、かなり人気の高いアルバムとしても有名です。ちなみに私はブリティッシュロック・マスターピースの一環としてリリースされたCD盤を入手しました。どちらかというと英国然としたキーボードと手数の多いパーカッシヴな演奏が迫力のあるファーストアルバムを推す人も多いですが、本アルバムは明らかにアメリカ市場を狙ったメロディとアレンジを施していて、キラリと光る佳曲が多くなっています。前作のアプローチであればもっとパーカッションがフィーチャーされてもおかしくはない曲が寸止め状態で保たれ、プログレッシヴ的な展開で聴かせているところが、彼らの英国グループとしてのバランス感覚といっても良いと思います。個人的には『エニウェイ』という曲がものすごく英国然としたサウンドである一方で、『グッド・ロード』というサンフランシスコのグループを思わせるドライな曲が1枚のアルバムに収められていることがびっくりです。7曲目の『ウォッチング・ザ・ワールド・パス・バイ』なんて、出だしにすわプログレか!と思ってしまったほどです。上にも書きましたが、それぞれのパーツはアメリカナイズされたものが多いですが、俯瞰で観るとやっぱりブリティッシュのグループらしいアレンジになっていると思っています。

 さて、パラディンは2002年に未発表音源集として『Jazzattack』をリリースしていますが、デビュー前の1970年当時の曲と未発表曲を収録したインストアルバムになっています。ジャズ色とエスニック色を織り交ぜたサウンドになっていますが、デビュー前とは思えない完成度になっていて、未発表とは思えないクリアな音質に驚きます。本当に1970年当時の音源なのかな~と思っていましたが、BBC音源と聞いて納得。思った以上にクオリティの高いアルバムになっています。こちらはジャズロック&フュージョンファンは、ぜひ聴いてほしいです。

それではまたっ!