【今日の1枚】Nightwinds/Nightwinds(ナイトウインズ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Nightwinds/Nightwinds
ナイトウインズ/ナイトウインズ
1991年リリース(1979年録音)

高い創造性と圧倒的なクオリティを誇る
カナディアンプログレの伝説の名盤

 1979年に1枚のアルバムをレコーディングして解散したカナダの幻のグループ、ナイトウインズのデビューアルバム。そのサウンドは重厚なメロトロンやハモンドオルガンを駆使するジェラルド・オブライエンを中心に、英国のジェネシスのアルバム『トリック・オブ・ザ・テイル』を彷彿とさせるクオリティの高い演奏と、北米らしい明るく抜けたメロディを織り交ぜた究極のプログレッシヴロックになっている。すでにアルバムリリース時にグループが解散していたためレコーディングされた音源は陽の目を見ることは無かったが、1991年にアメリカのレーベルであるレザーズ・エッジによって念願の初CD化を果たした作品でもある。

 ナイトウインズはカナダのオンタリオ州の州都トロントで1976年頃に結成したグループである。まだ学生だったサンディ・シンガーズ(ヴォーカル、12弦ギター)とジェラルド・オブライエン(キーボード)、テリー・オブライエン(ギター)の兄弟が中心となり、後にマイク・ギングリッチ(ベース)、マイク・フェラン(ドラムス、パーカッション)を加えた5人で、ナイトウインズというグループ名で活動を開始している。彼らは英国のプログレッシヴロックグループであるジェネシスに影響を受けており、ジェネシスのレパートリーを演奏する一方、オリジナル曲を作成してはトロントの高校やフェスティバルなどでライヴを行っていたという。後に彼らはオンタリオ州全域にまで活動を広げ、1978年から1979年にかけて各地のクラブシーンで演奏し、Rhinegold(ラインゴールド)、Saga(サーガ)、FMといったロックグループとローテションを組むほど人気だったと言われている。彼らにとって大きな転機となったのが、当時オンタリオ州で活動していたKlaatu(クラトゥ)というロックグループのメンバーであったテリー・ドレーパーとディー・ロングが、ナイトウインズの音楽性に注目して彼らに近づいてきたことである。クラトゥというグループは当時「カナダのビートルズ」と呼ばれた謎のグループで、1980年代に入って4枚目のアルバム『Endangered Species』がリリースされた頃にようやくメンバーが判明したグループである。当然、ナイトウインズのメンバーも2人がクラトゥのメンバーとは知らず、レコーディングミュージシャンとして認識していたと思われる。こうしてテリー・ドレーパーとディー・ロングがプロデュースを行い、トロントにあるレコーディングスタジオ、マスター・ワークショップで1979年2月から3月にかけて録音されたのが本デビューアルバムである。そのサウンドは彼らが標榜していたジェネシスのオマージュというべき楽曲があり、抒情的なキーボードを中心に独特の浮遊感が漂う創造性豊かなアルバムとなっている。
 
★曲目★
01.We Were The Young(ウィー・アー・ザ・ヤング)
02.Crude Exports(原油流出)
03.Ivy(アイヴィー)
04.The Pirates Of Rebecca's Choice(レベッカの選択の海賊)
05.Out 'n' About(アウトン・アバウト)
06.Sad But True(悲しいけど事実)
07.As The Crow Flies(カラスが飛ぶように)
08.The Curious Case Of Benjamin Button(ベンジャミン・バトンの奇妙な事件)

 アルバムの1曲目の『ウィー・アー・ザ・ヤング』は、リリカルなアコースティックギターからドラマティックなアンサンブルに展開していくメロディアスな楽曲。クラトゥゆずりのポップ性のあるメロディと、北米らしい垢抜けたキーボードと技巧的なギター上でサンディ・シンガーズのハイトーンのヴォーカルを聴かせてくれる逸品。2曲目の『原油流出』は、独特なリズムをベースに静と動のテクニカルなアンサンブルを披露した楽曲。変拍子の多い中での力強いヴォーカル、ロマンティックともいえるキーボードが交互に展開され、彼らの演奏のレベルの高さがうかがえる1曲である。3曲目の『アイヴィー』は、12弦ギターによるクラシカルな調べとピアノをバックに、抒情性豊かなヴォーカルが美しい楽曲。うっすらとしたシンセサイザーによる幻想的なメロディーが非常にヨーロッパ的である。4曲目の『レベッカの選択の海賊』は、明らかにジェネシスを意識したような劇的なアンサンブルが特徴の楽曲になっており、まるでキーボードはトニー・バンクス、ギターはスティーヴ・ハケットである。曲調や展開もジェネシス風であり、彼らがジェネシスにどれだけ影響されたグループであるかがよく分かる曲である。5曲目の『アウトン・アバウト』は、ジェネシスのスティーヴ・ハケットを思わせるギターワークと、ポップなメロディに包まれたヴォーカル曲。後半の雄大さを伴ったキーボードは北米のグループらしい軽やかさを持っている。6曲目の『悲しいけど事実』は、メロディとヴォーカルはAORを感じさせるが、アメリカンっぽいキーボードやギターアンサンブルが冴えた楽曲。後半ではシンフォニックな展開を織り交ぜており、プログレッシヴロックらしい一面を見せている。7曲目の『カラスが飛ぶように』は、11分を越えるアルバムの中でも最もドラマティックで創造性豊かなサウンドになった楽曲。憂いのあるアコースティカルなギターと幻想的なシンセサイザー、そして伸びのあるヴォーカルがまるでファンタジックな世界に迷い込んだような雰囲気にさせてくれる。ここでもコミカルで抒情的な演奏を加味したジェネシスらしいフレーズを聴くことができる。8曲目の『ベンジャミン・バトンの奇妙な事件』は、美しいクラヴィネットの音色に導かれ、リズミカルなアンサンブルに変貌する楽曲。曲調とヴォーカルがまるでイエスのようであり、この曲でのキーボードはリック・ウェイクマンであり、ヴォーカルはジョン・アンダーソンである。多彩なキーボードを駆使したジェラルド・オブライエンの演奏を見事であり、複雑ともいえる楽曲を優雅に弾きこなし幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、確かにジェネシスのオマージュを思わせる楽曲が聴き取れるが、それでも1970年代のヨーロッパ的な抒情性とアメリカ的なメロディがうまく融合したアルバムになっていると思える。それぞれの楽曲は静と動の劇的ともいえるドラマティックな展開があり、改めて彼らの高いパフォーマンスとセンスを感じてしまう。

 実はアルバムのレコーディング終了後に突然ともいえる形でグループは解散することになる。理由はメンバー同士の対立が生じて分裂騒動に発展してしまったためである。グループがアルバムリリース前に解散してしまったということで、レコーディングされた音源はお蔵入りとなってしまう。キーボード奏者のジェラルド・オブライエンとベーシストのマイク・ギングリッチはクラトゥのツアーメンバーとなり、カナダのハードロックグループのマックス・ウェブスターと共にヨーロッパツアーに出ている。帰国後、ジェラルド・オブライエンは旧友のジェリー・モスビーとジングルハウスを経営した後、スティーヴ・セクストンとのユニットグループ、エクスチェンジを結成。その後作曲家となりホール&オーツやマンハッタン・トランスファー、グラス・タイガー、ラヴァーボーイといった多くのアーティストの作曲を手掛け、「ザ・インサイダー」、「レイチェル・レイ」、「ザ・ドクター」といったTVドラマの音楽を担当。また、1998年長野オリンピック、NFLスーパーボウルの音楽も手掛けるカナダの名作曲家となる。ギタリストのテリー・オブライエンは、カナダの無声映画のミュージシャンで有名なナッシュ・ザ・スラッシュやエレクトロニクスミュージックのスコット・マシューズのセッションミュージシャンとなり、1990年代ではBMGパブリッシングの幹部になっている。ヴォーカリストのサンディ・シンガーズはオンタリオ州内のキングストンでフードバンクを管理する仕事に就きつつ、ソウル・サヴァイヴァーというショーグループのヴォーカリストを務めたという。ドラマーのマイク・フェランは、1980年代からジェフリー&ザ・ジュニアーズというグループに加わり、その後はセッション・ミュージシャンとして活躍している。

 ナイトウインズがレコーディングした音源は、しばらく封印されたままだったが、アメリカのレーベルおよび通販会社であるレザーズ・エッジがその音源を発掘し、フロリダのデジタル・ドメインというスタジオのエンジニア、ボブ・カッツの手によってデジタルリマスター化に成功。風を吹き込む月のキャラクターをあしらったグラフィックデザイナー、ポーラ・ミレットによるカヴァーアートが採用され、1991年に封印から12年ぶりにCDとなって陽の目をみることになる。日本ではマーキーからリリースされ、ジェネシスタイプのプログレッシヴロックとして話題を呼ぶ1枚となる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は幻とも言われたカナダのプログレッシヴロックグループ、ナイトウインズのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムはマーキーからリリースされたCDを1990年代に中古で購入したのですが、確か定価3,200円だったのをそれ以上の値段で買った記憶があります。当時の私はメタルやらハードロックやらプログレやら片っ端から買っていた良い時代でしたね。とはいっても、このナイトウインズはまだプログレ歴の浅かった私にとって重宝したアルバムです。グループの編成はイエスタイプの5人ですが、ジェネシスの1976年の名盤『トリック・オブ・ザ・テイル』を彷彿とさせるフレーズが随所にあしらわれていて、4曲目の『レベッカの選択の海賊』や5曲目の『アウトン・アバウト』なんてジェネシスが演奏しているといっても何ら不思議ではない曲展開と変拍子があります。それでも清涼感あふれるアメリカンなメロディが全体的にあって非常に聴きやすいです。それだけ後にカナダの大御所の作曲家となるジェラルド・オブライエンによる多彩なキーボードのセンスやクラトゥのメンバーによるプロデュースの効果が活きているといえます。個人的にはオブライエンのキーボードとマイク・ギングリッチの流麗ともいえるベースラインがこのグループの大きな特性だと思っています。今聴いても曲のドラマティックな展開とリリカルなメロディは、当時のカナダのプログレの中でもトップクラスに位置すると言っても過言ではないです。

 さて、これだけ高いセンスの楽曲をレコーディングしたわけですが、上にも書いた通りお蔵入りとなります。思い切ってレコード化するという手もあったと思いますが、当時のカナダはニューウェーヴ/ディスコブームでロックが下火になっていた時代です。当然、リリースしてくれるレコード会社は皆無に等しく、まさしく受け入れられる時まで眠るしかなかったんですね。ナイトウインズは1978年頃にオンタリオ州では名の知れたグループとなっており、多くのクラブでライヴを行い、カナダのラジオやバラエティ番組にも出演しています。このバラエティ番組やラジオを聴いたリスナーが、ナイトウインズの音源を求めるうちにアルバムレコーディングした音源があることを突き止め、ファンの後押しもあって今回CD化が実現したと言われています。ちゃんとジャケット付のCDとして体裁を整えてデジタルリマスター化しているところが凄いです。個人的には紙ジャケ化してほしいのですがダメでしょうか。マーキーさん、待ってます~。

それではまたっ!