【今日の1枚】Gary Boyle/The Dancer(ゲイリー・ボイル/ザ・ダンサー) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gary Boyle/The Dancer
ゲイリー・ボイル/ザ・ダンサー
1977年リリース

アイソトープをさらにグレードアップさせた
天才ギタリスト、ゲイリー・ボイルの初ソロアルバム

 1976年に解散したアイソトープの中心人物でありギタリストでもあるゲイリー・ボイルが、翌年の1977年にリリースした初ソロアルバム。そのサウンドはツインキーボードを擁したことでメロディアスな楽曲が多くなり、雄弁なリズムセクション、華麗で奥行き感のあるユニゾンパートなど、ジャズロックの頂点ともいえる内容になっている。アイソトープ時代のキーボーディストのゾー・クロンバーガーが参加していることから事実上、アイソトープの4枚目のアルバムと言われているが、その洗練されたサウンドと名演が高く評価され、後にモントルー国際ジャズフェスティバルにてジャズポップ・アワードを獲得する傑作アルバムとなっている。

 ゲイリー・ボイルはインドのネパールに程近いビハール州のパトナにて、1941年11月24日にアイルランド系の一家に生まれている。一家は1947年にイギリスに渡るが、ゲイリーが15歳の頃にスキッフルが大流行した時にギターを手にして、地元のクラブで友人と共にザ・ビートルズの曲を演奏する毎日を送っていたという。1962年にドイツのハンブルグに渡ってR&Bスタイルのインストからビートミュージックといった幅広い音楽と触れ合ったことで、ミュージシャンになることを決意してイギリスに帰国。イギリスの音楽大学の名門であるリーズ音楽大学に通い、後にダスティ・スプリングフィールドのバックバンドであるザ・エコーズのメンバーとなっている。この時、ゲイリーはアメリカのモータウンサウンドに感化されていたダスティの影響で、多くのブラックミュージックについて学んでいる。ゲイリーはジャズやロック、アコースティックが弾けるギターの名手として知られるようになっていたが、さらにギターのテクニックを磨くために、1967年にブライアン・オーガー&ザ・トリニティのメンバーとなっている。ゲイリーはこのブライアン・オーガーのもとでジャズロックというジャンルに傾倒するようになり、1970年にグループが解散したあと、キース・ティペットやマイク・ギブス、マイク・ウェストブルック、ツトム・ヤマシタ、バート・ヤンシュ、ノーマ・ウィンストンといったミュージシャン達と共にセッションミュージシャンとして活動している。このセッションの中で自身が培ってきた音楽知識とジャズロックの可能性を考えるようになり、元ニュークリアスのジェフ・クライン(ベース)、カンタベリーシーンで活躍していたブライアン・ミラー(キーボード)、ナイジェル・モリス(ドラムス)と共に、1972年にアイソトープを結成する。

 しかし、アイソトープはフルタイムで活動するグループではなく、元々ゲイリー・ボイルとナイジェル・モリスは、セカンドアルバムにも参加するベーシストのヒュー・ホッパーと共に、ツトム・ヤマシタのイースト・ウインドのメンバーであった。これがきっかけでゲイリーは1972年にナイジェル・モリスが在籍していたCirrusというグループにゲスト参加しており、結成後もセッションミュージシャンらしい活動をしている。そのため、結成当初はパーカッショニストのアウレオ・デ・サウザとサックス奏者のスタン・サルツマンが在籍していたがすぐに脱退してしまっている。こうして残された4人のメンバーで1973年10月にファーストアルバム『アイソトープ』がリリースされる。アルバムはジョン・マクラフリン率いるマハヴィシュヌ・オーケストラと比較されることが多かったが、その垢抜けたファンキーでソウルフルなサウンドが評価され、後にゲイリー・ボイルはメロディー・メイカー誌のジャズ投票で「1974年のニュースター」部門で選ばれている。後にグループからジェフ・クライン、ブライアン・ミラーが離れ、代わりにヒュー・ホッパー(ベース)、ローレンス・スコット(キーボード)が加入したセカンドアルバム『イリュージョン』を1974年にリリースしている。サウンドは存在感のあるベーシストのヒュー・ホッパーによってより重厚感が増し、メンバーそれぞれが曲を提供したことで実験色の強い内容になっている。その後、グループはゴングのツアーの前座を務めたことで知名度がアップし、1975年にはヨーロッパとアメリカを回る大規模なツアーが行われている。しかし、1976年入ると再度メンバーチェンジがあり、ヒュー・ホッパーとローレンス・スコットの代わりにダン・K・ブラウン(ベース)、ゾー・クロンバーガー(ヴォーカル、キーボード)、フランク・ロバーツ(キーボード)が加わり、ツインキーボード体制で臨んだサードアルバム『ディープ・エンド』をリリース。その後、ゲイリー・ボイル自身のソロ転向もあってアイソトープは解散することになる。とはいえ、アイソトープ時代の流れは引き継いでおり、メンバーは曲ごとにアイソトープ時代のメンバーや多くのセッションミュージシャンが入れ替わり立ち替わりレコーディングに参加している。エンジニアはアンドリュー・ロイド・ウェバーで知られるマーティン・ルヴァンが担当し、1977年に満を持してゲイリー・ボイルの初のソロアルバムがリリースされる。そのアルバムはアイソトープ時代のサウンドを継承しつつ、より洗練された印象があり、特にユニゾンパートの華麗さと奥行きさが冴えており、コンポーザーとしてのゲイリーの魅力が遺憾なく発揮された傑作となっている。

★曲目★
01.Cowshed Shuffle(カウシッド・シャッフル)
02.The Dancer(ザ・ダンサー)
03.Now That We’re Alone(ナウ・ザット・ウィーアー・アローン)
04.Lullaby For A Sleepy Dormouse(おねぼけヤマネの子守歌)
05.Almond Burfi(アーモンド・バルフィ)
06.Pendle Mist(ペンドルの霧)
07.Apple Crumble(アップル・クランブル)
08.Maiden Voyage(処女航海)

★参加メンバー★
ゲイリー・ボイル(ギター)01~08
ラムレイ(キーボード)01、05~08
ロッド・アージェント(ミニモーグ)01
ゾー・クロンバーガー(キーボード)02、03~05、08
ドニ・ハーヴェイ(ベース)01、05~08
スティーヴ・ショーン(ベース)02~05
サイモン・フィリップス(ドラムス)01、06、07
ジェフ・セオパーディー(ドラムス)02、03、05
モリス・パート(パーカッション)02、04~06、08
ディヴ・マクレー(クラヴィネット)02、05、07
マギー・パート(ヴォーカル)02、03、05、06

 アルバムの1曲目の『カウシッド・シャッフル』は、エキゾチックな雰囲気の中で抑揚のあるゲイリーのギターが光った内容になっている。流れるようなギターワークと共に華麗なツインキーボード、繊細で力強いドラムスによるユニゾンが素晴らしい。そしてアージェントとの掛け合いもあって聴きどころの多い曲である。2曲目の『ダンサー』は、ディヴ・マクレーのクラヴィネットが加わり、マギーのヴォーカル、スティーヴ・ショーンのベースソロと合わさったファンキー色の強いジャズを披露している。ゲイリーのギターも非常にメロディアスに徹した演奏している。3曲目の『ナウ・ザット・ウィーアー・アローン』は、クロンバーガーのピアノとスティーヴ・ショーンのベースによるデュオ。ゆるやかなベース音の中でピアノの響きが良いアクセントとなっている。4曲目の『おねぼけヤマネの子守歌』は、アコースティックギターに持ち替えたゲイリーの名手ぶりが発揮された楽曲になっている。テクニカルでありながら抑制のきいたサウンドになっており、ジョン・マクラフリンにも通じるメロディアスな演奏である。5曲目の『アーモンド・バルフィ』は、トリプルキーボードを擁したジャズフュージョン色の強い楽曲。マクレーのクラヴィネットをアクセントにしたアンサンブルパートと、ストリングスをバックにしたギターソロが展開されている。ゲイリーの跳ねるようなギターカッティングを含めた速弾きは思わず聴き惚れてしまうほどである。6曲目の『ペンドルの霧』は、ドニ・ハーヴェイのベースとサイモン・フィリップスによるリズムセクションを中心とした楽曲となっている。まさに霧の中にいるようなくぐもった雰囲気の中から、霧を晴らすようなゲイリーのアコースティックギターが印象的である。静寂ながらも1つ1つの音を大事にした演奏に徹した内容である。7曲目の『アップル・クランブル』は、マクレーのクラヴィネットとエレクトリックピアノが光ったナンバーとなっており、その後にゲイリーの高速のギターで応えた素晴らしい楽曲となっている。手数の多いフィリップスのドラミングも鮮やかで、テクニカルな中で非常に繊細なサウンドを繰り広げている。8曲目の『処女航海』は、ハービー・ハンコックの代表作の1つで、ブライアン・オーガーに捧げた曲である。本アルバムの中でももっともジャズロックらしい内容になっており、ゲイリー自身がアコースティックギターとエレクトリックギターの両方を持ち替えながら演奏をしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、これだけ多彩なミュージシャンと演奏しているにも関わらず一切のブレは無く、全体的に引き締まったアンサンブルを披露しているように思える。アイソトープ時代はジャズロックのギタリストであったが、本アルバムではゲイリーが学んできた多彩なジャンルからなるソウルフルなギターワークと秀逸なアレンジ力が冴えており、彼のアーティスト性が発揮された素晴らしい作品となっている。

 アルバムはゲイリー・ボイルのソロアルバムであったが、事実上、アイソトープの4枚目のアルバムとして市場で認識される。その洗練されたサウンドに批評家やファンの間で高く評価され、翌年の1978年にモントルー国際ジャズフェスティバルにてジャズポップ・アワードを獲得することになる。さらに同年に2枚目のソロアルバム『エレクトリック・グライド』をリリースし、コンポーザーとしての能力が光った作品に仕上げている。後にウィガン&リー大学やリバプール舞台芸術研究所などで音楽を教えるからわら、1980年代初頭にデンマークにしばらく滞在し、そこでさらにアルバムをレコーディングをしている。イギリスに戻ると1980年に『ステップ・アウト!』、1984年に『フライデー・ナイト・アゲイン』など、2003年までに4枚のアルバムをリリースしており、2006年にはマーク・フレッチャー(ドラムス)、ロイ・バビントン(ベース)と共に来日を果たしている。ゲイリーはジャズロックやフュージョンに加えて、伝統的なフォークミュージックにも関心を持ち、その後は作曲家兼セッションミュージシャンとして活躍し続けることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアイソトープのギタリストであるゲイリー・ボイルの初ソロアルバム『ザ・ダンサー』を紹介しました。躍動感のあるダンサー写したジャケットが秀逸ですね。元々、カンタベリーミュージックをよく聴いていた時期に、ベーシストであるヒュー・ホッパーを通じてアイソトープを知り、セカンドアルバムである『イリュージョン』を聴いたのが初めてです。この時にゲイリー・ボイルというギタリストを知ることになるのですが、重厚なヒュー・ホッパーと技巧的なゲイリー・ボイルのギターワークが素晴らしく、一気にアイソトープのアルバムを気に入ったものです。前回、先だってアイソトープの『イリュージョン』を紹介していますが、アイソトープ時代をさらに洗練させたサウンドを披露したのが本アルバムとなります。とにかくジャズ出身のミュージシャンばかりではなく、カンタベリーシーンで活躍するミュージシャンも参加しており、ゲイリー・ボイルという類まれなギタリストの下で華麗なジャズロックを演奏しているのが、非常に気に入っています。

 よくゲイリー・ボイルと比較されるのがマハヴィシュヌ・オーケストラのジョン・マクラフリンです。雰囲気は似ているものの、ゲイリーはソウルフルでありながら抑制の利いたギターワークが特徴となっています。『カウシッド・シャッフル』や『アップル・クランブル』のような速弾きのギターワークもありますが、全体的にキーボードとのユニゾンパートが美しく、決してテクニックに依存した音作りをしていないところが魅力的です。そんなコンポーザー、アレンジャーとしての才能を発揮した本アルバムは、確かにいちギタリストからアーティストとなったゲイリー・ボイルの音楽性が垣間見れる作品になっている気がします。

 さて、2000年に入ってからアイソトープ時代のライヴ録音が発掘されており、すでに2枚のアルバムがリリースされています。1973年、1974年にBBCで録音された『ライヴ・アット・ザ・BBC』。このアルバムにはゲイリー・ボイルのソロが含まれています。もうひとつは1974年、1975年に録音されたという『ゴールデン・セクション』です。こちらも気になった方はぜひ聴いてみてほしいです。

それではまたっ!