【今日の1枚】Canarios/Ciclos(組曲「四季」) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Canarios/Ciclos
カナリオス/シクロス(組曲「四季」)
1974年リリース

ヴィヴァルディの『四季』をモチーフにした
世界トップクラスのクラシカルシンフォの傑作

 1960年代からスペインで活躍するソウル兼R&Bグループのザ・カナリーズの中心メンバー、エドゥアルド "テディ" バウティスタによって結成されたカナリオスの通算4枚目にして最後のアルバム。本アルバムはシンセサイザーや電子音楽に興味を持ったバウティスタ自身が、クラシックの名曲であるヴィヴァルディの『四季』をモチーフに、人間の生から死までをなぞらえた一大コンセプトアルバムになっている。LP2枚組74分に及ぶ『四季』を見事にロックアレンジした本作品は、スペイン本国のみならず、世界の数あるシンフォニックロックの中でもトップクラスに位置する名盤である。

 カナリオスはスペインに所属する大西洋のカナリア諸島にあるグランカナリア島の首都、ラス・パルマスで結成されたグループで、元々は1960年代はじめにエドゥアルド "テディ" バウティスタを中心としたザ・カナリーズというグループが母体である。ザ・カナリーズはスペインのポピュラー音楽を英語歌詞にした典型的なソウル兼R&Bグループであり、地元では高い人気を誇るグループとして知られている。当時のメンバーはエドゥアルド "テディ" バウティスタ(ヴォーカル、ギター、ハーモニカ)、ラファエル・リフト(ヴォーカル、ベース)、ホセ・ルザルド・グティエレス(ドラムス、タンバリン)、ジャーマン・ペレス・ソリラ(ヴォーカル、ギター)の4人組となっており、後にイギリスやアメリカ、スウェーデンでツアーを開始。英語歌詞だったことからアメリカで人気を博して、1967年にアメリカのBTパピーレコードと契約し、デビューアルバム『Flying High With The Canaries』をリリース。このアルバムはアメリカのみでリリースされ、本国スペインでは遅れて1985年にリリースしている。後にベーシストのラファエル・リフトが脱退し、代わりにアルバロ・イエベネスが加入。また、新たにザ・モードというグループにいたグラハム・バーカムショウというオルガニストを加入させ、グループ名をカナリオスに変更。1970年に契約したバークレイレコードからセカンドアルバム『Libérate!(解放せよ!)』をリリースしている。アルバムはR&Bにジャズ要素を加味させ、プログレッシヴな領域に足を踏み入れた優れた作品となっている。また、アルバムに収録している『Free Yourself』とシングルでリリースした『Get on Your Knees』がスペインで大ヒットし、国内で誰もが知るトップグループとなっている。しかし、中心メンバーのエドゥアルド "テディ" バウティスタが兵役のために離脱してしまい、グループは一時解散。1972年に復帰した際には新たにメンバーを集め、ベーシストのアルバロ・イエベネス、ドラムスにはフランス人のアラン・リシャール、ギタリストにサルバドール・ドミンゲス、ピアノ兼オルガンにフェリックス・シエラが加わり、さらにホーンセクションにビセンテ・マイケス(サクソフォン)、アルフレッド・マイケス(サックス)、ナノ・ムニョス(トランペット)が加入している。1972年にグループの再活動を記念してスペイン国内でライヴを開催し、その模様を収録した初のライヴアルバム『ライヴ・カナリア!』を独自のレーベルであるアリオラからリリースしている。ちょうどこの頃、エドゥアルド "テディ" バウティスタはメロトロンなどのシンセサイザーや電子楽器に興味を持ち、この楽器を盛り込んだ楽曲ができないかと思案。そこでスペインの作曲家兼編曲家で有名なアルフレッド・カリオンを招聘して、クラシックの名曲であるヴィヴァルディの『四季』をモチーフとした一大プロジェクトを実行することになる。バウティスタはこのプロジェクトを行うにあたり、再度メンバー編成を行い、アラン・リシャール(ドラムス)、マティアス・サンヴェリアン(キーボード)、クリスチャン・メリーズ(ベース)、アントニオ・ガルシア・デ・ディエゴ(ギター)の4人とスペイン国立歌劇団のメンバーを招き、さらにバウティスタ自身もメロトロンを含むキーボードやシンセサイザーを担うことになる。こうして1974年にカナリオスの通算4枚目となるアルバム『Ciclos』がリリースされる。そのアルバムはヴィヴァルディの『四季』をテーマにロックアレンジしただけではなく、『春』『夏』『秋』『冬』を人間の生から死までをなぞらえたコンセプトアルバムとなっており、スペインのみならず、世界中のシンフォニックロック作品の中でも屈指の名盤となった作品である。

★曲目★
第一幕:Paraiso Remoto(遥かなる楽園)
第二幕:Abysmo Próximo(次なる深淵)
第三幕:Ciudad Futura(未来都市)
第四幕:El Eslabón Recobrado(再生された輪)

 アルバムはヴィヴァルディの『四季』の原曲の流れをベースにしたものになっており、第一幕から第四幕の構成となっている。第一幕の『遥かなる楽園』は、ビッグバンをイメージとする誕生を様々な電子機器を用いて表現。4分30秒あたりから女性ヴォーカルのソロと生命の誕生を意味する赤子の泣き声、そして深淵な音からギターやパーカッションを経て、ヴィヴァルディの『春』をベースにしたフレーズが奏でられていく。まさに春をイメージした温かみと明るさをメロトロンやチェンバロを駆使したキーボードとギター、リズムセクションで表現している。10分過ぎから女性ヴォーカルで地上の楽園を歌い、変幻自在なリズムセクションをバックに朗々としたギターソロとメロトロンで幕を閉じている。第二幕の『次なる深淵』は、カモメの鳴き声と共にチェンバロをベースにした荘厳なコーラスが響き渡る。後にヴィヴァルディの『夏』をベースにしたアンサンブルが披露される。静と動、緩急のある楽曲がひしめいており、人間の成長に伴う喜びや悲しみを表現している。キーボードがメインとなっているが手数の多いリズムセクションの効果が大きく、曲中のコーラスやギターが曲の深淵さを作り上げている。7分過ぎには転調してグロッケンシュピールやピアノをベースにしたジャズ風のアンサンブルとなり、8分過ぎにはマーチ風のドラミングと複数のキーボードとギターによる独特の楽曲を経て、壮絶ともいえるテクニカルなヴィヴァルディの『夏』を奏でて幕を閉じている。第三幕の『未来都市』は、キーボードを用いたまさに近未来の世界を描いた楽曲となっており、ヴィヴァルディの『秋』をベースにした楽曲へと変化していくが、全体的にフュージョン風のアンサンブルがメインとなっている。5分過ぎには男性ヴォーカルと力強いコーラスがフォーチャーされ、流麗ともいえるキーボードによるモダンな『秋』が演奏される。7分40秒当たりでは転調して、オルガンと神聖なるコーラスとなり、人間でいう老いを伴う晩年を表現している。最後はプログレッシヴロックらしく、ギターを中心とした多彩な楽器を用いた美しくも儚い『秋』を演奏して幕を閉じている。第四幕の『再生された輪』は、静かなピアノのソロに導かれ、次第にギターとキーボードによるクラシカルな演奏に変わってフェードアウト。そしてコーラスと共にあのヴィヴァルディの『冬』をベースにしたアンサンブルが披露される。クラシック界でも超絶技巧のヴァイオリンが披露されるフレーズをギターとキーボードを中心に多彩な楽器で熱演。9分あたりから転調して生命の終焉をコーラスを交えながら歌い、13分あたりからパーカッションを中心とした打楽器と電子音で死の世界と転生を描いている。そしてハープの優しい音と共に再び『冬』が奏でられ、爆発音で激しくも穏やかな『四季』を終えている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、一部ヴァイオリンやハープといった生楽器を用いているが、オーケストラを起用せずにキーボードを中心とした見事なシンフォニックロック、またはスペースオペラになっていると思える。さらに古典的なコーラスを用いつつ、クラシックベースながらもジャズやソウル、トラディショナルフォークといった多様なジャンルを加味させており、原曲に新たな息吹と生命を吹き込んだ名曲『四季』を演じきっている。

 アルバムは本国スペインで絶賛され、イギリスをはじめとするヨーロッパでも注目されたという。しかし、本アルバムはエドゥアルド "テディ" バウティスタの個人的なプロジェクトであり、レーベルであるアリオラがカナリオスの名前を商業的に成功させたいとの考えから実現したものである。そのため、アルバムのコストは当時としては法外の250万ペセタもかかった言われている。売り上げによる回収は見込めず、またバウティスタ自身も本アルバムでやり切った感が強かったため、グループはアルバムをリリースした年の1974年に解散をしている。バウティスタはその後、スペインでマルチアーティストとして活躍し、ソロアルバムを1980年代に2枚リリースしている。他のメンバーは地元でセッションミュージシャンとなり、ほとんどは音楽シーンから身を引いているが、ベース奏者のクリスチャン・メリーズのみフランスのブルースシンガーであるLeadfoot Rivetのバックミュージシャンとして2000年代も活躍をしている。アルバムはその後、廃盤となってしまったが、プログレッシヴロックファンのみならず、ロックファンの垂涎のコレクターアイテムとなり、2000年代に入ってもレコードおよびリマスター化したCDは現在でも高値で取引されている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスペインのプログレッシヴロックの代表格であるカナリオスの通算4枚目のアルバム『シクロス』を紹介しました。このアルバムはヴィヴァルディの名曲『四季』をロックアレンジしたアルバムとして有名ですが、レコードは言うまでもなく、CDまでも高価でなかなか手にすることができず、数年前に1993年にCD化されたアリオラの輸入盤を中古でやっとこさ手に入れたものです。2010年に紙ジャケにもなっていますが、中古で一体いくらぐらいの値段になっているのか想像がつきません。確か前に見かけた某中古ショップでは定価の倍でした。それだけプログレッシヴロックが再評価されているという証ですが、このカナリオスのアルバムは別格です。個人的にアンコールプレスを希望したいほどです。

 さて、先にも述べた通り、本アルバムは名曲ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲『四季』をモチーフとした作品です。クラシックとロックの融合と言えば、エマーソン・レイク&パーマーのムソルグスキーの『展覧会の絵』、前回紹介したペル・メルのドヴォルザークの『新世界より』やスメタナの『モルダウ』といったアルバムが有名です。現在でもハードロックやメタルの分野でもクラシックとメタルの融合と位置づけしたアルバムが多く出ていて、最近ではイタリアのヴィヴァルディ・メタル・プロジェクトが『四季』をベースにしたシンフォニックメタルをリリースしています。とはいえ、クラシック原曲をモチーフにした数あるアルバムの中でも、カナリオスの『四季』は、多くのロックファンが認める最高峰のアルバムです。各面が『春』『夏』『秋』『冬』と原曲の流れ通りに構成されており、それぞれ人間の生から死をなぞらえたテーマで演奏しています。何よりも曲調がロックに馴染みにくいヴィヴァルディの『四季』に挑んでいるのは凄いことです。基本的なメロディはキーボードとギター、ヴォーカル(コーラス)に置き換えているものの、オーケストラを使用せずに忠実に再現しており、非常にテクニック的に難易度の高い演奏をやり遂げているということです。アルフレッド・カリオンのアレンジ力とスペイン国立歌劇団のコーラスが全編にわたって荘厳で迫力のある世界を描いており、緩急のある各フレーズをギターとキーボードによるソロやユニゾンによって弾きこなしています。さらにはメロトロンやアナログシンセサイザーをはじめ、赤子の泣き声や川のせせらぎ、鳥の鳴き声といった効果音をうまく活用しており、生命力あふれるまったく新しい解釈の『四季』を創造していると思います。このあたりの行き当たりばったりではない綿密な曲のアレンジ力は見事であり、当時のスペインの黎明期ともいえるロックシーンの中でも奇跡的ともいえる作品です。

 本アルバムはクラシックが原曲でありながら、生楽器を多用していないロックスタイルで挑んだ傑作です。その類まれなアレンジ力で完成させたロック盤『四季』を、ぜひ堪能してほしいです。

それではまたっ!