【今日の1枚】Maxophone/Maxophone(生命の故郷) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Maxophone/Maxophone
マクソフォーネ/生命の故郷
1975年リリース

格調高いバロック音楽の遺伝子を受け継いだ
イタリアンシンフォニックロックの金字塔

 当時、18歳から22歳からなるミラノ出身の6人のメンバーが結成したマクソフォーネの唯一のアルバム。そのサウンドはヴァイオリン、チェロ、サックス、フルートといった管弦セクションを用いたクラシカルな彩りとロックのダイナミズムが息づいており、さらにバロック音楽にも通じる構築美と抒情美に満ち溢れた究極ともいえるイタリアンシンフォニックの傑作となっている。契約したレーベルが倒産したため、グループはあえなく解散の憂き目に遭ってしまうが、30年以上の根強いファンの後押しもあって2005年に再度メンバーが集まり、現在でも精力的にライヴ活動やアルバムをリリースし続けている。

 マクソフォーネは1972年末頃にミラノのレコード会社であるCGDで、作曲家兼セッションミュージシャンとして働いていたロベルト・ジュリアーニ(ギター)、同じくセッションミュージシャンとして出入りしていたアレッサンドロ・オッレンゼッティ(ドラムス)、アルベルト・ラヴァシーニ(ヴォーカル、ベース)が顔を合わせたところから始まる。ロベルトは当時イタリアでプログレッシヴロックがブームであったことから、3人で自分たちもそのような音楽に取り組んでみようという話となったらしい。その時に目指そうとしたものはジャズやロック、シンフォニックといった様々なジャンルを組み合わせた、新たな音楽の追求だったという。後にとあるコンサートでミラノの音楽学校の学生だったマウリツィオ・ビアンキーニと出会い、ドラマーだった彼が実はフレンチホルンやヴァイヴを学んでいることを知り、自分たちのグループに招き入れている。3人の新たな音楽性の追求に意気投合したマウリツィオは、自分と同校の学生だったレオナルド・スキアヴォーネ(クラリネット、サックス、フルート)、セルジョ・ラットゥアーダ(キーボード)に声をかけて加入させている。こうして18歳の学生から22歳のセッションミュージシャンによる若きグループ、マクソフォーネが1973年に結成される。6人のメンバーは早速、ミラノ郊外の農場を拠点に練習を始め、オリジナルの曲を書き始めている。しばらくしてメンバーはイタリアのレコードプロデューサー兼作詞家であったアレッサンドロ・コロンビーニと出会い、彼がジョニー・サックスやファブリツィオ・デ・アンドレといったアーティストを輩出し、ポップス方面で成功していたレーベル、Produttori Associatiを紹介して、1974年にマクソフォーネと契約している。しかし、不運なことにそのレーベルはちょうど売り上げの不振に直面していた時期であり、1974年にリリースするはずだった本アルバムは延期を重ねてしまい、実際のリリースはすでにプログレッシヴロックが下降気味だった1975年9月である。それでもレコーディングにはジョヴァンナ・コレンティ(チェロ)、パオロ・リッツィ(ダブルベース)、エレオノーラ・デ・ロッシ(ヴァイオリン)、スザンナ・ペドラッツィーニ(ヴァイオリン)、ティツィアナ・ボッティチーニ(ハープ)がゲストとして招かれ、イタリアのバロックの遺伝子を受け継いだ格調高いシンフォニックロックの世界を描ききった究極のアルバムとなっている。
 
★曲目★
01.C'è Un Paese Al Mondo(ある国)
02.Fase(位相)
03.Al Mancato Compleanno Di Una Farfalla(蝶の誕生日)
04.Elzeviro(エルゼビーロ~文明批評~)
05.Mercanti Di Pazzie(狂気の商人)
06.Antiche Conclusioni Negre(古き黒人の教え)
★ボーナストラック★
07.Il Fischio Del Vapore(蒸気の汽車)
08.Cono Di Gelato(アイスクリームコーン)

 アルバムの1曲目の『ある国』は、美しいピアノに導かれ、切り込むようなヘヴィなギターとキーボードとの掛け合いとなり、後にクラリネットやトロンボーンによるクラシカルなメロディの中で素晴らしいヴォーカルが響きわたったイタリアンプログレ屈指の名曲。リズムセクションが加わったアンサンブルから、ベニー・グッドマン風のユーモラスなクラリネットジャズを経て重厚なホーンセクションによるシンフォニックな展開となる。ストリングスやオルガンをバックにヘヴィなギターと共にハイトーンコーラスが胸打つ流れとなり、静かにフェードアウトしていく。2曲目の『位相』は、ヘヴィなブルースギターから始まり、手数の多いドラミングの中でひと際煌めくキーボードが印象的な楽曲。ホルン中心から曲調が変わりクラヴィネットのソロを経てテクニカルなアンサンブルとなり、タイトなリズムによるジャズコードを刻むギターへと展開する。後にオルガンとベースによる幻想的ともいえるアンサンブルの中で、サックスやトロンボーン、フルートのソロが眩く続く内容になっている。3曲目の『蝶の誕生日』は、スパニッシュ風のアコースティックギターのソロを経て、フルートやハープシコードが加わったバロック調のアンサンブルが際立った楽曲。美しいハイトーンのヴォーカルが紡がれ、そのバックには素朴なリコーダーとピアノ、トロンボーンによる巧妙なアンサンブルが流れており、実に幻想的な雰囲気を醸成している。後に曲調が転調し、オルガンやギターによるヘヴィなロックへと変貌し、キーボードソロが展開する。4曲目の『エルゼビーロ~文明批評~』は、荘厳なオルガンの響きとハイトーンヴォーカルから始まり、リズムセクションが加わるとギターとサックス、ホルンによるジャズロックへと展開。鮮やかな転調からキーボードをメインとしたヴォーカル曲に変わり、ハードなギターソロを経て、瑞々しいコーラス、クラリネットとホルン、そしてハープシコードのアンサンブルで終わっている。5曲目の『狂気の商人』は、作曲家パウル・ヒンデミットによる独奏曲『ハープ・ソナタ』から引用したイントロから、アコースティックギターが絡んだクラシカルな中でファルセットのコーラスが響いた楽曲。後にベースとフルート、ヴァイヴといった楽器が加わったアンサンブルとなり、落ち着いた雰囲気の中で優しい音空間を作り上げている。やがてジャジーなギターのアルペジオから弦楽器による幻想的なシンフォニックに移行していく。6曲目の『古き黒人の教え』は、ブラスセクションを中心としたインタープレイが次々と展開するジャズロック。キャッチーなメロディを奏でつつ、ピアノをベースにした情感のこもったヴォーカルからシンセサイザーとエレクトリックピアノによるユーモラスなアンサンブルとなる。ヴォーカルが絶頂となると唸りのあるサックスによるジャズロック調となり、ギターソロを経て終了するが、その後に荘厳なオルガンによる聖歌隊のようなコーラスで幕を閉じている。ボーナストラックの2曲は1977年リリースのシングル曲であり、牧歌的なヴォーカル曲でありつつもキーボードとアコースティックギターによるプログレ色を残したポップな曲となっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、クラシックとジャズを巧みに組み込んだシンフォニックロックとなっているが、キーボードを多用せず、生楽器によるアンサンブルを大事にした音作りにしている。曲中では転調が多いがクラシックからジャズに移行する流れの鮮やかさはため息ものであり、彼らのバロックを基調とした構築美と抒情美を表現したアレンジ力は素晴らしいものがある。

 アルバムリリース時はレーベルの不調も相まって、延期を重ねただけではなく不十分なプロモーションもあって売り上げは芳しくなかったという。それでもメンバーはイタリアの国営テレビRAI TVに出演したり、シンガーソングライターのコッラド・カステラーリの1975年のアルバム『Gente Cosi』に参加したりしてグループの存続を図っている。1976年にはイタリア国内で精力的なギグを重ね、7月にはモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに出演し、本アルバムの英語盤も制作してリリースしている。こうしてグループの知名度が次第にアップしてセカンドアルバムのマテリアルが完成しようとした矢先、1977年にレーベルのProduttori Associatiが倒産。同年にグループも立ち行かなくなり解散することになる。メンバーはジャズの世界に入ったり、セッションミュージシャンになったりしてバラバラとなってしまうが、1990年代後半に入ってから動きを見せ始める。マクソフォーネの音源はプログレッシヴロックの聴衆によって再発見され、メロウレコードからCDとして再発。これをきっかけに2000年代にロベルト・ジュリアーニ(ギター)とアレッサンドロ・オッレンゼッティ(ドラムス)、アルベルト・ラヴァシーニ(ベース、ヴォーカル)を中心に再度6人が集結して、2005年に30年ぶりとなる『From Cocoon To Butterfly』をリリース。このアルバムはCDとDVDのコンピレーションになっており、本アルバムに収録された『狂気の商人』のインストライヴやイタリア国営テレビのRAI TVのスタジオで演奏した貴重な映像を収録した豪華な内容になっている。また2013年4月26日には「イタリアン・プログレッシヴ・ロック・フェス最終楽章」として来日が実現し、クラブチッタ川崎で行われたライヴ盤『Live Recorded at Club Città on April 26 2013』をリリース。最近では2017年に最新アルバム『La Fabbrica Delle Nuvole(雲の工場)」をリリースしており、現在でも健在ぶりをアピールしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアンロックの美学が詰め込まれた究極のシンフォニックロックを描いたマクソフォーネの唯一のアルバム『生命の故郷』を紹介しました。このアルバムを聴いたは2005年にリマスター化された紙ジャケット盤が初めてです。本アルバムはレーベルの倒産によって長らく廃盤となっていましたが、1991年にイタリアの新旧両方のプログレッシヴロックのリリースとリイシューのために設立したメロウレコードによって陽の目を見た作品です。その背景には本国イタリアだけではなく日本の根強いプログレッシヴロックファンによってCD化が実現したとされています。後に再レコード化されて、それがきっかけとなって2000年代にグループが復活する大きな要因となったというから、ファンの力というのは侮れません。リリースから40年以上経っていますが、確かにこれだけのシンフォニック性の高い音楽が埋もれてしまうにはプログレッシヴロックだけではなくロックシーンの損失でもあります。

 さて、本アルバムは6人の若きミュージシャンによるバロックの音楽を基調に、クラシックとジャズを融合した究極ともいえるシンフォニックロックとなっています。本アルバムは英語ヴァージョンとイタリア語ヴァージョンの2種類があり、今作品はイタリア語ヴァージョンとなっています。ギターやヴァイオリンを中心とした弦楽器とホルンやクラリネット、サックスによる金管楽器によるクラシカルな抒情性とロックのダイナミズムを巧妙に描いており、生楽器による美しい音空間を繰り広げています。ハイトーンのヴォーカルやコーラスは伸びやかであり、多彩な楽器のソロを入れ替わり立ち替わり加えていて、転調に転調を重ねた楽曲のアレンジ力は素晴らしいのひと言です。それにも増してそれぞれ余韻に浸れるような終わり方を耳にすると、1曲1曲が非常に丁寧に作られていることが分かります。ここまでキーボードに委ねない生楽器による幻想的なアンサンブルは、なかなか類を見ないと思います。

 マクソフォーネはイタリアンプログレ後期の傑作として、今ではシンフォニックロックの金字塔とまで言われています。彼らの揺るぎないアンサンブルの妙をぜひ堪能してほしいです。

それではまたっ!