【今日の1枚】Mike Oldfield/Tubular Bells(チューブラー・ベルズ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Mike Oldfield/Tubular Bells
マイク・オールドフィールド/チューブラー・ベルズ
1973年リリース

マルチトラックレコーダーによる多重録音で
創り上げたロック&ポピュラー史に残る名盤

 ウイリアム・フリードキン監督の映画『エクソシスト』に使用されたことで世界的なベストセラーとなった、当時、弱冠20歳の若きミュージシャンであるマイク・オールドフィールドが手掛けた衝撃のデビューアルバム。ほとんど1人で全ての楽器を演奏し、長期間をかけて原始的なアナログ・マルチトラック・レコーダーに多重録音(オーバーダビング)して作られたそのサウンドは、単調ともいえる演奏から浮かび上がる印象的なメロディが独特の雰囲気を作っており、ロックやポップス、クラシック、ジャズ、トラッドといったどのジャンルにも属さない前衛的なサウンドになっている。レコーディング技術の限界と思われた領域に果敢に挑んだ本作品は、聴く者に突然変異かと思わせるほどの強烈なインパクトを与え、多くの批評家から絶賛された音楽史上もっとも重要な1枚とされている。本アルバムはヴァージンレコードの記念すべき第1弾として発売され、全英アルバムチャートで初登場31位、発売から約1年4カ月後の1974年10月5日付で全英1位を記録している。

 マイク・オールドフィールドは、1953年5月15日にイギリスのバークシャー・レディングで生まれている。早くから音楽に触れており、幼少時からピアノを弾き、10歳からギターを習い始めている。13歳の頃には地元のレディングのフォーククラブで演奏し、伝説的なギタリストであるジョン・レイボーンにインスパイアされたプレイですでに評判となっていたという。1967年には姉のサリー・オールドフィールドと共にサリアンジーというフォークデュオを結成し、1968年に『チルドレン・オブ・ザ・サン』というアルバムでプロデビューしている。後にデュオは解散してしまうが、マイクはロンドンでのセッション活動を通じて、元ソフト・マシーンからソロ活動に転じたケヴィン・エアーズや作曲家兼ミュージシャンであるデヴィッド・ベッドフォードと出会うことになる。彼はケヴィン・エアーズのバックバンドであるザ・ホール・ワールドの一員となってベースを担当。1970年の『月に撃つ』や1971年の『彼女のすべてを歌に』のアルバムに参加している。この頃から彼もバックバンドから自身のアイデアを具現化するためのソロ活動を強く求めるようになる。ケヴィン・エアーズがデヴィッド・アレンが結成したグループ、ゴングに加入したため、ザ・ホール・ワールドは解散。今度はデヴィッド・ベッドフォードに近づき、作曲や音楽理論を学んでいる。マイク・オールドフィールドの音楽的な基盤は、幼き頃に習ったピアノやギターによる演奏技術とケヴィン・エアーズと活動したライヴイベントやレコーディングの経験、そしてデヴィッド・ベッドフォードから学んだ音楽的知識によるものが大きい。彼はキース・ティペット率いるセンティビートというグループやミニマルミュージックの重要なミュージシャン、テリー・ライリーによるアルバム『レインボー・イン・カーヴド・エア』を聴いて刺激を受け、早速自身のソロ制作に取り掛かることになる。マイクがソロ制作を始めることを知ったケヴィン・エアーズは、彼にトッテナムで使用していた1/4インチのテープレコーダーを置き土産として手渡している。しかし、そのレコーダーは2トラック同時録音のみ可能なタイプであり、困り果てたマイクは何とベーシックながらも多重録音が可能なタイプに改造してしまっている。かくして彼はロンドン北部郊外のテラスハウスを見下ろすトッテナムの家で、あの驚異の楽曲を仕上げていくことになる。

 最初にマイクはデヴィッド・ベッドフォードのファルフィサ・オルガンを弾いているうちに良いリフを思いつき、キーボードによるあのイントロのリフを録音。そしてベース、子供用のベル・ツリーとダビングし、7回に及ぶオーバーダビングを終えて20分ほどのデモテープが完成する。しかし、周囲にそのテープを聴かせるとほとんどの人が戸惑い気味に口を閉ざしてしまう。当時のプログレ系のレーベルとして有名なEMI傘下のハーヴェストやCBSのパイレコードにも送ったが、契約どころかどれも冷淡な返事しかもらえなかったという。金銭的な余裕が無くなり、結成して間もない初期のセンセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドでギタリストとして参加。そしてそのコネクションから当時アレックスも出演していたミュージカルの『Hair』用のグループにも加わって糊口を凌いでいる。こうした期間でもマイクは『オーパス・ワン』という仮タイトルで制作していた曲に磨きをかけていたという。『Hair』の仕事が一段落した時、ブラックヒル・エンタープライズのピーター・ジェナーからマイクに連絡が入る。どうやら彼がマネジメントをすることになったアーサー・ルイスのレコーディング契約を取るために、バックバンドのギタリストを探していたというのだ。この一連の流れからオックスフォードシャーにあるザ・マナーハウスというスタジオにアーサーがレコーディング用に予約したことが、マイクのその後の運命を大きく変えることになる。このザ・マナーハウスは、学生のための相談センター運営や出版業に携わると同時に、メールオーダーシステムによる1人の強烈なカリスマ性を備えた若者がオープンしたスタジオである。その若者こそ実業家のリチャード・ブランソンであり、同年の1972年にヴァージンレコードという英国屈指のレーベルを設立する人物である。また、ブランソンと共にこのレコーディングスタジオの建設に力を注いだのが、本アルバムのエンジニアとして参加するトム・ニューマンである。マイクとトムはアーサー・ルイスのバンドのリハーサルとデモレコーディングの両方に関わったことで友情が芽生え、飛行機の型作りという共通の趣味もあってかなり息があったとされている。やがてスタジオがまだ完全に出来上がっていない頃に、トムの方からマイクが制作したデモテープを聴いてみたらどうかとリチャードと仲間に促している。それを聴いた皆は言葉を失うほど感動したと言っている。それは本アルバムの『チューブラー・ベルズ』の冒頭20分とほぼ変わらないヴァージョンであったとされている。

 ついにスタジオが完成してザ・マナー・スタジオと名を変えたレコーディングスタジオに入ったマイクは、レコーディング前に自身がリクエストした楽器をスタジオに運び込み、テープそのものが傷み始めていたデモ音源を4トラックのテープに移す作業から入っている。そして今後のレコーディングの方針を決める際、楽曲を分析したエンジニアのトム・ニューマンとサイモン・ヘイワースは、ほぼすべての楽器をマイク自身が演奏し、多重録音によるレコーディングをするよう彼に提案している。マイクは自宅に帰らず、ほとんどスタジオで寝起きするような中でレコーディング、ミキシング作業が行われ、ついに『オーパス・ワン』が完成。この仕上がりに感動したリチャード・ブランソンは、他のミュージシャンのレコーディングが少ない夕方の時間帯に限り、次のパートである『オーパス・ツー』のレコーディングを許可している。こうして2400回とも言われる多重録音の作業の末、1973年春にアルバムが完成することになる。曲の正式なタイトルはレコーディング中にベルを何度もハンマーでへコましてことで、ジャケットにはヘコんだベルみたいのが良いのではないかというマイクの意向を汲んで『チューブラー・ベルズ』と決定している。1973年5月23日にリリースされた本アルバムは、リチャード・ブランソンが設立した新レーベル、ヴァージンレコードの記念すべき第1弾のアルバムとなっている。

★曲目★
01.Tubular Bells Part 1(チューブラー・ベルズ パート1)
02.Tubular Bells Part 2(チューブラー・ベルズ パート2)
★ボーナストラック★
03.Mike Oldfield’s Single(マイク・オールドフィールズ・シングル)
04.Sailer’s Hornpipe Original Version(セイラーズ・ホーンパイプ・オリジナル・ヴァージョン)

 アルバムは20分を越える『チューブラー・ベルズ』のパート1とパート2のインストゥメンタルで構成されている。パート1のオープニングのリフはすでにデモ制作初期の段階で作られている。レコーディング時はメトロノームを別の部屋に置いて、それをマイクで拾ったクリック音を自身のヘッドフォンに返す方法でタイミングを取り、スタンウェイのピアノやキーボード、ベース、倍速で録音されたギター、フルート、そしてオルガンやチューブラー・ベルへと重ねるように録音している。また、エンディングをよりドラマティックにするために、そのチューブラー・ベルを大きなハンマーで叩くという手法を採っている。さらにクライマックスで弾くオルガンのコード演奏は、録音されたテープを組んだループをテープマシンで回し、ピークに達するタイミングを計りながらコードのピッチが合うように少しずつ回転スピードを上げているという。ピッチ・ベントを用いての巧みで絶妙な効果は、まさに天才的な感性が無いと出来ない芸当である。曲は楽器によって少しずつ表情を変えて行きながら、まさに音が紡がれていくように進んでいく。最後のチューブラー・ベルズの響きは、聴く者の心を一気に高みへ舞い上げてくれるようである。パート2は美しいマンドリンを中心とした楽曲となっており、ピアノやエレクトリックギター、アコースティックギターを重ねたリリカルで瑞々しい感覚にあふれた内容になっている。本番のレコーディングでは、エドガー・ブロートン・バンドのドラマーであるスティーヴ・ブロートンが参加している。後半のハイライトでもあるスティーヴのドラミングは、このレコーディングでマイクの弾くベースラインをガイドにして叩いたという。また曲中の原始人めいた雄叫びは、マイク自身によるものである。ボーナストラックの『マイク・オールドフィールズ・シングル』は、『チューブラー・ベルズ』をシングル盤としてリリースしたもの。『セイラーズ・ホーンパイプ・オリジナル・ヴァージョン』は、パート2の最後に添える予定だったセッションナンバー。陽気であるためにパート2の最後にふさわしくないとして見送られた楽曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、これまでのミュージシャンによる作曲やアレンジによる演奏ではなく、まさにマイク・オールドフィールドという稀代のアーティストによって創造された音楽である。また、クラシックやジャズといった音楽からの借用は一切せず、さらに自身はアヴァンギャルドだと意固地になって多彩な効果音や雑音に陥らず、音楽に込められた理性や感情、光と闇を融合してひとつの音楽を作り上げている。批評家が絶賛してもなお、一般のリスナーが本アルバムの凄さに気付くまで少し時間がかかったのも、それだけ当時の音楽シーンにおいて異彩を放っただけではなく衝撃的だったのだろう。

 アルバムは全英アルバムチャートで初登場31位という好成績となり、特に発売と同時に他のレコード会社やショップのスタッフが衝撃を受け、小売店や流通に関した者たちを中心に猛烈に評判を呼んだという。それでも音楽評論家や音楽関係者のみが評価していただけだったが、映画監督のウイリアム・フリードキンが『チューブラー・ベルズ』のオープニング部分を彼が制作した映画『エクソシスト』に使用したことで、多くの人々に知られるようになったという。シングル用にエディットされた『エクソシスト』のテーマ(原題:マイク・オールドフィールズ・シングル)は、1974年2月23日にリリースされ、アメリカのビルボードヒットチャートで7位を記録。この影響でアルバムは発売から約1年4カ月後の1974年10月5日付で全英1位を記録することになる。しかし、これだけ世界的な売り上げを達成したにも関わらず、マイクはBBCのテレビ番組「2nd House」のために『チューブラー・ベルズ パート1』のライヴレコーディングを最後にライヴを一切行わず、USツアーをはじめとするオファーも頑なに断り続けていたという。理由は音を大事にしてきた彼にとって、ライヴパフォーマンスがかなり苦痛だったからである。また、すでのライヴレコーディング中、マイクは自宅でセカンドアルバム『ハーヴェスト・リッジ』とされる楽曲の制作に取り掛かっていたことも理由とされている。1974年にリリースされた『ハーヴェスト・リッジ』は全英1位を獲得し、次の年の1975年にリリースした『オマドーン』は全英4位という輝かしい記録を打ち立てることになる。しかし、アルバムを制作してもファーストアルバムを越えることはなく、また、成功によって生じた精神的重圧によって苦しむことになり、レコーディング作業から離れて長期間の療養生活に入ることになる。この頃、マイクは療養しつつもヨーロッパ中を旅しており、様々なアーティストと交流を含めてレコーディングに参加したりしている。その中にはフィンランドのプログレッシヴロックグループ、ウィグワムのベーシストであるペッカ・ポヨーラのソロアルバムに参加している。その後、何かに目覚めたのか、再度イギリスのレコーディングスタジオに戻り、3年ぶりとなるアルバム『呪文』を1978年に発表してカムバックを果たすことになる。『呪文』をリリース後にはこれまで拒み続けてきたツアーを積極的に行うようになり、これまでとは違うマイク・オールドフィールドを人々に魅せることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は稀代のマルチミュージシャンであり、現在も偉大な足跡を残しているマイク・オールドフィールドのデビューアルバム『チューブラー・ベルズ』を紹介しました。本アルバムはイギリス国内で260万枚を売り上げていまして、全英歴代トップ30にランクインするほどの大ヒットとなった作品です。もちろん、現在でもプログレッシヴロックの歴史的名盤とされています。このアルバムは、映画『エクソシスト』のテーマで知った人も多いと思いますが、私の場合は逆でアルバムを聴いて『エクソシスト』のテーマが収録されている~という感じでした。たぶんプログレを聴き始めた時に何かのついでに購入し、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』を聴いたのだと思います。『エクソシスト』のテーマ曲はラジオやテレビでも良く使われていて覚えていたのですが、これがマイク・オールドフィールドの曲だとは当時は考えていませんでした。最初に聴いた時は単調ともいえる繰り返しのリフから浮かび上がってくる印象的なメロディ、効果音によるインストゥメンタル曲といったイメージで、当時はさらっと聴いただけで終わった気がします。しかし、このアルバムが1人のミュージシャンが様々な楽器を演奏し、長時間をかけてダビングにダビングを重ねて録音して作られた驚異のアルバムであると知ったのは、ずいぶん後になってからです。不思議なもので作り手の想いというものを知ると、アルバムの聴き方が変わり、単にレコーディング技術では語れない作り手の感情が伝わり、当時ではあまり気が付かなかった繊細過ぎる楽器による音の紡ぎが感じられるようになったほどです。

 さて、本アルバムは、はっきりいってロック・ミュージックとは異なるサウンドです。もっと言えば一般の人が好むようなタイプの音楽性でもなく、非常に聴き手を選ぶサウンドになっています。それでも楽曲の構成はすごくシンプルであり、一聴すると単調なリフの繰り返しに思えてしまいますが、そこにはテープマシンの速度や重ね合わせで作り上げたという天才的な感性が成せる業が隠されています。もっと派手さのあるアヴァンギャルドな作り方もあったのでしょうが、あくまで自身の感性に委ねて創造する音作りは、非常に理性的です。この理性的な音作りが受け入れられるかどうかが、本アルバムが好きになれるかどうかの分かれ目だと思っています。一瞬、曲自体が冷たい感じを受けますが、聴いているうちにほのかな温かみを感じられるところがあり、マイク・オールドフィールドという1人のミュージシャンの人間性が見え隠れするようです。ここまで思うようになるまで時がかかったのは、それだけ少女に取り憑いた悪魔との壮絶な闘いを描いた映画『エクソシスト』のイメージが聴くたびに脳裏によみがえっていたからでしょうね~。

 2400回もの多重録音を繰り返して制作された壮大なアルバムですが、レコーディング技術はさておいて、どのジャンルにも属さない創造性豊かな楽曲になっています。気持ちに余裕ができた時にじっくり聴くと、このアルバムの良さに気が付くはずです。

それではまたっ!