【今日の1枚】Et Cetera/Et Cetera(エト・セトラ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Et Cetera/Et Cetera
エト・セトラ/エト・セトラ
1976年リリース

電子鍵盤楽器オンド・マルトノと弦楽器による
流麗で技巧的なシンフォニックアルバム

 カナダのジェントル・ジャイアントとも呼ばれたケベック州出身のグループ、エト・セトラが残した唯一のアルバム。そのサウンドはフルート、サックス、チェロといった管弦楽器を用いつつ、オンド・マルトノという珍しい電子鍵盤楽器を組み合わせた流麗で技巧的なシンフォニックロックとなっている。さらに色彩感あふれるツインキーボードと抒情性を秘めた男女のヴォーカルがより気品さとクラシカルさを醸成しており、マネイジュ、オパス・サンク、ポーレンと並んでケベック出身のプログレッシヴロックの代表格となった名盤である。

 エト・セトラはカナダの東部に位置するフランス語圏のケベック州の都市モントリオールで、1976年に結成したグループである。メンバーはドゥニ・シャトラン(ヴォーカル、キーボード、サックス)、ピエール・ドラゴン(ドラムス)、ロバート・マーチャンド(ヴォーカル、ギター)、アラン・イヴ・ピジョン(ベース、チェロ)、マリー・ベルナール・ペイジ(ヴォーカル、キーボード、オンド・マルトノ)の5人であり、ほとんどがクラシックの教育を受けたミュージシャンである。中でも紅一点のマリーは同じケベック州のロックグループ、ハルモニウムの1975年のセカンドアルバム『Les Cinq Saisons』で、ゲストとしてオンド・マルトノを披露して話題となったミュージシャンである。彼らに共通しているのが、イギリスのプログレッシヴロックグループであるジェントル・ジャイアントの存在がある。ジェントル・ジャイアントは技巧派のジャズロックにトラッドや古楽の要素を織り交ぜたサウンドから、1975年のアルバム『フリー・ハンド』では複雑なチェンバーロック的なアプローチのアンサンブルに変化し、批評家から絶賛されたグループである。ジェントル・ジャイアントは1975年から1976年にかけてヨーロッパやアメリカ、カナダを回るワールドツアーで、彼らの住むケベック州でもコンサートを開いている。彼らはジェントル・ジャイアントの持つ繊細な不協和音と複雑なポリフォニーに興味を持ち、弦楽器を用いたクラシカルで技巧的なサウンドを作り出せないかと考え、ドゥニ・シャトランを中心にグループ結成に動いたとされている。彼らはグループ名を「その他いろいろ、~など」の意味を持つ、フランス語が語源とされる“Et Cetera”としている。作曲はシャトランとマーチャンドの2人が手掛け、デモテープを作成していくつかの地元のレコード会社に送り付けたものの途中で断念している。理由は1976年7月から8月にかけて行われたモントリオールオリンピックの赤字による増税である。ケベック州はたばこ税をはじめ、嗜好品に税金をかけ、贅沢とされたレコードにも躊躇なく税金をかけたという。そのためレコードショップは閉鎖に追い込まれ、音楽コンサートを開くこともままならず、ミュージシャンにとっては不遇の時代を迎えていたという。そこで彼らは独自のレーベル、アポストロフィを設立してレコードをリリースすることを決意。1976年の8月にモントリオールのStudio Tempoでレコーディングを行い、1976年の11月にデビューアルバムとなる『Et Cetera』が発表される。そのアルバムはフランス語で歌う男女のヴォーカルにフルート、サックス、チェロといった管弦楽器、ツインキーボードというクラシカルなシンフォニックロックを構築しており、何よりもマリー・ベルナール・ペイジによる電子鍵盤楽器オンド・マルトノの不思議な音が魅力的な傑作アルバムとなっている。

★曲目★
01.La Musique Tourne(新しき音楽)
02.Éclaircie(間伐)
03.Entre Chien Et Loup(犬と狼の間)
04.Apostrophe(アポストロフィ)
05.Newton Avait Raison(ニュートンは正しかった)
06.L'âge Dort(眠れる時代)
07.Tandem(タンデム)

 アルバムの1曲目の『新しき音楽』は、早速オンド・マルトノの響きから始まり、複数のキーボードと男女のたおやかなヴォーカルを中心としたバロック要素の強い楽曲。よく聴いてみるとブレイク、カウンターブレイクを用いつつ、バロックやジャズといったジャンルをテーマにしながら演奏していることが分かる。演奏は複雑だが比較的耳に馴染みやすい内容になっているのが特徴である。2曲目の『間伐』は、複雑なリズム上で変幻自在なアンサンブルが奏でられ、まさにジェントル・ジャイアントばりの奏法が用いられた楽曲。こちらではギターが多くフィーチャーされ、オンド・マルトノによるスペイシーなキーボードが独特の音空間を作っている。3曲目の『犬と狼の間』は、ヴォーカルと共に滑らかに徐々に音程を変えながら移る演奏技法のポルタメントを用いた技巧的な楽曲。吐息に近いマリーの歌声が印象的であり、1曲の中で牧歌的ともいえるフレーズが随所に散りばめられた逸品である。4曲目の『アポストロフィ』は、リードギタリストと2人のキーボーディストによって構築された多彩なフレーズが素晴らしい楽曲。オンド・マルトノのリボンと鍵盤の2つを使い分けた奏法が印象的であり、ビブラートを効かせた不思議な音色が曲に味わいを持たせている。さらにサックスやエレクトリックギター、ピアノをフィーチャーしており、フュージョン的なアプローチのある1曲となっている。5曲目の『ニュートンは正しかった』は、オンド・マルトノとキーボードのハーモナイズが絡み合った楽曲。オンド・マルトノのリボン奏法と鍵盤奏法、男女のヴォーカルがまさに対話と対位法に準じており、なかなか不思議な曲調になっている。6曲目の『眠れる時代』は、弦楽器とビブラフォンを駆使した幻想的なメロディと柔らかな男女のヴォーカルを中心とした楽曲。中盤からオンド・マルトノのソロ展開があり、様々な技法による多彩な音色を聴くことができる。7曲目の『タンデム』は、リリカルなピアノの調べから、オンド・マルトノとキーボードによる軽快ともいえる演奏をバックにしたヴォーカル曲。クラシカルな内容だがアヴァンギャルドなフレーズが随所にあり、くるくると曲調が変わる複雑な展開となっている。終盤で転調して静謐な雰囲気からオンド・マルトノの美しいソロを聴くことができる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、確かにジェントル・ジャイアントを意識したような技巧性とリズムを持った楽曲が多いが、神秘的な繊細さの上に構築された特定のリズム上で、ハーモナイゼーションやフーガ、カノン、対話が交互に行われる演奏が特徴的である。そして何よりもマリー・ベルナール・ペイジによる美しい女性ヴォーカルとオンド・マルトノの鍵盤楽器の使用が、他のグループとはひと味違う独特の音空間を作り上げているように思える。

 アルバムは独自レーベルだったためにプレスした枚数は少なく、すぐに廃盤となり幻のアルバムとなっている。グループ自体もアルバムリリース後、ケベック州の不況によって音楽活動を続けることが難しくなり、メンバーによっては生活のために音楽活動から身を引いて違う職種に移ったり、他の国に移住したりする者もいたという。こうしてエト・セトラはたった1枚のアルバムを残して解散することになる。メンバーのその後の動向については不明だが、珍しい電子鍵盤楽器オンド・マルトノを披露したマリー・バーナード・ペイジは、ミュージシャン、女優、脚本家、プロデューサーとしてのキャリアを追求。彼女は1979年にアルバム「プティット・スイート・ケベック」で名を馳せ、1983年にはSOUPIRというグループで『Les Larmes De Métal』をヒットさせている。また同じキーボーディストであるドゥニ・シャトランは、セッションミュージシャンとなり、セリーヌ・ディオンの1995年のアルバム『Falling Into You』の収録曲『Dreamin' Of You』や『Your Light』といったいくつかの曲のキーボーディストとして名を連ねている。本アルバムは長年、陽の目に当たらず眠り続けていたが、1997年にカナダのディスコやダンスミュージックのレコードレーベルであるユニディスクより、20年の時を越えて初めてCD化されることになる。これは日本のプログレファンの熱望によって実現している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はケベック州の数あるグループのうち、もっともジェントル・ジャイアントの影響を受けたと思われるエト・セトラのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムを初めて聴いたのは、2000年代に入ってリイシューされたデジパック盤になります。最初に聴いた時はメンバーがさまざまなテーマ (バロック、ジャズ、トラッド)をブレイク、カウンターブレイク を使用して、複雑で洗練された楽曲を短時間で展開していることに感動したものです。とにかく神秘的な繊細さの上に構築された特定のリズムの中で、ヴォーカルを含めて独特の奏法や技法を用いて巧みに落とし込んでいるのが凄いです。マリー・ベルナール・ペイジによる柔らかな女性ヴォーカルと電子鍵盤楽器オンド・マルトノの不思議な音に耳を奪われがちですが、曲の中で技巧的ともいえる奏法を披露できているのは、彼らがクラシックの教育をきちんと受けてきたからだろうと思います。

 さて、マリー・ベルナール・ペイジが使用した電子鍵盤楽器オンド・マルトノですが、正直言ってこのアルバムで初めて知りました。何というか滑らかで深みのある幻想的な音であると同時に、単音であるために素朴さもあって非常に惹かれます。フランス人電気技師モーリス・マルトノによって1928年に発明されたらしく、1920年に発明されたロシアの発明家レフ・セルゲーエヴィチ・テルミンが発明した世界初の電子楽器テルミンに似ていると言われています。この楽器の最大の特徴は鍵盤と手前のリボンによる2つの奏法があり、特にリボンを用いた鍵盤に制限されない自由な音高の演奏ができるそうです。他にも特殊なスイッチによる音の強弱によって作られる合成音もあって、スピーカーの種類によって音も変わるといいます。そういう意味では音だけではなく、通常のオルガンとは全く異なる操作性になっていることが分かります。ちなみにオンド・マルトノを弾きこなす人はオンディストと呼ばれているそうです。

 ジェントル・ジャイアントよりも無機質ではなく、複雑であるものの比較的耳に馴染むサウンドになっています。色彩感豊かなキーボードによる流麗で技巧的なシンフォニックロックをぜひ、堪能してほしいです。

それではまたっ!