【今日の1枚】Grupo Sintesis/En Busca De Una Nueva Flor | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Grupo Sintesis/En Busca De Una Nueva Flor
グルーポ・シンテシス/新たなる一輪の花を探して
1978年リリース

ラテンの光と影をクラシカルなキーボードで描いた
キューバを代表するシンフォニックアルバム

 後に民族色やフュージョン色を強め、現在でも断続的に活動を続けているキューバのロックグループ、グルーポ・シンテシスのデビューアルバム。本アルバムはキューバ初の本格的なロックを取り入れ、スペイン語の女性ヴォーカルにハープシコード、シンセサイザーといったキーボード類を駆使した極上のシンフォニックロックを披露している。その卓越したテクニックと曲のアレンジの素晴らしさに、現在でも中南米でもっとも美しいシンフォニックアルバムの1枚として高く評価されている。

 グルーポ・シンテシスは、1976年にカルロス・アルフォンソとマイク・ポルセルの2人の作曲家が中心となって結成したグループである。1949年生まれの・カルロス・アルフォンソ(カルロス・アルフォンソ・バルデス)は、早い時期からフィデル・カストロ、チェ・ゲバラらが中心となって起こしたキューバ革命後の音楽家たちによる歌の運動「ヌエバ・トローバ運動」に加わった作曲家の1人である。最初は独学から始め、後にイグナシオ・セルバンテス・スクールで和声と編曲を学び、1970年にはプロのミュージシャンとなってカルテット・ヴォーカル・ロス・ノヴァスに参加。また、彼は1972年にはハバナでTEAM4カルテットを結成している。彼らは独自のヴォーカルスタイルによるポップミュージックを展開して、当時のキューバのヴォーカルグループに大きな影響を与えたという。一方の1950年生まれのマイク・ポルセル(マイケル・チャールズ・ポルセル・エンリケス)は、フェルナンデス・ビラ音楽学校でクラシックギターや和声、対位法、作曲と編曲を学び、1968年にギタリスト兼ヴォーカルとして、1960年代当時のキューバで大きな論争を呼んだ前衛的なロックグループ、Los Dadaに参加している。2年後の1970年にはソロに転じてシンガーソングライターとして活躍。演劇のための作曲も行い、1974年にはカルロス・ルイス・デ・ラ・テヘラと共に音楽と演劇、そして詩を組み合わせた「Que Hablen Los Poetas」というショーで全国を回ったという。このようにそれぞれの道でミュージシャン兼作曲家として活躍していたアルフォンソとポルセルという2人が手を組んだグループが、1978年に結成したグルーポ・シンテシスである。最初にホセ・マリア・ビティエル(ピアノ、キーボード)を加入させ、フェルナンド・カルベイロ(エレクトリックギター)、エリセオ・ビーノ(アコースティックギター、ヴォーカル)、エンリク・ラフェンテ(ベース)、フランク・バディリャ(ドラムス)、シルヴィア・アセア(オルガン、ヴォーカル)、エレ・バルデス(シンセサイザー、ヴォーカル)が加入。カルロス・アルフォンソ(ヴォーカル、エレクトリックギター、オーケストレイション)とマイク・ポルセル(ヴォーカル、12弦ギター、オーケストレイション)を含んだ9人編成で、ファーストアルバム『新たなる一輪の花を探して』を1978年にリリースする。多彩なキーボードとギターによるシンフォニックなアプローチだけではなく、メンバーの卓越した演奏力が冴えており、アルフォンソのポップな感性とポルセルのクラシカルな感性の両方が息づいた傑作アルバムとなっている。

★曲目★
01.Nueve Ejemplares…No Tan Raros(ありふれた九つの種の詩)
02.Ven A Encontrarnos(私のもとへ)
03.Primera Noche(初めての夜)
04.Somos La Flor(私たちは花)
05.Poema(幻想の詩)
06.En Busca De Una Nueva Flor(新たなる一輪の花を探して)
★ボーナストラック★
07.Variaciones Sobre Un Zapateo(サパテアードのヴァリエイション)
08.Elogio De La Danza(舞踏礼賛)

 アルバムの1曲目の『ありふれた九つの種の詩』は、繊細なハープシコードとピアノ、アコースティックギターによる優しい響きから、男女の哀愁のヴォーカルを聴かせた楽曲。後にクラシカルなキーボードによるアンサンブルが続くが、キューバのグループとは到底思えないアレンジ力に驚いてしまう。5分過ぎの静寂からのピアノをバックにした語りは幻想的ですらある。2曲目の『私のもとへ』は、エレクトリックピアノとストリングスをバックに女性ヴォーカルをフィーチャーした楽曲。3分ほどの短い曲だが、イタリアの女性シンガーを思わせるカンタトゥーレを意識したような歌声が素晴らしい。3曲目の『初めての夜』は、クラシカルで流麗なピアノに導かれ、チェンバロ風のオルガンと女性のスキャットが美しいスローなナンバー。クラシカルとポップの両方の感性が融合したようなヴォーカルパートはアレンジ力の賜物であり、多彩な楽器とヴォーカルとの一体感は絶妙である。最後のピアノソロからのアンサンブルは、まるで静けさから激しさを伴う初夜をイメージしているようである。4曲目の『私たちは花』は、ややサイケデリックなキーボードワークから、なだらかなオルガンを中心としたアンサンブルとなり、次第にエレクトリックギターによるヘヴィーな展開となる楽曲。ヴォーカルパートになると見事というべきポップなアレンジに早変わるが、転調に転調を重ねた曲調に中で、メンバーの卓越した演奏テクニックが支えていることが分かる1曲である。5曲目の『幻想の詩』は、ピアノをバックにした弾き語り風になっており、スペイン語の美しいヴォーカルと男女のアカペラを中心としたメロディアスな楽曲。ハープシコードを中心としたオーケストレイションをふんだんに使用しており、まさにファンタジックな世界を彩っている。6曲目の『新たなる一輪の花を探して』は、マーチングドラムから流麗なピアノとシンセサイザーをバックに抒情的な男性ヴォーカルが印象的な楽曲。鮮やかなキーボードワーク上で切々と歌い上げるヴォーカルはイタリアのカンタトゥーレのようであり、クラシカルでありながら明朗なアンサンブルが心地よい1曲となっている。キーボードによるインストを経て最後は力強いヴォーカルで締めくくっている。ボーナストラックの『サパテアードのヴァリエイション』は、1981年に録音された楽曲であり、キーボードとリズム隊を前面に出した正統派のシンフォニックナンバーとなっている。同じく1981年に録音された『舞踏礼賛』は、レオ・ブローウェルの曲『舞踏礼賛(エロヒオ・デ・ラ・ダンサ)』をカルロス・アルフォンソがアレンジしたもの。キーボードによるシンフォニックなアプローチからジャズロックを思わせるテクニカルな演奏が冴えた楽曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ピアノとストリングス、ハープシコードを駆使しつつ、哀愁のヴォーカルを載せたクラシカルロックの典型ともいえる作品になっている。静のクラシカルパートの流麗さと動のヴォーカルパートのポップ感覚がうまく融合しており、メロディと響きを意識したアレンジ力が素晴らしい。ラテン気質のあるキューバの音楽で、ここまでリリカルなサウンドが作り出されることはある意味奇跡的である。

 アルバムはキューバ国内外で話題となり、グルーポ・シンテシスの名は一躍人気となる。とくにキューバの音楽シーンにシンフォニックロックという大きな波を作り出したことで、後のグループに影響を与えることになる。しかし、メンバーのマイク・ポルセルは、グループのショーに演劇の要素を取り入れようとしたことで他のメンバーとの軋轢を生み、1979年に脱退することになる。彼はその後、キューバ政府から弾圧に遭い、音楽活動が禁じられて家族からも引き離されてしまうが、国連の人権委員会のおかげでスペインに亡命し、後にアメリカに移住して音楽や演劇といった活動をすることになる。グルーポ・シンテシスはカルロス・アルフォンソを中心に活動を続け、1981年にセカンドアルバム『グルーポ・シンテシス(Aqui Estamos)』をリリース。そのうちのレオ・ブローウェルの曲『舞踏礼賛(エロヒオ・デ・ラ・ダンサ)』と『サパテアードのヴァリエイション』の2曲が、今回紹介した本アルバムのボーナストラックの収録曲となる。1982年には新たな作曲家としてルシア・ウエルゴを迎えて、サードアルバム『Hilo Directo』をリリース。このアルバムからラテン要素を組み入れたポップなサウンドになり、ベストロックアルバム賞を受賞している。1989年にはキューバの宗教音楽であるサンテリアを取り上げ、自らのアイデンティティーと向き合った4枚目のアルバム『Ancestros』をリリース。そして国民的なシンガーであるシルビオ・ロドリゲスの詩に基づくカンタトゥーレ的な内容となった5枚目のアルバム『El Hombre Extrano』を1990年にリリースしている。コンスタントにアルバムをリリースしてライヴ活動をしていた彼らだったが、2016年にハバナでのショーを最後に活動を停止。最近ではコロナによるパンデミック下で人々を励ます取り組みとして、他のアーティストやクリエイターと共に2020年7月31日にオンラインコンサートを開催。現在でもグルーポ・シンテシスは国民的グループとして、幅広い層に支持されている。



 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は中南米キューバから誕生したシンフォニックロックグループ、グルーポ・シンテシスのデビューアルバムを紹介しました。キューバの音楽と言えばコンガやマンボといったアフリカ由来のリズム音楽のソンの発祥であり、他にもサルサやルンバ、そしてサンテリアという民族信仰のダンス音楽を思い浮かべます。さらに言えばライ・クーダーとキューバのミュージシャンの演奏による、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブというアルバムも有名ですね。ロックそのものが縁遠い国のイメージが強かったキューバですが、ここまでクラシカルで美しいシンフォニックロックグループが誕生していたことははっきり言って驚きです。私自身、グルーポ・シンテシスは2020年のリマスター盤で初めて知ったグループです。元々、南米のアルゼンチンやベネズエラ、ブラジルでいくつかのプログレッシヴロックグループがあることは知っていましたが、なかなか聴く機会が無く、この数年でやっとリマスターされたアルバムを手にできたばかりです。その中でも未だ革命の余韻が残る中南米のキューバで結成されたというグルーポ・シンテシスは別格です。それでも国内の音楽はポップスやジャズ、民族音楽など盛んだったらしく、グルーポ・シンテシスのメンバーも様々なグループを渡り歩いた歴戦のミュージシャンばかりだそうです。ちなみに本アルバムのジャケットデザインは3種類あるらしく、2020年のリマスター盤で使用されたデザインは、もっとも稀少価値の高いものを採用しているとのことです。

 さて、アルバムの楽曲ですが、3人のキーボーディストによる繊細なピアノやハープシコード、オルガン、シンセサイザーといった楽器が交互に使用されたシンフォニック性の強いサウンドになっています。何よりもピアノによる静の部分の曲調がリリシズムにあふれており、ラテン気質のあるキューバのお国柄とは考えられないアレンジの妙が随所にあります。それにシルヴィア・アセアのイタリアシンガーを思わせる美しいスペイン語のヴォーカルが素晴らしいです。演奏は決して技巧的ではありませんが、マイク・ポルセルが培ってきた流麗なクラシカル要素とカルロス・アルフォンソが培ってきた明朗なポップ要素をうまく融合して聴きやすいサウンドを作り出しているのが、このグループの大きな特徴でもあります。後に民族色、フュージョン色を強めていくグルーポ・シンテシスですが、ここまでクラシカルでシンフォニックなアルバムに仕上げているのは本デビューアルバムのみです。そういう意味ではアルフォンソとポルセルの2人の作曲家が共に生み出した奇跡的なアルバムと言っても良いと思います。

 本アルバムは中南米でもっとも美しいアルバムと評されています。ヨーロッパや北米、南米から程遠いキューバという島国で生み出された素晴らしいアルバムをぜひ、一度聴いてほしいです。

それではまたっ!