【今日の1枚】Genesis/A Trick Of The Tail | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Genesis/A Trick Of The Tail
ジェネシス/トリック・オブ・ザ・テイル
1976年リリース

楽曲に洗練さとスリリングさが増した
4人編成で織りなすジェネシス中期の傑作

 フロントマンだったピーター・ガブリエルが抜けて、スティーヴ・ハケット(エレクトリックギター、12弦ギター)、フィル・コリンズ(ドラムス、ヴォーカル)、マイク・ラザフォード(ベース、12弦ギター)、トニー・バンクス(ピアノ、シンセサイザー、オルガン、メロトロン)の4人編成となった7枚目のスタジオアルバム。本アルバムはピーター・ガブリエルの穴をフィル・コリンズが見事に埋めつつ、伝統的なブリティッシュポップのエッセンスを散りばめたスリリングで洗練されたサウンドを構築している。突出したキャラとイマジネーションを持ったピーター・ガブリエルが抜け、グループにとって岐路に立ったアルバムだったが、英国アルバムチャートで最高位3位、アメリカのビルボード200では31位という好成績を残し、中期のジェネシスの傑作として今なお輝き続けている。

 1969年にアルバム『創世記』でデビューしたジェネシスは、アートロックの方向性を強く意識し、練りに練った作品を手掛け、シアトリカルなプログレッシヴロックの地位を確立したグループである。その中心的な役割を担ったのがピーター・ガブリエルであり、彼の奇抜な衣装と演劇性を持った独特のステージ・パフォーマンスが、本国イギリスをはじめヨーロッパ各国で人気を博していた。そんな彼が1975年の『眩惑のブロードウェイ』ツアーの後に、プライベートな問題を理由に脱退することになる。ガブリエルはジェネシスのフロントマンとしてグループの主導権を握っていたが、あまりに強烈な個性のため、他のメンバーはあまり快くは思っていなかったことが大きな原因とされている。以降、ピーター・ガブリエルはソロに転向することになるが、残ったメンバーは今後のグループの方向性について、インストゥメンタルグループへの転身や解散も考えたと言われている。そんな不安な状況の中で光明を差したのが、1975年10月から11月にかけてロンドンのトライデントスタジオでレコーディング時のことである。ドラマーのフィル・コリンズがリードヴォーカルを取る形で『スコンク』をレコーディングした際、メンバーたちの反応を伺ったところ結果があまりにも良かったという。以降、フィル・コリンズは他の曲もヴォーカルを務め、後にジェネシスのメインヴォーカルとして活躍することになる。エルトン・ジョンの作品でキーボード演奏やエンジニアを務めてきたデヴィッド・ヘンツェルが、アルバムのプロデュースとエンジニアで参加し、1976年2月に7枚目のスタジオアルバムとなる『トリック・オブ・ザ・テイル』がリリースされる。本アルバムはスリリングなプログレッシヴロックでありながら、伝統的なブリティッシュポップの萌芽が感じられ、4人の生まれ持った才能が遺憾なく発揮された魅力的なアルバムとなっている。また、コリン・エルジーとヒプノシスが手がけたコミカルなジャケットデザインも相まって、ジェネシス中期の傑作として名高い。

★曲目★
01.Dance On A Volcano(ダンス・オブ・ザ・ボルケーノ)
02.Entangled(エンタングルド)
03.Squonk(スコンク)
04.Mad Man Moon(マッド・マン・ムーン)
05.Robbery, Assault And Battery(ロベリー、アソールト&バッテリー)
06.Ripples...(リプルス)
07.A Trick Of The Tail(トリック・オブ・ザ・テイル)
08.Los Endos(ロス・エンドス)

 アルバムの1曲目の『ダンス・オブ・ザ・ボルケーノ』は、4人がクレジットされた曲になっており、まさに火山のごとく熱き7拍子の鬼気迫るような展開とリリカルでシンフォニックなメインリフの対比があるジェネシスらしい楽曲。比較的に明朗なアンサンブルになっているが、技巧的で緩急を極めたドラマティック性のあるサウンドになっているのが特徴である。後半のアップテンポの疾走ぶりは彼らのアルバムに対する一体感が垣間見える。2曲目の『エンタングルド』は、ハケットとバンクスによる曲で、12弦ギターの優しいアルペジオの響きと瑞々しいヴォーカルが素晴らしい楽曲である。後半のトニー・バンクスのシンセサイザーがより曲に幻想性を持たせている。3曲目の『スコンク』は、レコーディングで初めてフィル・コリンズがリードヴォーカルを務めた楽曲。伝統的なブリティッシュロックを思わせるタイトなリズムとギター、そして何よりもフィル・コリンズの躊躇いのない伸びのあるヴォーカルが印象的である。後半のバンクスによるシンフォニックなシンセサイザーソロも聞き逃せない。4曲目の『マッド・マン・ムーン』は、後の3人体制を予感させるトニー・バンクスのポップで美しいメロディにあふれた楽曲。このような叙情的で牧歌的な曲があるのが本アルバムの大きな特徴であり、中期ジェネシスサウンドを決定づけたサウンドになっている。5曲目の『ロベリー、アソールト&バッテリー』は、変拍子のあるリズムと特徴的なフレーズのあるギターが交錯する軽やかなプログレッシヴサウンド。ポップでありながら非常に繊細さのあるアレンジがが効いており、巧みな音使いが冴えた極上の楽曲に仕上げている。6曲目の『リプルス』は、煌びやかな12弦ギターをバックに、かつてのピーター・ガブリエルを思わせるような語り調のヴォーカルが印象的な楽曲。静謐なアンサンブルから一気に伸びのあるフィル・コリンズのヴォーカルが花開いている。中間部の英国然とした演奏の中でひと際光るスティーヴ・ハケットの特徴的なギターが何とも美しい。7曲目の『トリック・オブ・ザ・テイル』は、バンクス作曲の楽曲であり、その明るくポップなメロディは新しいジェネシスを予感させるにふさわしい内容になっている。8曲目の『ロス・エンドス』は、アルバムの曲のフレーズを盛り込んだプログレッシヴグループらしいインストゥメンタルで締めくくっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、タイトなリズム隊と複雑になり過ぎない綺麗な展開でまとめた楽曲は、それまでのジェネシスの要素を残しながらポップなエッセンスを大胆に取り込んだことで見事に開花している。メインヴォーカルを初めて務めたフィル・コリンズのピーター・ガブリエルを意識したような歌声とパワフルなドラムの活躍ぶりと合わせて、何よりもトニー・バンクスのこれからの時代にふさわしいポップなメロディが全曲に散りばめられていることが、グループ再生に至った最大のポイントになっていると考えられる。

 アルバムは全英アルバムチャートでは最高3位に達し、39週にわたってチャート・インするヒットを記録。アメリカのビルボード200では31位に達し、グループにとって初のトップ40入りを果たしている。また、6月になる頃にはシルバーとゴールド・ディスクを獲得し、アメリカでもゴールド・ディスクを獲得する快挙を成し遂げる。ピーター・ガブリエルのいないグループを受け入れてくれるかどうか不安だったメンバーは、これまで最高位だった『月影の騎士』以上の結果を残すことになり、その不安を払拭することになったという。しかし、本アルバムで新たなファンを獲得することになったが、逆にシアトリカルなプログレッシヴロックをイメージしていた過去のファンを失うことになる。本アルバムに伴うツアーでは、フィル・コリンズがリードヴォーカルを務めるようになり、ビル・ブルーフォードが一時的にサポートドラマーとして参加している。1976年には8枚目のスタジオアルバム『静寂の嵐』をリリースするが、すでに1975年にソロアルバムを出していたスティーヴ・ハケットは、グループに対する未練はほとんど無くなり、1977年にリリースする『眩惑のスーパー・ライヴ』のミックスダウン中に脱退することになる。後にマイク・ラザフォードは12弦ギター&ベースのダブルネックを駆使して演奏することになり、フィル・コリンズ(ヴォーカル、ドラム)、トニー・バンクス(キーボード)との3人体制で、ジェネシスを支えることになる。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はピーター・ガブリエル無き、フィル・コリンズがヴォーカルとなって4人体制で臨んだ7枚目のスタジオアルバム『トリック・オブ・ザ・テイル』を紹介しました。このアルバムは『インビジブル・タッチ』でジェネシスを聴くようになってから『月影の騎士』に次いで聴いたものです。ちょうどピーター・ガブリエル在籍時の最後のスタジオアルバムと脱退した後のスタジオアルバムを順に聴いたこととなります。『月影の騎士』はプログレッシヴロックの名盤として認識していますが、私としては『トリック・オブ・ザ・テイル』以降のアルバムの方が親しみが大きいですね。3人体制となった傑作アルバム『デューク』を思わせるポップテイストあふれる楽曲が、すでに本アルバムで開花しており、全体的にガブリエルのアクが抜けて洗練された雰囲気に好感が持てます。それでもプログレッシヴグループらしく、6分を超す大曲が多くスリリングな曲を披露しています。個人的に強烈な個性の持ち主だったピーター・ガブリエルの呪縛から解き放たれ、表立った演奏をするようになったのは、キーボード奏者のトニー・バンクスだと思います。彼のキラキラした美しいキーボードサウンドは、これからの時代にふさわしいポップ性を秘めており、ピーター・ガブリエル無き後のジェネシスサウンドの一翼を担うことになります。そんな彼の先見性のあるポップな音作りは、本国イギリスだけではなく、アメリカでも受け入れられたというのが何よりの証拠です。決して技巧性を披露した楽曲は少なくなりましたが、繊細で軽やかなアレンジが冴えており、極上のサウンドに仕上げているのはさすがだと思います。

 トニー・バンクスが『ピーターはいなくなったけど、それでも人生は続く。僕たちはみんな少し寂しい気持ちになっていたけどね。しばらくの間、彼の考えを変えようと説得もしたけど、彼がそれでも脱退すると言ったので、僕たちはそのまま前進するしかなかったんだ』と、当時のメロディ・メイカー誌に語っていますが、一度は解散を考えていたという危機からメンバーが一体となって、本アルバムのようなサウンドを生み出したことは奇跡的です。ピーター・ガブリエル無きの新生ジェネシスとなった彼らのひた向きさと前向きさが表れた素敵なアルバムだと今でも思っています。
 
それではまたっ!