【今日の1枚】New Trolls/Concerto Grosso PerⅠ | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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New Trolls/Concerto Grosso PerⅠ
ニュー・トロルス/コンチェルト・グロッソⅠ
1971年リリース

ロックとオーケストラが見事に融合した
イタリアンシンフォニックロックの金字塔

 イタリアのビートポップグループだったニュー・トロルスが、映画音楽の作曲家でありオーケストラアレンジャーでもあるルイス・エンリケ・バカロフを迎えて制作されたサードアルバム。そのサウンドはストリングスによるバロック・アンサンブルとロックサウンドが華麗に重なり合い、時にクラシカルに時にハードに表情を変えながら盛り上がっていく内容になっている。また、哀愁のオーケストラの旋律上に泣きのギターサウンドがあまりにも素晴らしく、抒情性と革新性のある1970年代イタリアンプログレの幕開けとなった画期的なアルバムである。

 ニュー・トロルスはイタリアの北に位置するジェノヴァで、1966年にニコ・ディ・パロ(ヴォーカル、ギター)とヴィットリオ・デ・スカルツィ(ヴォーカル、ギター)を中心に結成されたグループである。最初はザ・トロルスというグループ名で活動していたが、1967年にジョルジオ・ダダモ(ベース)、マウロ・キアルギ(キーボード)、ジャンニ・ベレーノ(ドラムス)を加えた5人編成となった時にニュー・トロルスというグループ名に変えている。グループはクラブを中心に演奏を始め、ビート&サイケデリックスの要素を組み合わせたスタイルでシングルデビューし、フォニット・チェトラからファーストアルバム『Senza Orario Senza Bandiera』をリリースしている。後にマウロ・キアルギが脱退し、その穴をニコとヴィットリオが埋めた4人編成となるが、ニュー・トロルスは1969年に『Io che ho te』という曲を引っ提げてサンレモ音楽祭に初出演し、地元ジェノヴァだけではなくイタリア国内でも人気のグループとなっている。それでも、1970年にはシングル集ともいうべきセカンドアルバム『ニュー・トロルス』をリリース後も、シングル『物語/夏の甘い風』や『あなたは最も美しい/シンデレラのように』など、常に新しい音楽を追求したという。1971年にヴィアレッジョで行われた「新しい波とアヴァンギャルドのためのフェスティバル」に出演し、イタリアの代表的なグループとなっていたニュー・トロルスは、イタリアの作詞家兼レコードプロデューサーであるセルジオ・バルドッティより、イタリア映画の作曲家でオーケストラアレンジャーであるルイス・エンリケ・バカロフの構想を実現するためのアルバム制作を依頼されることになる。それが1971年にリリースされるサードアルバム『コンチェルト・グロッソ』である。このアルバムの意図は、イタリアのバロック音楽のように、スコアのソロの部分をロック楽器に委ねるという大規模なコンサートを提示することであり、ニュー・トロルスがバカロフが指揮するオーケストラと共に演奏するという画期的なものであったという。そのアルバムの最初の3曲は、マウリツィオ・ルシディ監督の『La Vittima Designata(定められた生贄)』という映画のサントラ盤として劇場で先にリリースされて評判となり、後に2曲を加えたニュー・トロルスのサードアルバムとして発表され、イタリアンロック史上最高のアルバムと評された歴史的な名盤となる。

★曲目★
01.Tempo:Allegro(アレグロ)
02.Tempo:Adagio ~Shadows~(アダージョ~シャドウズ~)
03.Tempo:Cadenza -Andante Con Moto-(カデンザ -アンダンテ・コン・モト-)
04.Tempo:Shadows ~Per Jimi Hendrix~(シャドウズ~ジミ・ヘンドリックスの場合~)
05.Nella Sala Vuota(空間の中から)

 アルバムのオーケストラを招いての共演曲では、バカロフが作曲、オーケストラ指揮、アレンジを担当している。1曲目の『アレグロ』は、オーケストラのチューニング音からそれを静めるバカロフのタクト音で始まるインストゥメンタル曲。バカロフがフランコ・ジラルディの1970年の映画『Solitary Hearts』で使用した曲から派生したものである。短いながらも華麗なオーケストラとアグレッシヴなロックが溶け合うような見事な楽曲になっている。2曲目の『アダージョ~シャドウズ~』は、美しくも儚いヴァイオリンの旋律に導かれ、ギターが絡んでいき、ヴィットリオ・デ・スカルツィの甘く切ないヴォーカルが印象的な楽曲。歌詞には「死ぬ...眠る...おそらく夢を見る」といったウィリアム・シェイクスピアのハムレットからの有名な独白の断片を引用している。華麗なオーケストラとその歌詞を彷彿とさせるような荒々しくも泣きのギターが極上の美に至っている。3曲目の『カデンザ -アンダンテ・コン・モト-』は、前曲を引き継ぐような物悲しいヴァイオリンとチェンバロを中心とした器楽が響き渡り、シェイクスピアのハムレットの詩「死ぬ...眠る...おそらく夢を見る」が歌としてリフレインされている。4曲目の『シャドウズ~ジミ・ヘンドリックスの場合~』は、1年前に亡くなったジミ・ヘンドリックスに敬意を表した曲で、2曲目『アダージョ~シャドウズ~』をニュー・トロルスだけで再解釈して演奏したものである。この曲ではオーケストラを使用せず、ジミ・ヘンドリックスのスタイルで演奏されたニコ・ディ・パロによる長いエレクトリックギターのソロが中心となっており、当時のニュー・トロルスのロックグループとしての熱い息吹が感じられる内容になっている。ブルージーなギターだけではなく、ジェスロ・タルばりのフルートや手数の多いドラミングなど、なかなか聴きどころの多い佳曲である。5曲目の『空間の中から』は、当時のレコードでいうB面をすべてを使った20分に及ぶ大曲。重厚なオルガンソロから始まり、フルートとギターを中心としたハードともいえるアンサンブルを披露している。インプロヴィゼーションの応酬でありながら中でも7分に及ぶジャンニ・ベレーノのドラムソロが圧巻であり、その自由奔放で躍動感のある演奏から、まさにヘヴィーなプログレッシヴロックというべきサウンドになっている。この曲には次のアルバムから正式メンバーとなるマウリツィオ・サルヴィによるハモンドオルガンが参加している。こうしてアルバムを通して聴いてみると、最初の3曲のオーケストラとバンドがバランス良く共存を果たしているのは、まさにバカロフの手腕といったところだろう。組み立てられた演奏は劇的であり、ロックとオーケストラの融合を見事に成し遂げている。エフェクトのかかったギターですら芸術的であり、ビートポップだったニュー・トロルスが模索していた音楽の方向性が、このサードアルバムで着地させただけではなく、イタリアンロックにとって燦然と輝く傑作となった稀有な作品といっても良いだろう。

 アルバムリリース後の1972年に、ニュートロルスはピノカルヴィ・オーケストラと一緒にセンザレテでライヴパフォーマンスを行っている。この年にグループにとって最初のファンクラブが発足し、トリノを拠点としたCorso Ferrucci 72に誕生する。このCorso Ferrucci 72はイタリア最初のファンクラブとされている。ベーシストのジョルジオ・ダダモが脱退して、代わりにフランク・ラウゲリが加入。キーボーディストとしてマウリツィオ・サルヴィも正式にメンバーとなり、1972年に『Searching for a Land』、『UT』の2枚のアルバムをリリースしている。しかし、『UT』のレコーディング中に生じたいくつかの違いにより、 1973年から1976年の間にグループのメンバーはいくつかの並行プロジェクトを行うようになる。特にヴィットリオ・デ・スカルツィと脱退したジョルジオ・ダダモを中心にTAS(Trolls Atomic System)を結成。さらにスカルツィはレコードビジネスにも手を出し、Magmaレーベルを設立している。ニコ・ディ・パロは新グループであるイビスを結成して2枚のアルバムをリリース。ドラマーのジャンニ・ベレーノはニコ・ディ・パロやフランク・ラウゲリの協力の下でマイナーだったトリトンズというグループをバックアップしている。メンバーチェンジの後、1976年に再度ニュー・トロルスとして『コンチェルト・グロッソ2』をリリース。1978年の『アルデバラン』と共に高評価を得たアルバムとなったが、ニュー・トロルスのスタイルは徐々にプログレッシヴな要素を失い、1980年代を迎えることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアンロック史上最高のアルバムと評されたニュー・トロルスの『コンチェルト・グロッソⅠ』を紹介しました。このアルバムを初めて聴いた時、呆然としたというのが正直なところです。まさに1曲目から3曲目は、究極と呼ぶに相応しい哀愁のオーケストラとギターによる泣きのメロディがふんだんに詰め込まれており感動したことを覚えています。オーケストラとロックの融合は、他のグループのアルバムでも見受けられますが、ここまで抒情性があってバランスの良い演奏はなかなかありません。荘厳で優美なオーケストラとハードなロックサウンドが入れ替わり重なりながら曲を織りなしているだけではなく、退廃的な旋律が何とも言えない美しさになっています。後半はジミ・ヘンドリックスに捧ぐ曲から、ニュー・トロルスの本領を発揮しており、20分を越える熱きインプロゼーションを駆使した楽曲があるところから、彼らはもしかしてハードなプログレッシヴロックをやりたかたのでは?と思ってしまうほど圧巻の演奏を見せてくれます。バカロフのオーケストラアレンジされた最初の3曲に耳を奪われがちですが、こちらの曲ももっと評価されても良いと思っています。ただ、このアドリブ入りの英国風のハードロックが、コンセプトを重視するヴィットリオ・デ・スカルツィの音楽的構想のズレから分裂することになりますが…。

 

 さて、本アルバムは、マウリツィオ・ルシディ監督の『La Vittima Designata(定められた生贄)』という映画のサントラ盤として企画されたものです。もうひとつバカロフとオザンナが楽曲を担当した『ミラノ・カリブロ9』という映画もありますが、どちらも日本未公開だそうです。イギリスでは『Slam Out』というタイトルでビデオ化されているようですが廃盤らしく、日本ではどうも未発売のようです。内容は若いプレイボーイが裕福な伯爵に騙されて殺人を犯して破滅していく姿を描いたサスペンス?になっているようです。ちなみに個性派俳優のピエール・クレマンティやトーマス・ミリアン、アレッサンドラ・カルディーニが出演しているそうです。

 ハードな音のロックグループと優美な音のオーケストラが、それぞれの持ち味を発揮しつつ、情感豊かに曲をつくり上げた、まさにコンチェルト(協奏曲)そのものです。ぜひ、イタリアンロックの歴史的な名盤ともいえる本作を聴いてほしいです。

それではまたっ!