【今日の1枚】Strawbs/From The Witchwood(魔女の森から) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Strawbs/From The Witchwood
ストローブス/魔女の森から
1971年リリース

トラッドフォークに強固なリズムを加味した
ドラマティック性あふれるサードアルバム

 後にイエスに加入するキーボーディストのリック・ウェイクマンを正式加入させ、トラディショナルフォークからロック色の強いサウンドに生まれ変わったストローブスのサードアルバム。ダルシマー、シタール、バンジョーといった多彩な弦楽器を用いつつ、強固なリズムセクションによるドラマティック性のある美しいサウンドが魅力になっており、何よりもリック・ウェイクマンのクラシカルなオルガンやハープシコード、メロトロンといったキーボードプレイが際立った傑作となっている。2019年には結成50周年を記念したアメリカツアーが実現し、1960年代から現在でも活動を続ける英国の数少ないグループの1つでもある。

 ストローブスは、1964年にロンドンのストロベリーヒルにあるセントメアリーズ大学トゥイッケナムに通っていたデイヴ・カズンズ(ヴォーカル、ギター、ダルシマー、バンジョー)を中心に結成されたグループである。当時は地元の街の名前を使用したストロベリーヒル・ボーイズというグループ名でスタートしており、1960年代に流行していたブルーグラスバンド(ビル・モンロー&ブルーグラスボーイズというグループが由来のアメリカの弦楽器を使用したルーツミュージック)として活動していたという。1967年6月のハムステッドのフォーククラブでコンサートを開いた時、ファンが愛称で呼んでいたストローブスに変更している。その年の7月には、フォークシーンで注目を浴びていたシンガーソングライターのサンディ・デニーをメンバーとして迎え、北ロンドンにあるセシル・シャープ・ハウスで初のデモレコーディングを行っている。そのテープを聴いたデンマークのラジオDJであるトム・ブラウンが気に入り、彼の仲介でコペンハーゲンのソネット・レコーズと契約している。しかし、1968年にメンバーだったサンディ・デニーは、フェアポート・コンベンションに参加するため脱退。彼女に代わる女性ヴォーカリストとして、後にカーヴド・エアで活躍するソーニャ・クリスティーナを迎えたが、数回のギグを行っただけで離脱している。そんなグループの状態を見たソネット・レコーズのカール・クヌーセンが、レコードの販売業者だったハーブ・アルバートとジェリー・モスが興したA&Mレコードに、コペンハーゲンで制作されたデモテープを送ったところ話が大きく動き出し、ストローブスは1968年4月にA&Mレコード初の英国人アーティストとして契約を結ぶことになる。

 この時のストローブスのメンバーはデイヴ・カズンズ(ヴォーカル、ギター)、トニー・フーパー(ヴォーカル・ギター)、ロン・チェスターマン(ダブルベース)の3人グループで、1968年6月に『Oh How She Changed』でシングルデビューを果たし、翌年の1969年6月にファーストアルバムとなる『ストローブス・ファースト』をリリース。8月には女性チェリストであるクレア・デニスをメンバーに加えて4人体制となり、1970年2月にセカンドアルバム『ドラゴンフライ』をリリースしている。しかし、アルバムリリース後にクレア・デニスが脱退してしまい、後任にリンゼイ・クーパーを加えたものの、今度はロン・チェスターマンも脱退してしまう。リンゼイ・クーパーがベースを兼任するなか、以前からゲストとして参加していたキーボード奏者のリック・ウェイクマンを正式にメンバーとして加えることになる。リック・ウェイクマンはデヴィッド・ボウイの曲『スペイス・オディティ』でメロトロンを演奏していたり、英国のフォークグループであるマグナ・カルタにも参加していたりと、セッションミュージシャンとして著名な人物であったという。前作の『ドラゴンフライ』では、プロデューサー兼ミュージシャンのトニー・ヴィスコンティから声を掛けられ、ピアノを演奏している。この時、リック・ウェイクマンが初めてクレジットされたアルバムとしても有名である。リック・ウェイクマンが加わった矢先にリンゼイ・クーパーが離脱したことを受けて、元ヴェルヴェット・オペラのリズム隊だったジョン・フォード(ベース)、リチャード・ハドソン(ドラムス)が加入。こうしてロックスタイルとなったストローブスは、1970年11月に行われたロンドンのクイーンエリザベスホールでのライヴを録音したアルバム『骨董品』をリリースすることになる。このアルバムは英国アルバムチャートで27位となるヒットとなり、ストローブスの名が一躍注目を集めた傑作となっている。そんな上昇気流に乗ったストローブスは、ロンドンのエアスタジオで1971年2月に次なるアルバムのレコーディングを開始。それが本アルバムの『魔女の森から』である。ダルシマーやシタール、バンジョーといった多彩な弦楽器を用いつつ、強固なリズムセクションによるドラマティック性が増しており、立役者であるリック・ウェイクマンのクラシカルなオルガンやハープシコードをはじめとするキーボードプレイが際立った逸品となっている。

★曲目★
01.A Glimpse Of Heaven(僕は天国を見た)
02.Witchwood(魔女の森から)
03.Thirty Days(30日間の命)
04.Flight(空には夢が)
05.The Hangman And The Papist(死刑執行人の涙)
06.Sheep(シープ~羊たちの死骸~)
07.Canon Dale(聖なるカノン・デイル)
08.The Shepherd’s Song(羊飼いの歌)
09.In Amongst The Roses(人生はバラの花)
10.I’ll Carry On Baside You(神を信じるとき)
★ボーナストラック★
11.Keep The Devil Outside(悪魔を追い出せ)

 アルバムの1曲目の『僕は天国を見た』は、デイヴ・カズンズのペンによる曲で、美しいハーモニーのヴォーカルとアコースティックギターをベースにしたフォーク調のサウンドに、ウェイクマンの格調高いオルガンが合わさった楽曲。2曲目の『魔女の森から』は、鬱蒼とした森で迷い、奇妙な歌と共に森の一部として死に逝く悲劇を歌った曲。心地よい弦楽器によるアンサンブルになっており、控えめに奏でられるクラリネットはリック・ウェイクマンによるものである。3曲目の『30日間の命』は、ジョン・フォードが作曲したもので、まるでザ・ビートルズを彷彿とさせるような優しいタッチのポップ曲である。4曲目の『空には夢が』は、フォークタッチのバラード曲だが、ウェイクマンのピアノが効果的であり、非常にクラシカルな印象が漂う楽曲。後半ではジョン・フォードとリチャード・ハドソンのリズム隊が力強く演奏をしている。5曲目の『死刑執行人の涙』は、チャーチ風のオルガンから始まり、一定のドラミングとギターの音色に合わせて転がるように弾くウェイクマンのキーボードプレイが堪能できる楽曲。6曲目の『シープ~羊たちの死骸~』は、エレクトリックギターとキーボードを中心とした非常にロック色の強い楽曲。変調もあるなどプログレッシヴな感性が息づいた内容になっている。7曲目の『聖なるカノン・デイル』は、リチャード・ハドソンが作曲した幻想的なバラード曲。ウェイクマンのキーボードとシタールが中近東をイメージするようであり、夢心地な感じを受ける。8曲目の『羊飼いの歌』は、オーソドックスなフォークタッチの曲だが、ウェイクマンのドラマティックなキーボードが彩りを与えた素晴らしい楽曲。9曲目の『人生はバラの花』は、アコースティックギターをベースに切なく歌うヴォーカル曲。バックには控えめなウェイクマンのハープシコードが曲に優しい雰囲気を与えている。10曲目の『神を信じるとき』は、ホンキー・トンク調のウェイクマンのピアノが印象的なウエストコースト風の楽曲。エレクトリックギターのソロがあり、明朗なメロディとハーモニーが全体を包んでいる。11曲目のボーナストラック『悪魔を追い出せ』は、本アルバムをリリースする前に発売中止となったシングルに収められていた楽曲で、英国然としたロック色の強い内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、彼らのルーツであるトラディショナルフォークにリズム隊が加わったことでロック色が強くなり、さらにリック・ウェイクマンの奏でるクラシカルなキーボードによってよりファンタジック性が加味された内容になっている。ダルシマーやオートハープといった伝統的な楽器を活かしつつ、ドラマティックともいえる幻想的なサウンドは、ストローブスがプログレッシヴロックの道に一歩踏み出した記念すべき作品だともいえる。

 アルバムは英国で好意的に受け入れられ、ストローブスがトラディショナルフォークからプログレッシヴスタイルになったアルバムとして注目を浴びたという。しかし、アルバム発表直後にリック・ウェイクマンが脱退。理由はイエスへの加入である。彼はストローブス加入後もセッションワークを続けており、何よりも住宅のローンで借金を抱えていたため、ストローブスでの収入では足りないと常々考えていたという。そんな折にイエスのベーシストであるクリス・スクワイアより連絡を受け、トニー・ケイの後釜としてメンバーとなっている。ウェイクマン脱退後のストローブスは、元フェア・ウェザーにいたブルー・ウィーヴァーが加入し、1972年に4枚目のアルバム『グレイヴ・ニューワールド』をリリース。後に初のアメリカツアーを行っている。よりロック化が進むグループに嫌気を差したトニー・フーパーが脱退し、代わりに元ファイアーのディヴ・ランバートを加入させて、1973年に5作目のアルバム『バースティング・アット・ザ・シームス』をリリース。シングルカットされた『レイ・ダウン』と『パート・オブ・ザ・ユニオン』がそれぞれ12位を記録するヒットとなっている。そこで自信を持ったリズム隊のジョン・フォードとリチャード・ハドソンは、グループを離れてハドソン=フォードを結成。さらにブルー・ウィーヴァーも脱退してしまい、大ヒットしたアルバムにも関わらず、メンバーがバラバラとなる事態となってしまう。残されたデイヴ・カズンズとディヴ・ランバートは、ジョン・ホークン(キーボード)、元スティーラーズ・ホイールのロッド・クームス(ドラムス)、そしてリック・ウェイクマンの推薦でチャス・クロンク(ベース)を加入させて、1974年に7作目となる『ヒーロー・アンド・ヒロイン』をリリース。しかし人気が高まるとともに経費がかさんだため、本国イギリスでレコードセールスと釣り合わないという理由から、1975年の『Nomadness』のアルバムを最後にA&Mレコードとの契約が終了してしまう。以降はメンバーチェンジを繰り返しながら活動を続けていたが、1980年にデイヴ・カズンズが脱退し、グループが消滅することになる。しかし、イエスで有名なミュージシャンになっていたリック・ウェイクマンがラジオでかつて在籍していたストローブスについて言及したことを発端に、1983年にデイヴ・カズンズとトニー・フーパーを中心にストローブスが復活。1987年には10年ぶりとなるアルバム『ドント・セイ・グッバイ』をリリースしている。1999年にはディヴ・ランバートも復帰して、この頃からアコースティック・ストローブスとして活動をすることになる。現在ではデイヴ・カズンズ、ディヴ・ランバート、チャス・クロンク、トニー・フェルナンデス(ドラムス)というラインナップで、2019年に結成50周年を迎えている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はトラディショナルフォークから、リック・ウェイクマンが加わったことでプログレッシヴなスタイルに生まれ変わったストローブスの記念碑的な作品『魔女の森から』を紹介しました。このアルバムはA&Mシリーズとして初期の『ストローブス・ファースト』から『ヒーロー・アンド・ヒロイン』までのCD7作を一気に購入した中の1枚です。個人的にはリック・ウェイクマンが去った『クレイブ・ニュー・ワールド』と『ヒーロー・アンド・ヒロイン』も傑作だと思っています。イエスで活躍するリック・ウェイクマンと共にストローブスの人気も高まっているのが面白く、リック・ウェイクマン自身も脱退したメンバーの穴埋めに協力している点から、かなりストローブスのことを気にかけているところが良いですね。セッションミュージシャンだったリック・ウェイクマンが表舞台として活躍できたのはストローブスの存在はかなり大きかったらしく、それらが無くてはイエスというビッググループに巡り遭うこともなければ、一生セッションミュージシャンとして終わったかもしれないと思うと感慨深いです。

 さて、本アルバムは1970年11月に行われたロンドンのクイーンエリザベスホールで行われたライヴアルバム『骨董品』で、リック・ウェイクマンのことを評論家たちが「将来のスーパースター」と評した後のスタジオアルバムです。元々、トラディショナルフォークをルーツとしたサウンドにクラシカルなキーボードによる新しい風が吹き入れた新鮮なサウンドが醍醐味となっています。アレンジ面ではリズム隊の導入でロック的なアプローチも多く、全体を支えるアンサンブルもなかなか強力です。『聖なるカノン・デイル』や『羊飼いの歌』など、リック・ウェイクマンならではの幻想的なオルガンやピアノが活きた楽曲だけではなく、チャーチオルガンやハープシコードといった鍵盤楽器を楽曲に合わせて華麗に弾いているのが何とも言えません。中心メンバーであるディヴ・カズンズに言わせれば統一感の無いアルバムだとコメントを出していますが、こうした当事者の想いとは裏腹に、現在ではストローブスがプログレッシヴなスタイルに進んだ画期的なアルバムとして高く評価されています。

 初期のリック・ウェイクマンの多彩なキーボードの演奏が楽しめる一方、トラディショナルフォークにこうしたクラシカルなアレンジを加えるとこうなるという味のあるアルバムとなっています。聴いたことのない方は、ぜひ、一度堪能してほしいアルバムです。
 
それではまたっ!