【今日の1枚】Titus Groan/Titus Groan(タイタス・グローン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Titus Groan/Titus Groan
タイタス・グローン/タイタス・グローン
1970年リリース

サックスとフルート、オーボエを駆使した
グルーヴ感あふれるブルースジャズロック

 英国の小説家であるマーヴィン・ピークのゴシック・ファンタジー『ゴーメンガースト』の三部作に登場する、ゴーメンガースト伯爵の後継者である主人公の名をグループ名にしたタイタス・グローンの唯一作。そのサウンドは、サックスやフルート、オーボエといった金管楽器を中心に、オルガン、ピアノを駆使したジャズエッセンスのあるR&Bを基調としたプログレッシヴロックとなっている。日本ではあまり知られていないグループだが、本国イギリスでは人気が高く、1980年代では海賊版(ブートレグ)が出回ったため、英国のSee For MilesやEsoteric、日本ではポリドールから急遽再発される事態となった隠れた名盤である。

 タイタス・グローンは元々、1967年から1968年頃にロンドンで活動していたJON(ジョン)というグループが母体となっている。メンバーはクリス・シモンズ(ヴォーカル)、スチュワート・カウウェル(ヴォーカル、ギター)、トニー・ティアーニー(ベース)、ジム・トゥーミー(ドラムス)、ロン・レイノルズ(ハモンドオルガン)であり、R&Bやビートポップをルーツとした音楽を演奏し、2枚のシングルを残している。1960年代後半はザ・ビートルズの成功により、様々な新人グループが誕生し、中でも先進性のあるプログレッシヴな音楽が台頭してきたことで各レコード会社は、それらを取り込む独自のレーベルを新設していた時代である。ロンドンで活動していたJONも多くの新人グループによって埋もれるようになり、1968年にヴォーカルを務めていたクリス・シモンズとベーシストのトニー・ティアーニー、オルガニストのロン・レイノルズが脱退してしまい活動を停止している。残ったメンバーは一度解散を考えたが、新たな音楽性を求めてグループの再生を図り、ベーシストのジョン・リーとジャズ出身でサックス、フルート、オーボエという金管楽器を演奏するトニー・プリーストランドを迎えている。カルテットとなった彼らは、ゴーメンガースト伯爵の相続人でありながら城とその伝統から脱出したいという願望を持つ、英国の小説家マーヴィン・ピークのゴシック・ファンタジー『ゴーメンガースト』の主人公の名であるタイタス・グローンをグループ名にしている。彼らが最初にその名を披露したのは、1970年5月23日から開始されたハリウッド・ポップ・フェスティバルである。ロンドンのエージェンシーであるレッド・バス・カンパニーが中心に開催した「愛と平和の音楽」をテーマとした3日間の祭典であり、コロシアムやブラック・サバス、フリー、ジンジャー・ベイカーズ・エアフォース、グレイトフル・デッドといったグループが参加している。タイタス・グローンはパイ傘下のレーベル、ドーンの若手アーティストの1グループとして参加し、熱狂的なファンを獲得して成功を収めている。ドーンのマネジメントをしていたレッド・バス・カンパニーは、このフェスティバルの模様をドーン・レーベルから2枚組のライヴ盤としてリリースしようとしたが、他のレーベルのグループの許可が下りず頓挫。代わりにフェスティバルに参加したドーンの若手グループであるDEMON FUZZ、HERON COMUSと共にタイタス・グローンのアルバムをリリースすることに決めている。グループは最初に3曲入りのマキシシングル(アルバム未収録、今回SHM-CD盤のボーナストラックとして収録)を発表し、続けて1970年11月にデビューアルバムである『タイタス・グローン』をリリースすることになる。そのアルバムはルーツであるR&Bをベースにしたサウンドに、トニー・プリーストランドのサックスやフルート、オーボエといった金管楽器によるグルーヴ感あふれるユニゾンが素晴らしいブルージーなジャズロックとなっている。

★曲目★
01.It Wasn′t For You(お前のためじゃない)
02.Hall Of Bright Carvings(ホール・オヴ・ブライト・カーヴィングス)
 a.Theme(テーマ)
 b.Dusty High-Value Hall(ダスティ・ハイ-ヴァリュー・ホール)
 c.The Burning(バーニング)
 d.Theme(テーマ)
03.I Can’t Changes(俺は今のまま)
04.It’s All Up With Us(イッツ・オール・アップ・ウィズ・アス)
05.Fuschia(フューシャ)
★ボーナストラック★
06.Open The Door Homer(オープン・ザ・ドア・ホーマー)
07.Woman Of The World(ウーマン・オブ・ザ・ワールド)
08.Liverpool(リヴァプール)

 アルバムの1曲目の『お前のためじゃない』は、軽快なドラミングとグルーヴ感あふれるサックスが印象的なブルース調の楽曲。ヴォーカルはAORにも通じる爽やかさがあり、中盤のジャズエッセンスのあるエレクトリックピアノと泣きのサックス、手数の多いドラミングによるユニゾンは鳥肌モノである。2曲目の『ホール・オヴ・ブライト・カーヴィングス』は、4つのパートに分かれた11分に及ぶ楽曲。オーボエのイントロから導かれ、トラディショナル感のある曲調から、フルートを交えたクラシカルな曲調まで幅広く表情を変えながら進んでいく。中盤のハードなギターソロを経てアメリカンフォークのような爽快なコーラス、ドラムロールに合わせたサックスとギターによるインタープレイという流れは息をつかせぬ勢いがある。後半には細かく刻むドラミングとカッティングギター上で抒情的に奏でるオーボエのソロは素直にカッコ良いと思える。3曲目の『俺は今のまま』は、フルートをメインに据えた哀愁のメロディに導かれ、スチュワートの情感的なヴォーカルが冴えた楽曲。途中からギターとサックスが暴れるように鳴り出し、いきなりヘヴィなロック調に切り替わったかと思えば、すぐに西海岸風のアメリカンフォークになるなど転調が激しい。それでも美しいフルートが最後まで曲を支えたプログレッシヴらしい内容である。4曲目の『イッツ・オール・アップ・ウィズ・アス』は、エレクトリックピアノやサックスを活かしたアメリカンロック調の楽曲となっており、こちらも爽やかなヴォーカルパートが印象的な楽曲である。ブリッジのギターやオルガンの音色が素晴らしく、彼らのポテンシャルが最も鮮やかに示された1曲になっている。5曲目の『フューシャ』は、曲調がめぐるましく変化するサイケデリック風の楽曲。ワウワウのギターやフォークロック調のコーラス、フルートとギターのユニゾンといった1960年代の使い古されたサウンドを新感覚にアレンジしている。ボーナストラックの3曲は、アルバム制作前にリリースされたマキシシングルの曲である。最初の『オープン・ザ・ドア・ホーマー』は、ギターとベースによるユニゾンを中心としたフォーク調の楽曲。元々、ボブ・ディランの未発表曲で、『グレート・ホワイト・ワンダー』という海賊版でのライヴ曲から採ったものである。『ウーマン・オブ・ザ・ワールド』は、アコースティックギターを中心としたフォークロックとなっており、そこにオーボエやオルガンが加味されている。『リヴァプール』は、ドライヴを効かせたリズムセクションに支えられたコーラスやギターソロが印象的なR&B風のサウンドになっている。こうしてアルバムを通して聴いてい見ると、一瞬英国のグループだと忘れてしまうほど、痛快なアメリカンテイストにあふれた楽曲が多いと思える。特にサックスとギター、そしてヴォーカルは1970年初頭とは思えない、後のAORにも通じる爽快感を持っている。安定したリズムセクションに支えられた楽器群には熱があり、ヴァリエーション豊かなサウンドは、確かに暗鬱とした英国ロックに一石を投じたアルバムだと言える。

 アルバム、シングルともにセールスが不調に終わったタイタス・グローンだが、本アルバムリリース後に、ドーン・レーベルのDEMON FUZZ、HERON COMUSと共に、ア・ペニー・コンサートというプロモーションツアーを行っている。1ペンスという入場料が話題のコンサートだったが、音楽性の幅広さという意味でも野心的な企画だったという。この企画は1971年1月3日まで行われたが、メンバーの管楽器を担当していたトニー・プリーストランドが脱退。後任にダグ・マイスターを加入させたが、グループはその年の春に解散している。ヴォーカル兼ギターを担当したスチュワート・カウウェルはその後、PAUL BRET'S SAGEに加入し、1980年代はフォークロックグループであるアラン・キャズウェルのグループで活躍。再度、PAUL BRET'S SAGEに戻って参加し、2000年代まで活動をしている。ドラマーのジム・トゥーミーは、多数のグループを渡り歩くセッションミュージシャンとなり、1979年からTHE TOURISTSのメンバーとして名声を得ている。たった1枚のアルバムを残して1年余りで解散してしまったタイタス・グローンだが、1975年にドーン・レーベルが閉鎖したことを機に人気が高まり、海賊盤(ブートレグ)が出回るようになる。1980年に入ると英国のSee For MilesやEsotericから再発され、また、日本ではポリドールから再発したことにより、タイタス・グローンは日本のプログレファンにも知れ渡るようになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国グループでありながら、アメリカンフォーク&ブルース的なサウンドを披露したタイタス・グローンの唯一作を紹介しました。フォーク調のサウンドに金管楽器を用いる手法は他のグループにも見受けられますが、彼らのサウンドにはサックスとギターを中心としたユニゾンを基調としたインタープレイが素晴らしく、コーラスはまさに後の1970年代後半に一世風靡するAORにも通じる爽快感があります。1960年代のサウンドのイディオムを用いながら、新しい時代への萌芽も感じられて、これが1970年初頭の録音だとはちょっと信じられないアルバムになっています。単にグルーヴの効いたサウンドだけではなく、少し歪みのあるサイケデリック性を加味している所があり、プログレッシヴな感性が息づいているところも好感が持てます。最初はあまり関心が無く、一度聴いたきりで棚の奥に仕舞われたアルバムですが、後に何度か聴いているうちに味わい深いアルバムだと気が付かせられます。まさしく1回聴いただけではダメだという典型例みたいなものです。

 さて、グループ名にもなっている「タイタス・グローン」は、イギリスの作家マーヴィン・ピークの「ゴーメンガースト」シリーズに登場する主人公の名前で、広大で無秩序な建造物であるゴーメンガースト城を舞台にした、グローン伯爵家の幼い跡継ぎタイタスと彼を取り巻く人々を描いたゴシック・ファンタジー作品です。作家が生前に発表した『タイタス・グローン』、『ゴーメンガースト』、『タイタス・アローン』の3作品は、今なおファンタジーノベル界に君臨する大作となっています。彼らがなぜ、このファンタジー小説の主人公の名をグループ名にしたのかは謎です。しかし、相続人でありながら伝統と無秩序な城から脱出したいと願うタイタスをイメージしつつ、彼らもまた時代に翻弄されながらも伝統と無秩序な音楽シーンから脱却しようと思っていたのかもしれません。2曲目の『ホール・オヴ・ブライト・カーヴィングス』と3曲目の『俺は今のまま』の歌詞を読んでみると、少しだけそんな感じがしてしまいます。

それではまたっ!