【今日の1枚】Circus/Circus(サーカス・デビュー) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Circus/Circus
サーカス/サーカス・デビュー
1976年リリース

強靭かつ精緻なリズムセクションからなる
スイスが誇るプログレッシヴジャズロック

 テクニカルで精密という高水準の演奏技術のグループが多いスイスから、1976年にリリースしたサーカスのデビューアルバム。そのサウンドは強靭なリズムセクション上で繰り広げられるギター、サックス、フルートをリード楽器にしたジャズロックであり、『太陽と戦慄』以降のキング・クリムゾンを彷彿とした作風となっている。クラシックとジャズを取り入れた独自のプログレッシヴスタイルをデビュー作で確立しており、セカンドアルバムの『ムーヴィン・オン』と共にスイスプログレの金字塔とまで呼ばれた名盤となっている。

 サーカスはスイスの第3の都市バーゼルで、1972年に結成されたグループである。メンバーはジャズ出身のフリッツ・ハウザー(ドラムス)、マルコ・チェルレッティ(ベース)、フォークを主体としたプログレッシヴロックに取り組んでいたローランド・フライ(ヴォーカル、テナーサックス、12弦ギター)、アンドレアス・グリーダー(フルート、サックス)である。メンバーの楽器を見て分かる通り、当時のプログレッシヴロックで不可欠だったエレクトリックギターとキーボードを排しており、フルートとサックスの金管楽器とベースとドラムスのリズムセクションを中心としたユニークな編成となっている。結成当初の彼らはスタジオでセッションを行いつつ、地元のバーゼルを中心にライヴステージをこなしていたという。彼らが音楽的に影響を受けたのが、イギリスのキング・クリムゾンであり、特に1972年以降のパーカッショニストのジェイミー・ミューア、ドラマーのビル・ブルーフォードが参加した『太陽と戦慄』以降の即興演奏(インプロビゼーション)に着目していたという。このリズムセクションをベースに本来であればキーボードを配置するところにフルートとサックスを主体にしたのは、ジャズ畑出身のハウザーとチェルレッティのこだわりといったところだろう。この編成で相当時間をかけて曲作りを行っており、ジャズとクラシックを取り入れた独自のプログレッシヴロックのスタイルを確立している。スイスではすでにサーカスの知名度は高く、結成から4年後の1976年の4月に満を持してスイスのハロルド・ブロベルのスタジオでレコーディングを行っている。こうして同年にスイスのインディーズレーベルであるツィットグロッゲから、デビューアルバムがリリースされることになる。アルバムはグリーダーとフライが以前に取り組んでいた実験的なフォークが垣間見える一方、ハウザーのジャズ色の強いドラムス、チェルレッティのイエスのクリス・スクワイアにも似たドライヴ感あふれるベースが一体となった独自性の強いジャズロックとなっている。

★曲目★
01.Stormsplinter(ストームスプリンター)
02.Nowadays(ナワデイズ)
03.Sundays(サンデイズ)
04.Dawntalk(ドーントーク)
05.Room For Sale(ルーム・フォー・セール)
★ボーナストラック★
06.Winterghosts~Star~(ウインターゴースツ~スター~)

 アルバムの1曲目の『ストームスプリンター』は、フルートの入り方がジェスロ・タルを思わせるような感覚とイエスを彷彿とさせる強靭なリズムセクションが渾然となった楽曲。ブルース的なサウンドでありながら、ささやくようなフルート、高速のギターリフ、力強いヴォーカルが3分弱という短い曲中で繰り広げられている。2曲目の『ナワデイズ』は10分を越える大曲となっており、スペイシーでサイケデリックな音空間に導かれ、独特のリズムセクションからなるフルートとヴォーカルが主体となった楽曲。4分あたりからオルガンの代わりにファズの効いたベースを活用したヘヴィネスなサウンドに変化。後にギターのアルペジオによるフォーク調のヴォーカル曲になるが、バックのドラムスが超絶技巧である。幽玄なフルートと憂いのあるヴォーカルとは裏腹に、非常にテクニカルでヘヴィネスな演奏が聴きどころである。3曲目の『サンデイズ』は、哀愁のギターアルペジオとフルートによる静寂なイントロから、弾き語りのようなヴォーカルが印象的な楽曲。12弦ギターとフルート、ヴァイヴを使用した演奏はジェネシスにも通じる哀愁のサウンドになっており、優美にして典雅な音世界を作り出している。4曲目の『ドーントーク』は、エコーを駆使したフルートやリリカルなヴァイヴ、抒情的なサックスを中心としたダークなインストゥメンタル曲。独特のラインを刻むベース上でフリージャズのような即興性があり、全編にわたってスリリングな演奏が繰り広げられている。5曲目の『ルーム・フォー・セール』は、15分に及ぶ大曲となっており、牧歌的なフォークを基調としたギターとフルートを導入とし、次第にアップテンポになっていく楽曲。手数の多いドラミング上で優雅に奏でるフルートとギターが活き活きとしており、変調を繰り返しながら進行していく。5分過ぎからは1970年代の英国ロックを意識したようなヴォーカルと背後でこれまた超絶技巧のドラミングが展開されている。後半では繊細なベースライン上でエフェクトを効かせたギターとフルートによる重厚なアンサンブルとなり、最後まで抒情性を失わずに奏でられたフルートが美しく余韻を残している。ボーナストラックの『ウインターゴースツ~スター~』は、アルバム未収録のライヴ曲であり、ヴァイヴを中心としたメロディアスな楽曲となっており、フルートの音色が美しい。フォーク調のヴォーカルが印象的だが、全体的にジャジーな演奏が繰り広げられた内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、シンプルな楽器構成でありながら、アレンジが効いた実験性のあるサウンドが繰り広げられており、フルートや12弦ギターによるメロディを重視しているように思える。この時は英国のキング・クリムゾンやイエス、ジェネシス、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターを意識したような楽曲が多いが、セカンドアルバムで発揮される技巧的なリズムセクションも垣間見られ、独特のベースラインが冴えた内容になっている。

 本アルバムはフォーク色の強いプログレッシヴロックとなっているが、サーカスというグループのポテンシャルを示した作品として評価は高い。しかし、グループにとってもっとも真価が発揮されたのが、同メンバーによる1977年にリリースされたセカンドアルバム『ムーヴィン・オン』だろう。本アルバムをさらに輪をかけたようなテクニカルな演奏とスリリングさは圧巻であり、ジャズロックとしてだけではなくプログレッシヴロックの名盤となっている。1978年にはサーカス・オール・スター・バンド名義で唯一のライヴ盤をリリースし、4人のメンバーにツインギター、オルガン、2人のコンガ奏者、女性シンガーを加えたトータル13人編成によるエネルギッシュな演奏を展開している。1980年にフルート奏者のアンドレアス・グリーダーが脱退し、代わりにオルガニストのステファン・アマンが加入。オルガンとリズムセクション、サックスという編成で挑んだサードアルバム『フィアレス・ティアレス・アンド・イーヴン・レス』をリリース。その後、ドラマーで中心メンバーだったフリッツ・ハウザーが脱退したことをきっかけにサーカスは解散することになる。ハウザーはアマンと先に脱退したグリーダーと共に、ブルー・モーションを結成している。1982年にリリースしたブルー・モーションの唯一のアルバムは、事実上サーカスの4枚目のアルバムに相当する即興性のあるスリリングな演奏を披露している。後にハウザーはサックス奏者のウルス・ライムグルーバーとの共演が多く、スイスで最も忙しいドラマーの1人となっている。マルコ・チェルレッティはスティック奏者として活躍し、ローランド・フライはスイスでソロシンガーとして独立。フライはレイジー・ポーカー・ブルース・バンドを経て、ロリ・フレイ&ザ・ソウルフル・デザートを結成してスイス最高のシンガーの1人となっているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はヨーロッパで人気の高いスイスのプログレッシヴジャズロックグループ、サーカスのデビューアルバムを紹介しました。青地にトレードマークであるペガサスが小さく描かれているのが良いですね。サーカスのアルバムと言えば、名盤であるセカンドアルバムの『ムーヴィン・オン』となります。しかし、実験的なフォークサウンドとジャズ出身のフリッツ・ハウザーとマルコ・チェルレッティによる強靭なリズムセクションが冴えた本アルバムも聴きごたえは抜群です。もっと言ってしまえばステファン・アマンがオルガンとして参加したサードアルバム『フィアレス・ティアレス・アンド・イーヴン・レス』も絶品であり、何だかんだといって結局、サーカスのすべてのアルバムが傑作ということになります。セカンドアルバムの『ムーヴィン・オン』は、オススメの1枚なのでどこかでまた紹介したいと思っています。

 さて、本アルバムはデビューアルバムでありながら、かなり鮮烈なサウンドを披露しているものの、2017年の紙ジャケリマスター化されるまで、1978年のLiveアルバム、サードアルバムと共に一度もCD化されていないアルバムです(『ムーヴィン・オン』のみ1990年に正規CD化)。そのアルバムはキーボードやエレクトリックギターを排したフルートやサックス、アコースティックギターを中心としたメロディを重視しており、ジャズロックというより、フォークを基調とした実験性のあるプログレッシヴロックといった感じです。キーとなっているのは幽玄なフルートが全編にわたって美しく奏でられているところであり、そのメロウな雰囲気を壊さない技巧的でありながら繊細なドラミングと独特のベースラインが際立っています。特にアルペジオからコードワークまで駆使するベースが陰の主役といったところでしょうか。セカンドアルバムの超絶技巧なリズムセクションから鑑みると、かなり抑えている気がします。やはり、『太陽と戦慄』期のキング・クリムゾンを意識しており、それだけではなくイエスやジェネシス、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター、さらにはジェントル・ジャイアント的なフレーズやサウンドが垣間見れる箇所があります。英国のプログレの利点を抑えつつ、牧歌的なフォークロックとクラシカルなフルートにジャズのエッセンスを加味した独自性のサウンドは、他の追随を許さないユニークなスタイルになっていると思います。

 すでにアイランドやドラゴンフライ、ウェルカム、ブルー・モーションといったスイスのグループを本ブログで紹介しています。スイスのプログレッシヴロックグループは決して多くはありませんが、今回紹介したサーカスをはじめかなりクオリティの高いサウンドを残したグループが他にもありますので、近々、また紹介したいと思います。

それではまたっ!