【今日の1枚】Atlas/Blå Vardag(アトラス/神話の復活) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Atlas/Blå Vardag
アトラス/神話の復活
1979年リリース

ツインキーボードによるサウンドスケープが魅力の
スウェーデン産シンフォニックロック

 1979年にスウェーデンのマイナーレーベル、Bellatrixからリリースされたシンフォニックロックグループ、アトラスの唯一のアルバム。そのサウンドはオルガンとストリングス、メロトロン、エレクトリックピアノなどを駆使したツインキーボードによるフュージョンテイストにあふれたインストゥメンタルとなっており、きめ細かいアンサンブルと明快なフレージングは、初期のイエスやキャメルに近い内容になっている。マイナーレーベルからのリリースということでマニア向けのアルバムだったが、日本のプログレファンからの根強い要望で、マーキーから1995年に日本向けにCD化が実現したという異例の作品でもある。

 アトラスは1974年にスウェーデンの最南部のスコーネ地方にある都市、マルメで結成されたグループである。メンバーはエリク・ビョルン・ニールセン(シンセサイザー、メロトロン、オルガン、ピアノ)、ビョルン・エクボーン(オルガン、ピアノ、シンセサイザー、クラヴィネット、メロトロン)、ヤンネ・パーソン(ギター)、ウッフェ・ヘドランド(ベース、ベースペダル)、ミッケ・ピノッティ(ドラムス)の5人編成であり、多彩な鍵盤楽器を擁するツインキーボードが特徴である。当時のスウェーデンの音楽シーンは、世界的な人気を博したABBAを筆頭にポップミュージックが席巻していた時代である。そんな中でもプログレッシヴロックも息づいており、ロイネ・ストルト率いるカイパやダイス、サーガ、サムラ・ママス・マンナといったグループが存在し、クオリティの高いアルバムを世に出している。また、ロータスやスプラッシュ、メイド・イン・スウェーデンといったジャズロックも盛んであったが、彼らのサウンドには独自性があり、主にイギリスの初期のイエスやジェネシス、キャメルといったグループを意識した音作りになっている。その中でも特にジャズをベースにした繊細さとダイナミックさが特徴的なカンタベリーミュージックからの影響を強く感じる。メンバーそれぞれは地元のマルメを活動拠点としたミュージシャンであり、その中のエリク・ビョルン・ニールセンとビョルン・エクボーンの2人のキーボーディストの出会いによって、グループの結成に至ったとされている。メンバーを集めて1974年にアトラスというグループ名で活動を開始し、主に地元を中心にスウェーデン国内でギグやライヴを行っている。プログレッシヴな音楽を標榜する彼らにとって不幸だったのは、すでにイギリスのパンク/ニューウェーヴやABBAといったポップミュージックが盛んだったことで、アルバムリリースの話が浮上したのが4年後の1978年だったことである。数ヵ月をかけてレコーディングを行い、翌年の1979年にスウェーデンのマイナーレーベルであるBellatrix(ベラトリックス)からリリースされたのが『神話の復活』である。そのアルバムはクラシカル性とフュージョン性のある2つのキーボードが程よくブレンドされたシンフォニック性の高いジャズロックとなっており、複雑な構造のある音楽性であるにも関わらず、心地よいメロディが散りばめられた絶品のアルバムとなっている。

★曲目★
01.Elisabiten(エリザベス)
02.På Gata(路上で)
03.Blå Vardag(神話の復活)
04.Gånglåt(ゴングロート)
05.Den Vita Tranans Väg(ホワイトクレーンの道)
★ボーナストラック★※1995年のCDより。
06.Björnstorp(ビョルンストルプ)
07.Hemifran(ヘミフラン)
08.Sebastian(セバスチャン)

 アルバムの1曲目の『エリザベス』は、クラシカルなピアノによるフェードインから、流れるようなギターとキーボードによるフュージョン・タッチのアンサンブルが心地よい楽曲。ムーヴシンセサイザーやメロトロンによるソロ展開が小気味よく、変拍子を加えながら曲の後半ではキャメル風のゆったりとした甘美なメロディが響き渡る。この1曲でテクニカルでありながら、2台のキーボードの組み合わせや楽曲の創造性が垣間見れる。2曲目の『路上で』は、14分の大曲になっており、ジェネシスやキャメルを彷彿とさせるギターやオルガンのリフレインを中心とした楽曲。北欧独特のクラシカルとジャジーな側面があり、ギターとキーボードが交互にリードを取りつつ、途中からピアノ、メロトロンが加わって厚みのあるR&B風のジャズロックへと昇華する。アコースティックギターとピアノによる即興性のあるアンサンブルを経て、畳みかけるような転調とフレーズが聴き手をうならせる素晴らしい逸品である。3曲目のタイトル曲である『神話の復活』は、穏やかなフルート調のモーグで導かれ、エレクトリックピアノを交えた優しい雰囲気のアンサンブルになる楽曲。エレクトリックなサウンドであるが、田園風景にも似た鄙びたフォーク調のアクセントが新鮮である。4曲目の『ゴングロート』は、エレクトリックピアノとギターによるタイトなジャズフュージョン。3分弱という短い曲ではあるが、安定したリズムセクションが小気味良く、洗練されたアンサンブルを聴かせてくれる。5曲目の『ホワイトクレーンの道』は、モーグシンセサイザーとローズピアノによる幻想的ともいえるキーボードから始まり、ハモンドオルガンとメロトロン、そしてギターが加わった強固なアンサンブルに変化していく曲。疾走感のあるエレクトリックピアノとギターの競演、めぐるましく変わる曲調に様々な楽器が応えるように奏でられた逸品である。ボーナストラックの3曲は、1995年に発売されたリイシュー盤より収録されたものである。『ビョルンストルプ』は、1982年のセカンドアルバム『Mosaik(モザイク)』からの1曲で、フルート調のモーグをメインに据えた明朗なシンフォニックロック。力強いドラミングが特徴であり、中盤にドラムソロが展開されている。『ヘミフラン』は、1977年に録音された曲であり、北欧らしい抒情性を帯びたキーボードと甘いギターが特徴のシンフォニックロック。クラシカルなオルガンとピアノがノスタルジックな雰囲気にさせてくれる。『セバスチャン』は1978年のレコーディング時にリハーサルとして録音された曲。バロック調のピアノやオルガン、メロトロンを駆使したクラシカルなロックになっている。ファズを効かせたギターもあり、リハーサル曲としてはもったいないほどの逸品である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ツインキーボードがウリのグループであるにも関わらず、ギターやリズムセクションを加えたアンサンブルを重視しており、非常にバランス性のある楽曲が多い。特に楽曲に合わせたピアノやオルガン、メロトロン、ムーヴシンセサイザーといった多彩な鍵盤楽器の使い分け、ギターとの相互作用が効果的である。1970年代後半という時代背景を見据え、伝統的なシンフォニックロックと革新的なフュージョンの両方を巧みにブレンドした素晴らしいアルバムである。

 アルバムは非常に洗練されたシンフォニックロックだったが、一部のマニアしか評価されず、キーボーディストのビョルン・エクボーンが脱退したことを機にグループは解散する。残ったメンバーはMosaik(モザイク)というグループ名に変えて、1982年に同名のアルバムをリリースしている。アトラス時代から比べると落ち着いたクロスオーヴァー的な作品に変化してしまったが、その収録された曲の中の1曲が、1995年のリイシュー盤に追加された『ビョルンストルプ』である。その後のメンバーの動向は不明だが、キーボーディストのエリク・ビョルン・ニールセンは、ヨナス・ハンソンを中心に結成されたスウェーデンのヘヴィメタルグループ、シルヴァー・マウンテンに加入している。イングウェイ・マルムスティーンに引き抜かれたキーボーディストのイェンス・ヨハンソンの代わりに加入したニールセンは、1985年リリースの『ユニヴァース』や1989年の『ローゼズ・アンド・シャンペイン』のアルバムに貢献している。一方、引き抜かれたイェンス・ヨハンソンは、イングウェイ・マルムスティーンと共にライジング・フォースを結成したことはあまりにも有名である。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスウェーデンのプログレッシヴロックグループ、アトラスの唯一のアルバムを紹介しました。このアルバムは1990年代に中古CD屋で購入したと思われるリイシュー盤を持っていまして、長らく愛聴していたアルバムですが、個人的に紙ジャケリマスター化してほしいアルバムだったのですが、調べてみたらベル・アンティークからSHM-CD盤で出ているんですね。このアトラスはエリク・ビョルン・ニールセンとビョルン・エクボーンの2人によるツインキーボードが特徴のグループで、2人ともオルガン、エレクトリックピアノ、メロトロンを使いこなしているのがポイントです。しっかりとしたリズムセクション上でキーボードとギターによる優れたメロディを奏でており、シンフォニックとジャズフュージョンが程よく合わさった、静と動、柔と剛との対比とバランスが絶妙なサウンドを繰り広げています。これだけ洗練されたサウンドを作り上げたアルバムが埋もれてしまうには、あまりにももったいない!ということで、日本のプログレファンが強く要望して、1995年にリイシュー盤がリリースされたことは先にも述べました。リイシュー盤には日本のファンへむけての謝辞が記載されているそうです

 さて、本アルバムのタイトルである『Blå Vardag』は、英訳と合わせて訳すると「Blue Living=青色の生活」という意味になるそうです。青色は落ち着きや爽快感を表しており、何となくアルバムの曲調に合っている気がします。一方でブルーな気分といった落ち込みのイメージもあり、彼らの音楽を取り巻く状況なのかなぁと推察してしまいます。しかもジャケットには伝統ある街並をショベルカーで破壊しているというところから、彼らがこれまでの音楽性を打破しようとする並々ならぬものを感じてしまいます。ちなみにジャケットのイラストはベーシストのウッフェ・ヘドランドが描いたそうです。もうひとつ、インナーバッグにプリントされた壊れたタイプライターのイラストがあります。こちらも推察ですが「歌詞=言語や言葉」を排するという意味合いから、アトラスというグループは当初からヴォーカルレスのインストゥルメンタルを目指していた可能性があります。そんな彼らの気概が1枚のアルバムに込められているわけですが、それすらあまり感じさせないツインキーボードとギターのサウンドスケープは、北欧の抒情性と相まって、ひとつの「美」になっていると思います。

 よくカイパと並び称されることが多いアトラスですが、私はこちらの方が創造性において上だと思っています。皆さんはどう思われますか?

それではまたっ!