【今日の1枚】Procol Harum/Grand Hotel(グランド・ホテル) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Procol Harum/Grand Hotel
プロコル・ハルム/グランド・ホテル
1973年リリース

英国屈指のメロディメイカーが放つ
ロックという名の華麗なる輪舞

 1967年に世界的な大ヒットを記録した名曲『青い影』から、メンバーチェンジを繰り返し、6年後の1973年にリリースされた通算7枚目のアルバム。ヴォーカル、ピアノ、オーケストレーションを担当するゲイリー・ブルッカーを中心に作成された本アルバムは、あまりにも美しいアンサンブルの妙技や華麗なるメロディの調べに、70年代のプロコル・ハルムの傑作と評されたアルバムである。クラシックの手法をロックの中に組み入れ、円熟の境地に至った彼らのサウンドが、最も好ましい形で完成した作品となっている。

 プロコル・ハルムはピアニストのゲイリー・ブルッカーとオルガニストのマシュー・フィッシャー、詩人のキース・リードの3人が中心となって、1967年に結成したグループである。バッハのオルガン曲をアレンジしたシングル『青い影』は、デビュー曲でありながら全英チャートで6週連続1位を記録し、ヨーロッパ各国やオーストラリアでもチャート1位を獲得するなど、プロコル・ハルムが一躍有名となった曲である。しかし、同年の9月にファーストアルバム『プロコル・ハルム』がリリースされたが、アメリカ盤には『青い影』が収録されたものの、3ヵ月遅れのイギリス盤では『青い影』が収録されなかったことで物議を呼んだことや、あまりにも大ヒットした曲を世に出したことによるプレッシャーがグループにのしかかることになる。プロコル・ハルムはゲイリー・ブルッカーのピアノとマシュー・フィッシャーのオルガンというツインキーボードが特徴のグループである。クラシックとR&B要素を組み入れたスタイルに新たな風を吹き入れたのが、ギタリストのロビン・トロワーの加入だろう。彼をメンバーに加えてレコーディングされた1968年のセカンドアルバム『月の光』は、プログレッシヴロックの先駆とも呼ばれる5部構成によるロック組曲『In Held Twas In I』が収録されている。また、1969年のサードアルバム『ソルティドッグ』はポップス+オーケストラといった新たな指向を試みた楽曲となっている。しかし、どれも高水準のメロディにあふれた作品だったが、全英アルバムチャートは芳しくなく、初期の名曲『青い影』に及ぶような楽曲は生まれなかったという。そんなプレッシャーの中でサードアルバムをリリース後の1969年にマシュー・フィッシャーが脱退。その影響からか、1970年リリースの4枚目のアルバム『ホーム』では、ジミ・ヘンドリックスを敬愛するギタリストのロビン・トロワーのギターが、ますます前面に出たハードな楽曲になっている。彼らはこのアルバムを最後にリーガル・ゾノフォン・レコードとの契約を失い、新たにクリサリス・レコードと契約。1971年の5枚目のアルバム『ブロークン・バリケーズ』では、そのジミ・ヘンドリックスへの強い影響と他のメンバーとの音楽性の相違から、ついにロビン・トロワーはアルバムリリース直後に脱退することになる。

 残った初期の中心メンバーであるゲイリー・ブルッカーは、ここにきてプロコル・ハルムの音楽の方向性を見失い、一度は解散を考えたという。しかし、思い悩んだ末にたどり着いたのは、やはり自身が志向するクラシカルな路線の復活だったという。ゲイリーは新たなギタリストにディヴ・ボールを加入させ、1972年にはカナダのエドモントン交響楽団との共演によるライヴ・アルバムを発表する。このライヴ・アルバムが好評を得て、現メンバーで次なるアルバムのレコーディングを行う。メンバーはゲイリー・ブルッカー(ヴォーカル、ピアノ、オーケストレーション)、クリス・コッピング(オルガン)、ディヴ・ボール(ギター)、アラン・カートライト(ベース)、B.J.ウィルソン(ドラム)、キース・リード(作詞)である。そして7人目のメンバーと言っても良い、プロデューサーのクリス・トーマスを迎えてレコーディングが行われ、1973年に通算7枚目のアルバムとなる『グランド・ホテル』がリリースされる。そのアルバムは名曲『グランド・ホテル』を筆頭に、メロディメイカーたるプロコル・ハルムがまさに復活した、上品で素晴らしいメロディが散りばめられた英国ロック史に輝く歴史的な名盤となっている。
 
★曲目★
01.Grand Hotel(グランド・ホテル)
02.Toujours L’amour(トゥジュール・ラムール)
03.Rum Tale(ラム・テール)
04.T.V.Ceasar(T.V.シーザー)
05.Souvenir Of London(スーベニール・オブ・ロンドン)
06.Bringing Home The Bacon(ブリンギング・ホーム・ザ・ベーコン)
07.For Liquorice John(フォー・リコリス・ジョン)
08.Fires~Which Burnt Brightly~(ファイアーズ)
09.Roberts Box(ロバーツ・ボックス)

 アルバムはすべてゲイリー・ブルッカーが作曲、キース・リードが作詞を担当している。1曲目の『グランド・ホテル』は、ピアノから始まり、ゲイリーの優しいヴォーカルと共にオルガン、ストリングス、ギター、リズムパーカッションが加わり、格調高いアンサンブルになっていくプロコル・ハルムの屈指の名曲。高級ホテルで豪奢に過ごし、やや退廃的な生活をクラシカルな旋律をバックに、ロックやワルツといった転調を効果的に組み入れた、非常にドラマティック性の高い楽曲になっている。クラシックの手法をロックに組み込んだ彼らのメロディセンスが如実に表れた1曲である。2曲目の『トゥジュール・ラムール』は、ノリの良いピアノの旋律をベースにしたアンサンブルが印象的なが楽曲。永遠の愛をタイトルにしているが、勝手に出て行った女性と取り残された男性を歌詞にした皮肉にも似た内容になっている。3曲目の『ラム・テール』は、ピアノとベースを中心とした3拍子が心地よい楽曲。途中から美しいクラシカルなオルガンが素晴らしく、ゲイリー自身も「凄く美しい曲が完成した」と言っていた程である。4曲目の『T.V.シーザー』は、大々的なオーケストレイションをバックにしたメロディアスな楽曲。「TVの皇帝マイティ・マウスがそれぞれの家庭の壁の穴に潜み、人間を観察しているぞ」と歌っており、意外とシュールな内容になっている。5曲目の『スーベニール・オブ・ロンドン』は、2本のアコースティックギターとマンドリン、パーカッション上で、ブルース調のヴォーカルという、これまでとは一風変わった楽曲になっている。嬉しくないロンドンのお土産と題して「性病」のことを歌っており、英BBCでは放送禁止となった曲である。6曲目の『ブリンギング・ホーム・ザ・ベーコン』は、巧みなパーカッションとオルガンを中心としたロックとなっており、途中のギターソロが冴えた楽曲となっている。7曲目の『フォー・リコリス・ジョン』は、精神異常に侵された男が、手を振りながら海に身を投げるという歌詞からか、オルガンやハーモニカという楽器を駆使した哀愁が漂う楽曲となっている。転調の多い内容だが、後半のオルガンの盛り上がりはドラマティックである。8曲目の『ファイアー』は、3曲目の『ラム・テール』に並ぶほど、クラシカルなピアノとオルガンが冴えた楽曲。ゲスト出演しているクリスティアーヌ・ルグランのソプラノ・ヴォーカルやスキャットが素晴らしく、敗戦濃厚となった悲惨な戦争を歌にしている。9曲目の『ロバーツ・ボックス』は、モダンなピアノとオルガン、ギターに乗せて、何の病気だか分からない男が、ドクターに直してほしいと懇願している様を描いている。後半は壮大なシンフォニックで幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ゲイリー・ブルッカーのクラシックをベースにした巧みなメロディセンスが輝いており、アンサンブルの妙技、転調による見え隠れするプログレッシヴなスタイルなど、これまでのプロコル・ハルムの培ってきた要素を遺憾なく発揮した作品になっている。ピアノとオルガンによる格調高いメロディは、どこまでも美しく、聴き手に感動すら与え、1970年代の英国ロックを代表する1枚といっても過言ではないだろう。

 本作の完成を目前にギタリストのディヴ・ボールが脱退してしまい、最終的にミック・グラバムが後任を担った経緯があるが、リリースしたアルバムは本国イギリスよりも、アメリカやヨーロッパでチャートの上位にランクインし、特にノルウェーとオーストリアで高く評価されている。また、日本でもプロコル・ハルムの人気は上々でセールス的に好調だったという。こうしてプロデューサーのクリス・トーマスのもと、1974年の8枚目のアルバム『異国の国と果物』、1975年に『プロコルズ・ナインス』を発表し、プロコル・ハルムにとって円熟期ともいえる傑作を生みだしている。1977年の10枚目のアルバム『輪廻』をリリース後、すべてをやりつくしたというゲイリーの一言でグループは解散を迎える。解散後、ゲイリーはソロ活動をしていたが、1991年にドラマーのB.J.ウィルソンが死去したことをきっかけにグループを再結成し、11枚目のアルバム『放蕩者達の絆』というアルバムを発表。その後も定期的にライヴ活動を行い、2003年にはアルバム『ウェルズ・オン・ファイアー』をリリース。その年には来日して四人囃子との共演も果たしている。2017年には14年ぶりのアルバム『乙女は新たな夢に』をリリースして健在ぶりをアピールしていたが、2022年2月19日に中心メンバーであるゲイリー・ブルッカーがガンのため死去。これにより、プロコル・ハルムは事実上、活動に終止符が打たれることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国ロック史上、現在でも燦然と輝くプロコル・ハルムの名作『グランド・ホテル』を紹介しました。このアルバムは東芝EMIから発売された1989年のCDを持っていて、かれこれ30年以上愛聴しているアルバムです。豪勢で華美なオーケストラやクラシックのアレンジが効いている割には、どこか哀愁のあるサウンドが英国然としていて、退廃的な歌詞が一層、楽曲に深みを与えている感じがします。1曲目の『グランド・ホテル』から2曲目の『トゥジュール・ラムール』、3曲目の『ラム・テール』の流れが素晴らしく、この3曲でメロメロです。そして8曲目の『ファイアー』のクラシカルな内容とクリスティアーヌ・ルグランの天使のようなスキャットがあり、1曲1曲がとても濃厚です。あまり比べることではないのですが、1976年のイーグルスの名盤『ホテル・カルフォルニア』も、もしかしたらこのアルバムを参考にしたのではないかと思われる儚さが描かれている気がします。プロコル・ハルムは決して順風満帆なグループではなく、1960年代から1970年代に至る過程で、様々な音楽性を追求しては成功と苦悩を経験してきています。そんな中でゲイリー・ブルッカーが、自身の指向であるクラシックに立ち返ったことで、このような名作を生み出せたのはある意味奇跡的です。本アルバムと次の『異国の国と果物』は、1970年代のプロコル・ハルムの最高傑作であり、プログレッシヴロックにおいても名盤です。

 プロコル・ハルムといえば『青い影』と言われるほどですが、本アルバムはそんな初期の彼らのサウンドに立ち返り、今まで培ってきた要素を組み入れた素晴らしい楽曲です。美しいメロディに触れたいという人には、ぜひ聴いてほしいアルバムです。

 

 2022年2月19日に主宰のゲイリー・ブルッカーが亡くなり、76歳の生涯を閉じています。彼の死を知ったのは、つい最近のことです。古いCDを引っ張り出しては、偲びつつ聴いています。

それではまたっ!