【今日の1枚】Dalton/Riflessioni:Idea D'infinito | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Dalton/Riflessioni:Idea D'infinito
ダルトン/無限の概念への省察
1973年リリース

ストリングスシンセとフルートが不思議な
世界を作り出すイタリアン・ヘヴィプログレ

 1973年に自主制作と思われるMusicレーベルからリリースされたイタリアンロックグループ、ダルトンのデビューアルバム。その音楽性はジェスロ・タルやディープ・パープルからの影響を感じさせるヘヴィなプログレッシヴロックになっており、ストリングスシンセサイザーをはじめ、フルートやピアノを駆使したシンフォニック性の強い楽曲が多いのが特徴である。2006年にBTF/Vinyl Magicからレコードが再発されているものの、オリジナルのMusicレーベル盤は、イタリアの廃盤の中でも屈指のレア盤となっている。

 ダルトンはイタリアのロンバルディア州の都市ベルガモで、1972年に結成されたグループである。オリジナルメンバーはデミストクレ・レドッツィ(キーボード、ヴォーカル)、アロンネ・チェレーダ(ギター、ヴォーカル)、アレックス・キエーザ(フルート、ヴォーカル)、リーノ・リモンタ(ベース、ヴォーカル)、ウォルター・“ターティ”・ロカテッリ(ドラムス、ヴォーカル)であり、全員がヴォーカルを兼ねているのが特徴である。ちなみに1960年代に活動をして、後にPFM(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)を結成するマウロ・パガーニが一時在籍し、1970年9月に解散するダルトンというグループとは全くの別モノである。しかし、マネージャー兼レコードプロデューサーのジーノ・ガリーナが、解散したダルトンの人気を活用するために新たな“ダルトン”を模索し、他のミュージシャンを集めたのが本グループの結成の大きな由来となっている。個々のメンバーの経緯は不明だが、ギタリストのアロンネ・チェレーダは、かつてI Puritaniというグループに在籍していたことが分かっている。もともと彼らの音楽のルーツは、イギリスのディープ・パープルのようなハードロック路線だったが、フルート奏者のアレックス・キエーザをメンバーにしたことで、同じフルート奏者であるイアン・アンダーソン率いるジェスロ・タルというグループをかなり意識したという。さらにオルガンやシンセサイザーを導入したことで、ロックとクラシックの融合で知られるイタリアの名グループ、ニュー・トロルスの音楽性も追求している。彼らはダルトンというグループ名で活動を開始し、この音楽性でライヴやギグを行い、一定のファンを獲得。本来であればここからレコード会社からアルバムリリースという流れになるが、かつて活動していた過去のダルトンに配慮したのか、自主制作と思われるMusicレーベルからアルバムをリリースしている。レコードプロデューサーのジーノ・ガリーナを中心にアルバムのレコーディングが行われ、6曲30分と短い内容だが、1973年にプレス枚数が千枚程度といわれるデビューアルバム『無限の概念への省察』がリリースされる。そのアルバムはシュールな歌詞と意味深なタイトルとは裏腹に、フルートやムーヴシンセサイザー、ストリングスを駆使したイタリアらしい秀逸なメロディにあふれたシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Idea D'infinito(無限の概念)
02.Stagione Che Muore(終焉の季節)
03.Cara Emily(親愛なるエミリー)
04.Riflessioni(省察)
05.Un Bambino,Un Uomo,Un Vecchio(誕生、成長、老成)
06.Dimensione Lavoro(労働の側面)
★ボーナストラック(ゴーストトラック)★
07.Idea D'infinito Live(無限の概念ライヴ)

 アルバムの1曲目の『無限の概念』は、モノフォニックなシンセサイザーとフルートのソロで始まり、オルガンとアコースティックギターが抒情的な雰囲気を作り出すブルージーな楽曲。途中からストリング・シンセサイザーが加わり、ギターとフルートとの絶妙なアンサンブルが展開する。2曲目の『終焉の季節』は、オルガンとエコーを効かせたフルート、エレクトリックギターによるシンフォニックな楽曲。コーラスはいかにもイタリア然としており、転調後はドラムスのみをバックにしたフルートのソロが堪能できる。3曲目の『親愛なるエミリー』は、イントロのハープシコードに導かれ、エレクトリックピアノやストリング・シンセサイザーをバックに優しく歌うヴォーカルが印象的なラヴソング。この曲で吹かれるフルートはクラシカルでエレガントであり、最後は典型的ともいえるストリングスによるイタリアン・シンフォニックが味わえる。4曲目の『省察』はベース音とフルート、ピアノによるブリッジから、豪快なハードロックに切り替わる楽曲。ディープ・パープルのようなノリの良いギターとリズムセクション、そして激しいフルートが絡みつくドライヴの効いたインストナンバーとなっている。5曲目の『誕生、成長、老成』は、一転してクラシカルなピアノとフルートをバックにしたヴォーカル曲となる。間奏ではハープシコードとピアノの響きが、イタリアの土着的なクラシックを思わせる内容になっている。ブリッジを挟んだ6曲目の『労働の側面』は、手数の多いドラミングとオルガンによる力強いイントロから始まり、シンセサイザーとピアノ、フルートによるアンサンブルを経て、ギターを加えたヘヴィなブルースロックへと展開する。途中からサイケデリックなギターソロやシンセサイザーをバックにしたフルートソロがあり、摩訶不思議な様相を経てフェードアウトしていく。ボーナストラック(ゴーストトラック)には、アルバムリリース後に行われたと思われる『無限の概念』のライヴ曲が収録されている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ジェスロ・タルを彷彿するようなフルートやディープ・パープルを思わせるギターなどが印象的だが、曲調がシンフォニック、ブルース、ハードロックなど非常にバラエティに富んでいる。また、曲と曲との間にある短いブリッジが効果的であり、6曲30分のアルバムがまるで静と動のあるダイナミックな1曲になっていると思える。卓越した楽曲はあまりないが、ハープシコードやピアノ、シンセサイザーなどの様々な鍵盤楽器とブルージーなギター、味わいのあるフルートが重なり合った時の何とも言えない雰囲気は、この時代のイタリアンロックならではの醍醐味を感じる。

 アルバムは自主制作だったため、セールスには結びつかなかったが、彼らの演奏力が評価されるのはリリース後である。彼らは本アルバムをリリース後にトラヴァリアートやジュネーヴ・ポップ・フェスティバルに参加し、ジュネーヴ・ポップ・フェスティバルでは何と優勝を果たしている。これがきっかけで、1974年にシングル盤『La Donna E Il Bambino』をリリースしている。その後、リーダーだったキーボード奏者のデミストクレ・レドッツィとフルート奏者のアレックス・キエーザが脱退。新たにジャンカルロ・ブランビッラ(キーボード)、マッシモ・モレッティ(ヴォーカル)を加えたセカンドアルバム『Argitari』をInternational Audio Film(IAF)から1975年にリリースしている。アルバムはこれまでとは曲調を変えたアコースティックギターを中心とした内容になり、ボブ・ディランの『風に吹かれて』のカヴァーが収録されているのが特徴である。ダルトンは1979年まで活動を続けていたが、曲調がだんだんコマーシャルな方向性に進み、シングル盤『Presto Tornero』をリリース後に解散をしている。メンバーの中でドラムスのウォルター・“ターティ”・ロカテッリは、M.O.D.O.を結成し、1980年にはプログレッシヴな作品として評価の高い『La Scimmia Sulla Schiena Del Re』をリリースしている。ギタリストのアロンネ・チェレーダはドイツに移って演奏を続け、インド旅行中にミヒャエル・カローリに代わってCANのコンサートに参加している。なお、2005年に再発となったセカンドアルバムの『Argitari』では、フルート奏者のアレックス・キエーザが改めて多重録音している。これがきっかけとなったのか、2018年にアレックス・キエーザ、リーノ・リモンタ、アロンネ・チェレーダ、ジャンカルロ・ブランビッラ、そして新たにヴォーカル兼ギタリストのニコレッタが集結して新生ダルトンを結成。2019年にダルトンの3枚目のアルバムとなる『エデン』を発表している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアのジェスロ・タル、またはディープ・パープルとも呼ばれているダルトンのデビューアルバムを紹介しました。ダルトンといえば上にも書きましたが、後にP.F.M.でヴァイオリニスト兼フルート奏者として有名になるマウロ・パガーニが一時在籍していた同じダルトンというグループがあります。1967年に結成して、1970年に解散するのですが、そのグループの人気にあやかって結成されたのが、今回紹介したダルトンということになります。メンバーが全く違う形でグループを継承するやり方は、イギリスのルネッサンスに近いかも知れません。しかし、こちらはマネージャー兼レコードプロデューサーであるジーノ・ガリーナが、ダルトンの名前を勝手に使用してミュージシャンを集めたものであり、前のダルトンとは全く関係がないというのが違うところです。前のダルトンの解散からの結成時期、同じロンバルディア州出身ということで、事情を知らないリスナーの中には同グループと最近まで認識されていたそうです。でも実際は別モノです。よく訴えられなかったな~というのが個人的な感想です。

 さて、アルバムですが、収録曲が6曲30分となっているため短いです。最初のイントロを聴いた時は、B級プログレかなぁ~と思ったりしましたが、ブルージーな楽曲からストリングスを加えたシンフォニックな展開、エレガントなハープシコードの楽曲を経て、ディープ・パープルさながらのハードロックになっていきます。曲間にブリッジがあるため、6曲がまるでつながっているようであり、アルバム全体がダイナミックな1曲になっている感じがします。彼らの音楽性はフルートやピアノ、ギターをはじめ、ドラムやベースに至るまでソロの演奏が多いです。でも、それらが重なり合った時、不思議な感覚に包まれる瞬間があり、ものすごく理念的、感覚的なサウンドを作り出していると思います。そういう意味では後半のハードロックが彼らの本来の音楽性であり、前半は実験的なサウンドだったのではないかと考えてしまいます。それでもメロディは十分魅力的であり、3曲目の『親愛なるエミリー』なんて、もう少しアレンジを加えていれば名曲になったのではないかとつくづく思います。

 いささか時代を感じさせるシンセサイザーと、味わいのあるフルートとギターが作り出す不思議なサウンドは、イタリアならではの懐の深さを感じてしまうアルバムです。ぜひ、一度聴いてみてほしいです。

それではまたっ!