【今日の1枚】Matching Mole/Matching Mole(そっくりモグラ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Matching Mole/Matching Mole
マッチング・モウル/そっくりモグラ
1972年リリース

ロバート・ワイアット流ユーモアとアイデアに
あふれたカンタベリーミュージックの傑作

 ソフト・マシーンを脱退したロバート・ワイアットが、第2弾のソロアルバムをレコーディングする過程で集められたメンバーと共に作られたマッチング・モウルのデビューアルバム。そのサウンドはロバート・ワイアットの機知に富んだユーモアにあふれた作品となっており、初期のソフト・マシーンに内包していた実験精神を取り戻したような一風変わったジャズサウンドとなっている。土から顔を出した2匹のモグラが、偶然そっくりだったことにびっくりしている様子が描かれた可愛いジャケットと相まって、そのアヴァンギャルドともいえるポップサウンドは、今なおカンタベリーミュージックの傑作として名高い。

 マッチング・モウルの中心メンバーであるロバート・ワイアットは、1966年にケヴィン・エアーズ、デヴィッド・アレン、マイク・ラトリッジと共に結成したソフト・マシーン初期のメンバーである。ソフト・マシーンはサイケデリックなアートロックから先鋭的なジャズロックを披露し、枝分かれするキャラヴァンと共にカンタベリーミュージックの礎となった偉大なグループである。しかし、シリアスなジャズへと傾倒するソフト・マシーンに対して、強いフラストレーションを感じたワイアットは、1971年にリリースした『4』を最後に脱退することになる。彼は元々、1970年にソフト・マシーン在籍中に制作したソロアルバム『The End Of An Ear』で掴んだ感触が忘れられず、さらに確固たるものにしようと常々考えていたという。ソフト・マシーンを脱退後にワイアットは、第2弾となるソロアルバムの制作に着手しようとするが、当時のCBSレコードとの契約にはソフト・マシーンのメンバーが作品を出す場合、グループを結成し、有効的なプロモーションを行わなくてはならないという項目が含まれていたという。ワイアットはアルバム制作時にグループを作ることを考えていなかったが、レコーディングメンバーが集まった段階で最終的にグループが作られていったと考えられる。集まったメンバーはワイアットのソロ第1弾のアルバムにも参加していた元キャラヴァンのディヴ・シンクレア(キーボード)、元デリヴァリーのフィル・ミラー(ギター)、元クワイエット・サンのビル・マコーミック(ベース)、そしてロバート・ワイアット(ヴォーカル、ドラム)の4人編成のマッチング・モウルを結成。また、レコーディング時にゲストとしてピアニストのディヴ・マクレエを迎え入れている。こうしてレコード会社の意図とはいえ、新グループとしてレコーディングしたデビューアルバム『そっくりモグラ』が1972年4月にリリースされることになる。レコーディングの途中でワイアットがソロ作をマッチング・モウルの作品として発表しているため、全8曲のうち7曲がロバート・ワイアットの手によるものになっている。しかし、そのアルバムは初期のソフト・マシーンに内包されていたユーモアやウイットに富んだ実験精神を取り戻し、さらにワイアット自身のソングライティング&ヴォーカリストとしての才能が発揮されたカンタベリーミュージックの傑作となっている。

★曲目★
01.O Caroline(オー・キャロライン)
02.Instant Pussy(インスタント・プッシー)
03.Signed Curtain(サインド・カーテン)
04.Part Of The Dance(パート・オブ・ザ・ダンス)
05.Instant Kitten(インスタント・キッチン)
06.Dedicated To Hugh,But You Weren’t Listening(ヒューへ捧ぐ、でも聞いていなかった)
07.Beer As In Braindeer(ビア・アズ・イン・ブレインディア)
08.Immediate Curtain(イミディエイト・カーテン)

 アルバムの1曲目の『オー・キャロライン』は、キーボーディストのディヴ・シンクレアと共に作り上げたカンタベリーミュージック屈指の名曲。ピアノの伴奏とメロトロンのフルートトラックを効果的に使用し、ワイアットの温かみのあるヴォーカルが相まった美しいメロディにあふれた楽曲になっている。この曲は『サインド・カーテン』とカップリングでシングルカットされている。2曲目の『インスタント・プッシー』は、エコーを多用したスキャットとベース音が浮遊感を与えるワイアットの真骨頂ともいえる楽曲。シュールな雰囲気を作り出すスキャットと刻まれるリズムが、まさに初期のソフト・マシーンにも通じるアヴァンギャルドなポップとなっている。3曲目の『サインド・カーテン』は、ピアノの音色に合わせたワイアットのヴォーカルが冴えた楽曲。「これがコーラス」、「これがブリッジ」、「キーチェンジします」と楽曲の展開をそのまま歌詞にしているなど、ワイアット流のユーモアが効いた内容になっている。4曲目の『パート・オブ・ザ・ダンス』は、約9分に及ぶ4人のコンビネーションが冴えたインストゥメンタル曲であり、奔放なリズムとキーボード、ギターによる即興に近いジャズロックになっている。その緻密でスリリングな演奏は、後半になるほど技巧的になり、後のハットフィールド&ザ・ノースにも通じるカンタベリーミュージックらしい一面を見せている。5曲目の『インスタント・キッチン』は、ディヴ・シンクレアのキーボードとギターによる個性的なメロディを奏でた楽曲。後半はメロトロンによるフルートトラックのソロが展開されている。6曲目の『ヒューへ捧ぐ、でも聞いていなかった』は、ディヴ・マクレエのエレクトリックピアノとフィル・ミラーのギターを中心としたハードジャズ。安定したワイアットのドラミング上で、伸びのあるギターが心地よく合いの手のように弾かれるエレクトリックピアノが巧みである。7曲目の『ビア・アズ・イン・ブレインディア』は、より実験精神にあふれたアヴァンギャルドにあふれた楽曲になっており、それぞれの楽器が互いに飛び交うインプロビゼーションを前面に押し出した内容になっている。8曲目の『イミディエイト・カーテン』は、メロトロンを多用した音世界が広がるプログレッシヴな楽曲となっており、後半になるにつれてメロトロンの重厚で美しいメロディを経ながらフェードアウトしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、楽曲だけではなくタイトルや歌詞に至るまで、ロバート・ワイアットのユーモアとセンスが光った内容になっており、彼のソングライティングの能力の高さがうかがえる。特に1曲目の『オー・キャロライン』から3曲目の『サインド・カーテン』までの流れは、初期のソフト・マシーンにあるアヴァンギャルドなポップ性と、カンタベリーサウンドにある緻密なジャズロックを標榜するワイアットならではの楽曲である。後半は4人のコンビネーションを中心とした即興性のあるアンサンブルとなっており、奔放で自由なワイアットの巧みなドラミングが堪能できる。本アルバムはそんなロバート・ワイアットという稀有なアーティストのクリエイティヴ性を引き出したカンタベリーミュージックの傑作といえる。

 アルバムリリース後、ディヴ・シンクレアは本アルバム録音後に脱退し、ゲスト扱いだったディヴ・マクレエが正規のメンバーとなっている。マッチング・モウルはCBSレコードとの契約の通り、テレビやラジオの出演をはじめ、精力的にプロモーション活動をしている。特にリリースした年では、本国イギリスのみだけではなく、ヨーロッパ各国で精力的にライヴを行い、合計50回ものステージをこなしている。この流れで同年10月にキング・クリムゾンのロバート・フリップをプロデューサーに迎え、ゲストとしてブライアン・イーノが参加したセカンドアルバム『そっくりモグラの毛語録』を発表。アルバムは前作にあったキャラヴァン的な甘い抒情性は少なくなったが、ディヴ・マクレエによって繊細な感性が持ち込まれた前衛的なジャズロックになっている。次作への楽曲づくりも始めていたワイアットだったが、1973年6月に酒に酔った際の落下事故により脊髄を損傷し、下半身不随という憂き目に遭ってしまう。それはドラマーとしての彼の終焉でもあったが、後に作曲家、ヴォーカリストとして生まれ変わり、1974年には多くのゲストミュージシャンが集まってレコーディングされたソロ作『Rock Bottom』という傑作を生み出している。マッチング・モウルはたった2枚のアルバムで事実上、解散を余儀なくされたが、メンバーだったディヴ・シンクレアとフィル・ミラーは、後にハットフィールド&ザ・ノースを結成し、フィル・ミラーはハットフィールド&ザ・ノースで2枚の歴史的なアルバムを残して再びキャラヴァンに加入している。一方のロバート・ワイアットは2000年代でもソロとして活動し、2007年には『コミックオペラ』をリリースしている。さらにビョークの『メダラ』、デヴィッド・ギルモアの『オン・アン・アイランド』、ポール・ウェラー『22ドリームス』のアルバムにもゲスト参加するなど精力的に活動をしていたが、2014年に英国の音楽誌『Uncut』のインタビューにて、音楽創作からの引退を発表している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はロバート・ワイアットのソロ作であり、カンタベリーミュージックの至宝と言われているマッチング・モウルのデビューアルバム『そっくりモグラ』を紹介しました。1曲目の『オー・キャロライン』を聴くと、その温かな楽曲とロバートの憂いのあるヴォーカルにしみじみとしてしまいます。まさにカンタベリーミュージックだけではなく、ブリティッシュロックの名曲だと思います。元々はカンタベリーミュージックを聴き始めた頃、あまり内容を知らずに購入したものですが、この『オー・キャロライン』1曲にノックダウンしてしまい、今でも時折聴いています。ある程度、私がカンタベリーミュージックに精通し始めた時期に改めて聴くと、今度は4曲目の『パート・オブ・ザ・ダンス』のような即興性のあるアンサンブルに惹かれてしまい、中々手放せないアルバムになっています。お互いびっくりして見つめ合う2匹のモグラのイラストがとても可愛いですね。本アルバムもそうですが、ケヴィン・エアーズの『Joy Of A Toy』やキャラヴァンの『Blind Dog At St.Dunstans』など、カンタベリーミュージックで可愛いジャケットは、ホントハズレがないです。

 さて、本アルバムはソロ第1弾から参加しているワイアットの学生時代の後輩でもあるディヴ・シンクレアやフィル・ミラー、ビル・マコーミックという凄腕のメンバーが参加しています。サウンドはソフト・マシーンを経てカンタベリーミュージックに身を置いたロバート・ワイアットならではのユーモアが詰まっていています。1曲目の『オー・キャロライン』のようなメロディアスな曲で始まり、アヴァンギャルドなポップ、カンタベリーミュージックらしい精緻なジャズロックへといった流れが個人的には素晴らしく、非常に構成に長けたアルバムになっていると思います。リズムをキープすることだけを強いられたソフト・マシーン時代から解放されたかのようなワイアットのドラミングは聴きごたえありますが、やはりディヴ・シンクレアのジャズやポップにも対応したキーボードがあってこそ、あの大胆でアヴァンギャルドなサウンドを生み出していると感じます。カンタベリーミュージックとはどんなサウンドなのかと問われることがありますが、まさしく本アルバムこそ、その特徴をすべて備えた作品だと言っても過言ではないと思います。

 ちなみに、グループ名のマッチング・モウルは、かつてワイアットが在籍していたSOFT MACHINEをフランス語に置き換えると、MACHINE MOLLEとなり、発音がマチンヌ・モルとなります。その発音を英単語に当てはめると、マッチング・モウルとなります。風変わりなグループ名ですが、ロバート・ワイアットのユーモアがこんな所にも活かされているんですね。

それではまたっ!

※このレビューは過去の内容を修正・加筆したものです。

※『オー・キャロライン』の原曲はありませんでしたが、一番近かったのが初音ミクのサンプリングでした。